Io vidi fermamente via la schiena.



――――並盛


その穏やかで、名前の通り普通の街の一角に豪邸と呼べる大きな屋敷が建っていた。
それは……雲雀恭弥の本邸。
並盛に帰ってきてからは恭さんはいつもここにいらっしゃった。

オレはいつものように壮大な門をくぐり、本邸へと入ってから恭さんの私室に向かう。
途中和服の女中達に頭を下げ返しながら歩いていけば、この屋敷で一番広くて品のいい部屋へと着く。
襖の前に座り、恭さん、と部屋の主に声を掛けた。

何、と少し気怠そうな低い声が聞こえて、入ってもよろしいでしょうか、と言葉を続ける。
しばらく無言が広がったが、いいよ、と承諾の声が聞こえて、失礼します、と寸分違わずいつものように頭を下げてから襖をゆっくり開けた。



「…恭さん」

「何の用」



言葉はキツイがいつものような鋭さはない。
黒い和服を少し着崩しながら恭さんはオレに目を向けた。
いつもより弱々しい様子にオレは眉を顰めながら少しだけ膝を進める。

ここ三日間…恭さんは何も召し上がっていない。

食欲がない、という理由で。
だから元々体が丈夫な方でない恭さんは弱り始めている。

それに本人は気付いていないのか、気づかないフリをしているのか。

それは定かではないが気丈なように振る舞われる。
いかにもこの方らしい気高さだとは思うが、今はそんなこと感心している場合ではない。

このままでは恭さんは必ず体を壊してしまう……さらに命にまで関わってしまうだろう。



「恭さん、お食事を召し上がってください」

「嫌」

「このままではお体を壊します」

「…しらないよ、そんなこと」

「恭さん!」

「うるさい…っ」



恭さんはトンファーを構えて立ち上がったが、弱った体では到底歩けなくて、がくり、と崩れるように倒れた恭さんの体を慌てて支える。
恭さん!?と名前を呼んだが気を失っているようでぐったりしていた。

瞬時にまずい、と思い専属の医者を呼んで点滴や栄養剤をうってもらう。
医者が言うには食欲がないのは精神的なものであるらしい……

あの恭さんが精神的に苦しんでいた。

その事実が腹心の部下であると自負していたオレの心に深く突き刺さった。
どうしてオレは気付かなかったのだろう……

恭さんの悩みに、苦しみに。
一番近くにいるはずだったのに、何故…っ

情けなくてぐっと奥歯をかみしめると恭さんの目がゆっくりと開いた。



「お気付きですか?恭さん」

「…何、これ」

「倒れられたんです。覚えていませんか?」

「全然…」



ぼぉっと天井を見つめる恭さんにただ無言で側に控える。
謝りたい、と思ったがオレの今までの経験上…そんなことをすれば確実に殴られる。

君に謝られる理由はないよ、と言って。
恭さんという人は、そういう人だ。

しばらく無言の状態が続いたが、思い切って恭さんに話しかけてみた。



「恭さん、お聞きしたいことがあります」

「…何」

「何か、あったのですか?」

「……!」



恭さんが一瞬だけ動揺したようにピクリ、と肩を振るわせた。

やはり、何かあったのか……
しかし恭さんはオレに目も向けず、別に、と一言否定の言葉を口にする。
何となく、予想はしていたことだ。

恭さんは強く、気高いが故に人に弱みなど見せない。

オレのような部下にはなおさらだ。
何者にも囚われない、孤高の浮き雲……

その名が相応しいお方だ。

小さく感嘆の息をつくと、急に恭さんが体を起こした。



「!恭さん、まだ無茶は…!」

「大丈夫だ。少し、出てくる」

「どちらに…」

「…見回り」




こんな時に見回りをしなくとも、と止めようと思ったが無言で頭を下げて見送った。
恭さんは止めてもオレを殴ってでも必ず自分のしたいことを貫く。

そういうお方なのだから。

ふらふらしていることが気になったが、



その背中をしっかりと見送った
(その人を心配する人はたくさんいる)

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