Io ero capace ritornare alla vera stanza.
重く、気怠い体を引きずるように並盛の街を歩く。
でも前より軽くなった気がする…きっと草壁が点滴か何かをうったんだろうね。
ふらつく足を無理矢理しっかり立たせて、懐かしく思う並盛の空気を胸一杯吸った。
この、穏やかで平凡な空気が、無性に好きだ。
だからこの空気を守るために、この並盛を守ってきた。
はしゃぐ子どもの声、おしゃべりに夢中な母親達の声……
あぁ、平和だ、と安心してしまったけど…けど、昔のような安心感とは違う気がする。
何か、物足りないような……
「…はっ……」
思わず、嘲笑が漏れる。
そうだ…何で気付いてしまったんだろう。
――――海鈴の側で得ていた安心感の方が大きく、幸せだったことに。
気付いて後悔したときには遅かった。
気付いてしまえばそのことを無視なんてできるはずがないのだから。
虚無感が一気にまた襲ってきた。
海鈴から離れて、並盛に来ればきっと海鈴のことを忘れられると思ったのに。
なのに、僕の中で海鈴の存在は大きくなって―――……
ふわり、と僕の鼻にかすめる淡い甘い香り。
僕は思わずその香りの方向に目を向けると、一軒の花屋が目に入った。
その花屋は普通の花屋で、色とりどりの花が所狭しと並んでいる。
(真ん中に赤い薔薇があって、無意識のうちに落胆してしまった)
僕は何故かその花屋に足を向け、花屋の中に入っていく。
客が僕だとわかって愛想笑いを向けてくる店員を無視して、白い百合を探した。
「あった…」
真っ白な百合。…海鈴が、初めて僕にくれた花。
海鈴の育てた百合とは違って、ひっそりとしている。
まるで白い百合は地味だから愛情が行き届いていないよう……
そっとその百合に触れて、店員をすぐに呼ぶ。
店員は僕がこの花屋に文句を言うのではないかと思ったのか恐怖に顔を引きつらせながら頭を下げた。
「これ、全部」
「へっ…!?」
「全部、買うから」
「は…はいっ!」
少々お待ちください!と言って店の奥へ下がっていく店員を見送って僕はその場から離れた。
華やかな花達を見ながらどこか海鈴の花と見比べてしまう。
海鈴の花より、綺麗な花なんてどこにもないのに……
店員から軽く包装された手一杯の百合を受け取り、その店から出て行く。
百合の甘い香りが絶え間なく僕の鼻孔を擽った。
…この真っ白な百合は、僕に似合わないね。
――――トントンッ
軽く僕の肩が叩かれる…あの時、みたいに。
なんだか、デジャブ。
振り返れば、ほら………
「…え…っ」
嘘だ…っ!なんで、なんであの子が……
だって、あの子は、海鈴は…イタリアにいるはず…!
なのに―――海鈴は僕の前で、あの時のようにニコリ、と微笑んでいた。
目の前の海鈴に信じられないとばかりに目を見開いて動くことができない。
海鈴はメモ帳を取り出してパッと僕に見せてくれた。
僕の質問が、最初からわかっていたように。
『会いに来ました。貴方に』
「どうして……」
『…伝えたいことが、あって』
「伝えたいこと…?」
少し首を傾げると海鈴の長い髪がさらりと揺れる。
よく見ると海鈴はいつもとは違う桜色の服に髪を緩くウェーブをかけていた。
いつもより、大人っぽく、日本人らしく見える……
ふんわりと海鈴特有の柔らかな笑みを浮かべるとメモ帳をぱっと手放した。
え!?とびっくりする暇もなく海鈴はさらに僕に近づいて、口を耳に寄せる。
「…す………き…」
「…!」
微かで、声の音とは言えないくらい掠れていて聞こえにくかったけれど。
僕にははっきりと海鈴の二文字だけの声が聞こえて。
――――思わず、涙が零れた。
僕の一粒の涙に海鈴が驚きで目を丸くする。
でも海鈴はそっと花に触れるのと同じように僕の頬に優しく触れて、涙をぬぐってくれた。
するり、と僕の透明な涙が海鈴の手に伝っていく。
声のでない喉を必死に言葉にして。
僕に今一番嬉しい言葉を音にしてくれる……
そんな海鈴に愛しさがあふれて、僕は思いっきり海鈴を抱き締めた。
「僕も…っ、僕も、好きだ…!」
『…!』
「好き…っ」
やっと口に出せた。
傷つけるかもしれないけど。
また危険な目に遭わせてしまうかもしれないけれど。
でも―――伝えたかった。
ずっと空っぽだった心が温かいもので満たされていくのがわかる。
好き、好き、だよ。
何度言ってもきっとこの気持ちを伝えることなんてできない。
ぎゅっと抱き締めると背中に海鈴の手の温かみが伝わってきた。
あぁ……僕はやっと、
本当の居場所に帰れた
(それは、君の隣)
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