Io non lascio vada di questa mano.



――――1年後


「やぁ、海鈴」



そう声を掛けると海鈴は花に水をあげていた手を止めて、とびっきりの笑顔で振り返った。
思わずつられて微笑みかえすと如雨露をその場に置いて僕に抱き付いてくれる。
少し軽い海鈴の体を受け止めるとぎゅっと抱き締めた。

ふわりと薫る百合の甘い香り……その香りに安心しながら海鈴の頬にキスを落とす。

頬に触れた僕の唇にびっくりしたように頬を手で押えた。
真っ赤に、頬を染めながら。
それでもはにかんでくれる海鈴にまたキスしたくなったが我慢して店の中に入った。

一年前から変わらない花屋……そして、少しも変わらない海鈴。


―――僕の、安心できる場所。

小さなテーブルに腰掛けると海鈴が紅茶を運んできてくれる。



「ありがとう」



優しくそう言えば、どういたしまして、と言うようにニコリと微笑む海鈴。
海鈴とは、あんまり会話にメモ帳は使わない。

何となく…僕は海鈴が言いたいことがわかるから。

まぁたまにわからないことがあるけれど、たいていはわかるようになった。
赤ん坊曰わく「愛の力だな」らしいけど、僕はそう思っていない。

僕が、海鈴の言いたいことがわかるのは、海鈴の側に誰よりもずっと、一緒にいるから。

(それを言うと「それが愛の力っていうんだ」って赤ん坊に言われたけど)

海鈴も紅茶にたっぷり砂糖を入れると嬉しそうに紅茶を飲み始めた。
海鈴が言うには甘いものを食べているのは至福の時、らしいから。

あぁ、でも今は変わっているかもね。
だって、海鈴にとって至福の時は……

うぬぼれなんかじゃなく、僕の隣にいるときって言ってたから。



「海鈴、実は「こんにちはー!」………」



上機嫌が一気に急降下。
聞き覚えのある声に遮られたことも相まって僕は眉を思いっきりしかめた。
でも海鈴は嬉しそうに笑って席を立ち上がり、あいつらをこっちに呼ぶ。

呼ばなくていいのに…!

しかしあいつら…綱吉と骸は当たり前のようにこちらにきて笑顔を浮かべていた。



「あ、雲雀さん!こんにちは」

「おや雲雀くん、いたんですか」

「…何で君たちまでいるわけ」

「オレは海鈴に用事があって」

「僕は海鈴に会いたく「咬み殺す」

『みんなきてくれて嬉しいです』

「「「……」」」



鶴の一声ならぬ海鈴の一書きに僕らは一斉に黙り込む。
本当に…どこまでも純粋すぎて、困るよ。
そう言われてしまったら僕たち反論できないじゃないか。

黙って椅子に座ると海鈴がカップの数を増やしてくれる。
僕は二人っきりじゃないことが不服でむすっと黙り込んでいると綱吉から話し始めた。




「実は、海鈴にボンゴレの本部の庭師を頼みたいんだ」

「普通庭師は力のある男の仕事でしょ」

「ですから、庭のデザイナー兼ブリーダーということで。
どうかな?オレとしては海鈴に引き受けてほしいんだけど…」

『やります!やりたいです!』

「そう?よかった」



安心したように微笑む綱吉だけど、本当は海鈴が引き受けてくれるのを予想していたと思う。
花に関して誰よりも愛情深い海鈴だからこそ…こういうところが妙に腹黒いよね。

海鈴が庭をデザインしてくれれば綺麗でしょうね、と微笑む骸に、少し不本意だけど賛同する。
ボンゴレの庭ってどこかちぐはぐのように思っていたんだよね。
だから海鈴の手にかかれば統一感のある、綺麗な庭ができる気がするんだ。

今度顔合わせしようね、と言った綱吉の言葉は聞き逃せなかったけど。



「どういうことだい、綱吉」

「え、どういうことって…」

「海鈴をあいつらに紹介するってこと?」

「そうですよ?じゃないと侵入者扱いになっちゃうじゃないですか」



それはそうだけど…海鈴を他のヤツに見せるなんて。
変な独占欲だとは思うけど何となくこれ以上海鈴をボンゴレの人間に見せたくなかった。

ただでさえ綱吉や骸が来て鬱陶しいのに、さらに色々な男が来そうじゃないか…!

嫌だ、と思った瞬間僕は海鈴を抱き締めていた。
僕は今まで人前で海鈴を抱き締めたり、キスしたりしたことはない。
でも今回ばかりは体が勝手に動いていた。



「…綱吉、紹介するとき僕の彼女だってこと、絶対に言って。いや…むしろ言え

「(嫉妬深すぎ…!)わかりましたよ…」



苦笑して、というかどこか呆れたように綱吉はその事を承諾する。
…隣で骸が何か騒いでいるけど、無視。

恭弥?と首を傾げている海鈴に綱吉達に見えないように海鈴にだけ向かって緩やかに微笑む。
そして顔を近づけて、骸を抑えるために騒いでいる綱吉達にわからないように口づけた。

周りのうるささの中、海鈴は顔を真っ赤にして僕を見上げる。

そんな海鈴に小さく笑って、秘密ね、と人差し指を海鈴の唇にあてた。
こくりと頷いた海鈴に笑みを深めて、さらにぎゅっと海鈴の体を抱き締める。

僕は絶対に、



この手は離さない
(手だけでなく、海鈴自身も、ね?)

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