Il colore di tristezza fu lasciato cadere.
はぁはぁっと息切れがして、ドクドクと嫌な感じに心臓が動いている。
後ろを振り向いたが追っ手の気配はなかったことに少しだけ安心した。
はぁっとやっと一息つくと乱れた呼吸を整える。
「…やっぱ逃げるんじゃなかったかなぁ」
今更後悔してみたり。
そう一人呟いたのは亜麻色の髪を少しだけ乱していてそんな風には全く見えないが、本当はこのマフィア界で巨大で最強、という名を恣にしているボンゴレボス、沢田綱吉だった。
先ほど逃げていた相手は自分の元家庭教師にして、最強(オレにとっては最恐だよ!)のヒットマン、リボーンだ。
本来ならこの時間はリボーンとの組み手の時間だった。
今日もその組み手という名のリボーンのスパルタ殺し合いをするはずだったんだけど……
なんだか戦う気分じゃなくて、今日はやらない、と言ったら、
『何甘ったれたことぬかしてんだ、ツナ。殺すぞ』
とリボーンの逆鱗に触れてしまい、銃弾を乱射してくるリボーンから逃げてきたというわけだ。
お陰で帰りたくても帰れない状況。
帰ったら間違いなくオレの命は消える…!
はぁぁぁっと大きな溜息をついて心の赴くままに足を進めていく。
死を覚悟で帰ろうかな…と逃げて3分という短さで思い始めていると、ふと綺麗な花が目に入った。
真っ白で、純粋で、儚くて、でもどこか凛としていて。
何て綺麗な百合なんだろう、と一瞬見惚れてしまう。
そしてエプロン姿の女性がその百合の花の前に座り込んでいた。
きっとあの女性も見惚れているんだろうな……
そう思っていたのに。
なのに彼女の表情を見て、少し驚いてしまった。
彼女は―――とても寂しそうにその百合を見つめていたんだ。
日本人特有の黒目には哀愁が漂っている。
女性はそっと百合に手を伸ばし、優しく、でもどこか哀しそうにその百合を撫でた。
その表情がオレにはとても気になってしまって、初対面にもかかわらず声を掛けてしまっていた。
「どうしたんですか?」
「………」
彼女はゆっくりオレを見上げて、小さく笑ったかと思えば首を緩やかに横に振った。
笑っているのにやっぱりどこか哀しそうで。
目の錯覚かもしれないけど、触れた百合が寂しそうに項垂れているように見えた。
まるで彼女の心が反映されているみたいだ……
オレは何気なく彼女の隣に座り込む。
どうしてかわからなかったけれど、初対面の彼女をそのままにしておけなかった。
彼女は少し驚いたように目を見開くとオレをじっと見つめてくる。
…よく見たらこの人すごく綺麗な女性…!
日本人だからか少し童顔のように思えるけれど、それさえも可愛らしく見える。
長い黒髪は一つにまとめられていて、清楚な印象を与えてくれた。
そんな彼女がオレを見つめているのは少し気恥ずかしくて、視線を無理矢理百合に向ける。
「綺麗な百合ですね」
オレの言葉に彼女は無言で頷いてくれた。
少し嬉しそうに表情になったけれど、すぐに哀しそうな顔に逆戻りする。
一瞬だけ見せた嬉しそうな表情が可愛らしくて、
――――笑ってほしい、と思った。
会って間もないのに、彼女の名前さえも知らないのにそう思ってしまうことが不思議で。
でも彼女の雰囲気がそうさせているみたいで、彼女はとても不思議な人だと思った。
彼女は無言で百合の花を優しくなで続ける。
無言なのにどこか百合に話しかけているように見えた。
「その百合…貴方が育てたんですか?」
『…(コクリ)』
「そうだと思いました。とても…貴方に似ているから」
小さく微笑みながら言うと彼女はぱっとオレの方に視線を向けた。
その顔にはどういう意味ですか?と書かれてある。
読心術もなにも使っていないのに人の心の声が聞こえた気がした。
そんなこと普段は全くないのに……
いい意味でわかりやすい人だな。
オレの側には感情を表面に出さない人ばっかりだから。
…リボーンとか、雲雀さんとか、ね。
だからなんだか新鮮だなぁと微笑ましくて、思わず彼女に笑いかけていた。
『…!』
「植物って育ての親に似るってよく言いますよね?
なんだかこの百合を見ていると貴方に似ている気がして」
そう言い切ると彼女は再びオレの顔を見つめた。
…いや、顔、というよりオレの目を、見つめていた。
まるでオレの本来の人格を見つめているように……
そんな見つめる彼女の目はとても澄んでいて、綺麗。
しばらく見つめられていたが、ふと彼女が初めてニコリと微笑んだ。
(わっ…可愛い!)
彼女はごそごそと自分のポケットの中を探ってペンとメモ帳を取り出した。
そして何枚か捲るとオレに見せるように差し出す。
『私、声が出ないんです』
「!…そうだったんですね」
『敬語じゃなくてもいいですよ』
「なら君…あ、名前聞いていいかな?」
そういえば初対面なのに聞くの忘れていて、名前も知らなかった。
苦笑しながら首を傾げると彼女はこくりと頷いて、再び何枚か前の紙を捲り始める。
そして『瑞樹 海鈴』とだけ書かれた紙を見せてくれた。
きっとこれが彼女の名前……海鈴、か…いい名前だな。
「…あれ…?」
気のせい、だと思ったんだけど海鈴の隣にある跡をじっと見つめる。
…やっぱり気のせいじゃない。
ボールペンの微かな跡だったけれど、オレは見逃してなかった。
海鈴にちょっといいかな?と了承を得ると二、三枚紙を捲る。
少しだけ緊張してしまう……
なんだか、見ちゃいけないものを見るような、そんな感覚。
すると一枚の紙に見慣れた名前が書き記されていた。しかも、本人の直筆で。
――――雲雀恭弥の文字が。
あぁ、やっぱり…!
どうしてあの人の直筆サインがここにあるのか。それは何となく超直感で悟れた気がする。
最近、あの雲雀さんが珍しく頻繁にボンゴレの屋敷に帰ってきてくれるようになったわけも。
そして…前に雲雀さんが百合の花の花粉をつけていた理由も。
海鈴はひょこっと紙を覗き込んで、オレに首を傾げかけた。
「彼…オレの知り合いなんだ」
『…!』
オレの言葉に海鈴は持っていたメモ帳を奪って、紙に何かを書いた。
殴り書きのような、すごい早さで書いていく海鈴。
そして見せてくれた紙には、『本当ですか!?』と切羽詰まったような文字。
うん、と頷けば海鈴は軽く目を伏せて視線を百合に向けた。
きっとあれが…雲雀さんが貰ったのと同じ百合。
もしかして海鈴は、雲雀さんのこと…?
『最近…恭弥さんが来てくれないんです』
「(きょ、恭弥さん!?あの雲雀さんを下の名前で呼んだ!?)」
『前は、毎日きてくださってたのに…』
「(ま、毎日来てたんだ…)」
海鈴の言葉に超直感じゃなくてもわかってしまった。
雲雀さんは、確実に海鈴のことが好きだ。
雲雀さんはボンゴレの雲の守護者。
何者にも捕われず、孤高の浮き雲として生きる人…今までどんなものにも執着心を見せたことはなかった。
中学の時オレやリボーンに興味を示したことがあったけど、すぐに飽きたみたいだし。
匣には熱心に研究を重ねているみたいだけど、それは自分の強さと好奇心を満たすためにやっていること。
だから匣の謎が解けてしまったら、きっと雲雀さんは次の新しいものを見つけるだろう。
そんな雲雀さんが、一人の女性に心を奪われるなんて……
あながちリボーンの「愛人ができた」予想は外れてなかったってことだよね。
それに、オレは雲雀さんが来ない理由を知っている。
正しくは来ない、じゃなくて“来られない”なんだけど。
――――雲雀さんには二日前に長期の任務を任せたから。
もちろん…オレが命令した。今、雲雀さんはアメリカにいる。
この任務は少なくとも1ヶ月…長くかかれば1年の任務だ。
もし海鈴のことを知っていたら、そんな長期任務なんて任せなかったのに。
(海鈴には悲しんでほしくないから)
そんなことを知るはずない海鈴はしゅんっと哀しそうに百合を見つめた。
「寂しい?」
海鈴はオレの言葉に小さく苦笑して、申し訳なさそうにこくりと頷く。
ごめんね…オレのせいなんだ。
オレが雲雀さんにその任務を任せちゃったから、来ないんだ。
そう言いたかったけれど、言えなかった。何とな…言ってしまうのが、恐くて。
オレの心情も知らず、海鈴は百合の花を一本だけ取り出して、
悲しみの色を落とした
(百合の花びらに涙が伝った)
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