Volò via con la sua faccia sorridente.



ぽたり、ぽたり、と血の跡が地面に描かれる。
その跡を冷ややかに見下ろして、僕はトンファーを一振りすると懐に仕舞った。

なんてことない、任務。
相変わらず手応えのなさすぎる仕事に苛つくね。
たいした高揚感も得られなかったことが不満だけど、これでこの任務から解放されるかと思うと清々した。


――――それに。
これでやっと…海鈴に逢いに行ける。

アメリカなんて遠い場所に行かされたから2週間も海鈴に逢っていない。
しかも何も言わずにこっちに来ちゃったから、海鈴に僕が店に来るのに飽きたんだと思われたかもしれない。

あぁ、それなら早く帰って誤解を解かないといけないな。
この二週間…海鈴の癒しの時間が恋しくてたまらなかった。

…いや、海鈴が恋しかった。

早く逢いたい……
できたら抱き締めたいけれど、僕と海鈴はそんな関係じゃないからな…

自家用ジェットに乗り込んで「半日でイタリアに着いて」と自分でも無茶なことだとわかっていることをパイロットに伝えながら目を瞑る。

目を瞑れば最初に浮かぶのは真っ白な百合と海鈴の笑顔。
そっと手を伸ばせば海鈴は笑って僕の手を握ってくれる。

(夢って便利だね…願いを叶えてくれるから)

そして、すごく柔らかで心地のいい声で僕のことを恭弥って呼んでくれるんだ。


――――海鈴は、声が出ないのに。




「…ん、……さん。恭さん」

「…!」




パチッと勢いよく目をあけると哲のリーゼントが目に映る。
お目覚めですか、という哲の声にイタリアについたことがわかった。

せっかく海鈴の夢を見ていたのに…でも、イタリアについたなら本人に会えるから、いいかな。

ふぁあっと大きな欠伸を一つこぼして、スッと立ち上がる。
海鈴の所に行こうか、と思ったが鏡に映った自分を見てやめた。

任務を終えた時のままの格好で帰ってきたから寝癖がすごい。
それになんか体がベタつくし…シャワー浴びたいかも。
シャワーを浴びてからでも遅くないかな、と思い直し、後ろを着いてくる哲に一旦本部に戻るよ、と伝えて帰路の足を速めた。




「恭さん、あの」

「何」

「以前、恭さんが私に預けた苺の苗なんですが…」

「!今どこにあるの」

「へい、恭さんの部屋に戻しておきました。
あれから随分育って、花がたくさん咲いてますよ」

「…そう」




枯らしていたら咬み殺してたとこだったよ。
あれは…海鈴がくれた大切なものだから。

そう心の中で呟いて、自分の部屋に直行する。
途中で獄寺隼人や山本武に声を掛けられた気がするけど無視した。
不快になりはじめたスーツを脱ぎ捨てて、さっさとシャワーを浴びる。
知らない間についていた血も綺麗に洗い流すと新しいスーツに着替えた。
脱ぎ捨てたスーツは後でクリーニングにでも出そうかな。…面倒だけど。

哲が置いていったのか窓の側に白い花をたくさんつけた苺の苗が目に入る。
…綺麗…でも、やっぱり海鈴が育てた百合には敵わないな。

当たり前だけどね。

白い小さな花は海鈴を彷彿させて、そっと優しく触れてみる。
なんだか僕が触ると花びらが散ってしまいそうで恐い…
白い花に触れると、やはり海鈴に逢いたくなってしまって、髪も乾かさずに部屋を飛び出した。

早く…早く、逢いたい。

夕方だけど、大丈夫かな…?店、開いてるといいけど……

…こんなに心から逢いたいと思うなんて、僕はどうかしているのかな。
(でもそれが不快に思わない、むしろ心地よく思うんだ)

いつの間にか早歩きから走りに変わっていて、少し息を切らしながら店の前まで走っていく。
じっと目をこらすと白い百合がぼぉっと浮かび上がって見えた。

―――よかった、開いてる…!




「海鈴・・・!」




店の中に向かって叫ぶように海鈴の名前を呼んだ。

どこ…どこにいるの?

そう店の中を見渡すと奥のドアが開いて、海鈴が姿を見せた。
いつもと変わらない、エプロン姿で、長い黒髪を一つにまとめて。
海鈴は驚いたように目を見開くと僕に駆け寄ってきてくれる。

そして…思いっきり僕に抱き付いた。

トンッという軽い衝撃とともに花の甘い香りが僕の鼻孔を擽る。
そしてふわり、と海鈴の髪が頬を撫でて、海鈴の体温が腕に伝わってきた。
ぎゅっと抱き付いてくる海鈴に思わず僕は抱き締め返していた。

夢が正夢になった、なんてものじゃない。
こんなに嬉しいことはないよ…!

海鈴は体を少し離して、いつものメモ帳に何かを書き始めた。
そして小さく微笑みながらメモ帳を見せてくれる。





『来てくれたんですね』

「うん…実は、急な仕事が入ってね。ずっと来れなくて、ごめん」

『いいんです。もう、来てくれないかと思っていたから…』

「そんなこと絶対ないよ」

『よかった…』





ホッとしたように微笑む海鈴に微笑みかえす。

やっぱり安心する…海鈴といると、不思議と落ち着くんだ。

そっと海鈴の頬に触れると少しだけ海鈴の頬が赤く染まった。
海鈴の反応に少し驚きと嬉しさが入り混じる。

こんな反応、初めて…今まで照れたことなんてなかったのに。

…少し、前進したと思っていいかな…?

そうだったら、すごく嬉しいんだけどね。
任務から帰ってきたばかりで、疲れているはずの僕の体。

でもそんなもの、



彼女の笑顔で吹き飛んだ!
(ワォ、さすがだね)

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