キス一回で許してやる



「…あぁもうわかりましたよ!行きましょう!」

「フン、最初からそうしとけばいいものを」




あれから先輩に行かないとどうするか、という話を永遠にされ続け、先に根負けしてしまった私。
だって、このまま居座る、とか襲うとか、両親にご挨拶するとか本当に冗談じゃない。
そんなことされるくらいなら先輩とデ、デート…した方がましってものだ。

とりあえず着替えようとクローゼットに向かったのだが……




「…先輩」

「ローだ。なんだ?」

「いや、なんだ?じゃないですよ。今から私着替えるんですけど」

「あぁ、いいぞ」

「…っ、いいぞじゃないわよこの変態!出ていけー!!」




先輩の頭を殴ってから部屋のドアを開け、力いっぱい背中を押す。そして即座に施錠。
おい!生着替え!くそ、開けろ!とかなんとか叫んでいたけれどさっさと無視して悠々と着替える。

今親が出かけていて本当によかった。先輩うるさいし。

着替え終わったのでさぁ出かけようか、と思い、ドアノブに手をかけかけるが鏡を見て少し止まる。
…少しだけお化粧しようかな。い、いや別に深い意味はないよ、うん。先輩と一緒だからとかそんなんじゃなくて、ただたまたま気が向いたからで…そうそうそれだけだから。
うんうん、と自分一人で勝手に納得しながら軽く化粧を施す。
久しぶりに化粧なんて不慣れなことをしたから少しくすぐったかったがそのままドアを開けた。




「お前、彼氏の俺に着替えを見せないなんてどういう……」

「それが普通ですよ。…なんですか?」




文句たらたらな先輩が私の方を見た瞬間ピシリという音とともに目を見開いて固まる。
その理由が少しだけわかるから、なんだか悔しくてそんな憎まれ口をたたいてしまう。
どうせ私がこんな女の子らしい格好をして化粧をするなんてありえないって言いたいんでしょ。
そんなこと一番本人がわかっている。あぁもうそんなに見られたって困るんだけど。




「…おい」

「……なんですか、文句なら聞きませんよ」



「キス一回で許してやる」






「なっ何言ってるんですか!?」

「うるせぇ、黙ってろ」




いつの間にか先輩の手が私の背中に回って、ぐいっと抱き寄せられたかと思えば唇に軽い感触。

くそ、可愛すぎるんだよ、なんて先輩の呟きが聞こえないくらい私は混乱したのだった。

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