予想天涯の始まり
とにかく、トラファルガー先輩は鬼だ。
「おい」
「ひぃ!!」
後ろから聞こえてきた低い声に反射的に背筋を伸ばす。
ギ、ギ、ギ、ギ、と機械が壊れたようにぎこちなく振り向けば、…怖い怖いトラファルガー先輩。
しかも、しかめっ面というオプションつき。めちゃめちゃいらない。
「何だその反応は」
「え、あ、すいません、反射というかなんというか、」
「優しい俺様に向かってか?」
「え?誰が優しいんですか?」
「あ゛?」
「トラファルガー・ローさまのことでございます」
ひいいい!なんて凶悪な顔で笑うのだろう!当然だな、と笑う様は悪魔だ。
そして、その怖いトラファルガー先輩に逆らえない私なんてチキン……。
いや、仕方がない。長いものにまかれろ。それが長生きの秘訣なんだから。(と、私は思う)
「今から飲むぞ」
「えー私今日は見たいドラマが、」
「い く よ な ?」
「喜んでー!」
うわーーん!こんなことならちゃんと録画しておくんだった!
…仕方がない。ネットで見よう……。
行くぞ、と首に腕を絡ませて(息!息つまる!)歩き出したトラファルガー先輩と一緒に歩き出す。
途中でペンギンやシャチと合流して、いつものメンバーで飲み始めた。
「姫も生でいいか?」
「え、あ、」
「すいませーん!生を4つ!」
ばか!シャチのばか!だからモテないんだ!!
と、言いたいところだが、その文句も言うタイミングを失っていた。
私、今日はあんまり体調がよくないからノンアルコールにしようかと思ってたのに……
ま、仕方ない。頼んだのなら、とりあえずビールを飲もう。
そう諦めると、運ばれてきたビール4つ。一人一つずつ配り終わった、と思ったが、何故か私の前に置いていたビールはトラファルガー先輩に奪われる。
な、何故…!飲み物すら与えられないのか…!
「先輩、それ、私のでは…」
「俺のだ」
「え、でも、私のがな「お待たせしましたーオレンジジュースです」
「おら、これがお前のだ」
新たに運ばれてきたオレンジジュースが私の前に置かれる。
…あ…私が今日ビールじゃないこと、気づいてくれたんだ。
………くっ……トラファルガー先輩は鬼だけど、時々…本当に時々、こうやって優しいから嫌いになれないんだよね…。
ありがとうございます、と俯いてお礼を言うと別にとそっぽを向かれた。
――――……
――……
「あれ?ローさん寝てないか?」
「あ、本当だ」
あれから二次会といって私の家にみんなきたが、珍しくトラファルガー先輩が潰れていた。
疲れてたのかな、と少しだけ心配になったが、そろそろ帰るといったペンギンとシャチを見送ることに。
二人を見送ると、ソファで寝ている先輩に毛布をかけてあげよう、と毛布を手に取る。
…うーん、先輩って、本当黙ってたらイケメンなんだよなぁ……黙ってたら。
もったいない、なんて思いながらそっと毛布をかけてあげる。
「……ん…」
「あ、ごめんなさい、先輩。起こしちゃいましたか?」
「………――」
「え…?」
ぐい、っと…でも優しく腕をひかれて…わけもわからないまま、先輩の唇が私の唇と重なる。
…え、私、先輩と、キス、
理解した瞬間、その体を押し退ける。意識がないのか、簡単に離れていく体。
途端に熱くなる顔。どきどきとうるさいくらい鳴り響く心臓の音。
――恋に、落ちてしまった。
予想天涯の始まり
え、ていうか、先輩覚えてないとか何の冗談?
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