私は姫。現在27歳、独身、新人ドクターだ。
まだまだ力不足で悔しい思いをすることが多いが、患者さんの笑顔を見ていると元気をもらえる。

でも最近、困った患者さんがいる。その患者さんとは……106号室のトラファルガー・ローくん、中学校3年生。
どう困っているのかというと、



「こんにちはー」

「おう。今日も綺麗だな、姫センセイ」

「はいはいありがとう。さ、心臓の音聞かせてください」

「痴女か」

「ちっ…!?あ、あのね…トラファルガーくん。意味わかって使ってるの?」

「当たり前だろ」

「はぁ…君がませているのはよーくわかった。さ、早く体起こして」



やれやれとばかりにトラファルガーくんは体をゆっくり起こす。
そう、このトラファルガーくんは中学校3年生とは思えない生意気かつおませさんなのだ。
一体何度この男の子の頭をはたきたくなったか……
医者という立場もあり、かわすことは多いが「かわいい」だの「きれい」だの口説き文句を囁いてくるのはいただけない。
こんな年上の女をからかって何が面白いのか。理解不能だ。
極力目を伏せながら心臓の音を聞いて、異常がないことを確認する。
はい、いいよーと声をかければトラファルガーくんはさっさと身だしなみを整えるとぐいっと私の腕をひっぱり、唇を私の耳に寄せた。



「異常なしか?」

「…なしよ」

「なら、ご褒美のキスは?」

「はっ!?…ありません。離しましょう」

「一回くらいいいだろ」

「ダメです。好きな人のためにとっておきなさい」

「姫先生のことが好きだ。だからいいだろ?」

「よくない。主に私が」



私の腕をつかんでいる手に私の手を重ねるとそっとその手を離させる。

トラファルガーくんは、大きな病気で入院しているわけではない。
本人曰く「抗争でやりあってたら刺された」らしい。…意味がわからない。
とにかく誰かに刺されて緊急搬送されてきたのだ。
傷は浅かったのですぐに処置すれば命の危険はなかった。
傷の治り具合も良好で、そろそろ退院しても大丈夫そうだ。
カルテに傷の状態と本人の元気よさを書き込むと看護師に渡す。



「朗報よ。そろそろ退院できそう」

「いやだ」

「なんで」

「姫先生に会えなくなるだろ?」

「定期検診があるわ」

「毎日じゃねぇだろ?」

「…まぁ、そうね。って私に会う前提で考えるのはやめて。私を巻き込まない」

「姫先生には毎日会いてぇからな」



かっこよく笑うトラファルガー君に少しだけドキッとしたけど、それも一瞬だけ。
学校もめんどくせぇしな、と続けたトラファルガーくんに「そっちが本音ね」とため息をつくとまた来るわ、と伝えてその病室を出たのだった。



困った患者

- 7 -

*前次#


ページ:



ALICE+