きみが泣いている夢を見たから
姫という人間は本来、勉強だけは真面目にするような子だ。
ただ、やることが子供っぽくて少々お馬鹿に見えるだけで。
特に航海術は得意中の得意中で姫が唯一頭のいいローに勝てる教科だった。
今日も姫は好きな航海術の勉強をいそいそと楽しみながらやっていた。…が。
「姫っ」
呆気なく、幼なじみであるローに邪魔されてしまった。
ばんっと勢いよく部屋のドアと共に聞こえた自分の名前を呼ぶ声と小さな息苦しさ。
半ば力加減もなしに抱き締められたから苦しくてぐぇ、とカエルが潰れたような声が出てしまった。
それでも力を緩めないローに姫は内臓出るー!なんて叫びたかったが…何となく出来なかった。
……ローの肩が、震えていたから。
「ロー…?」
「…っ、姫…」
「どうしたの?何かあった?」
ぽんぽん、と自分より大きな背を安心させるように優しく撫でると少しだけローから力が抜ける。
あやすように背中を軽く叩いていれば、ローが一つ大きく溜め息を吐き…
「…姫、ちょっと太っ」
「滅べ変態ぃぃぃ!」
…元気に殴られた。
抱き心地がいいからもっと太れ、と全くデリカシーのない言葉を言ってまた殴られそうになっていたが。
心配して損した、と姫は怒りながらも安心したように小さく笑った。
あんな弱々しいローはいつになっても苦手、と。
「そういえば、なんでいきなり来たの?」
「姫に無性に会いたくなった」
「…っ、(…また無自覚でそんなこと…!)
じゃ、じゃあ…なんでいきなり抱きついてきたの?」
「…それは、」
きみが泣いている夢を見たから
(オレがいないところで泣かせたくなかった)
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