忘れるなんて嫌だったから



少しまだ痛む腕を押さえながらオレはこの前のことを思い出していた。
…姫も能力者になったことを。
オレも偶然知らずに悪魔の実を食った。…けど、決してこの能力が嫌いなわけじゃない。
いや寧ろ、オレはこの力を得てよかったと思ってる。

守りてぇもんを守れるから。

なら姫は?即答できる。アイツは守る側でなく間違いなく守られる側だ。
自分の身を自分で守れるくれぇの力ならいい。…だがそれ以上の力は厄介なものにしかならない。
あの時の様子から見て姫の力はロギア系の水関係だろう。ロギア系と言ったら悪魔の実の中では最強と呼ばれる部類のものだ。

…やっぱり、似合わねぇ。




「いっくよーベポ、シャチ!」

「わぁ…!すごい!」

「おぉ!すげー!」

「…お前ら、能力で遊ぶな」




楽しそうな姫とベポとシャチ、冷静なペンギンの声が聞こえて溜め息が出そうだった。
今の会話で何となく事態が把握できる……

“ROOM”と静かに呟けば能力が発動し、スパンッと刀を一振り。




「えぇええ!?なんでオレだけー!」

「あ、ロー!おはよー!見て見て!これ、凄いでしょっ、痛っ!チョップなんて酷い!」

「…能力の無駄使いすんな、馬鹿」

「ローだって今使ったくせに…」

「オレはいい」

「理不尽!」

「今一番理不尽なことされてるのオレだから!」




シャチ、見事にバラバラだねー、とベポがシャチの離れた足を持ち上げつつ笑う。
戻してくださいよー、と情けない声で言われたからふふ、と笑っただけで了承はしなかった。…もう少しこのままにしておこう。

そんなオレに姫はまた無駄にSだ…と苦笑したかと思えば顔色を急に変えて腕を掴まれる。




「ロー、この刺青…っどうしたの!?」

「あぁ、さっきいれてきた」

「いれてきたって…刺青だよ!?一生消えないんだよ!?」

「…しかも腕全体に、か…」

「消したくなかったから、いれたんだよ」

「そんな…なんで…っ」



ただの刺青なのに姫は自分にできた傷みたいに悲しそうに顔を歪めるからオレは優しく姫の頭を撫でた。



忘れるなんて嫌だったから
(姫を守る、この命にかけて。そう決意ことを)

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