俺の同居人である美雨さんは3つ上の23歳の社会人。成り行きで同居することになったものの、社会人の美雨さんと、学生の上に毎日バレー漬けの俺では家で顔を合わせることは殆どない。仮にも同じ家に住んでいるというのに大学生の肩書きにバレー漬けの俺とは全く別の生活を送っていて、もちろんこうなる事は初めから分かっていたのだけれどなんだか不思議な感覚になる。それでもそんな生活でも3ヶ月ほど経ってくるとなんとなくは相手の生活リズムも判るようになってくる。
 俺の知る限り美雨さんは仕事の日は自分で弁当を作っているし自炊もしている様子だ。思い返せばキッチンのごみ箱は俺が食べたカップラーメンやコンビニ弁当以外にそれらしい容器が入っているのを見た事がない。休日は年相応に出掛けたりもしているけれど、天気のいい日は洗濯やキッチンの掃除をしたりしていて、午後には食材の買い物に行きその食材で料理をしてそれを食べる、というなんだか主婦のような生活をしていたりする。以前、短大卒故に年齢の割には長い社会人生活をしているからそうなったのかと訊けば、一人暮らしを始めたときからこのリズムなのだと言っていた。
 美雨さんはしっかりした人だと思う。これまでの俺の人生で年上の女の人と関わりと言えば高校時代のマネージャーと田中先輩の姉さんくらいなもので、またその人たちもとてもしっかりした人であったから、世の年上の女性はみんなしっかりしているのかと錯覚しそうになるくらいだ。しかし、美雨さんはその反面、本人の顔の作りとは関係なしに年上の女の人とは思えない、女性というより少女という言葉の方がしっくりくるような一面を見せる事がある。
 例えば、こんな時。

「あ、美雨さん、前髪切っ」
「ああああやっぱり気づく!?自覚はしてるから傷口抉らないで!お願い!」
「傷口って…」

 「前髪を切りすぎてしまって…」と首を垂れ両手で自分の前髪を抑え嘆く#葵#さんを見て、ふと昔学校の教室でクラスの女子が「前髪切りすぎたのー!」と騒いでいた光景が過ぎる。このポーズは前髪を切りすぎてしまった女子にとって全国共通なんだろうか。

「最初いい感じに切れたもんだから調子に乗った私のばか…。そもそもいい年して美容室に行くのを面倒に思ってセルフカットしたのが間違いだった…」
「いや、いいじゃないですか。別に」

 以前よりも短く切りそろえられたそれは眉毛が少し見えるくらいの長さになっていて#葵#さんの表情をより分かりやすい物にしている。しかし、それにしても今日の美雨さんはいつも以上に年上には見えない。

(余計幼い…)

 眉上になった前髪とはこんなにも人を幼く見せるものなのだろうか。本人も実年齢より若く見られる事がコンプレックスだとは言っていたが、今目の前にいる美雨さんはどう見ても年上には見えず、せいぜい二十歳がいいところだと思う。仮に並んで歩いたら十中八九、自分の方が年上に見られるだろう。

「影山くん、今失礼なこと考えてたでしょ」
「え?あ、いや?」
「あたしの顔見て確実に“こいつ余計幼くなったな”って思ったでしょ」
「それは、まぁ…」
「この正直者」
「いや、でも」
「うん?」

 しかし本人は失敗したと嘆いているが、正直な感想を言うと似合っていると思うし、そんなに落ち込むほどのものなのだろうか。幼くは見えても本人が嘆くほど似合わないものではないと思う。
それに寧ろ。

「かわいいと思います。似合ってますよ」

 その後、少し顔を赤くした美雨さんは「若いって怖い…」と言いながら目を覆っていた。若いって言ったって、あなたと俺は3つしか違わないじゃないですかと思いながら、目の前の彼女を眺めていた。

20140907