STAGE.14
「姉上!」
「名無しさん!」
勢い良く中庭に走りこんできた二人が、その名を叫んだ。
洗濯竿の前で立ち尽くした名無しさんはゆっくり振り返ると、顔面蒼白な表情で出迎える。
『名無しくん‥‥総悟‥‥』
ポツリと弱々しく呟いた名無しさんの足元には空の洗濯籠が転がっており、何かが起こったことを意味していたが、それが何かはまだ分からない。
「姉上、何があったんですか?」
駆け寄った名無しくんが心配そうに顔を覗きこみ優しく問いかけた。
すると、人差し指を洗濯竿の方へ向け震える声で一言。
『し、下着が‥‥』
「‥‥‥‥え?」
一瞬、固まった名無しくんは状況を整理するためにしばし考えた。
空の洗濯籠。
衣類が干されていないハンガー。
「まさか‥‥!」
『合田さんの下着がぁ!』
「‥‥‥‥‥‥は?」
思わず声を漏らした名無しくんに合わせて、沖田も顔を引きつらせた。
「合田さんって、あの50(歳)オーバー女中頭のおば‥‥お姉様、ですか?」
『うん、今旦那さんと喧嘩中で家に帰ってないらしくて‥‥屯所で寝泊りしてるんだけど、』
「「おえェェェェ!!」」
『?!』
名無しさんが最後まで話し終わる前に、名無しくんと沖田は急に地面に沈み、嗚咽を盛大に漏らした。
「ダメだ総悟!盗んだ奴が気の毒で仕方ねェ」
「大方、名無しさんのと勘違いして事に及んだんだろうが、哀れ以外の何物でもねェ」
「くっ‥‥」と、悔しそうに地面を叩いて、青少年の中にある何かに大ダメージを受けた様子だった。
そんな二人を心配して名無しさんが声を掛ける。
『あの、二人ともどうしたの?顔色が悪いけど』
「────いえ、何でもありません姉上」
フッと哀愁を帯びた少しの“間”があったが、立ち直った様子の名無しくんが立ち上がった。
「それより、姉上は何か被害に遭われていないですか?」
『あ、うん、私は大丈夫。でも合田さんの下着が盗られたなんて、何て謝ったらいいか‥‥』
「ちょーっとその名前は禁句にしましょうか。ね?」
「そういう類に当てはめること自体が不適切です」と男のこだわりを強調し、爽やかに制止した。