STAGE.1

STAGE.15

「あれは、今日みたいに蚊がたくさん飛んでる暑い夜だったねェ」


真っ暗な部屋の中、一人の男が懐中電灯で己の顔を怪しく照らしながら話を始めた。


「俺、友達と一緒に花火やってたら、いつの間に辺りは真っ暗になっちゃって‥‥いけね、母ちゃんにブッ飛ばされるってんで帰ることになったわけ。それでね、散らかった花火片付けて、ふっと寺子屋の方見たの」


大広間に集まった隊士たちと何故かこの密会に参加する羽目になった私は、その話に耳を傾けながら息を呑んだ。


「そしたらさァ、もう真夜中だよ?そんな時間にさァ、寺子屋の窓から赤い着物着た女がこっち見てんの‥‥俺もうギョッとしちゃって、でも気になったんで恐る恐る聞いてみたの‥‥何やってんのこんな時間にって。‥‥そしたらその女ニヤッと笑ってさ、」


「マヨネーズが足りないんだけどォォ!」

「「ぎゃァァァァ!!」」



「副長!何てことするんですか、大切なオチを」

「知るかァ、マヨネーズが切れたんだよ買っとけって言っただろ。焼きそばが台無しだろーが」

「もう十分かかってるじゃねーか!何だよソレ、もはや焼きそばじゃねーよ!黄色いヤツだよ!」


ある夏の日の夜。
隊士の中で最も霊感が強いと言われている稲山さんの怪談話が大広間で行われていた。
しかし、ソレはとんでもない形で中断されてしまった。

ある意味、土方さんが一番怖かった。
顔には出ていないけど、私の心臓は今まさに早鐘のごとく。


「アレ、局長?局長ォォ!!」

「大変だァ!局長がマヨネーズで気絶したぞ!最悪だァァ!!」

「名無しさんちゃん、救急箱ォォ!!」

『は、はい!』


マヨネーズたっぷりの焼きそばを持った土方さんの乱入に驚き、近藤さんが泡を吹いて倒れてしまっていた。


「くだらねェ。どいつもこいつも怪談なんぞにはまりやがって」


皆が慌てふためく中、土方さんはそう言って部屋を出て行ってしまった。


「あれ、姉上?」

『名無しくん?どうしたの、こんな時間に』


廊下を歩いている途中、掛けられた声に振り返ると何故か私服姿の弟が。


「オレはちょっと用事があって外に。姉上こそ、こんな夜更けに何してるんです?」

『私は買ってきたコレを土方さんの部屋に』

「あぁマヨネーズですか」


妙に納得した様子の名無しくんと一緒に廊下を進むと、部屋の前に立つ土方さんの姿が目に入った。
その隣には何故か白装束姿の総悟が頭に三本の蝋燭を立てていた。


「何してんだ、てめェ」

「ジョ‥ジョギング」

「嘘つくんじゃねェ!そんな格好で走ったら頭火だるまにならァ!儀式だろ!俺を抹殺する儀式を開いていただろう!」


よく分からないけれど、土方さんが叫んでいる。


「なーに、やってんですか二人とも」


少し呆れ気味に言いながら、名無しくんが二人に近づいていく。


「土方さんが自意識過剰なんでさァ、そんなんじゃノイローゼになりますぜ」

「何を、‥‥‥ッ?!」


言葉の途中、何かに気づいたように土方さんは顔を強張らせた。


「どうしたんでィ、土方さん」

「お前ら、今あそこに何か見えなかったか?」

「「いいえ、何も」」

『?』


何かを見つけたのだろうか。
シンと静まり返った妙な空気が辺りを覆った時、


「ぎゃァァァ!!」


闇の中から悲鳴が聞こえた。

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