「んな訳ねェだろ!どういう頭してんだ、お前?!」
ちょ、顔近ェよ。
唾飛んでんだよ。
「何?サイン欲しいなら、後にしてくれる?」
面倒臭そうに言うと、「いっぺん死ぬか?!」と胸ぐらを掴まれたまま名無しくんは前後に揺さ振られる。
「まぁ、落ち着けトシ。新しい仲間に何てことするんだ」
制止の言葉をかける近藤に、「こいつが上司に対して何しでかしてんだ」と目線を向けるが、込み上げてくる怒りを抑え、土方は一番気になる事を尋ねた。
「だいたい何なんだよ、こいつらは。近藤さんの知り合いかぁ?」
“こいつら”を差す少年と少女を交互に見やると、少年は視線を反らし、胸ぐらを掴まれていた手を払い除け、少女の傍らへと腰を下ろした。
ずっと黙って始終の出来事を見つめていた少女は土方と目線が合うと、緊張した面持ちで慌てて頭を下げる。
「何名無しさんを怖がらせてんですかィ、土方さん。死んでなかったのかよ、チッ」
「オイ、何舌打ちしてんだよ」
いつの間にか少女の隣で、のんびりとお茶を啜っていた沖田が、いつものごとく毒づくと土方はピクッと青筋を浮かべた。
「おぉ、そうか。トシは知らないんだったなぁ。名無しさんちゃんと名無しくんは、昔武州の道場の門下生でなぁ」
「門下生?」
立ったまま話を聞くのも何だったので、近藤の隣に座った土方は、その言葉に眉根を寄せた。
門下生であった自分が知らないのだから、自分が通い始める前に居たと言うことだろうか。
話によると、沖田が道場に通い始めた頃、数ヶ月だけ通っていたらしい。
子ども同士でよく稽古をさぼって遊びに行っていたと、近藤が昔話に花を咲かせる。
「久しぶりでさァ、名無しさん」
「はい、元気そうで何よりです。総悟」
改めて挨拶を交わし笑顔を向けると、沖田は名無しさんの頭を優しく撫でた。
「んで、その昔の知り合いが訪ねて来たってだけじゃないんだろ?そっちのガキは隊服着てるんだから、入隊者かぁ?」
「ガキじゃねェよ、ハゲ」
「ハゲじゃねェよ、チビ」
「チビじゃねェよ、童貞」
「よぉし上等だ、剣を抜けェェェェ!!」
土方と名無しくんの攻防に、まぁまぁと近藤が宥める。