STAGE.2
屯所内の長い長い廊下を、土方の三歩後に付いて歩く。
もちろん、2人の間に会話らしい会話が産まれる訳もなく、気まずい雰囲気がまとわりついてくるのを名無しさんは必死に堪えた。
どうしよう、これは難産だ。
“会話”と言う名の新しい命を誕生させるべく、歩きながら必死に話題を模索してみる。
考えても考えても、そんな簡単にいい話題が見付かる訳もなく名無しさんはお腹を、もとい頭を痛ませた。
だいたい『鬼の副長』なんて呼ばれてる人と2人きりなんて、怖くて会話どころではない。
さっき目が合った時も瞳孔かっ開いた双眸に見つめられてホントに怖かった。
そんな事を云々考えていると、前を歩く土方がピタッと一つの部屋の前で停止した。
顔を上げて、その部屋の中に視線を移す。
そこには、数名の隊士が食事をしている姿が目に入った。
今の時刻は夕方。
警察という仕事のせいか、決まった時間に食事をとれなかった隊士たちが遅めの昼食でも食べているのだろうか。
その片付けを任されるのだろうと考えた名無しさんは土方に目線を向ける。
しかし、そうではなくて、
「ここが食堂だ」
『え?』
一言そう言って、また廊下を歩き出した。
意味が分からず、しばらく固まって先行く人の背中を見つめていると、「ボケッとしてんじゃねェ」と付いて来るように促される。
名無しさんは慌ててその後を追った。
(何だろう?仕事じゃないのかな?)
頭の中に大きな疑問符を浮かべながら、黙って歩き続けると、また別の部屋の前で土方が止まる。
「ここが会議室だ」
『はぁ・・・』
その一言の後、また無言で歩き出した。
(これは‥‥)
相変わらず2人の間に会話が産まれることはなかったが、段々と土方の行動の意図が理解出来てきた。
(案内してくれてるの、かな?)
次々と部屋の名称を説明されるだけで、何のアドバイスも期待できないぶっきらぼうな案内だけど。
思わぬ行動に内心かなり驚いていたが、嬉しくなったのもまた事実で。怖いと感じていたが、見た目ほど冷たい訳じゃないのかもしれない。むしろ、とても優しい人だと思う。