STAGE.2
いつの間にか土方と並び歩いていた名無しさんが、目線だけを隣に向ける。
不機嫌そうな顔をして、吸い込んだ煙草の煙を吐き出している『鬼の副長』の姿。
決して、そんな事をしそうにないのに、
『‥‥ふ、』
似合わない。
『ふふふ‥‥』
何だかくすぐったくなって、笑いが込み上げてきた。必死で堪えたつもりでも、土方の耳にはちゃんと聞こえていたようで、怪訝な顔を向けられる。
「‥‥何笑ってんだよ」
いきなり笑いだした名無しさんに不信感を露にしたように、低く問う。
しかし返って来たのは、柔らかい笑みと、
『いえ、何でもありません。でも‥‥』
「‥‥?」
『ありがとうございます、土方さん』
感謝の言葉。
急にそんなことを言うものだから、土方は不覚にも驚いてしまった。別に、礼を言われるような事はしていない。近藤に言われて、仕方なく引き受けただけの仕事だ。
たまたま(協調)、書類整理の仕事も一段落ついて、酒の席が始まるまでの時間が暇だったからであって、決して特別な意味はない。
なのに、素直にそう言われて悪い気はしないのは、その言葉に嘘偽りがないと分かるほど、自分に向けられる名無しさんの笑顔があまりにも屈託がないから。
何も言わずに足早に歩き出した土方。
その後ろに、名無しさんはまた付いていく。
この真選組で、頑張っていけそうな気持ちが胸を満たした。
が、
ドガシャァァン!!
「ぎゃふぅ!!」
目の前の土方さんが吹っ飛ばされました。
え、今日すでに3回目に見る光景ですけど。
犯人は言わずもがな分かってはいたけれど、その凶器を携えた人物が2人、庭の草影からのそのそと出て来ていた。
「土方コノヤローの分際で、名無しさんと仲良くしてんじゃねーやィ」
「あームッツリだよ、アイツ絶対ムッツリだよ」
って、ちょっとォォォ!!人の弟に何教えてんの?!
名無しさんが顔を引きつらせていると、2人がこちらに歩み寄って来る。
昔の幼馴染みが久しぶりに再会したのだから男同士で仲良くするのは結構なんだけど、どうか間違った道には進まないでほしい。
そんな事を切に願いながらも、すでに手遅れなんじゃないかとも思う。