STAGE.2
「姉上、変なことされていませんか?」
少し惚けていると、心配そうに名無しくんが顔を覗き込んでくる。慌てて『何もないよ』と笑顔で返したが、すでに幼馴染みと弟の標的にされてしまった土方さんが不憫でならない。
ギャグじゃなかったら死んでるよね、アレ。
「名無しさん、一つ忠告しとくが、土方ってのは女と見れば誰にでも手ェ付けるようなニコチン中毒ムッツリ野郎なんでさァ」
嘘です。
土方さんファンの方、ごめんなさい。
と言っても、名無しさんが知る由もなく、
『えっ、そうなの?!』
普通にその言葉を信じました。
「だから金輪際、土方アノヤローに近付くんじゃねーぜ」
沖田の言葉に素直に頷く名無しさん。仕事上、まったく接しないのはムリかも知れないが、なるべく近くには行かないようにしよう。
さっきは優しい人だと思ったのに何だか残念だ。一見クールそうでそんな感じは全くしなかったから信じられないが、幼馴染みの忠告を無下にする訳にもいかない。
てか、その前に上司をアノヤロー呼ばわりするのは許されるのだろうか。
頷く名無しさんに、満足そうな(黒い)笑みを沖田が浮かべる。
「そろそろ歓迎会の準備が出来てる頃ですぜ」
そう言って手のひらを差し出す。
「行きましょう、姉上」
名無しくんが、逆側の手を差し出した。
右手は大切な幼馴染みに、左手は大事な弟に重ねる。
両手を引かれて歩くなんて、何だか小さい子どもにでもなった気分だ。
それでも、握られた手に暖かさが溢れていることに、涙が出そうになった。
ずっと、弟と2人きりで生きて来た。世間が冷たいことは、当の昔に知っていたはずなのに、新しい住まいはこんな自分たちでも受け入れてくれそうな気がする。
何より、名無しくんが笑ってくれている。
それが嬉しくて仕方なかった。
重ねた両手に少しだけ力を込めると、どうかしたのかと2人が振り返る。
一瞬、黙ってしまったけれど、すぐに顔を上げて名無しさんは満面の笑みを向けて、
『ううん、何でもないよ。行こう、総悟、名無しくん』
晴れやかな気分で歩きだした。