STAGE.28
一方、銀さん達が受付に乗り込んでいる頃。
そんなことは露知らずに私達四人と折檻部屋から救出した女性
──── お房(おふさ)さんは、浪士達に追われビルの屋根を逃げ回っていた。
「ギャハァァァァ!」
「もうダメだ、もうダメだ!ごめんなさい、ごめんなさい!」
『もう無理!走れないー!』
決して体育会系ではない私はゼーハーと大きく息を吐きながら、隣を走る新八くん、長谷川さんと一緒に必死の形相で屋根を駆け上がっていた。
もう脚がパンパンで今にも倒れそう。
すぐ後ろには橋田屋主人、つまりはあの赤ん坊のお祖父さんが雇った浪士達が大勢迫っており捕まったら確実に殺される。
『ハァ、ハァ…!』
だから、肺が張り裂けそうになりながらも死という恐怖に背中を押されるように私達は必死に走り続けた。
長谷川さんに案内されて向かった先は日の光が入らないような陰湿な折檻部屋。そこではお房さんが柱に括り付けられ大勢の浪士達から痛めつけられていた。
その際の橋田賀兵衛の、孫の居場所はどこだと厳しく尋問する姿は、当初スナックお登勢を訪れた時の温和な態度とはあまりに裏腹だった。
当然、非道な行いを許せるはずもなく、何とか女性を助けたはいいけど絶対絶命のピンチは続いていて。
「ぬごォォォォ!!」
呻くような声に視線を上げれば神楽ちゃんが貯水タンクらしきものをバキバキと素手で引き剥がしており、おおよそ人間技とは思えない所業に私達は目を剥いた。
「まだ僕らいるから!まだ僕らいるから!」
「待ってー!」
『神楽ちゃん、お願いー!』
「うぉりゃアアアア!!」
訴え虚しく神楽ちゃんは抱え上げた巨大な貯水タンクを私達目掛けてぶん投げてくる。
咄嗟に身を低くして避けると、私達三人の後方に落ちたタンクはゴロゴロと転がり、必然的に浪士達は逆方向へ逃げていった。