STAGE.18.5
倒れた拍子に、ガタンッと机に肘がぶつかり苦労して整理し終えた書類たちはバラバラと落ちていく。が、そんな事は気にしてはいられない。
油断していたとは言え、男に押し倒されるという屈辱。
「――っテメェ、いい加減にしねーと…!」
「……ばこ」
「は?」
「…タバコ、ください」
声を荒げ力ずくで相手を押し退けようとした時、ポツリと溢した名無しくんの言葉に、思わず土方も聞き返してしまった。
…煙草?
固まったままでいると、ゴソゴソと懐や裾の中を詮索され、目的のものを見つけると「あった」と言って取り出された。
そして許しも待たずに、一本、口にくわえライターで火を付けるとスーッと大きく息を吸い込み、しばらくして煙を吐き出した。
「フー…」
土方の上に、馬乗りした状態で。
「フー…じゃねーよ!いつまで乗ってんだ、テメェ!」
「あれ?」
先程まで煙草が欲しい一心で気付かなかったが、見下ろせば鬼のようにキレた副長の顔が。
数秒ほど、その光景を見詰めた後、名無しくんは煙草をくわえたままニヤリと口角を上げ、「へェ…」と微かに笑った。
「あ?何だよ」
「…土方さんを見下ろすのって、そそりますね」
「なっ…!?」
「何なら、このまま襲ってしまいましょうか」
そう言うと、上半身を傾け顔を近付ける。
絶句する土方を余所目に、ゆっくりと耳元に唇を寄せると、わざとらしく息を吹き掛け、
「冗談ですけど」
…と、シレッと言いのけた。