A HAPPY NEW YEAR
『私は、負けないー!』
小声で意気込みを露にし、再び人混みの中へ突入を試みる。
しかし、何度挑戦してもこの壁は突破できず、神社へと向かう流れにすら乗れない状態が続いた。
なんで、
‥‥なんで行けないの。
さながらスーパーの安売りに殺到するおば様方へ敗北した気分だ。
それでも自分を鼓舞して、立ち上がった時、誰かからぐいっと腕を引っ張られた。
『!』
引っ張られた反動で体制を崩した私は、そのまま倒れてしまうのかと思いきや、誰かの腕にしっかりと受け止められていた。
突然のことに目を丸くして顔を上げると、そこには呆れたような表情を見せる茶髪の王子がいて。
「まったく、見てらんねーぜ」
『そ‥総悟?』
何でここにいるのか、と疑問を口にしたが、返答することなく総悟は私の手を引いてズンズンとどこかへ行ってしまう。
とくに反論するでもなく、後ろを付いていくと、ある大きな扉の前で総悟が立ち止まった。
「警備用の裏口でさァ」
そう言って中から開かれた扉の中へと入っていくが、警備用って普通警察とかしか入れないんじゃ。
そんな心配を他所に、私は総悟に右手を掴まれたまま付いていくしかなかった。
「ここまで来りゃ、いくらおめーでも行けんだろ」
しばらく歩いた後、私の背中が軽く押された。
前を見ると、人の渦があることに変わりはないが、神社が目と鼻の先に。
わざわざここまで連れてきてくれたのかと一瞬、感謝の念を抱いたが、
「ん」
『‥‥何?この手』
総悟は私の目の前に手のひらを差し出してきた。
怪訝な表情を向けると、分かってねーなァとでも言いたげに首を横に振られた。
「賽銭でさァ」
『‥‥何で、私が総悟にお賽銭あげなきゃいけないの』
「ここまで連れてきてやったじゃねーかィ」
『う゛‥‥』
やっぱり感謝なんてしない。
と、虚勢を張ったけど、王子相手に通用する訳もなく、持ってきたバックの中からいそいそと財布を取り出す私はなんて情けないんだろう。