濡れた睫毛にキスをする
「ッ!」
───── カシャン、と名前が手にしていた小太刀を地面に落とし、その瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。
突然のことに、驚愕というより狼狽える斉藤。
「…ッ…」
戦闘の術は知っていても、泣いている女性の扱い方など知らないのだ。だから、ワタワタと慌てふためくしかなかったが。
『う…くっ…』
名前の涙は止まるどころか、ボロボロと落ちる雫は頬を濡らしていく。
「…」
まだ、年端もいかぬ少女なのだ。
真選組にいる以上、人を斬る覚悟も斬られる覚悟もしているつもりだったのに。突き付けられた現実は、少女の心を酷く抉った。
『…ッ…うぅ…』
男相手に剣技で勝り毅然としていたはずの彼女が、斉藤にはとても小さく見えて、護られるべき存在なのだと思い知らされる。
そのせいか、無意識に伸びた手が。
名前の頬に触れて、涙を拭うように指の腹で目元をゆっくりとなぞっていた。
『…ッ…』
その行為に驚くよりも、どうしようもない優しさを感じた名前は、思わず斉藤の胸元にしがみついて声を殺しながら泣いた。
当然、初めての状況に心から驚く斉藤だったが、両手で己の服をギュッと掴み肩を震わせる彼女を振り払うことなど出来なかった。