2018/01/14
ある歴史書に関する報告・一
・審神者側が敗北したため存在が消えた審神者達。歴史がああだこう出した結果原作に近い「文アル」世界になった
(弊図書館設定がおかしいだけだけど)
・吉川先生から語られる歴史がおかしいけど、この世界では正しい。
・ちょっと靄がかかったような記憶がある「学生」なナマエが、図書館にいる佐藤さんに出会うことから始まる話、の予定だった
==
学生には職業体験とかいう面倒なイベントがある。少しの間、社会人のお手伝いをするのだ。私はといえば、希望していた司書――ではなく、万年筆とインクを扱う店で職業体験中だ。最近司書人気がすごいから倍率が高く、見事はずれたのだ。しかし、本当の理由は知っている。その図書館にはイケメンが多いのだ。だから女子生徒に人気なわけである。
しかし、まぁ、万年筆とインクが嫌いなわけではない。インクを調合するのは特に楽しい。店主さんにも認めてもらい、私の作ったインクも置いてくれた。なんといってもオススメは暗い青の中に明るい青が混ざる『銀河鉄道乃夜』だ。他も売れているらしいけど。今日も奥で楽しくインクを調合していれば、店主さんに呼ばれた。
「苗字ー、客がきたぞー」
そうだるそうに呟いた店主に、はーい、と返事をしてお店にでる。私を見たお客さんは目を瞬いた。店主はポンポンと私の頭を叩いた。痛い。
「今ウチに実習に来てる学生なんだが、腕はいい」
「腕は?」
「愛想がない」
「うるさいです」
そうバシバシと店主さんを叩く。お前のは痛いんだよ!と言われたが、私も痛い。お客さんはカラカラと笑う。イケメンさんだなぁ、と思っていれば彼は私を見た。
「おもしれぇ。じゃあ、インクの調合をアンタにたのむ」
「ほら、良かったな、客一号だ」
そう言った店主に、お客さんは首をかしげる。
「客一号?腕はいいのにか?」
「コイツが調合したインクは売れるんだが、調合を頼むのはお前が初めてだ」
「お金をトブに捨ててください」
そう言って調合の準備をすれば、お客さんは「まぁ、若い奴を育てるための金は惜しまないさ」と言われた。……若い奴?
「お客さんもお若いですよね?」
「ん?あぁ、そうだな」
「まぁ、いいや。何色を主軸にします?」
「……主軸?」
「苗字、普通のインクは主軸とかないぞ」
「そうなんですか?なら適当に2色選んでください。それで作りましょう。よく使う色は?」
「黒、なんだが、気分を変えたくてな。オススメは?」
「茶色とかどうです?文字にも絵にも持ってこいですよ。でも茶色も黒っぽいのから薄いものまで色々ありますね……他の色も」
「そうなのか?」
「そうですよ?」
「参ったな……」
そう困った顔をした彼に、私も困る。
「あー……何かイメージするものってあります?」
「イメージ?」
「あそこに置いてあるインク、私が調合したんですが、それぞれイメージがあるんです。銀河鉄道乃夜だったり、舞姫だったり、海乃声だったり、仇討以上だったり……」
「本が好きなのか?」
「えぇ、まぁ、そこそこ」
「お前の著作で作って貰えばいいじゃねぇか」
「いや、それはちょっと緊張するな……」
「……著作?」
「あぁ、気にしないでくれ。でも、そうだな、春っぽいのを頼む」
「わかりました。時間ちょっとください」
「じゃあまた後で顔を出すか。夕方に取りに来る」
そう言って会話もそこそこに店を出たお客さんは作家だろうか。
「謎が多いお客さんだなぁ」
「常連の一人だ、覚えておいて損はないぞ。といってもお前は二週間しかここにいないがな」
==
残念な事に、その人は私が帰るまでに現れてくれなかった。悲しきかな、感想を聞きたかったのに。私が帰った後に彼が来たらしい。気に入っていた、とは店主の言葉である。
「それは口先では」
「お前が作ったインク一式買っていった」
「お金持ちですか?」
「印税と給料両方もらってるらしいからな」
そういった店主に作家さんですか?と聞いてみる。知らん、と言われたけれど。
==
それからはそつなく私の実習が終わり、大学生になったらバイトしに来いと言われてしまった。が、私は大学に行くお金がないため働くつもりである。どうせなら働かせてくれ。実習レポートもそこそこに終わらせた後、向き合うべきものは一枚の紙である。そう、進路希望表だ。公園のベンチでそれを眺めていれば、何してるんだ?と声がかかる。少しずらしてみると、そこにいたのはあのお客さんである。
「あの時の」
「覚えていてくれて良かった。こんなところで何を?」
「進路希望表とにらめっこです」
そういえば彼は首をかしげる。
「簡単に言えば、将来どうしますか?っていう質問表です」
「あぁ、なるほど。大学に行くのか?」
「いえ、働きます」
そう言って紙を畳む。彼は目を瞬く。
「珍しいな、学生はだいたい大学か専門学校とやらに行くって聞いたんだが」
「そうですね、友達は大学に行くって言ってました」
そう目を伏せて笑う。
「でも私は働かなきゃ」
「どうして?行きたいなら行けばいいんじゃないか?」
「行きたくても行けない人は少数ではありますがいるんですよ」
「……何かあるのか?」
「何かある、というか、何もないというか」
プリントを折りたたんで鞄に入れる。見ず知らずの人に言うような話ではない。
「そろそろ帰らないと。じゃあ、また、って、会えるかはわかりませんが」
そう立ち上がって手を振る。彼は戸惑ったように私を見ていた。怒ってないよ。
==
私には両親や家族の記憶はない。気づいたらそこにいた。よくわからないが、政府の管轄であるその孤児院は厳密に管理されているらしい。らしい、というのは私たちにとって普通だからよくわからないからだけど。愛想がよければ新しい家族に迎えられたのかもしれないが、わたしには愛想がないため居残り組である。高校を卒業すれば働くしか道はないのだ。
決まらない就職にむしゃくしゃし出した頃ーーというか、孤児院でやらかしてしまい追い出された頃だ。その人に再び会ったのは。というか、ベンチにうずくまる私を見つけて友人に断りを入れて寄って来てくれたらしかった。ベンチの前に屈んだ彼は私を心配そうに覗き込む。
「苗字さん?どうしたんだ?」
「なんにもありません、」
「なんにもないわけがないだろう?家の人が心配するぞ」
「家の人とかいませんし、向こうは私がいなくなってせいせいしますよ」
私の言葉に彼はどういうことだ?と首をかしげる。どういうことも何もない。彼の優しい目を見ないようにもう一度顔を膝に押し付ける。
「放っておいてください」
私の言葉に、誰かが「面倒臭い奴」とぼやいた声が聞こえる。彼はそれを咎めると先に行くように告げた。
「何かあったのか?」
「何も」
「何もないわけがないだろう?」
「何もないから、放っておいてください」
そう彼を拒めば、彼はわかった、とため息をついて立ち上がる。暗くなる前に帰れよ、と釘を刺した彼の気配が遠のいた。
==
「苗字!!」
そう叫び声のような声が聞こえたのは感覚がなくなってきた頃である。何してるんだ!!と怒った彼は私の肩を掴む。私はぼやけた視界で彼を見た。
「ほうって、おいて、」
「ほっとけるわけがないだろう!暗くなる前に帰れって言ったはずだ!」
「かえるとこ、ないですし、」
そう言って、また目を伏せる。
――あの施設には変なルールがある。そのうちの一つに、刀には触ってはいけないというものがあった。決して好きで触ったわけじゃない。無意識だ。何故なら、青年と握手した夢を見て――目を覚ましたら刀を抱いていたのだから。刀は没収され、私は追い出された。そのさきは知っていた。何故なら誰も帰ってこないからであるし、子どが死んだというニュースを聞くからだ。
「寝るんじゃない!」
そう肩を揺らされる。しかし、その声さえも遠のいていく。
「佐藤?どうした?」
「森先せ――」
そこで、プツンと意識が途絶えた。
Comment(0)
次の日 top 前の日