2018/06/23
↓改変
そこにいたのは、どうしてだったか。授業中にうたた寝をしていたはずだったのに、気づいたら小さな子供となってそこにいた。周りの景色は日本なんかではなく、映画のセットやヨーロッパの街並みを思い浮かべる。覗き込んだショーウィンドウに映る俺は見るからに子供だった。見るからに貧しそうでボロボロの服、伸びきった髪に、不清潔な体。店の中から俺を見ていた店主は俺を箒で追い払い、周りは止めることはない。このご時世、お前のような子供を気にかける余裕なんてないよ!といった店員に、どんなご時世だと突っ込んだ俺は悪くない。まぁ、それでも言葉が通じることがわかったので、ここが何処なのかを探るためにうろちょろする事にしたのだけど。
街を一通り回った後、周りの話を聞くに世界帝とやらが支配する場所らしい。そして、この町にはレジスタンスが潜伏しているのだとか。だから安心なんだ、という彼らに逆ではないかと思った俺は悪くない。だからこそ、シェルターと書かれた文字を目ざとく見つけた俺はこっそりとそこに忍びこんだのだけど。
夜のことである。サイレンのような音が鳴り響き、周りから悲鳴や爆発音が聞こえる。なんだ、と外を見れば、慌てたように沢山の人が駆け込んできた。次第に満員になってきたそこに、三人家族が駆け込んでくる。後二人しか入れないからと断った人に俺は彼らを見た。
ーー夢、なんだろうか。
俺はうたた寝をしていたはずである。ならば、ゆめではなかろうか。なのであれば。そう思い立ち上がる。
そのまま出口に向かい、外に足を踏み出した。目を見開いた父親に、俺が死んだって誰も悲しまないんで、といってそのまま三人の背を押す。急いで閉めたのはあの店主だろうか。ありがとう、ありがとう、ごめんなさいと繰り返す母親と父親から目を離せば、幼い子供と目があった。ひらりと手を振って、じゃあな、と言えば完全に閉まったシャッター。幾十ものシャッターが閉まる音がして、熱を感じる。さて、どうしようかな、と炎に包まれた街を見た。
ーーそこから、逃げて、走って。迂回しろ!と不意に聞こえた声に周りを見渡したって誰もいない。足を止めるな、走れ!という声に弾かれて走り出す。声が案内する方へ走る。口元に布を当てろ!という声の通り口元に布を当てて姿勢を低くして逃げる。行き着いたのは広場になっている街の中心部だった。これは逃げ場がないのでは、と思いつつ、ぬのに噴水の水を含ませてそれでまた口を覆う。崩壊していく街に、包んでいく炎がに目を瞑れば誰かが俺を抱き寄せた気がした。
目が覚めたら授業中、ではなく、日本家屋の天井が見えた。起きたか、と聞こえた声にそちらを見る。白衣を着た少年がこちらを見ていた。
「痛むところはないか?」
そう尋ねた彼に、首を左右にふる。彼はもうすぐ主が帰ってくるからもう少し寝ればいい、といって障子を開いて部屋を出る。その先に見えた庭はれっきとした日本庭園だった。
次に彼が現れたのは着物を着た若い女性だった。二十代をすこし過ぎた頃だろうか。青い目をした彼女は、よかった目が覚めたんですね、と笑って俺のそばに座った。
「特にこれといった傷はありませんし、お風呂に入ってさっぱりしてご飯を食べた方が良さそうですね」
「服はいち兄に聞いてみる」
「むしろ一期さんにお風呂とかお願いしてもかな。光忠さんにご飯頼んでくる」
おれをおいて進む会話に、呆然としていれば少年がおれの手を引いた。
「とりあえず、風呂だな、風呂」
==
この屋敷に住む人ーー正しくは人ではなく付喪神ーーに主と呼ばれる彼女はナマエさんというらしい。元から付喪神と人の間の子である彼女は人ではないらしい。呼ばれていったら君が倒れてたいんだよ、と言っていたけれど、どう見ても和風なこの屋敷がヨーロッパな街並みに通じている意味がわからないため俺は考えるのをやめた。そもそも、俺がうたた寝から外国人の子供の姿になったことも、ああ偶にあるらしいよ、と軽く返し、同居人が付喪神であることを告げられた時点で深く考えるのはやめた。
ところで、この屋敷には二種類の付喪神がいるらしい。刀剣と銃だ。刀剣の人数はかなり多いが、銃は四人しかいない。そのうち四つが戦国時代に活躍した火縄銃の系譜であり、残りの一つが幕末期に作られた銃であるという。
「元は刀だけだったんだけどね、ウチの主、お人好しだから流れ着いたら拾っちゃうんだよね」
そう掃き掃除しながらつげた加州さんに大和守さんが苦笑いした。
「最初はまぁ色々あったんだけど、色々あって結託しちゃったね」
「まぁ、八重に至っては捻くれてたからね。今は主にほの字だけど」
「そういや、八重さんって八重っていう名前の銃なんですか?」
「主がつけた。疏明も芳乃も深山も丁字もね。適当に」
「適当」
「そ、適当」
「ってことは俺の名前も?」
「適当じゃない?」
加州さんの言葉にだよなー、と思う。俺が名乗れないのを見てすぐに「じゃあ、君は今日からローランドね」と言ったのだから。解せぬ。
「一応、八重達は桜の名前らしいけどねー。なんだっけ、八重の銃って。たしか、げへ……?」
「ベヘール?」
「ゲベール銃だっつってんだろ、和製のな」
そうひょっこりと現れた八重さんに、そうそうゲベール銃!といった二人に八重さんはため息をついた。
「じゃあ、他の銃士は?」
「疏明と芳乃が戦後前半の火縄銃、深山と丁字が戦国後半の火縄銃」
「で、八重がこの本丸では最先端の銃だね」
「いや、俺は2番目に変わった。ローロの持ってきた奴が一番最先端だろ」
あっけらかんといった彼に、加州さんと大和守さんが顔を見合わせて頭を撫でた。
「偉いねぇ、昔なら噛み付いてたのに」
「あぁ、もう、ガキ扱いはやめろって!」
「それ三日月達にも言えるわけ?」
「……言えねぇ……」
ニヤニヤと笑ってつげた加州さんに、八重さんが頭を抱える。いい加減ガキ扱いはやめてほしい、とぼやいた言葉に俺は首を傾げた。まぁ、俺も今剣にガキ扱いされるけど。
==
俺が持ってきた銃とは?と思って聞いたら、曰く、俺を助けるためにナマエさんを呼んだ銃らしい。ナマエさんから手渡された煤に汚れてボロボロになったその銃を持った記憶はない。とりあえずもっとけばいいよ、と言ったナマエさんにとりあえず持っていたら、芳乃さん達が目をつけた。
「おー、ローランド、銃持ってるネ」
「ドライゼか?」
疏明さんからスラスラと横文字が出る違和感。疏明さんはちょっと見せてくれと言ったので俺は銃を渡す。何やら構えて見ていた彼は、「熱でいがんではいないが……ふむ」と考えこんだ。それを芳乃さんと首を傾げて見ていたら深山さんと丁字さんが現れる。
「おや、疏明殿、芳乃殿、出陣は終わられたのか」
「ハイ、今日もミンナと検非違使退治だったネ」
「そうか、我らはまだ弱い故、主に許されなくてな……ドライゼ銃?どうして独逸の銃が?」
「俺が持ってたらしいんスけど、覚えてなくって」
俺の言葉に四人は顔を見合わせる。何やってんだ、とやってきたのは果物が入ったカゴを持った八重さんである。
「あれ?八重は今日非番じゃなかったかい?」
「獅子王と三日月の爺さんに巻き込まれた。いまから光忠さんがおやつ作ってくれるらしい」
「フー!!光忠のオヤツ、私、ダーイスキネ!」
そう喜んだ芳乃さんに、丁字さんがローランド殿が銃を持たれていた故、と伝える。あぁ、俺より年下の、と言った彼は何か知ってるらしい。
「八重は何か知ってるのか?」
「いや……主に又聞きした。声が聞こえてそっちに言ったら男が気を失った子供を庇っていたってな。なにぶん主は詳しくねぇから、俺に持ってきたんだよ。多分ソイツだろ」
「ん……その男の人の持ち物ってこと?それとも付喪神ってこと?」
首を傾げた俺に周りは顔を見合わせる。
「お前らはどっちだと思うよ」
「人ではないことは確かだろうが……」
「しかし、主人が降ろさないのをみると違う方じゃないかな?」
「待って違う方ってなに」
俺の言葉に「貴銃士っつーのがいるんだよ」と八重さんが教えてくれる。貴銃士とは。
「なんといえばいいのか……ワシたちに似ているが、付喪神じゃない」
「うーん、集合体というか……」
「私達であり私達とは違う、といいますか……」
そう考え込んだ彼らに「よく似た別人ってこと?」と聞けば「ああ、それだ!」と手を叩かれた。
「銃士達が集まって何してるの」
そんな声が聞こえて庭の方を見る。カゴいっぱいのレモンをもったナマエさんが不思議そうに俺たちをみた。芳乃さんがニコニコ笑いながら口を開く。
「アルジ様、貴銃士とワタシ達の話デス〜」
「あぁ、なるほど……ローロの銃の話かな?」
「ナマエさんは知ってるの?」
「まぁ、恐らくの推測は。貴銃士は全、付喪神は個。例えば、ローロを付喪神とすれば、貴銃士はローロの住んでいた国の国民性で作られた人っていえば分かりやすいかな。一つしか存在しない銃はほとんど同じ存在が来るけど、複数ある銃は変わってくると思う」
そう淡々と答えたナマエさんに、この銃の付喪神はいないの?と聞けば彼女は首を傾げた。なんだその反応。まぁ、俺が何かいう前にナマエさんと八重さんは光忠さんに呼ばれて行ったけど。
==
聞こえてきた声は叫びに似たそれだ。ぐちゃぐちゃと頭をかき回すようなそれ。夢の中だとはりかいしている。人ではないものに追いかけられて、逃げ、腕を掴まれた瞬間、手の甲に焼きつくような痛みが走った。その痛みに飛び起きる。ドクドクとなる心臓に、頭を抱えた。聞こえる蝉の声に、少し安心する。落ち着かせようと大きく深呼吸して目を開けば、そこに刻まれた痣のようなものに目を瞬く。そこにあったのは薔薇の花のような痣だ。
「なんだこれ」
「ローロ、朝ごはんだぜ!」
顔を覗かせた愛染に、おう、と返事をして着替える。ナマエさんなら何か知ってるだろ。
「なんか怖い夢みてあまりの手の甲の激痛に目が覚めたら、手に痣があったんですけど」
そう言ってみれば、俺の周りに座っていた短刀達がなんだなんだと俺の手の甲をみる。薬研がそれをみて、刺青みたいだな、と呟き、秋田が薔薇の花みたいな形ですね!という。それを聞いた銃士組がかたりと反応した。八重さんが俺の手を掴む。
「おいおい、これはヤベェぞ。メディックの女が持ってた痣だ」
「ローロが次のめでぃっくに選ばれた、ということか?」
「じゃあ先代のあの女は死んだのか」
そうざわざわしだした銃士達に陸奥さんが「何か知っちゅうか?」と尋ねる。
「これは俺たちが元いた場所でたまに現れる力の象徴のようなものだ」
「噂の貴銃士とやらを連れてくる力か?」
「あぁ、ただ、貴銃士を呼べるのはどうやら世界で一人だけらしくってね。前の力の持ち主が死ぬことにより、誰かに継承されるんだ。それが誰なのかは継承されてみないとわからない」
鶴丸さんの問いに答えた深山さんに、なんか厄介なの引いたな、と思う。一期さんが首を傾げた。
「主、向こうでローロはどんな扱いなんですか?」
「西洋的には行方不明じゃないかな。東洋的には神隠しというか。私が隠したことになってると思う。いつかはこうなるだろうとは思ってたけど、子供だから行かせたくないんだよなぁ」
眉間にシワを寄せた彼女に、一期さんが頷いたというか保護者組が頷いた。
「今まで最年少はいくつか知ってるのか?八重」
「俺の元の持ち主は初代と二代目を知るが、20そこらだった」
「ズレとるな、ワシと芳乃殿の元の持ち主は四代、五代に近しい兵士だったが、20後半と20あたりか」
「おや?貴方方はそんな前の方だったんですか。私と深山様の持ち主は七代、8代でしたが、19歳と18歳と聞きましたね」
「20歳前後ということだね。ローロは10歳前後だろう、早すぎる」
蜂須賀さんの言葉に、逆に、とナマエさんが口を開く。
「8年は猶予があるということですね」
「そうだな」
「そうだね」
うんうん、と頷く周りに俺と銃士達が顔を見合わせる。一瞬の間、そして各刀派が手を挙げた。
「扱いやすい打刀!!」
「いやいやここは脇差だって!」
「女でも扱いやすい薙刀はどうだ!」
「いいや、やっぱり刀と言っちゃ太刀だな!」
「槍も距離を開けやすく使いやすいかと」
「なーにいってるんですか!やっぱりたんとうです!ちかづいたてきをばっさり!」
なんだこの流れ。石切丸さんが「大太刀は使いにくいかな」と苦笑いした。少し考えたナマエさんが、短刀か脇差採用、他は余裕あれば、という。ガッツポーズを決めた脇差と短刀に、薬研が手をあげる。
「医学は持ってて損はないと思うぜ」
「じゃあ料理もね」
「採用」
「砲術の扱い方はいいのか」
ボソリと呟いた倶利伽羅さんに、ナマエさんが銃士を見る。疏明さんが「あぁ、なるほど」と納得する。
「8年間でみっちり学ばせる計画、ということか」
「なら、砲術ならワタシ達の出番デース!」
「ボルトアクション式だろ、ドライゼは。俺たちとまた違うぞ」
「基本は一緒だけどね。彼の消耗する部品も、式神さんに頼めば作ってもらえるんじゃないかな」
深山さんの言葉にじゃあ決まりね、と言ったナマエさん。イマイチわかっていない俺は知らない。めちゃくちゃみっちり扱かれることを。
==
ゲートを抜ければ、何処かの教会でした。いきなり戦場かと身構えていた俺はほっと息を吐く。見るからに朽ち果てた教会に、見覚えなんかなく。どうしたものかな、と頭をかく。とりあえず外に出て見るか、と足を踏み出したところで薔薇の香りが鼻についた。薔薇?と見渡しても周りに人はいない。ただ、足元に花びらが舞い落ちているのはわかる。ああ、そういえば、と背にかけていた銃を降ろす。やはり薔薇の花びらはそこかららしかった。多分降ろせというか、呼べっていうことなんだろう。まぁ、俺には無銘で石切丸さんが祈祷した短刀と無銘の脇差があるし、降ろして武器がなくなることはないだろう。しかしながら、どうすればいいのかと迷う。とりあえず、銃を手に取ろうと思えば、薔薇の花弁の花嵐が起きた。それは一人の人の形を作り上げる。そして蝶のようなものがそれに止まり、花びらが散らせる。すると人の姿が現れた。ゆっくりと目を開けた彼はガタイがいい。いや、八重さん達には聞いてたけど。
「やっと会えたな、マスター」
「あー、えーと、とりあえず、助けてくれてありがとう」
「いいや……俺だけでは助けられなかった。マスターはあの方が来てくれたから助かった。しかし、今度こそは助けられる」
そう言った彼に手を差し出す。目を瞬いた彼に、笑っておいた。
「これからよろしくな、ドライゼさん」
「!ああ、よろしく頼む、マスター!」
==
とりあえず教会から外に出れば、周りは廃墟だった。酷い臭いに混じって、なんか良くないものが多数いる気がするが無視をする。後ろを振り返れば、教会も酷くボロボロであるのがわかる。同じように周りを見渡したドライゼさんが、ここは、と口を開く。
「恐らくマスターが最後にいた広場だ」
「噴水のあった?」
「ああ、真ん中にそれらしいものがあるし、円形の作りの広場、この位置に教会というのは俺はここしか覚えはない」
そう言った彼にとりあえず噴水らしき場所に近づく。壊れた噴水を覗き込んで見るが水は一滴もない。さてやってきたのはいいがどうするべきか、と噴水の瓦礫に座る。不意に視界の端から女の子が駆けてきたのが見える。父親らしき人物と青年の手を引いてやってきたその子は見覚えがある。
「……マスターがシェルターに招き入れた子だな」
「あぁ、だから見覚えが……って、俺急成長しすぎにならない?」
そうコソコソ話していれば、その子は目の前にやってくる。青年は恐らく人ではない。父親らしき人は俺を見て「貴族……?」と言ったのは服が綺麗だからだろう。それを否定したのは女の子である。
「んーん、ちがうよ!あのおとこのこ!はんぶんこのおとこのこ!ね?」
「おい、マスター、同い年ぐらいのはずだろ。どう見たってーードライゼか?」
「ベスさんか……ということは、適正者は二人いる、ということか?」
そう考え込んだドライゼさんに、女の子は手の甲をみせる。俺と似た模様が描かれているそれである。俺も首を傾げながら光忠さんからもらった手袋を外し手の甲を見せる。女の子は目をキラキラとさせてとなりに自分の痣を並べた。はんぶんこ、ということは一つの力が二つに分かれたんだろうか。頭を抱えたベスと呼ばれた青年に、ドライゼさんが何か答える前に、女の子が答えた。
「あおいおめめのてんしさまが、つれていってしまったから同い年じゃないのよ」
「青い目の天使……?」
「アリサの夢にでてくる方かい?」
「うん!」
父親の問いに答えた子供に、ドライゼさんが俺を見て「あの方のことです」と答えた。ナマエさんが天使……?と思ったが宗教観が違うんだろう、恐らくは。ベスと呼ばれた青年が大きくため息をついて頭をかいた。
「まぁ、なんだ、大人の男の『マスター』ははじめてだが、貴重な戦力にはなるな」
「おー、みっちり8年間扱かれたから頑張る。俺はローランド。ファミリーネームは元々物乞い孤児だからない」
「ベスだ。大英帝国のマスコット銃。こっちは俺を呼び出した『マスター』のアリサ、その父親でレジスタンスのキョースケ」
「キョースケ?日本人か?」
「いや、日系だ。あの時はありがとう。君のおかげでこの子も俺も妻も助かった」
そう頭を下げた彼に、気にすんなって、と首を振る。
「気にしないでください……俺孤児だし、家族の誰かが離れ離れになるより身寄りがない俺が出て行った方がいいに決まってるし、ドライゼさんに助けられたし」
「いや、俺は……」
「ドライゼさんかここにナビゲートしてくれたから助かったし、俺を庇ってくれたってちゃんと聞いてる」
ドライゼさんの背中を叩けば当然のことをしたまでだ、と首を振られた。
「まぁ、なんにせよ右も左もわからないし、よろしく頼む」
==
基地について、わかったが。衛生面が悪すぎる、飯がクソまずそう、適正な処置などない、そもそも物資が足りていない、エクセトラ。案内された前のメディックが使ってた部屋だけなぜか煌びやかなんだけど、なんだこれ。アリサは父親と同じ部屋らしいし、俺が使うことになるそこである。ちなみに、アリサはベスとシャルルをアメリカ独立戦争期の銃士を呼び出したらしい。拠点をぐるりと回って食堂につき、とりあえず銃士とアリサとキョースケさんと机についた。周りの兵士が新しいメディックか?噂のもう一人?男?と困惑しているのがわかる。ってことは八重さんが言ってた他は女説は正しいらしい。
「とりあえず、前のマスターのものかわかんないけど、煌びやかなもの、全部売り払って物資に変えたいんだけど」
「あぁ、よかったー、そういう判断できる『マスター』で」
そう息を吐いたシャルルに、ベスが顔をめちゃくちゃしかめた。
「なんだよ、お前だって、あの『マスター』にうんざりしてただろ」
「うんざりしてるかどうかは別として、マスターはマスターだったんだ、そんな言い方はよせ」
「ほんっとその忠誠心なんとかならないわけ?」
「けんかだめ」
言い合いになりかけたところに割って入る幼女先輩つよい。とても強い。
「ところで、そっちのマスターは……」
「めんどくさいし、ローランドとかローロでいい。フランス語じゃローランか」
「じゃあ、ローロで。ローロは何かできるの?」
首を傾げたシャルルに、何か……と言い淀む。ドライゼさんがスラリと口を開いた。
「マスターは結構なんでもできる。あの方に戦場に送らねばならないならと詰め込まれたからな。戦闘面では射撃及び狙撃、刃物による近接戦闘、あとは医学に料理、畑も少々。ただし英語フランス語ドイツ語などの読み書きは苦手なのが欠点か」
「なんでドライゼさん俺のこと把握してんの」
「マスターが見えなかっただけで俺はそばにいたからな。あの方は見えていたようだが。あとは桜隊が俺に零していた」
ナマエさんは今更だから驚かないけど、何やってんだ、桜隊。ちなみに桜隊とはナマエさんの元にいる付喪神ver銃士である。どうやら適当につけたと言っていたが、桜の名前からつけたらしい。
そんな身内話をしていたら四人が首を傾げたのでコホンと咳払いしておく。
「とりあえず、前のマスターの私物は売り払うなりなんなりして物資に当てていいってことだよな?」
==
とりあえず、前のマスターの持ち物で要るもの要らないものはわけた。あとはシーツになりそうなものとか、アリサが使えそうな髪留め、先代先先代などがつけた日誌のようなものなんかは残しておく。髪留めはとりあえずナマエさんが教えてくれた方法で清めたらわらわらと蝶みたいな奴が寄ってくる。シャルル曰くいいものらしいので放置しといたけど。あとは医務室というか衛生室というか、そんなものや自分の部屋なんかも掃除して清めれば居心地はかなり向上した。結界も貼ったけど。
「なぁ、疑問なんだけど」
休憩中である。シャルルとベスに声をかける。二人は紅茶を置いて首を傾げた。
「前のマスター達の元には何人の銃士がいたんだ?」
「マチマチかな。初代と二代の時が一番多かったよね、確か」
「ああ、そうだな、そこから減って――先代でさらに減ったか」
シャルルの言葉にキョースケさんが頷く。
「減る?銃士に見捨てられたってことか?」
「まさか、銃士が銃に戻って、完全に破壊されたり壊れてしまうと人の姿になれないんだ。僕たちなんかはまだ『量産』されているからすぐに元に戻れるんだけど、一つしかない銃なんかは元に戻れないことが多くて。前のマスターは扱いも酷かったし」
「そういえば、ドライゼは壊れたはずだったよな」
「あぁ、だから捨てられた……んだが、マスターとノーム達が治してくれた」
きょとん、という顔をした三人に、俺は苦笑いする。ノームとはナマエさん家の式神ですね、わかります。
「俺がなおすにしたって組み立てただけだし、あのノーム達が部品とか歪んだパーツを元にとかしてくれてたしなぁ。そういや鍛冶場って見たな。長い間使われてないままなのか?」
「今はもうほとんど使われていないな」
ならば清めたりしたらナマエさんに頼んで式神ワンチャンだったりしないかな、と思ったり。なんかあれば手助けするとはいってくれてたし。
「戦力不足ならさっさと鍛冶場なおすなりなんなりした方が良さそうだな。キョースケさんたちの武器も直せるようになるし。とりあえず、戦場よりも拠点の設備とか飯をしっかりさせた方が士気も上がるし負傷に対応できる気がする。アリサ戦場に出すわけにもいかないから、俺はともかくキョースケさんがいない時にアリサがマスターとしてできることも考えないとだし」
そうさくっと結論をだせばキョースケさんとベスとシャルルが目を瞬いた。ドライゼさんはそうだな、と頷き、アリサは「はーい!」と手を上げたけど。
「まともなマスターだ……」
「まともだ……」
「まともな奴がやっときた……」
前のマスターどんな奴だったのかは気にしたら負けだろうか。
==
とりあえず、鍛冶場を清めてたらナマエさんが持たせてくれた鞄が動いた。は?と動きを止めた俺達をよそにアリサはそちらに向かいーー止める間もなく鞄を開けた。中から現れたのはナマエさんの三人の式神である。洋装だけど。鞄から転がり落ちるように現れた彼らにアリサは目をキラキラと瞬かせた。
「ノームさん!」
「あー、だからナマエさんが清めろって言ってたのかぁ」
恐らくは清めないと式神は使えないんだろう。とりあえず頭を下げる。
「またよろしくお願いします」
「よろしくおねがいします!」
俺の真似をして頭を下げたアリサに式神さんはまかしておけ!と親指を立てた。さて、式神が来たということは部品を作ってもらえるということだ。
「これがノーム?」
「なるほど……宝石の類を与えたらいいのか?」
そう尋ねたベスに式神さんが首を左右に振る。何あげればいいのか、と思っていたら、アリサが「じゃあ、飴玉あげる!」と無理やり飴玉をあげて解決した。幼女先輩の力技凄い。のちに夢であったナマエさん曰く何もあげないでいいけど、何かあげたらその分の仕事はきっちり喜んでやってくれるといったので幼女先輩は正しい。
==
Comment(0)
次の日 top 前の日