2018/06/30

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さてはて、今世のわたしの話をしよう。今世はまったくもって平和な世界である。一般家庭に生まれた私は花の小学生なわけである。個性的な友人に囲まれて過ごす私であるが、姉が二人減って兄ができた。いや、兄は普通できるものではないし、姉も減るものではない。親が離婚して姉達が母方に引き取られ、父親が再婚したためにできた兄である。それがどう見ても前の世界のレジスタンス側のマスターだった。ちなみに姉達はその前の世界の姉達そっくりだった。目を見開いた彼に私はニコニコと笑っておく。二人して出かけた両親を見送って彼に口を開いた。
「ブラウン・ベスはいないの?」
「……やっぱりナマエか?」
そう目をパチパチと瞬いた彼に、そうだよ、マスターさん、といえば彼は息を吐いて私の額をデコピンした。
「なに勝手に処刑されてんだ。俺たちが離れてる間に」
「処刑はされてないよ、アインスさんが殺してくれたんだよ」
ニコニコと笑いながら言えば彼は動きを止める。
「アインスさん、優しいから殺してくれるの。ちなみにアインスさんに殺されるのはあれで2回目」
「2回目?」
「現代銃士達の一部が私見てかなり動揺してたの知らない?」
「アァその動揺をついてアインスが撃ち殺したやつだろ」
「1回目の時、私世界帝の末っ子してたんだけどね、その時仲よかった……?あれは仲良いにはいるのか……?まぁ、いいや仲よかったんだけど」
クッションを抱きしめつつ頬杖をつく。兄となった彼は聞く体制にはいった。
「世界帝の末っ子?」
「多分、ちょっとズレた世界なんだと思う。姉が二人いてね、王位だとか考え方だとか知らないけど片方が王位ついで片方がレジスタンス側のマスターしてたんだ」
「身内争いか。ナマエはなにしてたんだ?」
「私には召喚能力がなかったから、冷遇されて領土というか街与えられてそこでほとんど暮らしてたかな。箱庭の街って上には嘲笑われて言われてたけど、めちゃくちゃ頑張ってさ、学者保護したり学校作ってこどもに勉強させたり研究施設図書館劇場インフラいろんなことをして街の人とも打ち解けてめちゃくちゃいい街にしてた。アインスさん達はたまに来てたかな。映画とかも保管してたから」
「いい領主じゃん」
「まぁそのままならいいんだけど、不穏を察知して死ぬときは痛くないようにアインスさんに狙撃してほしいって言ってたんだよ、多分そこからアインスさんは殺してくれるようになったんじゃないかな」
「は」
「まぁちなみにそのあと領主から引きずり落とされたら屋敷に幽閉された。連れ出されたと思ったら姉二人がなぜか結託してて悪役に仕立て上げられて父親死んだからこれ私悪役演じて死ねばハッピーエンドだなって思ったから姉のやったこと全部イエスって言って、レジスタンスじゃなくてアインスさんが殺してくれたら目が覚めて子供だった。ファル姐の言葉から察するに、そのあとアインスさん自分で自分を壊したみたい」
ちなみに姉二人は離婚した母親が連れて言った二人に似てるよ、と言えば彼は頭を抱えた。だから、アインスは、と告げた彼に首をかしげる。なんでもない、と告げた彼はやれやれと息を吐いた。
「今は平和だから多分アインスさん達には会えないけど、多分また会ってなんかあったら殺してくれそう」
「あのなぁ……次は一緒に生きてって頼んでみろよ。アイツ心労で死ぬぞ」
その言葉に首をかしげる。やれやれと息を吐いた彼は、今度は大往生しろよ、と私の頭を撫でた。

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新しい家には銃がたくさんあるのはどうしてだろう。銃刀法違反では?と思うが、新しい母親の実家が日本でかなり珍しい銃の博物館を運営しているかららしい。所謂展示品、というわけだ。まぁ展示品整理にから出されている私と兄である。そんな中、小学生の上に地震でpsg1が降ってきてみろ。150センチはあるだろう巨体に、4キロはまずある重さ。そんなに高くないところからの落下であるが破壊力は抜群だ。咄嗟に避けれたからこそ無事なようなそれに息を吐く。周りを見渡せば結構銃が落ちてたりするようで。
「ナマエ、大丈夫かい?」
そう顔を覗かせた父親に、頷いた。結構散らばってしまったね、と告げた父親は私に近づく。
「怪我は?」
「ないよ。間一髪」
「あぁ、psg1が落ちてきたらひとたまりもないね」
私を立たせて担ぎ上げた父親は、世界帝だった父親に似ている。お兄ちゃんは?と言えば、古銃の部屋だよ、という返答に合わせて、古銃の部屋は桜子さんが行ったけれど俺が行った方がよかったかな?と苦笑いした。
「ナマエ、少しじっとしてるんだ」
そう尋ねた父親はそっとファルさんだった銃を触れた。その瞬間、薔薇が香った。私は後ろ向きであるがため何が起こったのかはわからないけれど。
「久しいね、ファル、君に記憶があるのか否かはわからないけれど」
「っ、はい、お久しぶりでございます、マスター」
聞こえた冷徹に似た声に、戸惑いに歓喜を含んだ声。父親はそのまま言葉を続ける。
「エフ、きるちゅ、ミカエル、ベルガー、ゴースト、89、ホクサイ、ナインティ、アインス」
呼ぶたびに増える人の感覚。最後に呼ばれた彼に振り向こうとするが父親により固定されて見えないそれ。誰しもが息を飲む声が聞こえる。
「弁明はあるかな?」
その冷たい声に私が固まった。何これ怖い。普段桜子さん(新しい母親)にクーデレしてるとこというか敬語でデレてるところしか聞かないからめちゃくちゃ怖い。いや、前のお母さんや姉達に対してもこんな感じだったけれど。感じる威圧感に、私がぎゅっと抱きついたことに気づいたらしい父親は、はっとしたような顔をして私を見下ろした。正直半泣きである。
「ごめんごめん、ナマエ、怖かったね、大丈夫。お父様は別に怒ってるわけじゃないんだ。いや、ちょっと怒ってるけど……ナマエ、ちょっと桜子さんとネムくんのところに行ってくれるかい?お父様コイツらに片付けさせてーー」
「コールくーん!見てみて!またイケメン召喚できた!」
そう勢いよく扉を開いたのは新しい母親の桜子さんである。首をがっつりと掴まれてるのはナポレオンさんではなかろうか。その後ろから現れたのはブラウンベスと兄である。
「ってわぁ、見たことあるイケメンばっか」
「桜子さん、浮気は許さないよ」
「しないわよ、そんなこと。でも懐かしいわね」
ニコニコと笑った彼女に、父親は溜め息をついた。何があったんだこの二人。私は半泣きのまま兄を見る。兄は首を左右に振った。知らないようだ。
「貴方が今を呼び出せて私が昔を呼び出せた」
「俺は君に教わったに過ぎない」
おそらく、何かのきっかけは二人にあったんだろう。何がどう捻れて父親が世界帝になったのかはわからないけど。
「……お父様怒ってない?」
そう半分伺うように告げる。怒ってないさ、と言った彼に、ホントに?と尋ねれば目をそらされた。
「いや、ちょっと怒ってる。でも桜子さんがいるからいい。桜子さん、手伝うよ」
「あら、この部屋は?」
「コイツらに片付けさせる……いいな?」
最後の声がかなりドスが効いてたんだけど。返事を即座に言ったのはファルさんとアインスさんだろう。さすが幹部。
「ナマエはリビングにいなさい。また揺れたら危ないからね。ネムくん、頼めるかい?現代銃の部屋はコイツらで事足りるだろうし、古銃の部屋は俺とソイツらで事足りるから」
「わかった。ほら、行くぞナマエ」
地面に降ろされた私はそのまま大人しく兄のところに向かう。そしてちょっとだけ顔を覗かせてヒラヒラと手を振れば、アインスさんとファルさん以外は意外と振り返してくれた。父親が振り返って辞めたけど。それ見て二人が溜め息ついてたけど。

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父親が世界帝だったとか父親と母親の間に何が起きたかは置いておいて。とりあえず父親の命じたことはきっちりこなす彼らは相変わらずだと思う。私?私はうたた寝している。本読んでたけど半分夢の中だ。父親と母親のコミカルな、ただし父親の銃士に対しては絶対零度な声を聞きながらウトウトする。テレビの砂嵐のような音がして、色々な記憶がフラッシュバックする。たまに起こるそれだから気にしないが、体も幼い頭もその度に反応するらしい。ピクリと動いた体は無意識だ。
次第に鮮明になる景色、行動。私は逃げる、森の中を。撃ち抜かれる。肩を、足を。追いつかれて四肢を掴まれる。押し倒される。拘束、罵倒。恐怖。助けてほしい。でも、助けてくれる人は家にはいない。遠くに出かけた彼は、呼んだってこない。ギラギラと光るまわりの目に、彼の名前を紡ぐ。殺してほしい。そうすれば、この悪夢からすぐに解放されるから。
「ナマエ様、ダメよ、そんなこと言っちゃ」
聞こえてきた声はエフ姐の声だ。探す、彼を。でもどこにもいない。言葉が違うでしょう?と言った彼は言葉を続ける。
「そういう時はね、助けてっていうのよ」
確かに聞こえた言葉。その言葉に、助けて、と繰り返す。助けて、助けて、エフ姐、と。その瞬間、あらお兄様じゃなくてアタシなのね、という声がした。
「でもいいわ、ナマエ様のお願いだもの。助けてあげる」
草をかき分けた先、現れた彼は周りに牙を剥いた。

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目を覚ましたらエフ姐が私の頭を撫でていた。あら起きた?と尋ねた彼をぼーと見上げ、周りを見る。どうやらエフ姐しかいないらしい。
「魘されてたわよ」
「うん、怖い夢みた。でも、エフ姐が助けてくれた」
そう言って笑む。彼は「寝言に返事してみるもんね」と笑った。
「……もうちょっと寝てていい?」
「いいわよ、添い寝してあげる」
語尾にハートがつきそうな声である。その言葉にまたうとうとし、眠る。次に起きた時にはエフ姐が父親に変わってたけど。

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庭に出て花見ながらのんびりする。相変わらずバタバタしている周りに、私は危ないからと追い出されて今に至る。広い庭園、その中にある木製のブランコを漕ぐ。ゆらゆらゆらゆらと揺れるそこは昔からのお気に入りだ。そういや世界帝の娘をしていた頃もドレスで乗ってアインスさんに呆れられたし、レジスタンスにいたころもドライゼさんが作ってくれたブランコに乗ってた思い出。花を見るのも飽きたので本を開いて読書をする。どれくらい時間が経ったのか。本の上にさした影を見上げる。そこにいたのはアインスさんである。彼はしばらく私を見下ろした後、隣に座った。
「俺は」
そう言葉を紡いだ彼に首をかしげる。
「……俺はナマエ様を二回殺した」
「うん」
「それは、アンタの頼みでもあり、俺がアンタを他の奴に殺されるのが耐えられなかったからだ。どうせ殺されるなら、俺が一撃で痛みも感じずにそのまま死んで欲しかった」
「私もそうして欲しかったから頼んでた」
そう笑う。それをみた彼は言葉を詰まらせて、目を伏せた。自嘲するようなそんな表情を浮かべて。
「でも結局、アンタが求めたのは救いだろう」
「死ぬことも一種の救いだよ。貴方が私を殺した後、自分を壊してしまったように。私はその時、確かに貴方に殺されることに安心感を得てた。あの不安定な世界でそれは救いだったよ」
我ながら物騒な言葉である。そっと彼の顔に触れる。
「でも、今は平和だから、アインスさんは私を殺さなくていい。平和な世界で人を殺せばそれは罪だ。だから、今はしなくていいよ。でも、」
彼が目を開く。私が目を閉じる。
「わがままを言うなら一緒に生きてほしいかな」
真っ直ぐにそう告げてから誤魔化すように、なんて、と苦笑いする。彼は「今更だろ」と言って帽子を私にかぶせる。うわっぷ、と変な声を出せば彼が立ち上がったらしい。揺れたブランコに帽子をずらす。
「アンタが飽きるまで一緒にいてやる」
また帽子を奪った彼は屋敷の方へと歩き出す。私は笑ってブランコを大きく揺らした。

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夏休みの宿題には読書感想文やら自由研究がつきものであるが、グループ発表とかいうややこしいものがこの学校にはある。私は偶に来るお迎えと中身の問題で友達はいないと言っても過言ではない。そんな子供が私を含めて三人もいるのだから教師は頭を傷ませるだろう。
「とりあえず、苗字と榊、本屋敷はグループ組め。いいな」
そう念押しした先生に、適当に返事をしたら他二人も同じように頭を抱えた。


そうして入った夏休みである。私はワンピースに麦わら帽子を被り、筆記用具の入った鞄と紙袋を引っさげて車から降りた。送ってくれたアインスさんは「帰るときは連絡しろ」と告げて車を走らせていく。それを見送り、街路樹の先にある図書館に向かって進んだ。
いかにも古そうな図書館の扉を開けると広いエントランスが目に入る。どっちかというとこのまま読書したい。読書感想文もあるわけだし。さてどうやって本屋敷くんを探すかと思いつつ、館内地図をみる。外国文学もちゃんとあるから読みたい。
「もし、苗字さん」
そんな声がして振り返る。そこにいるのは美少女と名高い榊さんだ。涼しげな模様をした着物を着た榊さんは長い黒髪を結い上げていた。和風美人とはこのことだろう。そしてやはり榊さんは名家の子供っぽい。
「榊さん、こんにちは」
「お待たせしましたか?」
「いえ、私も今来たところです」
そう笑えば榊さんもニコニコ笑う。その時大きな扉が開いて、ひょっこりと本屋敷くんが顔をのぞかせた。
「あ、悪い。もう来てたのか。ちょっと待って」
本屋敷くんはそう言ってまた顔を引っ込めて叫ぶ。
「親父ー、センセー、クラスメイトきたから談話室使うなー」
「はーい」
そんな返答をきいた彼はこちらに来た。こっち、と手招いた彼に榊さんと顔を見合わせて進む。ついた先は談話室と書かれた部屋だ。中に入ると数人大人の人がいるのが見える。こちらを向いた彼らは「キイチの級友かい?」と彼に尋ねて、本屋敷くんが「ああ」と返事をした。空いている机を陣取った彼に、私は榊さんの椅子を引いて座らせてから自分も座る。着物って大変だからね。
「えーと、とりあえず、あんまり喋ったことないし、自己紹介していい?」
「そうですね、そうしましょう」
「俺は本屋敷キイチ。あーと、趣味は読書?」
「だからいつも本を読んでらっしゃるんですね」
「まぁな」
「私は榊イズモです。趣味は……剣道ですかね」
「以外です。茶道とか華道とかしてそう」
「一通りはできますよ。あと、苗字さんの夢を壊してしまうかもしれませんが、私は男です」
そうニコニコ笑いながら告げた彼に固まる。彼は続けて体が弱いので両親の言葉もあって女性の格好をしているのですよ、とつげる。
「美少女と美少年は区別がつきにくいのか……」
「何苗字さん心理に達したみたいな顔してんの」
「本屋敷くん知ってたの?」
「出席番号表、男女別だからな。俺は三度見ぐらいした」
「ふふふ」
笑った彼は見るからに美少女である。性別の概念を捨てよう。
「私は苗字ナマエです。趣味は射撃です。あとこれ、みんなで食べたらいいよってわたされました」
そう言いつつ紙袋を本屋敷くんにわたす。
「お菓子?」
「多分昨日マカロンとゼリー作ってたのでマカロンとゼリーだと思います」
「まかろん!ふらんす菓子ですね!ぜりぃ……!」
そう目を輝かせた榊さんは可愛らしい。本屋敷くんは今から食べようぜと紙袋から箱を取り出した。二箱あるそれの片方には大量のマカロン、もう片方にはゼリーが三つ入っている。
「ゼリーはともかく、この量のマカロンは三人じゃ無理だな。センセー達、フランス菓子いる?」
「えぇ、頂きます。お皿に移しましょうか」
「紅茶を淹れましょう」
そう立ち上がった彼らに箱をおとなしくわたす。榊さんが目をキラキラさせたままそれを見送った。私もそれを見送り筆記用具を鞄から取り出す。
「で、グループ発表内容どうします?」
「朝顔の観察日記でもつけるか?」
「それは私は自由研究でやります」
榊さんがそう言って佇まいを直した。
「昔の地図と今の地図見比べて違う箇所をあげるとかでいいのでは」
「おー、それなら楽だな。図書館に昔の地図あるし」
「むしろ私達で地図をつくってしまえばよいのでは?」
榊さんの言葉にそれでいいかぁ、と納得する。とりあえず手帳を取り出した。
「私、八月の頭から一週間ほど海外にいるので日本にいません」
「マジかよ。どこ行くんだ?」
「ドイツあたりの予定ですが、父親の仕事にひっついていくのでよくわかりません。とりあえずその前の二週間と後の二週間は大丈夫です」
「苗字さんってキッチリスケジュール立てるタイプか……子供なのに……」
そうぼやいた本屋敷くんに首をかしげる。
「子供も大人も関係ないのでは?後々苦しむよりはいいでしょ?」
私の発言に周りにいた何人かがピクリと反応した。榊さんが頷く。
「そうですねぇ、私の母も予定立てないタイプなのでいつも父に怒られてます。他の宿題もありますし、最初の二週間にできるだけ終わらせましょう」
「お昼は暑いですし、出来るだけ涼しい午前中に終わらせたいですね」
「そうですねぇ」
榊さんとの会話に本屋敷くんが俯いていく。近くにいた白い服を着た男性が「そうだな」と頷いた。
「昼になればなるほど熱中症になりやすい。体力を考えると午前中に終わらせた方がいい。遅寝遅起き出不精のキイチにはなおすいい機会だ」
「夜型タイプか。それはごめん。ただ、私朝方だから」
そうニッコリ笑っておく。「私もです」と榊さんもニッコリと笑った。

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とりあえず校区の地図は図書館から借ようてすれば、話をどこからか聞いたキイチくんの父親の手によって校区の白地図を与えられた。うちの校区は大体三つぐらいに分かれている。高級住宅が並ぶ博物館側、住宅街の中にある図書館側、昔ながらの雰囲気の神社側だ。
「俺もはや図書館に住んでるけど、榊さんは……神社側だったよな」
「むしろ神社です」
「マジかよ」
「あの大きな神社かー、榊さんについていけば中に入れるのかな?」
そう首を傾げれば榊さんは頷いた。マジか。今度案内してもらおう。
「苗字さんどこ住んでんの」
「博物館側」
むしろ博物館経営してるけどお口にチャックする。まぁ、博物館側のお店は高級ブティックが多いから入りづらい様には見えるけども路地とかはそうではない。小さな小物屋さんや花屋さんが並んでたりするし。
「マジか。じゃあ博物館側歩くときは苗字さんにへばりついとこ」
「なんで?」
「なんでってあそこいかにも金持ちばっかだし、小汚い俺が行っていい場所ではないと……」
「そんな場所じゃないよ。たしかに高級ブティックが並んでるけど表通りだけだしね。路地裏とか歩くと雑貨屋さんとかあって楽しいし。あと、本屋敷くんの服装は小汚いとはいはない」
そう言った私に彼は首をかしげる。彼の服装は小汚いというか、シャツにアイロンかけてないとかそんな感じである。どちらかというと、だらけているがための服だ。と、思っていればニコニコ笑った榊さんが口を開く。
「どちらかといえば、怠けてる服装ですね」
その言葉に近くにいた人たちが噴き出した。

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そこから諸々と話し合い、スケジュールを決めた。マカロンは好評だったし、ゼリーも好評である。榊さんが気に入ったのかレシピを知りたいと言っていたのでシャルルさんに頼むとする。
さてはて、話し合いが終わったので連絡を入れれば、アインスさんが迎えに来てくれるとのことなので涼しい図書館の中で待つ。図書カードを作って何冊か借りてしまった私は悪くない。階段に腰掛けて本を読んでいればスッとかげがさす。そちらを見上げればアインスさんがいた。もう迎えに来たのか、と思ったら時計は3時を指している。
『相変わらず本が好きだな』
ドイツ語で言われた言葉に『面白いですよ?』とドイツ語で返す。
『今度読み聞かせましょうか?』
『いい、映画でみるし自分で読む。帰るぞ』
『帰りにクレープ屋さんに寄りたいです。クレープ食べたい。ひまわり畑でもいいですよ』
『太るぞ。ひまわり畑はまだ早い。満開は来週だ』
そう私を手招いた彼は私の荷物をもってくれる。とりあえず近くにいた人に会釈をした。それに気づいたアインスさんは礼をする。
「お嬢様が世話になった」
「あぁ、いや、どうも」
まぁ、またお世話になるんですけど。

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「マカロンのレシピが知りたい?」
「はい、向こうで食べたら好評で知りたいって方が二人」
そう言ったらシャルルさんがレシピをくれたけれど、フランス語の件について。いや、私の周りは普通に読めるんだけど、向こうは読めるとは限らないだろう。シャルルさんは日本語を喋れるけど書けないしなぁ、と思いつつレシピをもらって図書館へ向かう。最近父親の仕事の関係で現代銃士も古銃もバタバタしている……のだが偶々出かけるドライゼさんがバイクに乗せてくれた。帰りはアインスさんに連絡するように言われたけど。2日目である。今日から散策だ。とりあえず開館前のようなので扉の前にいればこの前いた人が私を見た。
「君は……確か、キイチの友達だったかな?アァ、日本語が喋れないのか」
「いえ、喋れます」
そう断れば男性は目を瞬く。
「あぁすまない、この前、外国語を喋っていたものだから」
「あなたは?」
「俺はここの館長だ。まぁ、キイチの父親の上司だな。朝とはいえ暑いだろう?中に入ればいいさ」
そう手招いた彼に図書館の中に入る。
「センセーがたはみなさんまだお休み中ですか?」
「いや、起きている人もいると思うが」
「シガセンセーはいますか?頼まれていたレシピ持って来たんですけど」
「預かっておこうか?」
「ありがとうございます」
レシピの入った封筒を渡す。わからないところがあったら本人連れて来ますので、といえば彼は伝えておこう、と頷いた。

とりあえず学校を中心に今日は図書館までの地図を作るとする。小学生三人だと危ないだろうという配慮の元、正岡センセーという男性が引率してくれた。二時間ほどウロウロしつつ写真を撮ったりメモをしたり別の地図に書き込んだりし、残りの一時間で白地図に埋める作業をするために図書館へ行き談話室にいく。周りが何かを広げているのを見て、本屋敷くんが首を傾げた。
「何してんだ?」
「フランス語の翻訳」
「フランス語?」
「あぁ……やっぱそうなりますよね……」
そう言えば本屋敷くんと榊さんが私を見たので説明するために口を開く。
「マカロンのレシピなんですけど、書いた人が日本語喋れるけど日本語書けないこと忘れてて……朝渡されたレシピみてそういえばって思ったけど面倒くさくて持ってきた」
「うん?私がもらったのもフランス語?」
「うん」



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