2018/07/07
↓改変 浮き世のマリア
あいも変わらず真っ白な世界に彼女は変わらない姿でいた。何もかもが消えるはずだったそこで彼女は自分が見た最後の姿と同じ姿で横たわっていた。汚染のせいかもしれないし、それはこうなるかもしれないと任務の前からこっそりと準備をしていたことが生きたのかもしれない。どういう理由にせよ、彼女は変わらない姿でそこにいて、花に埋もれるようだった。そっと彼女の隣に寝転び彼女を見つめる。息をしていない。でも、それを打てば彼女は目を覚ます。それには何十もの年月がかかるのだろうけれども。それでも目を覚ますのだ。彼女として。ならば、俺も隣で眠るとする。そっと彼女にそれを打つ。そして自分にもそれを打ち込んだ。襲ってくる眠気に目を伏せる。彼女と二人きりのそこは楽園に間違いがなかった。
==
「借りるぞ」
雨合羽のフードを深く被ったその人物は近くにいた兵士の銃を奪う。そうして呆気なく世界帝を無力化した。呆気なく俺たちはその人物を見る。酷い雨の日だった。人物はこちらに近づいて俺に手を伸ばした。差し伸ばされた手を掴めば、その手は小さく自分よりも背が小さいことがわかる。俺に銃を返した人物は口を開く。
「ここは少し物騒だ、さっさと帰った方がいい」
そう背を向けた人物に、待ってくれ、と告げた俺に足を止めた。
「一緒に戦ってくれないだろうか」
何を馬鹿げたことを、と思う。初対面だ。相手が何者であるかもわからない。世界帝の仲間である可能性も確かにあった。
「俺たちは、レジスタンスだ。この世界を恐怖から、世界帝から解放したい!」
相手は何も話さない。ただ真っ直ぐに俺を見る。そして、少しの間、その人物は口を開く。
「ーーいくつかの条件が飲めるのであれば協力してもいい」
「条件?」
「一つ、私たちに部屋を与えること。一つ、私たちが何者であるかを詮索しないこと。一つ、今の情勢を詳しく教えること」
あまりにも変わった言葉だ。だが、それぐらいは飲めるだろう。あぁ、と頷いた俺にその人物は背を向ける。
「ついてこい」
歩き出したその人物の後を仲間と追う。たどり着いたのはなんとか雨陰が凌げる廃墟だった。そこでようやくフードを外したその人物に、はらりと髪がなびく。
「ジャック、もう少しマシなところにいけるようだ。なに、心配いらない」
そう誰かに喋りかけたその人物に、俺たちはそこへ行く。そこにいたのは横たわった男だった。怪我をしているわけではない。死んでいるのかとも思ったが、上下してきる胸を見ると生きているんだろう。その人物は彼を担ぎ上げてこちらを見る。そこでようやく、その人物が女性であることに気づいた。私たち、ということは恐らくは彼のことも指すのだろう。俺たちの視線に気づいたのか彼女は口を開く。
「私の名前はーー」
==
すうすうと整った呼吸が聞こえる。彼女の大切な彼は今日も生きているらしい。ご飯を食べなくても水を飲まなくても生きている彼はいったい生物学的にどうなっているのかと最初は思ったけれど、まぁ生きているからいいのだろうと最近は思うようになったけれど。
恭遠さんが彼女達を連れ帰ってから一ヶ月ほどだろうか。劣勢に立たされた恭遠さんや銃士達をさっそうと現れてあっという間にその場を収めてしまったらしい。そのまま帰ろうとした彼女を恭遠さん達が逃すことがなく、彼女の告げた条件を飲み仲間に加えたらしい。
一つ、彼女達に部屋を与えること。
ここは彼女達の部屋だ。私はたまに診察を任されるから入ることが許されるが、他はそういうわけではない。
一つ、今の情勢を詳しく教えること。
それはちんぷんかんぷんな言葉だった。でも確かに彼女はあまりわかっていないらしい。どこかに軟禁されていたのではないかとは誰かの推測だ。それほどまでに彼女は何がどうなのかを知らなかったのだ。
ーー一つ、彼女達を詮索しないこと。
それが一番重要だろう。何故なら私達は知ってはいけないからだ。彼女達が何者なのか、どこから来たのか、どうしてあんな場所にいたのか。何故あんな知識を。名前さえも知らない。彼女は私達の前で彼をスネークと呼び、自らは『ヘイト』と名乗った。偶に零されるジョンという名前は彼の名前かもしれないが、それを確かめてもいけない。
「スネーク、早く目を覚まさないとヘイトさんが泣いちゃうよ」
彼女はいつも何かに耐えている。それが何かは私は知らない。ただ、彼女は彼を失いたくないのだろう。そろそろ彼女が帰還する頃だと医療道具を引っ掴んで部屋を後にする。その瞬間、彼が小さく誰かを呼んだ気がした。
==
今日もジョンは目を覚まさない。眠ったままの彼にどうやったら目を覚ましてくれるのかと思う。相変わらずベッドを独占したままの彼のそばに座る。
どうしてこうなったかはわからない。目が覚めることなどない別れの先でもう一度始まった人生。それはあの夢か現実かわからない人生と同じものを辿った。だから、私はまた同じことをして、また私は生き絶えたのだ。真っ白な、世界で。少し違うのは、彼が私を殺そうとはせず一緒に帰ろうとしたことだろうか。連れて行こうとした彼、浮き上がった機体、私は体を投げ出した。目を見開いた彼は手を伸ばす。
「ごめんなさい、一緒にいけない。どうか幸せに生きて」
その声は聞こえただろうか。彼は私の名を叫びーー私はそこで生き絶えた、はずだったのだ。
そっと彼の隣に寝転がる。小さなスペースしかないが、これだけでよかった。規則正しい呼吸に、安堵する。今日も彼は生きているのだ。
==
ドライゼさんがヘイティさんに投げ飛ばされた。その瞬間、銃士達も周りも目を見開いた。主戦力となる銃士やレジスタンス達が帰ってきて彼女のことを聞き、まぁからかいに行ったというかそんな感じだろうか。ちなみにそれは前にも起こったことであり、私たちはまたかで終わるのだけども帰ってきた彼らはそうじゃない。伏せたドライゼさんの上に座った彼女は頬杖をついて口を開く。
「これでも女が戦場に立ってはいけないと?」
「ヘイティさん、手加減してあげてくださいよー」
そう言いながら彼らに近づく。彼女はひらりと手を振った。
「メディック、仕事は順調かな?」
「今から忙しくなる。ヘイティさんも手伝って」
「君には借りがあるから、手伝おう」
立ち上がった彼女はドライゼさんを見下ろす。
「戦場じゃなくてよかったな。いや、私が味方でよかった、というべきか」
それだけいった私の側にやってくる。箱を軽々と持った彼女は行こう、と告げた。
=
「よ、ヘイティ。何してるんだ?」
そうヘイティさんに声をかけたのはタバティエールだ。ヘイティさんはローレンツを支えていた(というよりは構え方を安定させるために密着していた)身体を離し、彼を見る。
「ローレンツの練習に口出ししていた」
「今からクレープを焼くんだが、食べるか?」
「……食べる」
頷いた彼女はいつもより幼く見える。そうしてローレンツと私を手招いて私達の分まで頼むのだから優しいというか。了承するタバティエールも優しいけれど。
最近甘いものが他同様好きだということが判明した彼女はよくこうやってタバティエールに甘いものをもらっている。その際いつもしている険しい顔というか感情を押し殺したような無表情な顔が緩むのだ。最初は周りはそれを見てギョッとしたが、そこを指摘すれば最後彼女の表情はまた無表情に変わるので誰も指摘しないようになった。
「ヘイティ、タバティエールのデザートを?」
そう彼女の隣に座ったのはドライゼさんである。
「あぁ」
彼女はそう言って少し笑んだ。そうか、と頷いたドライゼさんも頬を少し緩ませる。いい感じだよね、とは思うがこの二人にそんな感情はない。ヘイティさんはただデザートが楽しみなだけであるし、ドライゼさんはただヘイティさんがその後にする訓練というか自主トレーニングに参加したいだけである。筋肉馬鹿コンビとはシャスポーの言葉であるが、ヘイティさんの自主トレーニングに参加したレジスタンスと銃士曰くアレは地獄だと言っていたのをみるとかなりきついようだ。それを楽々とこなすヘイティさんとこなせるようになってきたドライゼさんの体力は底知れない。この前ヘイティさんとシャワー室でかち合った時、見事にシックスパックだったのをおもいだす。
「この後のトレーニング一緒にしてもいいだろうか」
「構わない」
運ばれてきたクレープに上品な仕草で彼女はクレープを口に運ぶ。育ちがいいな、この人とはいつも思うことだ。カラトリーも彼女ぐらいのマナーは身につけなよ、と私に白い目をする時がある。彼女は実際、育ちがいいんだろう。操る言語にしたって、彼女はこの基地の誰よりも操ってみせる。
「どうしたんだ、メディック」
「いや、いつもながら食べるときは上品だなぁって」
そう本音を出せば彼女はそうだなと頷いた。
「戦場以外ではそう食べたほうがいいと教わったからな。パーティーなんかではそれなりに上品に振舞うこともできるさ」
彼女がそう返答するのは珍しい。機嫌がいいのかも知れない。
「へぇ、意外だな。両親に教わったのか?」
「父親が女の子だからこうでありなさいと。まぁ、父親が死んだ後だからこんなことをしているんだろうけども」
スラリとなんとも告げた言葉。彼女は思っていないんだろう。
「じゃあ、ヘイティのご両親は」
「血の繋がった両親は私がもっと幼い頃に戦禍に巻き込まれて死んだ。そのあと拾ったのがその父親だった」
彼女は何かを思い出すように目を細めた。
「『hate』(この名前)は元々父親のものだった。だが、今はもうずっと私に与えられたままだろう」
その意味が分からず首を傾げる。彼女はそのまま何もないようにクレープを食べ勧めたのだけど。
==
ヘイティさんは子供に優しい。たまに自分が貰ったパンを子供に分けていることがある。最初は彼女を咎めていた世界帝の兵士も彼女が上品に振舞ったのを見て咎めることはない。そんな彼女はそこで理不尽に暴力を受けてもやり返さない。鬱憤がたまっているんだろう、とは微妙に急所をそらしている彼女の言葉ではあるが。
彼女が上品に振る舞える、パーティーでは、とはいっていたがスカートを履いていたら自然に上品に行動するらしい。今日も今日とてそのようで世界帝兵士の機嫌を損ねた子供を庇った彼女に私たちが庇おうとする、と、その前に誰かがやってきた。なんの騒ぎだ、という声はぞわりとするような低い声である。アインス様!とさけんだ兵士はきっちりと姿勢を正し、そう呼ばれた人物は彼女と子供を見た。様付け、ということは彼は恐らく世界帝のーー。
「寄ってたかって女子供を虐めるとは」
そう告げた彼に、彼女は少年を抱きしめたまま口を開く。
「いえ、私たちが悪いのです。この子が巡回の邪魔を」
普段聞かないような声色である。彼は彼女に手を貸すと、彼女はその手に捕まることなく首を振った。
「気にしないでください、これくらいは」
その返答に気に入らなかったのか、なんなのか、彼は彼女を引っ張り立たせ勢い余った彼女は彼に支えられる形になる。彼女は自然に慌てたように距離をとった。
「申し訳ございません」
「いや、部下が悪いな。だが、次はないと思え。坊主もな」
そう忠告して彼は兵士をつれて歩き出す。彼女はそれを見送ると少年を優しく咎めてこちらにやってきた。
「さっきの男、世界帝でも上部の人間のようだな」
「ヘイティさん、傷大丈夫なの?」
「これくらいは全く」
肩を竦めて彼女は服を払う。私の荷物を奪うと彼女はもう一度男が去った方向を見た。
「ヘイティさん?」
「いや、さっきの男はスナイパーかと思っただけだ」
「何をどうやってそうなったの」
==
ヘイティさんの英語はどちらかというとアメリカ訛りである、とはベスの言葉だ。エカチェリーナ曰くロシア語も話せるし、タバティエール曰くフランス語もドライゼさん曰くドイツ語も話せる彼女は日本語だけが少し拙いらしい。それでも話せているのだけど。さて、なぜこういう話をしているかといえば彼女は何処出身なのか、という話になったからだ。髪の色、肌の色なんかはイエヤス達に似た色であるけど、瞳の色はヘーゼルと呼ばれるそれである。ならば言葉から、と思った末に独立戦争組が「英語はアメリカ側」と告げたのだ。当の本人は涼しい顔してコーヒーを飲んでいる。答えを教えてくれる気などさらさらないのだろうし、私達も彼女に尋ねる気はなかった。となりにいたカールが彼女に尋ねる。
「ヘイティは平和になったら何をしたいんだ?」
「平和になったら」
そう繰り返した彼女はコーヒーを見つめた。
「……穏やかに暮らしたい。人里を離れててもいい。彼と二人で生きて生きたい」
彼女はそう言って緩やかに笑って目を伏せた。
ーー恐らくそれは彼女の本心なんだろう。その緩やかな優しい表情を見て私達はなんとも言えない。ただ目を見開いて、彼女もこんな表情をするとはと驚くしかない。
まぁ、所詮ただの願望だから無理だろうけどな。そうバッサリと自分の言葉を切り捨てた彼女はコーヒーにまた口をつけた。カールが口を開く。
「君のような女性を待たせているとは、あの男も罪な男だ」
「最初に彼を困らせたのは私だからね、私は待っているさ。彼は充分に傷ついた。今度は私の番だというだけだよ」
そう告げた彼女はそっとコーヒーの入ったコップを置いた。
==
この基地にはたまにレジスタンスのお偉い方というかそういう人がくる。私も銃士達も、恭遠さんもその人が好きではないし、この基地のほとんどがそうだ。その人物がヘイティさんにどう突っかかるか、なんて目に見えている。上から下まで舐めるように彼女を見た男に、彼女は何も言わない。
「戦闘に優れていると聞いたが……何処かの軍隊の出身か?」
それは私達が誰一人言わなかった言葉だ。彼女は何も返さない。男はニヤニヤと笑う。
「いや、今は軍隊は一つしかないな。お前、世界帝から逃亡してきたのか、腰抜けが。いや、スパイか?勝ちを取ることで俺たちの信頼を得たつもりか」
「違いますよ」
彼女はやっとそう返す。男はまた口を開く。
「なら、どこの所属だった?言ってみろ」
「……」
「いえないんだろ?なら、お前はーー」
「ラシーア」
彼女は淡々とそう返す。男は彼女を見た。
「ラシーアだと?ふん、聞いたことがない組織だな。民兵か警備会社か?」
「そうか、名の知れた物だと思っていたんだがな」
彼女はそう返すともう一人、視察に来ていた人物を見つけて目を見開く。初老の男性は偶に基地にやってくる人で、目の前にいる人とは違い私や銃士達を気にかけるいい人だ。
「ソロー?」
その言葉に反応したのかその人物は彼女を見て目を見開いた。か細く呼んだのはヘイティ?という言葉だ。その言葉に彼女は首をかしげる。早足で歩み寄って来た彼は遂には走り彼女の手を取った。
「ヘイティ、俺だ、あぁ、そうか、君は随分と昔のままで止まっているんだった、わからなくても仕方がない」
彼はそう言って目を伏せる。彼女はそっと彼の顔を触れた。
「オセロット……?」
その一言に歓喜したようだった。名を呼ばれた彼はバッと顔を上げて彼女の手を握る。
「そうだ、あぁ、また会えた。これほどまでに嬉しいことはない。ずっと会いに行きたかった。だが、俺は君が眠る場所を知らなかった」
優しさを滲ませて彼は笑う。彼女は息を飲んだ。困惑を全て隠すように目を伏せて口を開く。
「……お前が探していたのはスネークだろう?」
「スネーク、?まさか、ジョンがいるのか?」
「オセロット、少し話がしたい。時間があるなら、私の部屋に来て欲しい。部屋は聞けばわかるから」
「あぁ、わかった。向かおう」
そっと彼の手を離した彼女は、男をみる。失礼しても?と尋ねた彼女に、男ではなく彼が頷いたのだけど。
「ふん、早速男に媚びいるか。ラシーアだかなんだか知らないが尻の軽い女だ」
「ラシーア?」
そう聞き返した彼に男は鼻を鳴らした。聞いたことがないだろう?と告げた男に彼は何も返さなかった。
==
「君がヘイティを見つけたのか」
私と恭遠さん、そして銃士が二、三人。先程までそこにはあの嫌な男がいたが、今はあの初老の男性しかいない。北米の支部からやって来たらしい彼はやはりいい人である。
「いや……恥ずかしながら我々が危機に陥ったところを彼女が助けてくれました。そしてそのまま仲間に」
「それはいい拾いものをしたな。ヘイティを拾ったのが世界帝でなくてよかった」
「貴方はヘイティのことを知っているんですか?」
「少しだけだ。たったの二週間程。同じ組織にいた」
「ラシーアとかいう組織に、ですか?」
「いや、彼女は……ああそうか一応最後の所属はそこになるんだな。いや私の最後の所属もそこにはなるが」
そう告げた彼は私達を見る。
「彼女に会いに行きたいのだが」
==
ノックされた音に、ジャックの髪をすくのをやめて返事をする。聞こえて来た声はオセロットのものだ。扉をあければそこにいたオセロットに「歳をとったな」と笑う。中に招き入れてベッドの淵に腰掛けた。彼は動きを止める。
「ジャック、オセロットが来た」
そう軽く揺すって見てもジャックが動くことはない。オセロットは目を見開いて「ビッグボス?」と彼を呼んだ。
「私が目を覚ましたら隣にいた。でも、目を覚ましてくれない」
そう彼の手を握る。最近は少しずつ反応を返してくれるようになったので、もうすぐで目覚めはするだろうが。ゆっくりとジャックに近づいた彼は恐る恐る彼を覗き込む。しあわせそうな顔だ、とぼやいた彼は私の隣に座った。
「私が生きているのも歳を取らないのもジャックが何かしたからか?」
「俺にはわからない。ただ、ビッグボスはヘイティに会いに行くと言って行方を眩ました。俺はそこから会っていない」
その言葉にそうか、と告げて彼を見る。
「オセロット、何があったのか教えてくれないだろうか」
「それは俺たちの間にということか、世界にということか?」
「両方だ。私がーー私とジャックどういう存在になっているのかも含めて」
「世界的には米ソ冷戦は終止符を打った。しかし、新興国が次々と核を持ち始め大国は警戒し始めた。しかし、そんなものも虚しくとある新興国が核を放ちーー」
「相互確証破壊が起こった?」
「ああ。そして核による破壊に疲れた人々は政府ではなく世界帝という武装組織に全ての武器を差し出してしまいそれ故に恐怖政治が始まったというわけだ」
「レジスタンスが古銃ばかり使うのは美術品だからとは聞いていたが」
「敵から拝借するのは一般市民から成り上がったレジスタンスには難しい。銃士に関しては非科学的だが使えるものは使っておけ、という感じか。ここの支部にしかいないが」
「彼らとはそこそこ話しているが人間と変わらない。感性が外見年齢に引っ張られてるのが多い印象だな。古い銃が大人びてるとは限らない……しかしきになるな。相互確証破壊が起きても二国間、大きくて三国間では?」
「それが不可解だと俺も思う。何か裏があるだろうから今他が探っているところだ」
スラリとそう告げたオセロットに、どこまでか本当かはわからないな、とは思う。まぁたがそれを信じるしかないだろう。
「米ソ冷戦が終結した年、ザ・ボスが一つの声明を出した。それまで貴女は西側では売国奴だと東側ではイかれた人物だと言われていたが、そこで貴女の地位は逆転した。貴女はジョンと共に対の英雄と」
「私は英雄ではないよ。そこまでもてはやされることはしていない」
「どうしてヘイティはあの任務に?」
「私かボスか、その二択だった」
「ボスより上だと証明するため?」
「いや……ジョンにボスを殺させないため。何か不具合があっても最後にボスがいればーーボスとジョンがいればアメリカの最大の損失は免れる。だから任務に就いた」
そっとジョンを見る。
「最後、ジョンは私を連れ出そうとしたんだ。でも、私が拒んだ。私は生きていてはいけない。全ての名声を背負うことが彼の任務の意味だとすれば、全ての汚名を背負うことが私の任務の意味だったから」
「……」
「まぁ、どういうわけかそのままで生きているんだがな。何も変わらず、ただいつもの朝のように目を覚ましてしまった」
「貴女の目覚めをみんな待っていた。ザ・ボスも、ジョンも、俺たちも」
「私は待っている、ジョンが目覚めるのを」
「ーーザ・ボスがCIAのトップに登り、俺たちは正式にFOXとなった。MADの騒ぎや世界帝の騒ぎで離れたこともあったが、今となってはみな各レジスタンスにいる。と言っても、君が知る人物は俺やあの女、ザボスぐらいか」
「ゼロ少佐とクラーク博士は知ってるぞ」
「……なんだって?」
「ゼロ少佐はジャックを通して数度、クラーク博士もそうだった気がする」
『……そのタイミングで』
小さくぼやかれた言葉はロシア語だ。首を傾げた私に彼はイヤと目を伏せた。
「北米支部に来ればザ・ボスに会える」
「!本当にか!」
「あぁ、俺も彼女に報告しておこう。ヘイティ、無理はするな。君を失っても損害は大きい」
「丸くなったな、オセロット。そして相変わらずどこが嘘かわからない」
くつくつと笑ってくしゃりと頭を撫でる。相変わらずの猫っ毛だな、と思っていれば、そんな歳じゃないんだが、と困った顔で言われた。
==
Comment(0)
次の日 top 前の日