2018/09/21

忍者作家主イフ


ぷつん、と切れたような音がして足を止める。気のせいなんだと首を振り、ただ前を見る。誰かが私を呼んだ気がする。分断されてしまった手前、彼らの元へ行くことができないのだ。耳障りのよい、その声は。

ーーそこに、その人はいない。ただ、私のそばにいてくれた蛍火はない。そばにあったはずの光を探す。ああ、でも、理解しているはずなのだ、と目を伏せた。
あぁ、彼は死んだのだと。
「晋助くん、よくぞ無事で」
そう告げた私に彼は私を見た。何か口を開こうとした彼に、口は勝手に動く。
「言わないで」
ポロポロと涙が流れる。彼は私をみて、目を見開いた。
「ナマエ、」
「お願いだから、何も言わないで。今はまだ足を止めるわけにはいかない。そうでしょう」
そう言って糸を飛ばし、雑魚兵を巻き上げる。あぁ、そうだな、と告げた彼は刀を持った。

==

わからないのだ。彼が私に何を伝えようとしたのか。
わからないのだ。彼が私の何だったのか。
わからないのだ。この、空虚を埋める方法が。
そう、何もかもわからないのである。

「あぁ、こらこら女の子なんだから怪我は放置しちゃダメだよ」
そう言って、また子ちゃんの怪我の手当てをする。痛いのはわかるけれど、ほおっておいたほうが酷くなるのである。全てを終わらせて、涙目の彼女によく頑張りました、だなんて頭を撫でる。子供扱いするなっス!と叫んだ彼女に、苦笑いをした。年下で子供なんだから、仕方がない。しかし、それを言ったところで彼女はまた起こるのだろう。
「子供扱いしてないよ」
「丸わかりな嘘つかないでほしいッス」
「妹扱いなんだけどなぁ」
そう言って頭を撫でる。チラリとこちらを見た彼女に微笑めば、彼女は顔をそらす。
「晋助様や万斉先輩の手当ては」
「あの人達は夜な夜な綺麗なお姉さん達が手当てするからいいんだよ」
吹き出した彼らに、だって事実でしょ、といえば晋助くんが私をジロッと睨んだ。また子ちゃんは首をかしげてるのを見れば意味も何もわかっていないらしい。
「なに、昔っから晋助くんはそうでしょうが。私知ってるんだよー?結構。そういうふりをしたら綺麗な女の人が寄ってきて手当てしてくれるって」
「テメェ誰にそんなこと……って、テメェに構う奴は少ねぇか」
「友達すくないのはお互いさっ痛い痛い」
殴った彼にそう言えば、また子ちゃんが私を見上げた。話を逸らすために、口を開く。
「また子ちゃんが晋助くんの手当てする?教えてあげようか。丁度実験台もいることだし」
「もしかしなくとも、その実験台とは拙者のことか」
「武市さんは怪我してませんし」
「晋助様!私、頑張るっす!」
そう言ったまた子ちゃんに、二人は顔を見合わせる。仕方ないでござる、とつげた彼は晋助くんを連れてよってきた。

そこからいつからか彼の手当てをするようになり、いつからか彼がそばにいるようになったのだと思う。穏やかな時間だった。やってることは物騒な癖に、その時だけは穏やかな。
「晋助くんは、月だね」
ただ何と無くそう告げる。前も似蔵さんとこういう会話をした。彼は晋助くんを電柱灯、私たちを蛾と例えたけれど。隣で三味線を鳴らす彼は「面白い」とつげた。
「ならば、拙者達はなんと?」
「なんだろう。星かな、蛍かな」
「拙者達が星や蛍か。似合わぬ組み合わせでござるな。ならば、ナマエもまた月か。それとも夜空に漂う雲か」
「私は月でも雲でもないよ。なんだろう。井戸の中の水」
「井戸の水」
「月や星、太陽や青空を写していたいのにそれがままならない深い深い井戸の水。もしくはそこにいる幽霊」
そう指先を見つめる。何人の人を殺したかわからない。私は真っ暗な世界に相変わらずいて、血に塗れた世界で澄んだ空を見上げるのだ。届きもしない世界に焦がれて。
「……晋助が月、拙者が蛍だとすれば、ナマエは水面の月というところでござろう」
三味線の音を止めて、彼はただそう告げた。どうして?と尋ねれば、彼は「ただそう思っただけでござる」とまた三味線を鳴らす。その先を教えてくれることは、なかったのだけど。

ぱちり、と目を覚ます。晋助くんが小さく「起きたか」と呟いた。その言葉に、ああ夢なのかと目を伏せる。懐かしい夢を見てた、と言えば彼はこちらを見た。
「晋助くんが月、また子ちゃんたちが蛍、そんなことを喋ってる懐かしい夢」
そう言いつつ、指を見る。彼の服は大きい。彼の膝丈であったコートは私のすねあたりまであるし、袖も長い。
「俺も似た話を聞いたな」
彼はそう言ってゆらゆらと揺れる煙を眺めた。
「俺が月、また子達が蛍だとすれば、お前は水面の月だとよ。掬っても掬っても、手を伸ばしても掴めやしねぇってな」
その言葉に私は目を見開く。
「アイツは、たしかにお前を欲したさ」
振り向かなかったのは、どちらだろうか。

==NL大好きトリッパちゃんがいて救済したらしい

「いいかぁ、河上万斉。私はなぁ、私はなぁ、高ナマだけは地雷なんだよ」
そうふざけた事を告げた女にそちらを見る。女は刀を振るって敵を見た。
「高杉にはまた子ちゃんしか認めねぇ……って話それた。ナマエちゃんを巡る二大カップリング。坂ナマと万ナマ。太陽に焦がれて太陽に救い出されるナマエちゃんは確かに恋する乙女ゼンッカイで可愛い」
「……そうでござるか。なら、ここは拙者に任せていけばいい。ナマエはその太陽といるでござるよ」
そう忠告すれば、女は知ってる、と答えた。なぜ知っているのかは知らない。だが、この女は多々こういう事を言ってのける。未来が見えてんのかもな、とは誰の言葉であったか。
「あと、話を最後まで聞いてほしい。私は水面の月と蛍の組み合わせが大好きでね」
その言葉に動きを止める。晋助が言うのは考えにくい。しかし、ナマエが言うとも考えにくい。ならば、やはりこの女は知っているのだろう。
「結構、しかし、拙者は水面の月を掴めんよ。ただの蛍にできるのは側にいるだけでござる」
「掴めるよ、私、知ってるもん」
ある程度の敵を倒した時である。女はやけにしっかりと、真面目な口調で告げた。
「私が知ってる話なら、貴方はここで死に、ナマエちゃんは生き残る。坂本辰馬はナマエちゃんを誘うけれど、彼女がそれについていくことはない。どんな人が言いよったって、彼女は一人で生きていくの、また蛍が舞い降りてくるのをいつまでも待って」
そう真っ直ぐに告げるものだから。あぁ、そうか、と目を伏せた。彼女は。彼女も。
「主のせいでリズムが狂った」
刀を握り、そう告げる。
「ここで死ぬのは辞めでござる」

==

「何を泣いている?ナマエ」
坂本辰馬に涙を拭われかけた彼女にそう声を掛ける。なんと言うざまというか。女に支えられていなければ、すぐに駆け寄ったというものの。彼女はこちらを見て目を見開き、小さくこちらの名を呼んだ。いや、驚いたのは彼女だけではなく、晋助やまた子、武市もまた驚いたようであったのだが。

oo
ナマエちゃんのカップリングの二大巨頭は坂ナマと万ナマだ。異論は認める。
坂ナマは恋である。キラキラした10代向け恋愛映画のノリの作品傾向がある。偶にドシリアスなものもあるが、大抵が10代向け恋愛映画のノリだ。
それに比べて万ナマは愛である。熟練した愛だ。側にいるだけでお互いが満たされるような。故にシリアスな話や穏やかなな話が多い。
双方共に18禁の話も勿論あるし、キャラ崩壊してるやつもある。しかし、公式が偶にとんでもないものを投下するのだ。例えば、ナマエちゃん主体の忍者と太陽編(別名:坂ナマクラスタ量産編)とか、水面月と蛍事件(別名:万ナマクラスタ尊死事件)とかーー。
「ナマエちゃん家にどうせ服置いてるんでしょ」
私の指摘に河上万斉が動きを止める。図星か。図星だろ。私は知ってるんだぞ。なんだって、あの最終章2年後の話でナマエちゃんが河上万斉の服着てるのはお家にあったからだっていってたもん。いいか、そこから推測できるのはだ。二人は公式的にお泊まりする仲なんだよ。手を繋ぐどころかもっと深い繋がりがあるんだよ。言葉にしなかっただけで。通称、公式文◯砲事件である。
「……たしかに置いてはあるが」
「?なんで万斉さんの服がナマエさんの隠れ家に?」
「新八、んなもん決まってんだろ。女の家に男の服がある理由なんてよ」
「いえ、誰かさん達がぼろぼろになって逃げ込んで来るのでストックがあるんですよ。また子ちゃんや晋助さん、武市さんの服もあります」
ナマエちゃんの訂正に、ぐ、そういうことか、と足踏みをする。クラスタの先走りだったか、と思っていたら高杉さんが「そういうことにしといてやらぁ」と呟いた。えっ。
「えっ、なに、お宅らやっぱそういう関係だったの?やることやっちゃってんの?辰馬さん辰馬さんとか言ってる癖に、側にいる男とやっちゃってんの」
銀ちゃんの言葉にナマエちゃんは笑顔を浮かべたまま動きを止めた。万斉さんはチラリとナマエちゃんみて銀ちゃんをみた。銀ちゃんはナマエちゃんに目星を振ったらしく、鼻をほじりながら言う。
「で、なに?結局辰馬よりそっちなわけ?へぇ?へぇぇ?辰馬が知ったらどうなるかなぁ?」
「辰馬、くん、は、」
そう斜め下を見たナマエちゃんは恋する女の子である。スーパー可愛い。そのスーパー可愛いナマエちゃんを万斉さんは見下ろす。あれ、これ結構レアショットでは。ナマエちゃんが坂本さん馬鹿(語弊)になってる時、万斉さんいないことが多いから。そして助けない万斉さんである。
「そういうひとじゃ、ないっていうか……」
そう顔を片手で覆いながらナマエちゃんは告げる。なんだろう、近所の、お兄さん……?とポツリと告げたナマエちゃんに、私はつい解釈班ーー!!!と叫んだ。
「全万ナマ派の解釈班ーー!!君たちの解釈は合っていたーー!!」
「おい、ゆかり?」
「坂本さん初恋のお兄さんポジ説、万斉さん幼馴染的ポジ説あってたー!!!ざまぁみろ他流派!!長年で育んだ愛は刹那の恋より強し!!!」
「あー、変なスイッチ入っちゃったよ、これ。どうしてくれんだ」
「拙者達は知らん。連れてきたのは主であろう。あと、白夜叉、いくつか訂正をさせてもらうでござる」
万斉さんの声にハッと我にかえる。なに、訂正?
「坂本辰馬は拙者達の関係を知っている」
それだけ言えば十分だという風に、万斉さんはナマエちゃんの肩を叩いて歩き出す。どうやら文学的な方に思考が回ったナマエちゃんはそれにハッとしたように歩き出し、路地に二人して入った。
「なにこの敗北感」
「からかおうとした銀ちゃんが悪い」

==

この人はこういう表情をするのだな、と思ったことが何度もある。人斬りという癖に、こう言った、穏やかで、慈しむような。私はそんな人間じゃないのだと言っても、彼は動じない。私はこういう人間なのだと見せつけても、彼はなにも言わない。ただ、何も言わずにそばにいて、偶に思いたったかのように、なにかの痺れを切らすように、こういうことをする。スルリと伸びた手を拒まずにいれば、彼は顔を近づけた。それに目を伏せる。ああ、ただ欲が勝っただけか、と思えば彼は触れずに止まった。離れていく手に、ゆっくりと目を開く。彼は目を逸らして三味線を持って立ち上がると何も言わずに席を外す。その背中を見送って、変な人、と呟いた。抱きたいなら抱けばいい。抱かれ方はとうの昔、忍として生きる術を学んだ時に学んでいる。愛だの恋だのと謳うくせにはそこには欲しかないのだとも学んでいる。そういえば、坂本辰馬もそうであった。彼は私に触れはするが、決して抱くことはしなかった。何故、と問いかけたこともある。ナマエにそういうことは求めていない、と言われてしまったけども。そして、加えるようにナマエは愛だの恋だのを知るべきだとも。

しかし、まぁ、何の後だったか。その男が獣のような目をしてやってきたことがあった。押し倒され、ことに及ぶ。限界だと言うように。そこで彼は否定を浴びせる。私にではない自分に否定を浴びせた。違う、違う、自分が望んだのはこう言うことではないと。どうしてそう言うのか理解はできなかった。ただ、何故か涙を流す彼に、その涙が暖かく感じてそれを手でなぞった。驚いたような顔をした彼に、口を開く。
「なんで泣いてるの、私は慣れてるよ」
そう、慣れている。
「忍になる時、教えられたから、慣れてるよ」
私の言葉に、彼は違う、と呟いた。


「……どうして拙者が主を抱くか、まるでわかっていない」
着物を着て、縁側に座っていれば背後からそう声がかかる。
「薬を盛られた」
「あっている、が、そう言う意味ではないでござる」確かにそうだ。欲を満たすならば私の元に帰る前にそう言う場所に行けばいい。この男の見た目はいい。当然、引っかかる女も多い。
「じゃあ、どうして?」
本心からの疑問だ。あの行為に欲以外のものがあるのだろうか。彼は何も言わない。ため息を残して、彼もまた服を羽織って、三味線をもって縁側にやってくる。
「……わからぬなら結構」
そう彼は三味線を弾く。言葉の答えは教えてくれないまま。

ああ、なるほど、この男が愛を持って私を抱くのだと理解できたのは、それからどれくらいの月日が流れてからだろう。一度線を越えて仕舞えば、二回、三回とその線を越えることに抵抗はなくなる。彼の目は相変わらずだ。穏やかで、慈しみがあって、まるで人斬りの目ではない。偶に獣のような激しい情を垣間見せる時があるが、その時も目のどこかそう言う感情を覗かせている。愛しむような接吻はしらない。彼によっつ、それは覚えた。愛しむような指先は知らない。彼によって、それも覚えた。その快感もまた。
「あぁ、そういうことかぁ」
そう彼の隣で言葉をこぼした。恋だの、愛だの、昼間にあの子が騒いでいたが。彼はこちらを見下ろした不思議そうに。それに、秘密、といえば拗ねたような顔に変わった。それが面白くて笑う。
「嘘だよ、嘘」
あの子が言うに、彼は本当ならばあの戦いで命を落としていたらしい。事実、彼女の言葉がなければ自分は死んだだろうと彼も告げた。恐らく、そうなればそうなったで、私は喪失を知るのだ。埋まることのない穴、ただ、そこにあったのが愛だの幸せだの、過去を纏うのだ。しかしながら、彼が生きているので喪失が起こることはない。そっと彼の髪を撫でる。
「これが幸せというんだな、って」
そう微笑めば、彼は驚いたように目を見開き、同じような笑みを浮かべた。これを愛と呼ぶのだろう。

==転生3-z(記憶なしとは別世界線)

その記憶が戻ったのがいつだったかは知らない。ただ、戻った記憶はすんなりと受け入れることができたことだけは理解している。そして、そこにある喪失も。私が存在するように、彼もまた存在するのだろう。そう思いながら執筆する。締め切りが近い。高校生と作家の二足の草鞋は辛いものが流石にあった為、私は高校生であることをやめた。
ふと、気まぐれにだ。打ち合わせ前にその近くの本屋に立ち寄った時である。私の新刊が並ぶそこに足を止めている高校生達がいた。その後ろ姿に若干の見覚えがあって声をかけようか迷う。彼らは覚えているのだろうか。そして私が生きたい場所もそちらだった。意を決してそちらを向かおうとすれば、携帯電話がなる。出てみれば担当からで、私はそそくさと打ち合わせ場所に向かった。

「先生宛てのファンレターの中に、本当にラブレターみたいなものがあって面白いんですよ」
そうつげたのは新しい担当さんである。ファンレター?と首をかしげれば、彼は「あれ、読んでないんですか?」と不思議そうに尋ねてくる。
「前の担当さん、まったくそういうのくれなかったので」
「あぁ、あの人、執筆の邪魔になるっていいそうですもんね。でも、取ってあるのは取ってあるので」
「へぇ、読んでみたいです」
「過去の分はありませんけど、今回の分はありますよ」
そう紙袋を取り出した彼に動きを止める。これでも減らした方なんですよ、本当は段ボールに入るくらいです、と笑った彼に、読み応えがありそうだなぁ、と苦笑いして受け取った。

家に帰って読んでみれば色んな年齢の人が読んでいるのがわかる。私の年にちかい人もいれば、はなれた人もいて、その価値観は様々だ。返信を期待して住所や名前を書く人、書かない人、ペンネーム、その沢山に笑ってしまう。ふと、紙袋の中を見た中に一通だけ見知った文字のものを見つけた。中を開いてみれば、達筆である。拝啓から始まるその文字を目で追い、噛み砕く。それは日記のような、長年文通を交わしている相手のような手紙だった。恐らくこれが新しい担当のいう昔から定期的に手紙を送る人の一人なんだろう。そして最後に書かれた名前に私は息を飲んだ。
「河上万斉……?」
ーーその人の名は、記憶の中にいる彼の名前だ。
彼がいたという安心感、彼が私を見つけてくれた喜び、そんなものをひっくるめて、舞い上がりそうになる。その反面、申し訳なかった。私が彼を見つけたのは随分と遅かったからだ。返信をしようにも、彼の封筒には宛先が書かれていない。どうしたものか、と思いながら、小さくため息をついた。

==

最近になって、担当さんがやっと皆さんの声を読ませてくれるようになりました。どの感想もとても面白く、いえ、文字の綴り方さえもその人を表しているようでとても面白いのです。皆様が想像する私も面白いこと。私はどんな人となりに思われているのかも十人十色です。私を年をとったお婆さんだと想像するする人もいれば、私を三十代のOL、はたまた女言葉で綴っている紀貫之のような人物だという人もいます。一番面白かったのは、私を水面に映る月と称した人でしょうか。それほど捉えどころがないといいたいのかもしれません。メディアに顔出しもしませんからね。さて、では私にとっての皆さんとは。さんさんと輝く太陽かもしれません。夜を照らす月かもしれません。それとも雲か、風か、星かーー。水面の月である私はただ見上げるだけには違いありませんね。映すことはあれど、触れることなどないのだから。でも、蛍であれば、池のそばにやってくるのでしょう。私は今日も蛍が寄ってこないかと焦がれ、星空や青空を見上げるばかりです。

そう物語の後書きに書いてみる。これを読んだ誰かが理解してくれますようにと願いながら、筆を置く。いや、実際に筆を置いたわけではないけれども。
背伸びをして、腕を回して、ぐるりと本棚を眺める。自分が作ったものも溢れつつある。言の葉を綴る、というよりは言の葉に没頭するのである。それは過去に縋ることや空想に縋ることと同意語だろうか。
なんとなしに余った原稿用紙に脈絡もない言葉を綴り、紙飛行機にしてみる。マンションの高層階から飛ばしてみれば、風に乗った紙飛行機はどこまでも飛んで行った。

==

その紙飛行機が目の前に飛んできたのは偶然だ。いや、正しくは目の前に飛んできた紙飛行機が肩に当たっていとも簡単に落ちた。恐らくそれがなければもう少し飛距離は伸びていただろう。小学生ぐらいの子供が幻滅したように、避けたらいいのにと告げる。それもそうだ。紙飛行機を拾い上げ、子供達のものかと問えば、違うという。随分と高いところから風に乗ってきたから、ずっと追いかけてきたらしい。酔狂なことをする人間もいるものだな、と思っていると、小学生は要らないからと言ってまた何処かにかけていった。その後ろ姿にため息をついた。
「万斉、何してんだ」
そう声をかけてきたのは親友とも同士とも言える人物だった。同じものを共有する、閉鎖的なコミュニティ。その中でも、同じ戦場をかけた人物でもある。今はお互い大人しく高校生なんぞをやってのけているが。いや、大人しくはない。いわゆる不良というものだ。
「紙飛行機が飛んできた」
「あぁ?何処から」
「さぁ?追いかけてきた子供によれば、随分と遠く高い場所から飛んできたらしいでござるが」
「風に乗ったか。酔狂なことをする奴もいるもんだ」
そう言ったその人物ーー高杉晋助は紙飛行機を掠めとると太陽の光に翳す。
「なんか書いてあるな。よく見りゃあ原稿用紙じゃねぇか」
晋助はそう言って、紙飛行機を崩した。いとも簡単にただの紙に戻ったそれは簡素な作りだとすぐに理解できる。そしてその紙をみてーー晋助は動きを止めた。何か驚くようなことが書かれていたのだろうか。しかし、その理由は一瞬で理解することになる。上から覗きこむように紙を見れば、その文字は何処か懐かしく、知っている文字だ。
ーー春風そよふく、空を見れば、夕月かかりて、にほひ淡し。
その一節はまごうことなくあの時彼女の口からこぼれ落ちた歌である。堪らなくなってそちらに足を運ぶ。子供を引き止めればよかった。後悔先に立たずとはこのことだろう。

==

「夏目先生って、お通ちゃんのファンなんですか?」
そう尋ねた彼によく聞くけど、そういうことではないよ、といえば彼は何か笑顔でそうですか!と頷いて去った。

そして今である。担当が持って来たのはコラボの仕事である。さまざまな作家がさまざまなアーティストとコラボするのだとか。前の担当ならばそう言った仕事は絶対に持ってこなかっただろう。新聞のコラム欄しかり、こういう仕事しかり。
「曲は向こうのプロデューサーが作ってくれるので、夏目先生は歌詞を書くのが仕事です。お通ちゃんのメイン層は10代〜20代の子なんで、若い子向けの歌詞をお願いしますよ!古い仮名遣いとかダメです!!」
そう念押しをした彼にハイハイと返事して、固まる。私は10代のはずなんですけど、といえば、先生は文豪の生まれ変わりだから十代ではないです、と言われてしまった。ある意味的を得ている。
「……そのプロデューサーさんに会いたいって言ったらどうします?」
そう尋ねれば、担当さんは目を瞬いて苦笑いした。
「それができないんですよ。お通ちゃんもプロデューサーとは会ったことがないってことになってるし、事務所もダメだっていうんだよね。本当は三人で対談とかもして欲しかったんだけど」
そう告げた担当に、そうですか、とため息をつく。会うにはそれが一番早いとは思ったのだけれど。

=

「タイアップ、でござるか?」
そう聞けば、事務所の社長はええと頷いた。
「複数のアーティストと複数の作家がね。コラボっていうのかしら。お通もそのアーティストに選ばれたってわけ」
「ふぅん、それで拙者は曲をつくると」
よくある話だ。アイドルを謳う以上、ドラマのタイアップであったり誰それとコラボであったりはある。曲を作れなどとはよくある話ではないものの、時々はある話である。乗らなければ書かないというのは恐らくはこの社長は理解しているはずだ。
「で、誰が歌詞を?今をときめくラノベ作家でござるか?」
「作家側の担当者のプッシュはそう言った人選が多かったのは確かね」
「ならーー」
断る、と告げようとすれば社長はそれを制した。
「話は最後まで聞きなさい。私もあなたがそういうと思って断ろうとしたのよ。そしたらね、違う担当がいて、なら僕の先生とどうですか?と」
違う担当?と首を傾げる。聞いて驚きなさい、と呟いた社長は真っ直ぐにこちらを見た。
「寺門通がコラボする作家は夏目ナマエ。貴方の愛読書の作家よ」
その言葉に、気分は一気に駆け上る。
「興味がわいた。その話、詳しく聞こう」

==

言の葉に音色がつくと、印象が変わることが稀にあるけれど今回は変わりがないだろう。なんせ音をつけるのは恐らくは彼だからだ。
コラボした曲を次々と流す街頭テレビに、ついにその時がやってくる。寺門通、と浮かび上がった瞬間に聞こえた野太い声に相変わらずかとクスリとわらった。ちなみに、誰が誰の歌詞を書いたのかはまだ発表されていない。どういうコールが入るかと少しワクワクしていれば、曲の開始にコールが入ることはない。ただただそこにいた人たちは、その音楽に、その言葉に耳を傾ける。言の葉の中にに沈むこむような没入感、というよりも、音に導かれて言の葉を見つけるような感覚。そんなものに浸っていれば、あっという間に終わる言の葉、途切れる音、しばしの静寂、のちに歓声と雄叫び。それを背に家に帰ろうとすれば、誰かが私の手を掴んだ。見上げたその先にいたのは、曲を作った人ではない。
「お前、苗字か?」
銀色の髪を覗かせた、男性だったのだから私は目を瞬いてしまった。

==

この間、街頭テレビを久しぶりに観に行きました。勿論、私が書いた詩がどういう曲になるのかを確認するためです。いえ、そういうのはただの建前で、見に行ったのです。寺門通親衛隊を。テレビなどで拝見する彼らはとても愉快に思ってしまうので、今度の曲にどう『コール』をするのか気になってしまい、確認しに行ってしまいました。まぁ、ありませんでしたが。
その時、古い友人と言えばいいのかはわかりませんが、まぁそんな方と会いました。なん年ぶりであったか。その人は相変わらずだったので、相手には恐らくは私も相変わらずに見えたことでしょう。担当さんには黙っていますが(まぁ、これが誌面に乗る際にはバレているでしょうが)最近その友人の頼みで古典を二、三篇ほど書きました。我ながら変な言葉を使ったな、と思いますが、わかりやすく書くにはなんと示したらいいのやら。あぁ、古典の教材になりうる話を二、三と書けばいいのかもしれません。古い言の葉の海は深く、覗くのは大変ですが潜れば潜るほど面白みが増す気がします。そして、そのあと書いた短編の直しが多いこと。ただでさえ古いのに、もっと古くしないでくださいよ!と泣きつかれてしまいました。古い言葉もまた面白く奥ゆかしいものだとおもっているのですが。

==

「先生、聞いてません!」
そう言った担当さんに、言ってないもんなぁと思う。
「友人?まぁ、知人が高校の国語の教師でして。定期テストやら夏休みの宿題用になんか話書いてくれねぇかっていわれてかきました」
「そんな頼みになんですぐ書けるんですか。あとその原稿USBに入れてください。別の部署が欲しがってます」
「そう言うと思ってとってきました」


年が近かっただろう銀時くんは、大人になっていた。なっていた、とはおかしな表現だろうか。しかし、彼は成人し仕事についている年齢なのである。まぁ、とりあえず久しぶりにあった銀時くんは万屋ではなく高校教師になっていたのだ。国語の。似合わないことこの上ないが、教師は様になっていそうである。新八くんの補導目当てで街頭テレビにやってきていた彼は私を見つけ家まで送ってくれたのだ。その時に作家をしていると言う話になって今回の話を頼まれた。完成した話とメールで送れば、今度パフェを奢ってくれるとのこと。なんとも安い原稿料だろうか。まぁ、その原稿料は今日データを持ち帰った担当さんからもらうとしよう。
そういえば、誰がどの歌詞を書いたかが発表されーー私の紀貫之説が濃厚になったらしい、と聞いた。まさかあんな十代の恋の歌詞を先生が書けるとは……とぼやいた担当も担当である。寺門通の歌詞を書いたのは誰か。周りのその予想は外れに外れ、私だと公表された時の驚き用は凄かったらしい。ちなみに三曲分提供し、三曲ともCDに入ったらしいが、私のところで二つほど没にしたのは秘密である。
CDの歌詞帳、その最後に書かれた三者のあとがき。私が担当すると聞いて驚いたけど、まさかこんな歌詞が来るとは思わなかった、でも最後の曲は夏目ナマエさんっぽいよね(要約)とは寺門通氏の言葉。十代に向けて書いてと担当に言われたのでそれくらいの詩を頭を抱えながら書きました。最後の詩は諦めて割といつも通りです。曲がつくのが楽しみ(要約)とは私の言葉。まさか他人の詩に曲をつけることになるとは思わなかったが、興味がなかったといえば嘘になる。蛍は月の機嫌を損ねないかただただ心配だ(要約)と言うのがプロデューサー・つんぽ氏の言葉である。
どうやったら彼に会えるのだろうか。銀時くんは知らないだろうか。

==

うちの実力テストの古典が泣けるから見てほしい。そうSNSに乗った話に、出典を探すコメントがたくさんついているらしい。色々な推測があったが、とどめを刺したのが私の広報SNSも担当するうちの担当である。
RT 夏目先生が友人に頼まれて書いた例の話ですね。半年後あたりに高校生向け教材本に全篇乗るという形で今編集が動いています。大学教授もビックリするほどの出来だそうです。僕は読めませんけど
まぁ、そのあと、あの人文豪の生まれ変わりだと思ってたけど、やっぱり紀貫之の生まれ変わりだったのかもしれないとツイートした担当にイイネ!がかなりついていたのは余談である。私も担当も紀貫之説がお気に入りなのだ。

==

「おいこら、坂田先生よ、どういうことだ」
そうメンチをきるのは彼女の幼馴染であった二人の女子生徒である。ギリギリとスケバンよろしく詰め寄った二人に周りはなんだなんだと三人を見た。なにも二人の行動が理解できないわけではない。彼女のかいたコラム欄に友人に頼まれて古い言葉遣いの話を書きましたと言う話があがり、そしてついこの間にSNSに発信されたこの学校のテストの内容に彼女の担当が彼女が書いた話と言ったのだ。ということは、あのテストの内容は彼女が書いた話になるし、恐らくコラムに出てきた友人は担任にあたるのだ。探しているこちらとすれば、そうなるのも理解できる。
「ちょいまち、ちょいまち、なんのことなんのこと!?」
「しらばっくれんじゃなーー」
「おぉ、金時ぃ、こんなとこれがいたやがー?」
「辰馬、たす」
「ちょーっと聞きたいことがあるき、時間ええかえ?」
モデルガンを取り出した数学教師に、担任は小さく悲鳴をあげた。こういう時は迷わずに来るらしい。
「加わんなくていいのか、万斉」
聞こえてきた後ろからの言葉に、放課後に聞きに行こうと思っていたが、と呟く。実のところ、決心がないのかもしれない。自分と同い年とは決して限らないのだから。

==

従兄弟にお祭りに連れて行ってもらう。買ってくれた昔ながらの狐面をつけてみる。随分と懐かしい視野だこと。この一番長い付き合いとも取れる従兄弟は私が子供じみたことをしても特に何か言うこともない。むしろ私が巻き込む姿勢で、彼にも同じく狐面を買った為彼の頭上にもそれはついている。
彼の両親は私に対してあまりいい感情を抱いていない。私の両親はとっくに死に私は彼らに育てられるために預けられたという経歴がある。まぁ、部外者なのだ。私がきて彼に向かって疎ましいと向いていた目は私に向くようになった。しかしながら、蟠りが解けたわけでなく、彼はまた家族と仲が決していいわけではない。彼には前の記憶があるため、子供のように喚くことはない。ただ、淡々と利用できるものは利用するだけ、と吐いた彼には隠す術があるだけで若干寂しそうでもある。
彼の家族は、まだ仲がいい兄と従兄弟兼妹に収まりつつある私というところかもしれない。彼は兄の為のりんご飴を買い、私は自分用に綿菓子を買う。金魚をすくってやろうかと思ったが、金魚をすぐ死なせてしまうのでやめた。
不意に喧騒が目に入る。祭りの真ん中で喧嘩とは、と思ったが、かたや見覚えのある顔をした学生服の連中であり、かたや天人のような奴だ。こういうのを見るとああ世界は変わらないのだと理解する。数で囲んだ天人のような奴らに、周りの客達は逃げていく。不利なのは見覚えがある人たちだろうか。隣をあるく彼をちらりと見れば少し目を見開いてーーそばにあったつっかえ棒を手に取りそちらに向かった。狐面を咄嗟に被ったのは彼の冷静な部分が働いたんだろう。私はため息ひとつついて、木の上からその喧騒を見つめる。その中に掻き消えた彼、彼の登場は番狂わせだったに違いない。静まり返ったそこに、彼らもいた。あぁ、変わらないのだなぁ、と思う。
「ここは沢山の人間が行き交う場所だ。高校生同士の争いなら別の場所でしろ」
そう淡々と告げた彼に、学生服を着た彼らは目を見開く。なんだと!と襲いかかった周りに彼はいとも簡単にのしていく。流石の太刀筋。しかしそろそろ本物の警察が、騒ぎを聞きつけた教師なんてものが来る頃である。食べ終わった綿菓子の棒を彼の前に投げる。綺麗な太刀筋でそれを弾き、それは最後の一人の額にあたった。覚えてろ!とかけていった天人のような奴らに負け犬の遠吠えだな、と思う。こちらを向いた彼らに木から降りた。
「狐の坊ちゃん、りんご飴を壊れちゃうよ。お兄さん泣いちゃうよ」
「泣きはしないだろうが、……まぁ、狐殿が動いたならそれなりの理由があるんだろう。帰ろうか」
そう私に告げた彼に、うん、とつげた。こちらに向かって歩き出す彼の隣に並ぶ。待て、と叫んだのは土方であった青年で、私の手を掴んだのは万斉さん、であった青年なんだろう。私をちらりとみた鴨太郎くんは、口を開く。
「何処の誰かは知らないが、妹を離してもらおうか」
残酷な言葉を告げるのだなぁ、とぼんやりと思う。振りほどけない私を見てだろうか。
「そちらこそ、何処の誰かは知らないでござるがーー蛍は池から離れられぬゆえ」
「そんな事より皆様皆様、お巡りさんと先生がやって来るので帰るのが吉」
そうおちゃらけて見る。はっとした周り、テメェら何やってんだ、と銀色の教師の声がする。そして、こちらを呼ぶ声も。
「鴨太郎、ナマエ!無事かい!?怪我はないかい!?ちょっと、妹や弟から離れろよ!」
そう私と彼の手をとり後ろに隠した従兄弟は威嚇する猫のようである。
「……兄上、家にいるはずでは」
「お祭りだからって留守番は嫌だね。母さん父さんでかけたから一人で抜け出てきた」
「ひとりでできるもんお疲れ様、でも、帰ろう?また体調悪くなるよ」
「えぇ、俺だって遊びたい。俺もお揃いのお面欲しい。ずるい」
「買いますから。明日辛くなるのは兄上でしょう」
「ほら、帰りますよ」
そう万斉さんのてをするりと離し、鴨太郎くんの兄の手を逆に掴む。ため息を吐いた鴨太郎くんもやって着た。ああそうだ、と思いながら、振り返る。
「蛍さんにお月様、星さんまたね」
そうひらりと手を振って言えば、彼らは目を見開き、彼は笑った。私はそれを見て満足する。鴨太郎くんはため息をついたけど。

==

案の定体調を崩した兄上に、私が何度目かの伊東家出禁を言い渡された日である。何かいい題材はないかな、とフラフラと街を歩いていればしていれば、背後から突撃された。刺されたわけではない。ただ、女の子に抱きつかれた。ナマエ先輩、と感極まった様な声を出したその子に、いやはや通りで同じ気配なのだと思った。
「覚えててくれて安心した」と緩やかに笑って振り返れば彼女はポロポロ泣いた。
「何処にいたんスか!!探してたんスよ!!」
「ごめんね、でも、私も探してた」
困った様にそう言えば、彼女は抱きつく力を強くする。周りがなんだ?という顔をするので仕方ないから場所を変えた。

落ち着いた喫茶店は私がよくいくところであるが、また子ちゃんは結構ギャル系と言えばそういう感じなので居心地が悪そうだ。常連である私が知らない人を連れてきたからかウェイトレスとマスターは興味津々という風にこちらを見る。ケーキセットを二つ頼み、飲み物も彼女が好みそうなものを頼む。
「本当に久しぶりだ、みんな元気にしてる?」
そう頬杖をついて尋ねれば、彼女は刻々と頷いた。
「ナマエ先輩は……何歳なんすか」
「今年で18歳」
「じゃあ鬼兵隊はみんな同い年ッス!」
そう声を上げた彼女に、そうなのかぁ、と思う。なら先輩はなくていいよ、と言えばそれはあり得ないと言われたけど。ううむ、わたしがそうであるように、彼女も続きを生きている。
「ナマエ先輩はどこ高ッスか?」
「高校には行ってないんだ。二足の草鞋、なかなか大変で」
そう苦笑いしながら言えば彼女は「あぁ、一時期凄い新刊のペース早かったッスもんね」と真面目なことを告げた。
「読んでくれてたの?」
「万斉先輩と晋助様は最初っから読んでたみたいッス。あたしは途中から……ナマエ先輩の本、難しいから」
むー、とむくれた彼女に苦笑いした。たしかに私の話は難しいだろう。中高生が好むというよりは社会人が好む話である。
飲み物とケーキを持ってきたウェイトレスさんにお礼を告げて彼女と私の前に置いてもらう。「ここのケーキ、美味しいんだ」なんて言えば彼女も口に運んだ。
「あれ、今日学校は?」
「万斉先輩も仕事で休むって言ってたし、晋助様はこの前の風紀委員会と共闘して校内の不良を返り討ちして一週間停学中ッス。つまんないんで抜けました」
そう頬を膨らませた彼女は可愛らしい。まぁ、言うところはなるほどサボりである。
「ナマエ先輩はお仕事ッスか?」
「いや、実家的な場所に何度目かの出禁を食らって今から家に帰るとこ」
「出禁?というか、実家?」
「私の両親、死んじゃったから今親戚にお世話になってるんだけど、まぁ叔父叔母に嫌われててね。偶にある」
そう肩をすくめれば彼女は目を瞬いた。
「なら一人暮らしっすか!?」
「うん、遊びにくる?」
「行くっす!!!!」
そう目を輝かせて立ち上がった彼女の頭をぽんぽんする。後日、私の元ヤン説が喫茶店で流行ったとマスターに聞いて否定することになるのは私はまだ知らない。
ついでに、また子じゃねぇか、と晋助くんに背後から声をかけられることも知らない。

==

音を立てたスマートフォンに首を傾げる。鬼兵隊のグループラインからである。なんだ、と思っていれば数件写真が送られてきているようだった。珍しい、と開いてみれば画像を見て動きを止める。
ーーナマエ先輩家です!!
そんな言葉と一緒に、三人の写真が送られてきたものだから速攻で電話をかけてしまったのは仕方ないと言いたい。

==

翌日、学校であった万斉先輩は不機嫌である。そりゃあそうでしょうね、と言った武市先輩は「自分の元恋人が自分以外の男を家にあげている写真を見たんですから」と続けた。その言葉にさえも万斉先輩はムッとしたように返す。
「元恋人じゃない」
「元妻という表現も今の年ならおかしいでしょう。この前の様子といい、もしかしたらもう結婚しているのかもしれませんよ」
その言葉に、何か返そうとしてーースマートフォンが一斉になる。写真が送られてきたらしい。開いてみれば、晋助様が本を読んでる写真である。その様子からナマエ先輩の家にいるのがわかる。
ーーちょっとだれかこのヤンキー引き取りに来てください。停学あけても居座る気だこれ。
そんな文言に、万斉先輩がこちらを見た。
「また子、案内してくれるな」



 Comment(0)
ぎんたま 

次の日 top 前の日