2018/09/28
陽月さんがしるばーそう・没羅列
「いやいやいや、笑えない冗談かって話だよ」
ヒクリと口元を引きつらせた青年に私はひらりと手を振る。ナマエの知り合いか、と言った高杉くんに、まぁね、と言えば知り合い基数奇な運命を同じように生きている彼は私を見上げて叫んだ。
「いや、ほんと、ナマエが一番そいつらについちゃいけない奴!」
その叫びにそれもそうだなぁ、と苦笑いしておく。しかし、彼らには色々とお世話になっているのは確かである。そしてああこの人は三成に似ているのだと感じた瞬間、私は動くことなどできなくなるのだ。何言ってんですか!このチビ!と言ったまた子ちゃんに、青年ーー松寿が叫ぶように口を開く。
「だって、アイツはーー」
「松寿、そういう運命だったのさ」
そうにっこりと笑って頬杖をついた。この世界の、この時代の始まりも恐らくは家康から始まったのだろう。そこに私がいようといまいと。しかし、時代というのはいつかは終わるのである。豊臣の時代を家康と二人で終わらせてしまったように。
「始まりを告げるのも、終わりを告げるのも、同じことなんだよ」
じゃあね、とひらりと手を振る前に、松寿が銀色と黒の二人と一緒に落ちていった。高杉くんに宣言だけを残して。後に引けないんだよなぁ、彼も私も。
「行かなくてよかったのか」
「言ったでしょう?そういう運命だった、それだけ」
高杉さんの頭をぽん、としておく。振り払わないあたり、彼も傷心だろうか。似てるなぁ、と思う。しかしながら、少し違う。当たり前である彼は違う人だ。
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この世界に来て、初めて地球を見た時。あの世界で初めて空を飛んだ時を思い出した。そしてそれは今もたまに陥る錯覚である。頬杖をついて地球を見ていれば、ベン、と隣で三味線がなった。チラリと横を見れば河上万斉がいた。
「何を憂いている?」
そう言った彼に、憂いているわけではないよ、と返す。そうか、と告げた彼はまた弦を弾く。
「あの坊に焚きつけられてから憂いていると思ったが……」
「あの坊?」
「あのチビッスよ」
むっとしたまた子ちゃんに、ああー、と納得した。
「それとこれとは関係ない。ただ、昔を思い出してただけ」
「昔ですか、珍しいですね」
「珍しいかなぁ……」
苦笑いして頬をかく。しかしながら、たしかに最近はバタバタしていて昔を思い出したことはなかったな、と思う。
「昔、子供のころ、空を飛んだことがあった。その時を思い出しただけだ」
側にいた家康はいない。また何かの拍子で此方に飛んでしまったらしい。神様がおいそれと他の世界に来るなんてことはできないだろう。しかも今は神無月である。
「あの時、こんなにも日ノ本が広いのかと感動したが、今はこんなにも世界が広いのかと思う。ただ、それだけ」
苦笑いして河上万斉の頭をぐしゃぐしゃとする。万斉先輩の方が年上ッスよね?と尋ねたまた子ちゃんに、嫌がっていないからいいんじゃないか?と返す。まぁ本人は拙者は犬猫ではござらんよ、と言われてしまったが。その割には手を離せば名残惜しそうな視線を向けてくる。
「あまり私といると目が焼けるぞ」
「は?」
「岡田さんに言われた。アンタといると目が焼けちまいそうだって」
苦笑いしながらそういって立ち上がる。さてさて私は私の仕事をしなければいけない。
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あ、やばい、やってしまった。そう思ったのは光の粒子が舞ったからだ。寝起きである。夢見があまり良くなかったのと、寝起きで完全に無意識だったのである。偶々私を起こしに来たのであろう目の前にいた河上万斉はただ目を瞬いただけだったけども。平常心と言い聞かせて、どうかしたか?と尋ねる。
「今、何か……」
「何か?」
「蛍のようなものが見えた気がしたが」
その言葉に首をかしげる。昼間なのに?と告げれば、彼は見間違いだったか、と納得したらしい。
「そもそも、あなたが尋ねてくるのが珍しい」
「誰かさんが珍しく寝坊していた故、起こしに来たのでござる」
その言葉に動きを止める。今何時だ、と時計を見ればいつもより遅い時間である。それを認識した瞬間、う、わぁ!と慌てて立ち上がる。私の部屋を見渡した彼は一言。
「また子のような服は着ないのか」
「あれは若いから許される服でしょうに」
そう彼の背中を押して外に出す。慌てて着替えたらまだそこにいたけど。
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目の前にいるのは阿伏兎と呼ばれる男と神威と呼ばれる青年である。外見は地球人と同じであるが、信じられないくらいの力を持つという。なるほど、婆娑羅者と似たような者かもしれない。大きな傘は百合の武器を思い出させるな、と凝視していれば「おいおい」と声がかかる。
「嬢ちゃん、団長に惚れたか?やめとけやめとけ、嬢ちゃんの手に負えるような奴じゃない」
「可愛いらしい方だな、とは思いますが、そういうわけではないです。あまり宇宙の方で似たような姿な方を見ることがなかったので」
そういえば「おおぅ」と何か焦ったように言われた。青年は相変わらずニコニコしているけども。
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江戸の町をぶらついたことがないな、と思う。東京ではない江戸の町。家康が作った江戸でもない江戸の町。お忍びと称して二人でぶらついては忠勝さんに怒られたのは酷く懐かしい。町をぶらついてくる、と素直に言えば高杉さんは河上万斉を連れて行くように言った。曰く、「迷子になっちゃ困るからな」らしい。また子ちゃんも「ナマエ先輩はしっかりしてるようで抜けてるから」と言った。あれよあれよと周りを塗り固められ、河上万斉と江戸に向かうことになった。
晴れ渡る空を見上げて「ナマエは晴れ女でござるな」と呟いた彼はいつも通りの服装だ。意外とバレないらしい。私は指名手配もクソもないので普通の服で行こうとしたら武市さんが服を差し出した。丁寧にお断りしたけども。
「で、何処に行くんでござるか?」
「何も考えてなかったなぁ。というより江戸を歩くの自体かなり久しぶりなんだ」
そう言いつつ見慣れない、半分ほど東京のような姿になっている町を見渡す。彼は「ならば観光か」と言って私の手を引いた。
「ナマエは何処から来た?」
そう尋ねた河上万斉に、そちらを見た。いつのまにか日暮れである。街並みは夜景に変わりつつあった。彼の視線もまた此方に向いている。
「そうだなぁ、随分と遠くから来た」
随分と過去なのか。随分と未来なのか。はたまた、違う世界か。随分と遠くである事は間違いない。今ここではないのだから。あやふやな答えである。
「ならば月から来たか」
「そうだな、昔も言われたことがある」
そう頬杖をついて、彼から街へと視線を向けた。彼は冗談のつもりだったんだろう。あの世界で確かに私は輝夜と呼ばれた。
「今思うと的を得ていたなと思うよ」
「それは何故?」
「私はいつか帰るから。大好きだった人達をおいて」
「何処に」
「ずっと遠くへ」
そう笑めば、彼は少し目を見開いた。あまり彼は嘘をつけない性格だろう。真面目というか。
「まだ此方にいるさ。やらなきゃいけないことがある」
「……それは助かるでござる。何処から来たかはわからぬが少なくともナマエは敵ではござらん」
「そろそろ帰ろうか。みんなが心配しそうだ」
「そうでござるな」
息を吐いた彼は私の手を引く。
「今日は楽しかったよ、ありがとう」
私が笑えば彼はフッと息を吐いた。
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変な噂が流れ始めている。世界を超える云々の、あの流星や禍星を含んだ噂が地球だけでなく宇宙で流れているらしい。誰かが意図的に流したのかどうなのかは知らないが。また子ちゃんの髪をくくりながらその話をする。綺麗な髪である。大人しく触らせてくれる彼女は可愛らしい。
「でも、オカシイっすよ。流星なんてどこの星にもあり得るし、他の星の天人の可能性だってあるじゃないですか。他の世界なんて」
「そらそうだ」
そう言って笑う。あの時は過去に飛んだ。だから、誰もが平然と未来にいたのだとわかっていた。それに比べて、今の世界じゃ他の世界なんて言葉はないに等しい。似た惑星がある可能性はなきにしもあらずである。誰かには断言できる何かがあるんだろう。ここにくることを望んだ誰かには。
「できた」
そう言って彼女の頭から手を離す。似合うじゃねぇか、とは高杉晋助の言葉で、相変わらず器用でござるな、とは河上万斉の言葉である。鏡を見てパアッと目を輝かせた彼女ーー正しくは高杉晋助の言葉にだろうがーーは可愛らしい。武市が覗き込むように見る。その瞬間、顔を曇らせたが。
「しかし、慣れてますねぇ。昔からこういうのが得意だったんですか」
「昔は苦手だったさ」
「意外ですね。また子さんより女性らしい女性の貴女が?」
「どう意味ッスか!」
「そんなわけないだろう。私は男でいう元服ぐらいまで男だと思われてたんだぞ。武芸を学んだというのに、後から後からやれ女だから着飾れとかやれ女だから慎ましくとか言われた」
「想像できないでござるな」
「どういう経緯でそうなった」
「まぁ、巡り巡って一緒に幼少期を過ごした奴ーー男が私を召し抱える家の当主でね。もうそんなことをする必要もないと言ってきた」
始まりはなんだったのだろう。最初から美しい着物ではなかった。確か、簪か櫛かそう言ったものだった。そこから段々と。今思えば、無意識か否かは知らないが。
「その幼馴染は勿体ねぇ事をしたな。お前をそこまで磨き上げて手を離したか」
「いや、彼は最後まで引き止めてくれた。でも、私が他の場所に連れられていった」
そう、確かに、家康は、私を引き止めようとした。待ってくれと願うように叫ぶように告げた。しかし、私は置いていった。
「まぁその後彼には子供が生まれているから他の女性と添い遂げたんだろう」
そう苦笑いしておく。しゅん、としているまた子ちゃんの肩を叩いて笑う。
「そういう運命だったのさ」
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「おやまぁ、愉快な構図だこと」
そう言った暁に肩をすくめる。葉月は動ずる事なく立っているし、松寿が頭を抱えた。
「葉月が幕府を守ってナマエが倒幕側にいるじゃねぇか。逆だろお前ら」
「なんじゃ、あっちのスカした男もあっちの綺麗なお姉ちゃんも暁の知り合いか?」
「おー、松寿も含めて腐れ縁通り越してる奴らだよ」
真選組の副長がどういうことだ、という風に葉月を見るように鬼兵隊からもこちらに視線を向けた。葉月は「昔となんら変わらないだろう」とただ告げる。
「あぁ、そうだな、何も変わらない」
苦笑いである。何も変わらない。私は終わりを告げて始まる方に、彼は終わりを告げられる方に、ただただそこにいる。
「まぁ、俺としてはお前らがどっちにいようが、俺の雇い主はコイツ……の副官だから関係ねーけどよ」
「え、暁?嘘じゃろ?雇い主はワシぜよ?」
「ちったぁ仲良くして欲しいモンだぜ」
「暁、無視か?おーい、暁ー?」
「ま、噛み付いてんのは葉月だろうけどな」
暁の言葉に葉月がギロリと暁を睨んだ。私はため息を吐いて放置である。
それにしても愉快な構図である。なんでこうなってるんだ?と思ったが、恐らくは流星と禍星の関係だろう。葉月と暁、松寿、私、以外誰がどうなのかは知らないが。河上万斉かこちらを見た。
「真選組のあの男、ナマエの知り合いか」
「まぁ、同郷の腐れ縁というところかな。あとあの髪くくってるのと銀髪の隣にいるのもそう」
「例の男か?」
「例の?……あぁ、ちがう。他人だ」
そんな事を話していれば微かに感じた嫌な気配に空を見上げる。そしてそのまま口を開いた。
「松寿、結局何人いた?私は全く出会わなかったわけだが」
「お前が幕府倒すためにあっちにフラフラこっちにフラフラしてたからじゃん。六人に決まってるだろ」
「違う、その問いの答えは四人だ」
==ぼつ!
=
見つけた、と思う。やはりあまり良くないものだな、と目を細めて見る。隣にやって来た夜の兎の青年は、お姉さんの知り合い?と尋ねた。チラリと向いた視線は鬼兵隊のものだ。
「まぁ、な。先にあちらに会うとは思わなかったが」
六つの流星と二つの禍星。世界を越えるための弊害と犠牲。恐らくは私と松寿、話に聞くにいるらしい葉月と暁は前者だろう。救いなのはこの前と違い、そういう術に詳しい二人が元の場所に残っており把握が早いということだろうか。先に流星を探すかと思ったが、禍星と出会う方が早いとは。
一番に抱くのは違和感だろうか。なんら街にいる人間に変わらない外見であるのに、海賊達に紛れている違和感。しかしながら目には生気などない。虚だ。恐らくそれを見て多くの恐怖を得るのだ。此方を見たその人物は少し目を見開いて私を見た。えぐい殺気だなぁ、と人ごとのようなことを思う。
「なに、お姉さんアイツとやりあうつもりなの?」
「今はそのつもりはない」
「向こうは殺る気満々見たいけど」
「そうだな」
緩やかに息を吐いてその人物に微笑んでおく。その瞬間、目に光が入ったその人物に目を少し見開いた。頭を抱えたその人物は違う、違う、と否定の声を上げる。あたりに漂った黒い霞に、まわりにいた海賊達がヤバイといって距離を取り始めた。
「驚いた。あの子は空虚ではーー」
そこで言葉を止める。先生はそういう術に長けていた。だから、本来なら二つの禍星で近等になるはずの禍の殆どを彼が持ちーー彼は空虚となった。しかしながら、今回彼ではない。術に長けているとは限らない。高杉晋助が私を見る。
「ナマエ、知り合いか?」
「正確には知り合いというわけじゃない。ただ、同じ場所からは来たんだと思う。あと、あの霞には触らない方がいい。体力を根こそぎ取られる」
「あぁ、やっぱりそういうのだったんだ。おかしいと思ったんだよね、俺の方が確実に強いのにやたらと体力消費するから」
「銀時のトコにいたガキも使ってたな」
「そっちの方が扱いがうまい。あれは正しく使えば松寿みたいなことができるが、あの子は制御できてない。敵も味方も巻き込むただの災厄。諸刃の刃というとこか」
「あはは、的を得てる。だから一人で無茶させられるんだけどね」
その言葉に動きを止める。高杉晋助を見れば、好きにしろ、と言われた。
「オメェのお人好しはどう足掻こうとかわらねぇよ。ただの戦力になんだな?」
「約束しよう」
そう言ってその群衆の中に降りる。此方に向かって来たその人物に婆娑羅を使おうとした瞬間、糸によって止まる。なるほど、河上万斉。此方を見たその人物はまだ幼い。中学生になったばかりというところか。静かに手に婆娑羅を纏いその人物の額に当てた。
「安心しなさい、敵ではないよ」
笑みを浮かべてそう言えばガクンと意識を失ったらしい。しゅるりと弦がひく。ざわりと騒いだまわりを置いてその人物を抱え上げて元の場所に戻った。
「ありがとう、万斉」
「いや……」
「ねぇ、お姉さん。今何したの?」
「……さぁ?」
惚ける。何かしたよね、といった彼に、知らないのか、と笑っておいた。
「女は秘密を着飾るものだよ。……武市、着物はあるだろうか」
「……おや、よく見れば可愛い顔してるじゃないですか。ありますよ、そのくらいの年の子供の服も」
「こういう時、君がフェミニストでよかったと思うよ」
「……いや、ナマエ先輩、そいつロリコンッス。フェミニストじゃないッス」
「あんたらは悠長なこといってるけどなぁ、そいつ、今は主戦力だぞ。連れ出せると思ってるのか?」
「それもそうだが、向こうは歯向かう気はなさそうだぞ」
笑みを浮かべてひらりと手を振っておく。協力に感謝である。まぁ、様子見だろうけど。
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禍星に懐かれた。ぴょこぴょことついてくる様は可愛らしい。性格は三成のようであるし、名前がないようなので佐吉と名付けておいた。心なしか性格的に全体的に三成に似ている気がしないでもない。試しに三成が使っていた刀を渡せば相性は良かったようで婆娑羅は落ち着きつつある。まぁ、禍星には大きいのだけど。そして。
「ひどく盲目だなぁ」
そう苦笑いをした。あの子は三成に似ている。盲目的に、或いは心酔したように私や高杉晋助達に付き従う。そしてそれを他にもそうであれというものだから周りはこの子についていけない。それはいけない、と咎めても何故いけないのかと心底不思議そうにするのだ。
「確かに。まぁ、良い子な分、こちらとしては構いませんけどね。諸刃の劔でもなくなりつつありますし」
視界の端では高杉晋助に遊ばれている禍星がみえる。どうか穏やかであるように、と願って頬杖をついた。
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