2018/10/28
兼任妖アパ没1
新しい住人だと連れてこられたのは女の子である。年はクリよりも上、ユウミよりも年下、何だろうがどこか落ち着きがある。長谷や龍さんに似た雰囲気を持つというか。白いフードがついた羽織(マントにもポンチョにも見える)、その下には少しレトロな洋装、そして何よりも瞳が澄んだ青空のように青い。外国人だろうか、と思えば名乗られた言葉は日本語である。遠くからきたという彼女はしばらくここに滞在すると告げた。親は?という問いには「家族はおいおい来ます」と言われてしまったのだけど。妖怪が怖くないのかと聞けば、昔から見えてるので怖くないと言われた。ここにいるのは悪いものではなさそうですし、と周りを見渡しながら告げた彼女は子供なのに強い。
さて、では彼女は秋音ちゃんみたいに霊能力者何だろうか。そう思っていたら、彼女は、あ、そうだと手を叩く。
「こんちゃん、紹介しなくちゃね」
「こんちゃん?」
俺たちが首を傾げていれば彼女は鞄から顔だけを覗かせていたぬいぐるみを取り出した。もふり、としたそれは不思議な模様が入っている……狐だろうか。
「こっちは、こんちゃんです」
ぬいぐるみを召喚するあたり子供だなぁ、と和んだら、主様!またそのような!という声が聞こえる。え、と彼女を見れば彼女が抱えたぬいぐるみが口を開いた。
「私めは何度も申し上げておりますが!そのような幼言葉はおやめくださいませ!」
その言葉に彼女は一瞬面倒くさそうな表情を浮かべた。
「こんちゃん、は、管狐のこんのすけです」
「これから主様共々お世話になります。私は管狐のこんのすけ!主様をサポートするのがお役目なのでございます!」
「……ナマエちゃんは憑物筋なの?」
秋音ちゃんの言葉に俺は首をかしげる。
「憑物筋?」
「狐や狸なんかに憑かれてるっていう民間信仰か」
「民間信仰じゃないわ。本当に実在するのよ。一時的に裕福にしてくれるけれど、それは持続しないわ」
「管狐ってたしか妖怪だよね、マッチ箱ぐらいの大きさの。最後には七十五匹に増えて家が食いつぶされるって奴」
「七十五匹のこんちゃん?」
そう管狐(仮)を見下ろした彼女ーー苗字ナマエちゃんは首を傾げた。
「それは野良でございましょう。私はエリートですのでそんなことはいたしません!そもそも私めは主様の使い様に扱われている管狐でございます故、通常の管狐とはまた違うのでございます!」
それにしてもよく喋る狐である。秋音ちゃんは少し困ったように管狐をみた。ナマエちゃんは飽きたのか、管狐のお腹に顔を埋める。
「こんちゃん、もふもふ」
「主様!また幼子のようなことを!いけませぬ!」
「だって、こんのすけは悪い妖怪じゃないもん。油揚げあるかな?」
「あぶらあげ!!!」
「ははは、まごう事なき狐だ」
そう笑った詩人に俺と秋音ちゃんは顔を見合わせる。食堂の方に足を進ませたナマエちゃんに、残った管狐は尻尾を振った。
「……主様は憑物筋ではございませんが、使役するといえば使役する立場でございます故、考え方としてはあながち間違いではございません」
「霊能力者ってこと?」
「いえ、霊能力者でもございません。しかし、皆様にご迷惑をおかけすることもないでしょう」
ちょこんと座った管狐は尻尾をもふりと動かした。まぁ、ナマエちゃんがるり子さんとあぶらあげを持ってきたことにより管狐の意識はあぶらあげに向かったのだけど。
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その日の夜である。ナマエちゃん歓迎のために当たり前のように宴会になった周り。佐藤さんがやってきて、でも珍しいね、とナマエちゃんをみた。ナマエちゃんは首を傾げたのだけど。管狐はクリとシロのおもちゃになっている。
「ナマエちゃんはどうしてここに?向こうにお家はないのかい?」
「うーん、家はあるんだけど、変な人が襲ってきたからみんなと逃げた」
その一言に、ピシリと俺たちは固まる。妖怪たちは「罰当たりな奴もいるなぁ」とか、「アホな奴もいるものよ」とか言ってるけど。
「え、ナマエちゃんってそっち側ですか?」
「ん?いやーー」
佐藤さんが何か答えようとしたところで、龍さんが急いだように息を切らしてやってくる。龍さん!?と驚いた周りをよそに龍さんはナマエちゃんは見つけるとよった。
「いけません、どうしてあなたのような方がこちらに」
「なんだ、龍、ナマエのこと知ってんのか」
そう尋ねた画家に、龍さんは頷く。大家さんがナマエちゃんの頭を撫でた。大家さんがいってた人ですか?と問いかけた彼女に大家さんは頷く。それをみて彼女は龍さんをみた。
「ええっと、話をすれば長くなるのですが、瘴気を纏った人に住んでいた場所を襲われてしまったんです」
「瘴気を纏った人?人間がそちらの領域に?」
「はい、たまに来るのは確かなのですが、あそこまで悪しき者が入ってきたのは初めてだったんです。みんなで立ち向かおうとしたんですけど、隙を突かれてしまって。なんとか他の方の力を借りて扉を開いて閉じて右往左往していたところを大家さんに匿っていただきました」
「ほぉ、アイツらでも負けることがあるか」
「難儀よな」
鬼がそう言ってナマエちゃんを見る。
「その人は?」
「とりあえずその人は住んでたところに閉じ込めてます。人があそこを出るのは不可能でしょう。まぁ、その人はいいんです。何十年かすればいなくなるでしょうから。それよりも、みんなの怪我をなおしたくて」
そう困ったように告げた彼女に、俺たちはなんと返せばいいのかわからなくなる。龍さんは普通に何が必要なのか聞いてるけど。
「綺麗な水を……それとは別にインクもあれば欲しいのですが」
「わかりました、ご用意しましょう」
「インクならアタシが持ってるよ」
そう言った龍さんと詩人にナマエちゃんは顔を明るくした。本当ですか!と言った彼女は詩人についていく。
「小僧、あの娘の住処を荒らした人間を助けようとは思うな」
「え?」
「言っちゃいけないけど、自業自得だね。真意はともかくさ。人間が入っちゃいけないところに入って、そこを荒らしちゃったんだから。そこは人間も僕らも入っちゃいけない領域だよ」
そう告げた佐藤さんに俺は彼を見る。龍さんは頷いた。
「茜さんと同じような立場、といえばわかりやすいかな」
龍さんの言葉に、え、と僕らは動きを止める。
「ナマエちゃん神様なんですか!」
「正しくは違うようだけどね」
そんな会話をよそに詩人を連れてナマエちゃんは帰ってくる。こんのすけが逃げるようにナマエちゃんの足元にやってきた。ナマエちゃんはごそごそと本を取り出す。
「主様、インクを手に入れられたのですね」
「うん。ただ、こっちも瘴気に当てられた影響があるみたい」
そう言ってナマエちゃんは手帳を取り出す。黒くススだらけに見えるそれをナマエちゃんは手で払った。
「手帳?」
「たいせつなもの、です」
ナマエちゃんはそう言って手帳に手をかざす。淡く青く光ったそれは魔道書なんだろうか。彼女はインクの蓋をあけるとーーその手帳の上で傾けた。
あ!!と声を出したのは俺だけでなくほとんどがそう声を上げる。しかしそのインクは床に溢れることなく、本を汚すこともなく手帳に吸い込まれている。それが全て注ぎ終わると手帳は青く光る。
「札はともかく時計は置いてきてしまいましたから、そのまま待つしかございませんが」
「うん、大丈夫。一週間あれば全員元に戻ると思うし。ありがとうございます。またいつかお礼を」
「いいよいいよ、インクなんてそんなに高価なものじゃないしね」
ケタケタと笑った詩人に古本屋が勢いよく近く。
「なにそれ!?魔道書かい!?」
「いえ、多分違うとは思うのですが」
なんとも歯切れが悪い返答である。
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大家さんが綺麗な水を持ってきて、庭に置いた。ナマエちゃんはぴょんと庭に降りると鞄を漁るーーというか、鞄をひっくりかえした。中から何かの鉱石と、いくつか煉瓦のようなもの、炭のようなものが沢山落ちてくる。どうなってるんだあの鞄、といえば、こんのすけが別の場所に繋がっているのでございます、と告げた。
「妖怪の皆様はともかく、人の皆様はこの屋敷から出てはいけません」
「え?」
「主様はこれより天目一箇神とお会いになりますゆえ」
「あめの、?」
「日本の鍛治の神だよ」
龍さんの注釈に、神様?と目を瞬く。ナマエちゃんは宙を見た。
「なおしましませ、鍛治の御神よ、傷つく彼らを治しませ。これは、悪しきものに受けた傷、我を守りて負うた傷。なれば治すが主の役目。火起こす炭、体を作りし玉鋼、彼らを癒す水、研ぎ澄ます硯石揃いて、あとは鍛治を司るもの」
歌うような声だ。二回礼をして、二回手を打ち鳴らすとナマエちゃんはまた口を開く。
「ありはや、あそばずともうさぬ、あさくらに、天目一箇神、おりましませ」
その言葉に感じたのは熱だ。サウナに入った時のような。いや、オーブンを開けた時の熱にも近い。火の粉が人の形を作り上げ、そして火の粉が弾けるとそこには一人の男が現れる。ひょっとこのお面をつけた。
「おう、おう、久しいなぁ、文の娘っ子。噂は聞いとるよ、なんでも人間がおんしらの住む場所荒らしたようやないか」
「そうなんです、だから、いつものように治したくても治せなくって」
「おっかあ達はどうした?ひとりか?」
「二人の留守を狙われました」
「ははぁ、だから知らんのやな。おまんのおっとうが血相変えて探しとったぞ」
ワシワシと頭を撫でた男は、さぁ、一仕事するかのう、といって周りをぐるりと見渡し俺たちをみる。
「人の子はさがっちょれ〜。あっついからのう」
男がふっと息を炭に向かって吹きかける。その瞬間上がった温度、そしてどこからかカンカンとなる音が聞こえだした。
「こやつらでことたりるじゃろ。まぁ、また何かあったら呼び。娘っ子は孫みたいなもんじゃ」
かっはっは!と明朗に笑って男は火の粉とともに消える。ナマエちゃんは一礼をした。ナマエちゃんがこちらにかけてくる。
「ひょっとこ?」
「天目一箇神はひょっとこのモデルですから。あの人、むこうは素顔なんですけどね、人の世界にくるときはああやって顔を隠してるんですよ……まぁ、それは建前なんですけどね。昔、私がもっと幼い時に顔見てギャン泣きしたので不意に私がむこうで尋ねない限りああしてくれます」
ナマエちゃんはそう言ってまた庭を見た。ありがとうございます、と頭を下げた彼女に、?を浮かべれば感じていた熱が引いた。どうやらいた何かは帰ったらしい。庭にあった炭は燃え尽きて消え、煉瓦のようなものや鋼もない。元どおりの庭だ。
「何がいたの?」
「?天目一箇神の眷属の方です」
「主様、彼らは人間には見えません故」
「え、そうなの?天目一箇神様は見えてたのに?」
「そうです。天目一箇神は主様が一人で会話しているように見せないために現れてくださいましたが」
「むっちゃん達は?」
「彼らは見えるでしょう、この敷地内であれば。外側では主様もいつも通りですよ」
そう注釈したこんのすけに、ナマエちゃんはシュンとした。どうやら彼女もまた通常は人には見えないらしい。
「昔はもっと見えてたのにね。一緒に遊んだりもしたのになぁ」
残念そうに話した彼女は寂しそうにも見えた。
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「さーけもってこーい」
夜の宴会である。知らない人が二人増えてた。華やかな女物の着物をきた人と、繋ぎのような服を着た人だ。画家や詩人、古本屋と妖怪と陽気に飲んでいる二人に、誰、といえばそこで初めて古本屋は知らない人だと気付いたらしい。
「誰?」
「なんだい、今更。同じ酒を飲んだ仲間じゃないか!」
ケラケラと笑った人はバンバンと古本屋の背中を叩く。痛い痛いと叫んだ古本屋に、自分の部屋に帰っていたナマエちゃんが飛んできた。
「じーろーちゃーんーにーほーんーごーうー?いないと思えば!」
「主ー、無事でよかったよ〜」
「おーう、主。飲んでるぜ」
そう手を振った二人に、ナマエちゃんは「こら!」
と声を上げて酒瓶を奪った。その時酒臭いとぼやいたのも聞こえたけど。
「なんだよ、せかねぇんだから酒くらい飲ませろ」
「そうそう、急いでも意味がないって!」
「ナマエちゃんの知り合い?」
「家族みたいなものです。二日酔いになっても知らないからね!あと日本号は蜻蛉切にしごかれてしまえ」
没?
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