2018/11/14

アウターハッピーエンド3

アウターハッピーエンド3

部屋にあった化粧品は快くあのメッシュが入った男性ーーエフさんが引き取ってくれた。これとこれとこれはつけときなさいと力説されたものは部屋に置いているが。服は明日ファルさんかエフさんが買い物に連れて行ってくれるそうだ。有難い。特にやることもないんだよな、と本棚に並ぶ本を眺める。89さんはソファに寝転んでゲームをしているが、たまに私に視線を向けるので仕事はきちんとしているんだろう。
「あの人にちかづかねぇほうがいいぞ」
「あの人?ファルさんですか?エフさんですか?」
「あの二人はノーコメント。ちょっと太ったおっさんだよ」
その言葉にああ、と理解する。
「あの時ザライと呼ばれていた?」
「あぁ、そいつだ。あの人、権力にも女にもがめついからな。右目見られたらどうなることか」
「部屋に閉じこもるのが吉ですか」
「この部屋はあのおっさんが連れてきた女が寝る部屋、本来なら俺らは出禁。あの方達の命令があるから俺は入ってるだけだし、他の兵士も寄りつかねぇ」
どうりでそういうものが多いのだろう。適当に本を数冊手に取り彼を見下ろす。まじまじ見ていれば眉間にシワを寄せられた。
「なんだよ」
「いえ、貴方達も薔薇の花があるのかと」
「ねぇよ」
そう断った彼に「俺たちは人間じゃねぇからな」と淡々と返される。その意味がわからなくて首を傾げたが、じきにわかるだろ、という返答である。どういう意味だろうか。
「アンタはもうここから逃げ出せねぇよ」
「それは……」
知ってる。そう笑って窓の外を見る。赤い花が風に揺れた。

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連れてきてもらった街は、賑わっていた。恐らく物資が行き届いているからだろう。それでもちらほらと物乞いのような人がいるのだから、地方は恐らくもっといるんだろう。ガスマスクをつけたファルさんが隣を歩いて行くからか自然と道が開くのを見ると、恐らくは彼は偉い立場なんだろう。馴染みなのかブティックの店を開けた彼に店員はお待ちしておりました、と告げる。
「彼女に合う服を二、三着。ドレスを一着、頼んでいた服を」
「ドレス?」
「今後、必要ですので」
かしこまりました、といった彼に手を引かれる。採寸のちにスカートとズボンどちらにしましょうか、という言葉が来たのでズボンと即答すれば服を出してくれる。何着か試着して店の奥から出れば店員がもう包みはじめていた。壁にもたれて待っていたのだろう彼に近寄る。
「お待たせしました。会計は」
「貴方が気にすることではありませんよ。さて、帰りましょうか。荷物は後で届くでしょう」
そう告げた彼に続いて店を出る。一応出る際に頭を下げれば店員が肩を跳ねさせた。
「貴女は本当にわがままが少なくて助かります。苗字さんはいい子ですね」
頭を撫でた彼に、子供扱いだな、と思いつつ彼を見上げた。クスクスと可笑しそうに笑った彼は「貴方は一年間入院していたと聞きましたが」と紡ぐ。
「体が弱いんですか?」
「いいえ、事故に巻き込まれただけです」
「事故?」
「飛び降りた人の下にたまたま私がいたようで。一年近く意識がなかったみたいですね……でも、そこからです」
一年。あの世界にいたのはそんな短い時間じゃない。けれど、この世界の時間はそんな短い時間だった。
「たまにいるでしょう?頭を打って、変わる人」
そう彼を見上げれば彼は「話は聞きますね」とだけ告げた。


さて、ドレスが必要だということは貴族と呼ばれる連中のパーティーのためらしい。どうやらある一定の領地がある彼らはこう言った馬鹿げた騒ぎが好きなんだろう。それはいい情報源になりうる。こちら側にとっても、世界帝に対抗せんとする勢力にも。顔を隠すために仮面さえつけて、彼らは中世のパーティーのように過ごすのだという。そして、もう一着、軍服は、このガスマスクは。
「皇帝!何故ですか!」
そう口を開いたのはあのザイルと呼ばれた小太りな男である。私のそばにいた皇帝と呼ばれる男は階段の先にいる彼を見下ろした。将軍と呼ばれた三人のうち一人が口を開く。
「見てわからないのか。この子は選ばれた」
「選ばれた?ただの学生の、こんな地位も名誉もないこのガキが!?」
当てはまるな、と思いながら彼を見下ろせば、彼は足音を鳴らしてこちらにやってくる。いかがしますか、と小さく呟いた彼らに皇帝と呼ばれた男はただ放っておけと告げる。ガスマスクをつけた私を確認した彼は私をまた見下ろした。
「時間だ、行くぞ。おいで、ナマエ」
コツコツと足音を立てて彼は、彼らは歩き出す。それに伴い歩き出せばコツコツと靴はまた音を立てた。
「お待ちください、陛下!」
その言葉に彼は待つことはない。
「待て、待つんだ、このクソガキ!」
吐かれた言葉にすましていればそばにいた男が私をまた見下ろした。
「無視した方がいいんでしょう?」
「わかっているようで結構」
掴みかかってきた男の手をひらりと避ければ彼は転倒したらしい。扉のそばにいた兵士が扉を開ける。その先に並んだ兵士を幾千の人を見る。その近くに並んでいるのはファルさん達だろう。一斉に敬礼をした彼らにあぁこれはまさしく軍事国家だな、と思う。
「今日、残った国々が我らに降伏した」
そう高らかに告げた皇帝を見つめる。
「世界は一つに統一されたのだ!真に戦争のない平和な世界に生まれ変わった」
そんなことはありもしない。それは私だけでなく恐らくは彼も隣に並ぶだろう人達も理解しているのである。ただ、何も知らない民衆はそれを信じ、湧き上がるのである。
「我々は共に進もうではないか、平和な道筋へ。何も恐ることもない未来へ。我々は勝利したのだ」
彼の言葉にまた歓声が上がった。最後に戦死した者達へ敬礼と黙祷を捧げた彼らに同じく黙祷を捧げる。歓声の中、演説を終えた彼は一足先に部屋に入る。そばにいた将軍に背を押されるように中に入って息を吐いた。見られては居ないだろうが、あまりいい気分ではない。二度目である。しかし、前はもう少し人が少なかった。そもそも、私もジャックも列に並んでいる方だろう。また足音が聞こえてやってくる。そちらを見ればあの男がまだいた。
「陛下!ご説明を!」
「説明も何も、彼女は他の将と同じように石に選ばれた」
「そんなもの、偶然でしょう?」
「そうだろうな、だが、そうでもない」
彼は淡々とそう言ってこの話は辞めだと告げる。男は私を見下ろした。
「こんな小娘、ただの穀喰い虫だ。どうせすぐに死ぬ」
その言葉に皇帝が少し眉間にしわを寄せた。それを見て口を開く。
「お言葉ですが、サー。私がすぐに死ぬとお分かりなのであれば、そんなに焦らずとも良いのではありませんか?何を焦っていらっしゃるのです」
私の言葉に彼は目を見開き、笑った。あぁ、そうだとも、と。失礼と頭を下げた男に、あぁこれは男が私を殺しに、正しくは男が誰かを差し向けてくるなと思う。男の背中を見送りながら、口を開く。
「この国の法律に正当防衛ってありますか?」
「まだ法律の整備は進んでいない、ある意味無法地帯だ」
「陛下、彼女の部屋を変えた方がいいのでは。あの部屋は元々あの男が懇意にしていた女たちの部屋でしょう?」
「私の部屋に来るか?」
皇帝がそう笑いながら告げる。ご冗談を、と笑いながら返せば彼は「一番安全なんだがな。まぁ、冗談だ」と笑った。

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許してほしい。完璧に正当防衛である。食事の時だ。一瞬見えた赤い光に近くにいたあのドイツ系であろう男性を押し倒す羽目になった。後ろが壁でよかったな、と思うのは、後ろに兵士がいたら直撃だったからだ。かなり静かな音で食い込んだ弾、であるが、あとが酷い。角度からして斜め上部、すなわちこのホールのようなーー体育館のような食堂の二階部分からだ。
「すいません」
「頭をあげるな」
そう私の頭を自分の胸元に押しつけた彼は、どこからかわかるか、と尋ねたら。
「角度的に二階部分からかと。赤い光が一瞬見えたので」
「狙撃銃じゃないな」
そう私をかばいながら起き上がった彼は周りを見る。いたであろう場所はいない。
「兵士の仕業じゃないな」
「わかるんですか?」
「あぁ、お前が将軍達と何か話している間にあの方から命令があってな。あの人が雇ったならず者だろ。明日には片付くだろうが」
ぽん、と私の頭を撫でた彼に、銃声が響く。ハッとして見上げればファルさんが二階部分にいた。
「ファル」
「あぁ、気にしないでください。殺してませんよ。命令違反者です」
「そうか、俺も行った方がいいか?」
「いえ、貴方はナマエといてください。相手が一人とは限りませんから」
「あぁ、それもそうだな」
過保護だな、と思いながらマグカップに入ったスープをすする。冷めたそれはやはり味が薄かった。

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この人は、似ている気がする。違う部分ももちろんある。だけども、動き方や考え方が、とても。彼が年を重ねればこうなったのではないか、と思ってしまうくらいであるが、些細な仕草が違う。
「ナマエは何が好きだ?」
そう尋ねた皇帝に、何だろうかと頭を悩ます。恐らくは本は好きだ。静かな場所で本を読むのは至福だろう。体を動かすことも好きに入るだろう。
「あまり好きなことは少ないのか?」
「いえ、あまり浮かばなくて」
「本は好きか?」
「ええ、まあ。好きでしょうか。あまりスパイ小説は好きではないですが」
「映画は?」
「映画は普通です。あまり見ませんが。一番の友人が私が好きなジャンルの映画があまり好きではなかったようなので」
「音楽」
「嫌いではありません」
「花はどうだ?」
「花は」
そう呟いて窓の外をみる。赤い花が風に揺れている。
「オオアマナが好きです」
「オオアマナ?」
「真っ白な花です。一輪でも綺麗ですがーー」
記憶の中で白い花が揺れる。
「花畑になると、とても」
そう言って彼に視線を向ける。彼は目を見開いて私を見た。小さく呟かれた言葉は消える。彼は震えるような声で口を開いた。
「君には、それは、似合わない」
「陛下?」
「貴女は、何故、いや、これは、あの人は、あいつらは」
混乱したような彼に、陛下、ともう一度呼べば彼は震える手で私に触れた。
「あり得ない、あり得ないんだ、あるとすれば俺と同じだ。あの国がどこでそんなことが……」
「陛下?どうされたんですか」
「ーーナマエ、お前には別人の記憶があるか?」
その言葉に首をかしげる。別人の記憶とは。彼は私の様子を見て大きく息を吐いた。いや、いいんだ、忘れてくれ。小さくぼやいた彼は私の手を取って顔を伏せる。
「悪い、少しだけ、こうしてくれ」
彼の様子がいつかのジャックと重なる。そっと遠慮がちに彼の髪をすけば、彼はゆっくりと私を見た。
「あまりご無理をしないように」
「……あぁ、そうだな」



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