2018/11/18
アウターハッピーエンド6
アウターハッピーエンド6
デートらしいデートなんかしたことはない。当たり前だ、恋人じゃなかった。一緒に行動することはもちろん多かった。その中で一番デートらしかったのは二人で海に出かけたことだろう。穏やかな時間だった。そう、彼との最後の、穏やかな。
「ナマエ、起きろ」
そう私の頬をペシペシと叩いたのは89だろう。目をゆるかにあけた先にいた彼は魘されてたぜと口を開いた。
「……また食事にきたのか?今作るから」
「いいや、いい。そんなひどい顔した奴に作らせるほど俺は馬鹿じゃねぇ。座ってろ、ホットミルクぐらいは作ってやる」
「……ありがとう」
そう言ってソファに逆戻りする。
「……今日は調子、悪いのか」
「いや、これは、精神的なものだろう。誰かを呼び出したとか、そういうわけではないよ。いや、徐々にあの人からこちらに力が移っている可能性はあるけども。あの人の容態は?」
「よくねぇな。死にたくねぇってピィピィ泣いてるぜ」
「あの人が死んだら君達はどうなる?」
「しらねぇ。ナマエが気にすることじゃねぇ」
渡されたマグカップに口をつける。まごう事なくホットミルクだ。美味しい、と言葉を零せば、彼はそうかよと言葉を零しーー聞こえてきた銃声と共に銃になった。それに目を見開いて、彼を抱え上げる。損傷はない。と、いうことは恐らく、あの人の命が尽きたのだ。今日の予定を頭の中で思い起こす。ベルガーはエフと、ミカエルは確かナインティと、他は待機だったはずだ。作戦時間はもう過ぎている。眉間にシワを寄せて89を摩り力を込める。ジクジクと痛む目を無視して、また姿を現した89に息を吐いた。
「なんだ、いまの、」
「89、他の銃を確認して持ってきてくれ。恐らく誰かがあの人を撃ち殺した、騒がないから味方があの人を撃ったか」
「……あり得る話だな、あの人は敵を作り過ぎてる。今やスパイ説だって濃厚だ」
「それか、誰かが潜入しあの男を撃ったかだ。私はミカエルとベルガーに二つを持って帰れと無線で連絡を入れてくる」
「待てよ、ナマエ一人じゃ危ない。敵がいんなら尚更だ」
その言葉にポン、と89の頭を撫でる。大丈夫だ、といえば、彼は目を少し泳がせた。
「わかった、マスターの命令だ、面倒クセェけど、途中まで一緒にいくからな」
その言葉に頷いて扉を開ける。兵士達が何処かへ向かっている。その波に逆らうように、こっちだと手招いた89について走り出した。
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銃を回収に向かった89と別れ、無線を管理する部屋で連絡を入れれば丁度撤退するタイミングだったらしい。怠いけど連れて帰る、または、ちゃんと連れて帰るという言葉をきいて安堵する。お守りだと渡されたのはファルの本体だろうか。彼を元の姿にするかと思うが、先にジクジクと痛む目に落ち着こうと息を吐いた。
「なんだ、ここ?」
そんな声が聞こえて壁際による。会話からしてここの兵士ではない。と、いうことはやはり侵入者がいたらしい。そっと足音を殺して壁による。
「無線室と書いているな、ということは無線を管理する場所だろう」
「むせん?」
「遠くの人と話すことができる装置だ」
「壊すのが得策か」
扉が開く。中に入ってきた男は世界帝の服装を着ている、が。
「ただの一般兵士が無線室で何している?」
そう尋ねれば、彼らはハッとしたように私を見た。構えられた銃は古いものである。
「一般兵がここに入るには上官の許可が必要だろう」
「……申し訳ございません。外の騒ぎの中、ここを確認せよ、と上官に命じられたので」
「そうか、賢い判断ができる上官がいたものだな。命令した上官の名前は?」
黙り込んだ彼らに、まさか上官の名前がわからないのか?と尋ねる。彼らがゆっくりと引き金に手を伸ばすのと、私がファルを後ろ手で握ること、89が彼らの背後から顔をのぞかせたのは同時である。力を込める。その瞬間、青紫色の光とともに現れたのはファルだ。彼が素早く銃を構えるのと同時に89ときるちゅ、アインス、ゴーストが彼らの後ろから銃をつきつけた。
「引き金から手を離しなさい。さもなくば、集中砲火を受けて蜂の巣ですよ」
「まぁ、頭を吹っ飛ばしてやってもいいがな」
「両手を上げて武器から手を離しなさい」
そう促せば彼らは両手を挙げた。銃を落とした彼らに眉間にシワを寄せる。
「あとの処遇は陛下に任せます。アインスは陛下に報告を」
「殺さなくていいのか、『マスター』」
「彼らの銃を奪いましたから、殺すならこの銃を壊せばいい話です。まぁ、壊しても死ななければ人ですから撃ち殺すしかありませんけどね」
ジクジクと痛みだした傷に連れて行きなさい、といえば現代銃達は了承して彼らを連れ出した。静かに閉まった扉に息を吐く。たらりと顔に流れた血にあといくつか姿を人に変えなければならないのだと思う。もう一度開いた扉の先にいたゴーストに、ゴースト?と彼を呼べば彼は顔を真っ青にしてこちらに駆け寄ってきた。
「ナマエッマスター!?マスター、どないしたん、血、いやや、マスター、死なんといて!」
「大丈夫、死なない、いっきにやったから、」
「そうか、ワシらを一気に呼び出したからやな……」
苦しい。痛い。ゴーストの服を握って息を吐く。落ち着け、と痛みを逃すように。それを繰り返し、やっと落ち着いた痛みに、ため息を吐いた。
「もう大丈夫だ、ありがとう」
「マスター、でも、酷い顔色やで」
「大丈夫」
ポン、と彼の頭を撫でて立ち上がる。ふらついた体を器用に支えた彼は、まだ無理や、と首を左右に振った。
「待っとき、アインスの兄さんが来るから」
「断定か」
「ああいう奴らの扱いはアインスの兄さんより、ファルの方が向いとるからなぁ」
ガチャリと開いた扉を見れば、たしかにアインスが戻ってきていたらしい。
「ゴースト、マスターは無事か」
「大丈夫」
「大丈夫、やないやろ、マスター。アインスの兄さん、マスターを部屋に連れてって上げて」
「あぁ、……酷い血だな……俺たちを一気に呼び出したからか」
「これくらいまだ大丈夫だ。他もいるだろう?エフやナインティ、ラブワン、モーゼル」
「89が持ってるが間をあけた方がいい」
アインスが軽々と私を抱き上げる。ああ軟弱な体になってしまったなと苦笑いすれば、何笑ってんだと小突かれてしまった。
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部屋に帰るとソファに座らされ、血だらけになった眼帯を外される。目を開くことはできそうもないが、出血部位は恐らくその辺りだろう。タオルを押し当てて息を吐く。この傷の厄介なところは目であるが上に処置が難しいことだ。
「ゴースト、マスターを見ておけ。ナマエ付の衛生兵をつれてくる」
「わかった」
ぐしゃりと私の頭を撫でてアインスが部屋を出る。心配そうな表情をしたゴーストにもう一度大丈夫だと笑ったが、体はソファに沈んだ。
白い花びらが舞うそこで、誰かがいる。その姿には見覚えがあった。嫌悪と呼ばれたあの世界の養父である。彼は私を見て微かに名を紡ぐ。ナマエ、と。しかし、それに近づこうとすれば強い風が吹いて目を覚ました。
目を覚ませば自分の部屋ではない。医務室とよばれる場所である。どうやら処置のために移動したらしい。重い体を引きずるように起き上がろうとすれば、物音に気付いたらしいメディックが寄ってきた。
「ナマエ様、無理はいけない」
彼はそう言って私を寝かした。大丈夫、といったところで顔が青いとかれは怒るのだろう。諦めて医務室のベッドに寝転ぶ。
「どれくらい寝てましたか?」
「一週間ほど」
彼の言葉に起き上がろうとすれば、ダメだって言ったでしょう、と怒られる。
「陛下からの言付けです。潜入者の件は片付いたから安心してくれ、寝てろと。それとザイル様から力の反応が消えたとも」
「力の反応が消えた?」
「ええ。荊が彼の腕を支配し、腐敗を始めたんです。あのままでは命に関わる為切り落とした、が正解なのですが」
「完全にあの人の力が無くなったから、彼らは元の姿に戻ったのか。きちんと上書きできてなかったのか」
「恐らくは。今はお休みください。私は陛下に報告をして参ります。私がいなくなったからといってどこかに行かないように」
そう釘を刺した彼に、無言の抵抗をすれば、返事は、と言われる。はい、と返事すれば彼は部屋から出た。
「どこかに行くなとは言われたが、起き上がるなとは言われてない」
そう言って重い体を起き上がらせる。ベッドから降りて窓側に移動した。何も変わらないということは大きな損害もなかったんだろう。タバコを拝借しようかとタバコのケースを触りかけたところで扉が開いた。
「ナマエ、何しようとしてた?」
「陛下、いえ、タバコを拝借しようかと」
「ダメだ、命を縮めるぞ。あと、起き上がるな」
「陛下だって葉巻を吸うでしょう」
「俺は老い先が短いからいい。主治医の命令だ。ベッドに戻れ」
そう私を抱えた彼は少し眉間にシワをよせ、私をベッドに戻す。何か?と尋ねれば何もと言われてしまったが。
「銃達は?」
「実体化している銃は作戦に動員している。されてない銃は今あのメディックに持って来させている」
「止められるかと」
「止めてもやるだろう?さっきみたいに」
忠告した彼にバレてると苦笑いする。彼は息を吐いて私の髪をすいた。
「無理をして欲しくない」
「それは貴方がジャックの記憶を持つから?」
「……あぁ、そうだな」
「エイバブ陛下に教えるならば、人は遅かれ早かれ死ぬよ」
「だが、君は前でさえも短いというのに」
「もっと短い人もいるさ、貴方が気にすることじゃない」
「だが、俺が怒られてしまうな、あの人に」
「私はどうもそういう運命なんだよ、陛下。気にしてはいけない」
そう言えば、彼は髪をすいていた手を止める。近づいてきた顔にそっと目を伏せた。リップ音と共に離れたそれに目をゆっくり開く。顔を見る前に、抱き寄せられてしまったけれど。
「君がこうしてくれるのも、俺があの人の記憶を持つからか」
「さぁ、よくわからない」
言葉を濁して、大きく息を吸った。
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