2018/11/24

↓改変

・下の書き直し、他番外編の番犬さん要素がある
(番犬さん=ヤマトと同い年か年下=何やかんやアキが保護して懐いて今。白よりのグレー。たまに真っ黒)

恐らく、因果応報というものなのだと見えない視界の中で思う。闇の中を生きるしかなくなったのである。最後に見たのは私の目を切りつけた犯人の顔だった。それが家族や友人、あの人の顔ならばどれほど良かったか。誰かがやってきて私の手を掴む。アキと呼んだ声にようやくそれがヤマトだと理解した。どうしたの
ヤマト。そう問いかけても私の喉がなることはなく、ただ空気のように消えていく。そんな私を誰かが人形と蔑んで告げる。そうして正しくは私は『マリオネット』になったのだ。

真っ暗な世界というものも、十年経てば慣れるものである。声が出ないというのも、文明の利器が解決してくれる。私がこうなってしばらくーーいやこうなってからはアメリカにいた為、久しぶりの帰国である。酷く私を心配する両親やヤマト、哀ちゃん、その他ヤマト繋がりで仲良くなった人達にもういい年なのだからと説得したのはつい最近のことだ。そして、今回の帰国に繋がったのである。はじめちゃん達にはアメリカに渡ってから会っていない。即ち、彼らにとっては私は音信不通の人物になってるわけだ。そんな彼らに会いにきたの、だけど。
ーーきて早々、迷子になりかけているのが現状である。
参った、と息を吐く。やっぱりヤマトに付き添いを、と思ったが、パパになっている彼に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。困ったな、と思っていれば、アキさん、と懐かしい声が聞こえた。どこにいるのだろうかと思えば重ねられた手に、ああ近くにいるらしいと理解する。
明智警視。そう呼べども声は出ない。少しの沈黙のあと、彼はおひさしぶりですね、とそっと手を取った。

「ヤマトくんから話は聞きました。また思い切った決断をされましたね。単身で日本に来るなんて」
その言葉に苦笑いをする。会いたい人がいるから、といえば彼はなんというだろうか。最後にあったのは捕まる前だ。それから手紙だけを交わしていたが、こうなった時にやめてしまった、というか辞めざるを得なくなった。慣れてから何度か手紙を出そうとも思ったけれど、印字された文字なんて味気ないので出せないままだ。私が出すから彼は返事をくれるのであって、私が出せなくなると彼からの手紙は届くことはない。ただ、年に一度だけ。薔薇の花が届くだけで。
「付き添いが来ると聞いてたんですが」
『付き添い?』と尋ねるように首をかしげる。それを汲み取った彼はまた口を開く。
「えぇ、ヤマトくんから、貴女が日本に向かったと聞いて追いかけていったと」
その言葉に頭を抱えてしまったのは仕方がない。恐らくケンのことだろう。ヤマトくんから貴女の番犬のようだとお聞きしてますよ、と告げた明智さんにため息をつく。慣れた手つきでタブレットを取り出して入力する。
『名前がケンだからって、ヤマトが揶揄うんです。番犬って』
「ヤマトくんと歳が近いんですか?」
『多分、同い年だと。でも、いない隙にいかないと』
「どうして?」
『多分、根っこの方がいまから会いに行く人に似てるって言ったらわかります?』
私の言葉に彼は息を飲んだ。それは正解ですね、と小さく彼は頷く。そこからは雑談である。ヤマトの近況を話していれば目的地に着いたらしい。ありがとうございます、と言えば明智さんのスマートフォンが音を立てた。しばらくの会話、のち、申し訳ありませんが、という謝罪。どうやら事件があったらしい。大丈夫、と苦笑いして私はそこに足を踏み入れた。

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危険物である杖、連絡手段でもあるタブレットは先で預かられてしまった。タブレットだけは、と言ってみたがダメとのこと。仕方ないので覚悟を決めてそこに向かうとする。警官に手を引かれてやってきたのは厳重な警備の奥、ここからは一人でと促されて廊下を歩く。カツンカツンと鳴り響くヒール、どこに立っているかわからないような感覚に少し緊張する。どこで先が終わるのか分からず、ただ足を進めていれば声がした。
「懐かしい靴音ですね」
そのたった一言に、私は足を止める。泣いてしまいそうだった。どれくらい先に彼がいるかわからない。駆け出したい気持ちを抑えて私は足を踏み出す。
「随分と手紙が来ないから、もう愛想をつかされたのかと。マジシャンとしての話も聞きませんし」
淡々とした声だ。少し冷たさを含んだ。どれくらい先に終わりがあるかわからなくて手を伸ばす。小さく困惑したような声で、アキ?と声がかかる。跳ねた心臓に、彼の名前をよぶが、それは空気に溶けて消える。一歩、一歩、足を踏み出してようやく触れたその金属の棒にああその先に彼がいるのだと息を吐いた。
「アキ、その目は、」
困惑を隠せないように彼は私の手を握る。ああ、彼の手だ。ずっとずっと求めていた彼の手だ。ポロポロと流れる涙は止まりそうもない。
「その目はどうしたんだ、」
彼は少し絶望したようにそう口を開いた。今の私には答えるすべはない。アキ、ともう一度私を呼んだ彼に、私は言葉を紡ぐ。それはやはり空気となるだけだった。それを見て彼は何かを察したのだろう。するりと私の手から手を話した。「嘘だろう?」と彼は小さく呟く。しかしそれは一瞬で、彼はすぐさま私の手を握る。強く。痛いくらいに。恐らく彼は全てを理解したのだ。私が手紙を出さなかったのも、私が奇術師貝から消えたことも。
「誰ですか、貴女から声を奪ったのは。誰ですか、貴女の視界を奪ったのは。誰ですか、貴女の華々しい舞台を、輝かしい功績を奪っていったのは」
ギリギリと痛いくらいに握られる。
「貴女を物言わぬ人形に変えたのは、誰ですか」
泣きそうな声だ。そんな声が珍しくてつい顔をあげる。見えるわけがないのに。もう一度彼の名前を呼ぶ。力を失った彼の手から、そっと格子の中に手を伸ばした。そうして彼の髪に触る。伸びているのかもしれない。彼の髪は随分と長い。
その指を掠め取った彼はその手にもう一度触れる。そして当たった感覚に、私はゆっくりと目を開けた。見えるわけではないけど。警察の人がそろそろ時間ですと声をかける。名残惜しいけれどそっとと手を離せば、彼もまた手を離した。またね、とだけ口を動かして回れ右をする。そのまま恐る恐る足を踏み出せば、高遠くんが口を開く。
「アキ、24歩数えるといいですよ。貴女の歩幅で警官の元まで行けますから」
その言葉に形だけ振り返る。また、と穏やかな声で告げた彼に私は足を踏み出した。ちなみに本当に24歩で警官の元にたどり着いたらしく、警官も驚いていた。

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杖などを受け取りに行けば、迎えがきてますよと言われる。迎え?と首を傾げれば、聞こえ慣れた足音が聞こえた。
「アキさん」
そうなを呼ばれてから手を取られる。「探しましたよ」と告げたのは恐らくケンだろう。どうしてここにと言えば彼は口を開く。
「一人暮らしは無理です。この前お気に入りのマグカップを割ったり危うく大火傷仕掛けたことをお忘れですか」
うっ、それは。固まった私に彼はチクチクと釘をさす。かけ間違うボタン、誤って押すスイッチ、エクセトラ。
「どう考えてもアキさんの一人暮らしは難しいので手伝いに。日本云々はヤマトに聞きました。ここのことはアリスさんにね」
筒抜けである。ガックシと肩を落とせば、ケンはしばらくの沈黙の後、さぁ帰りましょうと私の手を引いて歩き出した。車もレンタルしてますよ、といった彼は本当に番犬である。



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