2018/11/25
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あれ、もしかして、アキ?
そう参加していたパーティーで声をかけられる。どこにいるのかと首を傾げれば、ケンが後ろですね、とクスクスと笑いながら告げた。後ろを振り返れば近くにやってきていた彼は足を止める。そして戸惑ったように口を開いた。
「アキ、なんだよな?」
「アキさんのお知り合いか……あぁ、あの幼馴染の一人ですね。えぇ、この方は飯塚アキさんで間違いがありませんよ」
そう言った彼に、タブレットを使って、久しぶり、と言えばはじめちゃんは息を飲んだ。
「どうしたんだよ、それ。お前、アメリカでショーするって」
「あら、管理者さんは知らないのかしら」
聞こえてきた声は女の人の声だ。当たり前だろ、と言ったのは男の人の声だろ。
「マジック界でも一部の人間しかしらねぇよ。あのアキ飯塚が10年前の事件で人形になっちまったなんてな」
「事件?」
「たしか子供を庇ったんだっけか?いや、恋愛のもつれ、いろんな噂はある。目を潰されてーー喉も潰され、華々しい世界から去っちまった、つうことだ」
チクチクと針を刺すような言葉だ。悪意の塊である。
「で、飯塚さんよ、アンタのトリックノートの譲り先は決まったのか?俺ならアンタのトリックが使いこなせる」
「あら、抜け駆けかしら。私こそが相応しいわ」
そこから始まる声の連鎖に息を吐く。これだから、彼らは。ちなみに高遠さんが教えてくれたマジック、近宮さんのトリックノートはとりあえず私が持っているが、私が作ったトリックは真田さんと快斗くんに譲渡するつもりである。だからこんな問答は無用なのだ。
「それとも、アンタの一番弟子に譲る気か」
恐らくその矛先がケンに向いたのだろう。
「さぁ、アキさんがトリックノートを誰に譲ろうが、部外者である貴方達には関係がないのでは」
「あら、そういう貴方が一番トリックノートを欲しているんじゃないの?」
「あいにく、私は奇術師ではないもので。行きましょう、アキさん、ここにいる人を相手にする必要はない。旧友と話すならどこか違う場所に行ったほうがいい」
そう私の手を引いたケンは、貴方もですよ、管理者さん、とはじめちゃんに声をかけた。
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彼女から両の目を奪った犯人は、彼女から声を奪った犯人は酷く暴力的な人間だった。たまたま給仕としていた私を庇ったのがきっかけなのだろうか。彼女の容姿を気に入ったのがきっかけだろうか。彼女はソレの手にかかりーー人形にされたのだ。もう発見が少し遅ければ、恐らく、彼女は。
くいっとケンの服を引く。なんですか、アキさんと告げた彼は恐らくいらないことを考えていたんだろう。
「アキ、お前は帰ったほうがいい」
そうはじめちゃんが私の両手を握る。いや、頼むから帰ってくれ、と願うように告げる。恐らく、彼は思い出している。高遠さんの始まりを。近宮さんの事件を。まさか自分もこうなるだなんて思わなかった。
「それは賛成です、アキさん。黒羽先生や真田先生に会えると思いましたが、まさか二人ともご欠席なんて」
「黒羽?真田?」
「貴方はパーティーの管理者なのにご存知ないのですか」
そう尋ねた彼に、はじめちゃんの代わりに女の子が答える。
「主任、世界的マジシャンの五本指のうちの二人ですよ!知らないんですか?」
「いや、流石に知ってる。黒羽は俺と同い年のやつで、アキを通して知り合ったあとたまに会うし……真田さんもアキの師匠的な人だし……」
「ほぁぁ!?主任、顔、広すぎません!?」
「なぁ、その二人って招待リストにいたか?」
「いるわけないですよ!そんな」
その言葉にパチリとピースが嵌る。それは恐らくはじめちゃんもケンも同じだろう。ケンにタブレットを通して帰りましょうと伝えれば彼は頷いて私のそばを離れた。はじめちゃんもまた今度お話ししましょう。そう告げれば頷いた彼、だったけれど、私とはじめちゃん、そしてマジシャンズセレクトが揃った時点で許されるわけがなく。
「アキさん、やられました。近くで土砂が崩れてここからは出れないと。山道を降りてもいいのですが、整備されていないようでしたし貴方には危険すぎる」
そうなりますよね、やっぱり。
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トリックノートが引き金になるのなら、トリックノートを燃やして仕舞えばいいのでは。そもそも私を殺さなければトリックノートは回収不可では。まぁ、恐らくケンがそばにいるので彼らは手を出せないのだろうけど。
「ケンさんと飯塚さんってご夫婦なんですか?」
そう爆弾発言を落としたはじめちゃんの部下に、首を左右に振る。じゃあ執事とか?と言った彼女にそれも違うと首を左右に振った。私からすれば、変に懐かれたなあの子に、という感じである。高遠さんと昔の私の関係に似ているけれど、それよりは健全である。
あの子が気負って私の世話を焼いてくれてるだけです、とタブレットで告げる。そういうことでいいです、とはそばではじめちゃんと事件について話していたケンの言葉だ。
「そういうこと?」
「アキさんの中の私は16才のままで止まってるんです。アキさん、何度も言いますが、私もヤマトももう20代、しかも後半に差し掛かってるんですよ」
『でも弟には変わりないですよ、貴方もね』
「……もうそれでいいです、それで」
少し不機嫌そうなのでぐしゃぐしゃと彼の頭を撫でてみる。だから子供ではないと、という割には声は少し嬉しそうである。ふふ、と笑ってしまったのは仕方ない。それを見て回りが黙ったのには首を傾げたけれど。
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「なぁ、なぁ、なぁ、トリックノートは俺のものだろ?」
そう言って犯人らしい男性は私の服をつかむ。俺はあんたの弟子になりたいんだ、なぁ、なぁ、なぁ。荒い言葉、縋るような言葉。そんなものを告げた彼はどこにいるんだろう。うっすらと目を開く。見えるわけではないけども。彼の手が私の服から離れたのをみると、目はあっていたらしい。ジャケットの中から小さな手帳を取り出せば誰もが息を飲んだ。誰かが足を踏み出す前に懐からライターを取り出してそれを燃やす。悲鳴をあげた彼らを無視して地面に燃える手帳を落とし、側に置いていたらしい酒瓶をとった。匂いからしてきついお酒だろう。その酒を注げば、熱は酷くなる。あ、あ、と誰かが崩れ落ちる。ハッとした誰かが火を消すのよ!と叫んだ。私を押しのけるようにした人たちを無表情で見つめる。
「アキさん、ノートは無事全て燃えました。ご安心ください。それにしても醜い」
吐き捨てるように告げた彼に、私はそうだねと口を微かに動かす。欲は人を殺すとは何度見たことだろうか。泣き声、叫び声、怒号、そんなものから遠ざけるようにケンは私の手を引いてソファに座らせた。
「アキさん、火傷はありませんか?」
「アキ!!危ない!!」
はじめちゃんの声に顔を上げる。誰かが駆け寄ってくる音にケンを避けさせようとすればーー逆にケンが私を庇った。血の香りはしない。しかし、その代わりチェーンが落ちるような、そんな音がする。
「アキさんに手出しはさせません。醜い奴には、醜い最後がーー」
その言葉に、いけないと彼の服を引けば、彼は一瞬息を詰めて口を開く。
「寝なさい、起きるな、警察署まで」
その発言に誰かが倒れる音がする。ため息をついた彼に、もう一度彼の服を引いた。怪我はないだろうかと触る。慌てて駆け寄ってきたはじめちゃん、入ってくる警察に息を吐いた。
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「申し訳ございません。つい、カッとなってしまって」
そう頭を下げたケンの頭を探り、デコピンを一つお見舞いする。はじめちゃんと話を聞いてやってきたらしい明智さん、葉山さんは私たちのやりとりを見ているのだろう。罰として荷物取ってきてください、と口を動かせば彼はそれを察したらしい。荷物を取ってきます、と彼は靴音を鳴らして歩いて行った。
「彼が噂の番犬くんですか」
「番犬?」
「ヤマトくんが彼をそう称すので」
「たしかに番犬だな、ありゃ」
はじめちゃんの言葉に息を吐く。もうそれでいいや。
「あの時、アイツ何したんだ?」
『あの子、催眠術が得意なんですよ。それをかけたみたいで。警察署に行けば目を覚ますかと……』
「催眠術〜?」
「ぐっすりしているのをみると、ほんとうですよ、金田一くん」
そんな穏やかそうな会話だ。でも、恐らく明智警視は違う。
『似てるでしょう?』
そう尋ねれば、彼らはまた黙った。誰に、なんてわかっているだろう。
『あの子、結構危ういんです。倫理観と言いますか、そういうものが酷く他人と違うと言いますか。高遠さんに根っこの方がすごく似ている』
「!」
「そう思うのなら、アキさん、貴方は何があっても生きるべきです。恐らく、貴方が死ねば彼を踏み外すでしょう」
その言葉に苦笑いをする。そこまで脆くないと思うのだけど。
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