2018/12/27

↓没

「第1、最上階の部屋が空いてるじゃないか!」
「あそこたけ入居者がいるんです!」
「うそつけ!今まで観たことないぞ!!」
「年に数回しか帰ってこられない方なんです!!」
みたいな話。

==

「そういや、未だに最上階のやつ見てないな。どんな奴なんだ?」
「なんでもレーサーとして世界各地のレースに出場してるみたいですよ。確か、ウーデットくんと同い年の」
「へぇ、僕と同い年か」
「女性です」
その瞬間ガタリと反応したナンジェッセさんは流石だと思う。しかしながら、恐らく彼女は彼の想像とは全く違うだろう。見た目少年っぽいし。髪の毛はショートカットであるし、女性の平均よりは背が高いけども、海外からしたら少年ぐらいの背丈だろうし服装も少年っぽい。あと極め付けに童顔寄りだ。そういう意味で期待しない方がいいですよ、といえば怒られたのだけど。

==

久方ぶりに隠れ家的なアパートに帰ってきたら、何かガレージのようなものができていたし、何より入居者が増えたらしい。部屋の扉に貼っているステッカーは昔の飛行機のステッカーだろうか。あまりジロジロ見るのも悪いかととりあえず荷物を置きに部屋に向かおうとすれば男性が降りてきた。海外の人だろう。英語で挨拶をすれば数秒後に帰ってきた返事に苦笑いをする。
「最上階に住むナマエ・苗字です」
そう名乗れば彼は少し驚いたような顔をして口を開く。
「……二階のミック・マノックだ」
名乗られた名前に目を瞬く。昔のエースパイロットと同じ名前である。イギリスの方ですか?と尋ねればどうしてわかった?と言われる。
「いえ、ミック・マノックはイギリスのエースパイロットの名前だったな、と」
「詳しいのか」
「そこそこは?」
そう首を傾げてスーツケースを持ち直す。貸せ、と言いつつスーツケースを持った彼は優しい。そのまま部屋まで持ってきてくれた彼にお茶でもどうかと誘えば仕事だと言われてしまった。残念である。
少し休憩してシゲノさんにお土産を渡すつもりが、がっつり寝てた。時差ボケ辛い。そのままお土産を手に部屋を出れば二つ下の階から騒ぎが聞こえる。なんだろうかとそちらに行けば、先程のマノックさんが竹刀片手に他の方に向かうのが見えた。なんだ、喧嘩か。止まったマノックさんに止めようとしていたシゲノさんが私に気づいたらしい。苗字さん!!と叫んだ彼に他の人たちがこちらを向いた。なるほど外国の人ばっか。
「こんにちは、シゲノさん。マノックさんは先程ぶりです。入居者が増えたんですね」
「あぁ、えっと、うん、あはははは」
なぜに苦笑い?と思いながら彼にお土産です、と袋を渡す。いつもありがとう、と受け取った彼は口を開いた。
「今回はヨーロッパの方ですね」
「へぇ、いいなぁ。しばらくここに?」
「そうですね、しばらくはお休みです」
「……騒がしいかも」
「構いませんよ、慣れてますし」
そんな会話をしていたら、青年がひょこりとやってきた。
「君が最上階の?」
「ええ、はい」
「シゲノ、本当にウーデットと同い年なのか?まだ子供じゃないか」
「16、7歳じゃないんですか?」
「あぁー、よく言われます、海外の方に。こう見えて21歳です。あと、女です」
両手を上げていう。降参?と首を傾げた彼らに私も首を傾げた。
「みなさん、留学か何かですか?」
その一言にシゲノさんが固まったのだけど。

==

「……」
「苗字さん、どうかした?」
「いえ、みなさんパイロットの名前なんだなって。しかも、行方不明になってるパイロットの名前なんだなって」
全員の名前を聞いて思ったことを率直に言えば、シゲノさんがまた固まった。詳しいのかい?と尋ねたリヒトホーフェンさん(兄)の方に、そこそこは?と首を傾げておいた。どこからが詳しいに入るのか私はわからない。私の隣にいるナンジェッセさんがウィンクしながら、「本人だって言ったらどうする?」といたずらっ子のように告げた。
「行方不明になってこの時代に来たと?なにそれ、映画みたいで楽しい。でも、もし本人なら……」
少し考える。スピードを競ってほしい?話を聞きたい?色々考えてまわりを見る。とりあえず。
「ミスター・マノックとリヒトホーフェン兄弟を近づけさせませんかね、絶対近づいちゃダメでしょ」
「苗字さん、それ先に聞きたかった」
うなだれたシゲノさんに、え、ともう一度彼らを見る。いやいやいや、確かに喧嘩してたけど。本物?と首を傾げれば全員が頷いた。それを見て浮かんだのが、わぁ、サインもらわなきゃなあたり私の頭は思考を止めたらしい。
「あぁ、だから喧嘩してたんですね、同盟と連合で」
「シゲノ条約で命の取り合いはないから安心してね」
「命の取り合いが発生したらそれこそやばいのでは」
そう言いつつ酎ハイに口をつける。
「ここが飛行士たちのヴァルハラだったのかぁ」
「苗字さん、違うからね?」
釘を刺したシゲノさんに「冗談ですよ」と手を振っておく。がくりと肩を落とした彼を気にせず、そういえばと口を開く。
「ギンヌメール大尉は飛行機ごと行方知れずでしたね、あのガレージに飛行機が?」
「待って、苗字さんめちゃくちゃ詳しい人だ」
「父親がそれくらいのパイロットが好きなので、その影響ですかね。あと私もなんやかんやで」
そう言いつつテレビに映りそうになった大会に、私の名前が出る前にテレビを消す。あぁ!?と声をあげたウーデットさんに、そのままスルーしつつ口を開く。
「それくらいの時代の飛行機が好きなので」
「なんで消したの!?見てたのに!」
「うるさいなぁっていうのと腹たってるのでつい」
「え、やっぱり騒がしいの苦手!?」
「そういうことじゃないんです、そういうことじゃ。ただ今回の大会あんまりいい思いをしなかったので腹が立ってるというか」
ぐびぐびと酎ハイを煽る。女の子だからと止めに来たリヒトホーフェン(弟)をジト目で見た。
「苗字さん、何かあったの?」
「最終日前日というか決勝まではサリーの調子、いつもと同じぐらい良かったのに」
「サリー?」
「誰かにへんな細工されてブレーキ効かなくなって、海に着水したんですよ。それで失格して今季の優勝のがしました」
「へ?」
「可哀想なサリー、すぐに修理してあげてるけど、可哀想」
「……反則じゃないのか?」
「バレたらね。ただ、誰がやったかの立証は難しいしサリーから離れた私も悪いので。まぁそれよりも、女がこの大会に出てるのがおかしいっていう発言の方が腹が立ったので」
「ちなみに何の大会なんだ?」
「空のF1です。エアレースです。こう見えてパイロットなんですよね」
は、は、は。そう言えば周りがピシリと固まった。女は飛ぶなと言われるだろうか、でものちの時代ロシアでは女性パイロットがいたはずである。ウーデットさんがナンジェッセさんをずいっと押しのけてこちらに近寄ってくる。
「え、え、じゃあ、君が白鳥!?サリーであの真っ白な飛行機!?」
「えぇ、まぁ、」
「着水って、墜落ってこと?!」
「いえ、不時着が正しいです。海面と水平飛行から海面にタイヤを当てて地道に長距離をかけて減速、一部始終を無線でやり取りしてたほかパイロットに助けてもらいました。効かなくなったのがブレーキで助かりましたよ。エンジンならもっと危なかった。まぁ、細工した人も私を殺す気はなかったってことですかね」
「大会側に訴えなかったの?」
「女が大会なんかにでるから。女のいうことなんて信頼できない。どうせ唯の負け惜しみって偉い人に言われましたね。まぁ、周りが私より怒っていたので怒りが引いてたんですけど日本に帰ったら腹が立ってきました。お望み通り、もう大会に私は出ないことにします」
「えええ、」
「逃げていいのか?」
「私がフライトすると観客動員数伸びるんですよね。私は客寄せパンダじゃないんですけど、実際私が参加しないと経済的な損失は結構でるらしいんです。なので経済的には勝ち逃げです。私は南の島に戻って自由に空を飛ぶことにします」
またチビチビとお酒を飲む。そもそもレースに出たのも他のパイロットから薦められて出はじめただけだし。ピンポーン、とインターホンがなり、はーいー、とシゲノさんが向かう。聞き覚えのあるこえに振り返れば見知った人物がいた。ドタバタとシゲノさんを押しのけてやってきた彼に眉間にシワをよせる。そういや大会名簿の住所ここだったな。
「ナマエ、レースをやめるなら俺と一緒に暮らそう!」
「マノック少佐に生まれ変わってからその台詞をどうぞ」
さらりと笑顔で言えば彼は両手で顔を覆った。
「またそれか……この前ドイツ野郎にはリヒトホーフェンサーカスに加わってからって言ったろ。アイツ割と本気でドイツ空軍入ろっかなって言ってたぞ」
「まぁ、入ったところでなんですけどね。私はサリーとスワロフと添い遂げるのでご遠慮します」
「サリーは君の飛行機だが、スワロフは誰だ」
「あのぅ、苗字さんの知り合いですか?」
恐る恐る尋ねたシゲノさんに、彼は「ああ、さっきはすまないね、」と告げる。
「ナマエに目がなくって」
「彼はイギリスのエアレース選手です。リックと言います。リック、彼はここの大家のタカユキ シゲノ」
「他は?」
「他は同じアパートにすむ……旧型飛行機愛好会の方々」
そういえば彼は首をかしげる。いや、だって流石にリックは理解してくれない。まさかお薬を……とか、あの事件で精神をわずらわって……!?とかなりかねない。
「旧型飛行機……第一次世界大戦前後のやつか。僕も好きだよ」
「で、ちょっとしたお遊びで彼らはその頃のパイロットの名前を名乗ってますので、そう呼んでください。右から、イギリス人のマノックさん、フランス人のギンヌメールさん、ナンジェッセさん、ドイツ人のリヒトホーフェン兄弟に、ウーデットさん」
「おや、連合側と同盟側が混在してる。しかし、ウーデットに目をつけるのは珍しいね。彼は他ほど撃墜数があるわけじゃないだろう?」
リックの言葉にピシリと彼が固まる。ごめん、ウーデットさん。リックもわざとじゃない。
「リックさんも詳しいですね」
「まぁこの業界にいるからある程度はね。旧型飛行機愛好会ってことは旧型飛行機に乗るのかい?」
「えぇ、まぁ、はい」
リヒトホーフェン(弟)さんがそう言ってうなずく。リックがくちをひらいた。
「ただでさえ部品が少し違うんだ。維持費がかなりかかるだろう?」
「……その一機が壊れてるんだよな」
「は、」
「え、」
さらりと告げたナンジェッセさんに私とリックが固まる。壊れた、壊れた!?墜落して壊れた!?
「誰の!?誰の飛行機ですか!?」
「僕のだよ」
そう手を挙げたギンヌメールさんにガタリと立ち上がる。
「老シャルル号!?あるの!?あのガレージそれ用か!みたいです!」
「壊れたって、どう壊れたんだ!?」
「あー、と、墜落してしまって」
目をそらしながら告げた彼にシュバっと手をあげる。
「ギンヌメールさん、修繕費だします。乗らしてください」
「あれ、ナマエはsb5乗ってるだろう?この前式典で乗ってたやつ。老シャルルも持ってるって噂で聞いたけど」
「あれは両方お父さんが作ったレプリカだし、老シャルルレプリカに至っては兄のやつですよ。父親が設計図探し出したり資料見て作り上げたものですので、実機じゃないんですよね。だから、多分違うと思います」
「君の父君は飛行機技師なのか」
「あぁ、彼女の父親はすごいよ」
「ただの偏屈親父ですよ、飛行機を愛しすぎて母に逃げられた。みなさん気をつけてくださいね。とりあえず、ギンヌメールさん、飛行機……」
そう立ち上がった瞬間ふらついた体に、あ、これ結構お酒入ってるな、と理解する。飲みすぎた。
「……今日は寝ます。明日見せてください。リック、一応ゲストルームあるけどどうする?」
「僕はホテルを取ってるから大丈夫、ありがとう。僕も帰るとするよ。部屋まで送ろうか?」
「大丈夫、おやすみ、次は空の上で」
ひらひらと手を振って部屋に向かう。階段を頑張って登り部屋に入ってすぐ寝た。

==

起きたら9時ぐらいだった。外からは騒ぎが聞こえる。元気だな。とりあえずシャワーを浴びて着替える。朝ごはん作るにも食材がないことに気づき、コンビニでも行くかと思い立って外に出た。
「あれ、ナマエ、おはよう!どこか行くの?」
「朝ごはんを買いにコンビニへ。ウーデットさんも来ます?」
「いくー!」
そのままウーデットさんとコンビニに向かいご飯を適当に買って帰る。
「君の部屋にはゲストルームがあるの?」
「というよりは二つ借りて一つをゲストルームにしてますね。ん……いま住んでる人と部屋数があってないような……」
「大尉たちとギンヌメールは同室だからね」
「え、どっちか使うかなゲストルーム……」
「さぁ、でも、ほら、ギンヌメールはマノック少佐の盾になってるから」
その言葉に納得してしまう。まぁ、何かあるときは貸せばいいか。とりあえずウーデットさんと朝ごはんを食べれば出会い頭にあったナンジェッセさんに羨ましがられた。この人本当に歴史通りの人だな。

==

とりあえず、老シャルルを何枚か写真にとり、父親に送る。というか電話しながら写真を撮って同時にデータを送る。シゲノさん曰くアパートの屋上に突っ込んだらしい。
「今送ったけど、行方不明になってる本機に限りなく近い奴……うん……うん……そうなの?……うん、え、でもどうやって運ぶのさ……あぁ、そういうこと……うん、あー、そろそろそうだね、わかった……近いうちにね、また連絡します」
そう言って電話をきる。何とかなりそう?と尋ねたギンヌメールさんに、とりあえず時間はかかるかもしれないけど、と言っておいた。
「父親が折れたプロペラもってこいって言ってるので持っていっても?とりあえず代用は持ってくるので」
「代用があるのか?」
「規格同じはずのものが一応は」
「ナマエちゃんの父君はきてくれるのかい?」
「よほどじゃなかったら無理ですね」
「ナマエの愛機をなおしてるもんね」
「いや、サリーは特に損傷がなかったし治ったって言わたので、多分また他の飛行機作ってるんじゃないですか」
そう言いつつとりあえず代用を取りに行くかと空を見る。……すぐ飛んで行こうと思うあたり私はダメである。電車で向かって、知人に頼んで車で送ってもらうがいいと見た。ただいまから向かうと私が間違いなく遊び出すのでダメだな。
「他のパーツも父親からおいおい何かしら返答はあるかと思います」
「しばらくは君の父親待ちか……」
「すいません、」
「いや、逆に感謝するよ」
さて、ちょっと出かけきます、といえばナンジェッセさんとウーデットさんが付いてくることになったけど、日用品買いに行くだけである。帰りにアイスを食べて帰ったけど。

==

「あれ、マノックさんがその服なの珍しいですね。お休みですか?」
「……休みだ」
「少しお手伝い頂いてもいいですか?」
そう尋ねれば彼は首を傾げたけれど、いいぞ、と言ってくれるあたり優しい人だろう。ドイツ人嫌いだけど。とりあえず彼を連れて電車に揺られ、いつもの駅で降りる。この先私有地と書かれたフェンスを開けて中に入った。
「ここは?」
「私有地です」
そう言いつつ倉庫の扉を引っ張る。どう見ても滑走路だろ、という呟きは無視の方向で。錆びついてきたな、と思っていれば彼が後ろから引っ張ったらしく割かと楽に開いた。電気をつければあら不思議。古今東西の飛行機だらけである。まぁ、兄のセスナとかもあるけど。彼はそれをぐるりと見て口を開く。
「前に言ってたレプリカか」
「はい、」
あったあったと足を進めれば、レプリカ・老シャルルが現れる。同じレプリカなら規格が同じはずだから使えるだろ、とは父の言葉だ。彼に支えてもらいながらプロペラを取り外す。後は知人に連絡してプロペラだけ運んでもらうだけだ。
「乗ります?飛行機。二人乗りなら出せますよ。遊覧飛行になりますけど」

==

知人に車を貸してもらい、やっぱり飛行機の方が好きだなぁと思いながらプロペラを積んで帰る。なんか色々驚いていたマノックさんは可愛かったです。アパートの前で車を止めれば、ガレージにシゲノさん達がいた。
「あれ、苗字さん車持ってたの?」
「知人の車借りました。マノックさん、ちょっと降りて後ろ開けてください」
「わかった」
そう言って降りたマノックさんに一部が驚愕した。
「え!マノックさんと出かけてたの?」
「プロペラ取りに行ってたんですよ」
「何で俺を誘ってくれなかったの!」
「そこにいなかったので」
「じゃあ、マノック少佐と出かけたのは」
「そこに少佐がいたので」
そう言いつつ車を降りる。プロペラを取り出したマノックさんにギンヌメールさんがかけて行った。
「老シャルルレプリカのものなので多分サイズはあうとおもいます」
さっそくプロペラを直しにかかったギンヌメールさんを眺めつつ、彼を見下ろした。
「部品を取りに行ってたの?お父さんのとこ?」
「いえ、父のとこはもっと遠いです」
「苗字の私用の格納庫にいってた」
ついでに乗せてもらった、とすらりといったマノックさんに周りがピタリと止まった。とりあえず弁明するかと口を開く。
「マノックさん、この時代の免許がないから私の運転ですよ」
「しかし、プロペラがないものが主流かと思ったが」
「私がプロペラ付きのものが好きなんですよね。兄二人はプロペラないの乗ってます。ギンヌメールさん、プロペラどうでした?」
「ピッタリだ。君の父親は素晴らしいな」
「古いプロペラを回収しても?父親が見たがってるので」
そう言いつつギンヌメールさんに近く。部品の接合部などの写真を撮っておく。不具合はなさそうである。そして背後でマノックさんvsドイツフランス連合に「そんなにカッカしなくても」といえばギンヌメールさんがこちらを見上げた。
「空が恋しいんだろ」
「なるほど。あ、ギンヌメールさんは明日あたり予定空けといてくださいね。父親にプロペラ届けて部品とかの発注かけるんで」
「狡いぞ!ギンヌメール!!」
そう叫んだナンジェッセさんに口を開く。
「そう慌てなくても何回か部品取りに行き来するんで飛行機乗れますよ」
「飛行機に乗るのか?」
「あそこ特殊なんで空路か航路しかないんですよ」
「離島なのかぁ。定期船があるの?」
「いえ、飛行機も船も自分で操縦します。免許あります」
「そんなに免許持ってるの?多趣味だね」
「いえ、多趣味というか……スワロフにのるために一応というか」
そう言いつつ立ち上がる。
「サリーとスワロフは苗字さんがよく口にする名前だね」
「はい、サリーもスワロフも私の愛機です。二つとも正しい名前はわからないんですけどね」
「正しい名前がわからない?」
「スワロフは父親が作りましたし、サリーは元は父親の恋人なので。どこのメーカーが作ったのかわからないんですよ。だから名前が女の子の名前でしょう?あと、スワロフは飛行艇です」

==

「ははぁナマエが人を連れてくるのは2回目だが、なんでお前海外なんだ」
「シゲノさんは日本人だよ。飛行機乗れないけど」
そう言った苗字さんに、奥から現れた繋ぎの男性は驚いたように苗字さんを見下ろした。
「ほら、宇都宮のアパートの大家さん」
「あぁ、郵便局のために借りた」
その言葉に郵便局のため……?と首をかしげる。苗字さんは気にしないでと手を振ったけど。
「サリーの様子は?」
「ああ、やっぱブレーキ部品のネジが一本抜かれてたよ。機体の損傷は最低限だったからなおした。もう飛べる」
「ほんと!」
「それよりプロペラくれ」
そうギンヌメールさんに手を差し出した彼に、ギンヌメールさんはおずおずとプロペラをわたす。それをしげしげと眺め始めた彼にギンヌメールさんが頭を下げた。
「この前はプロペラをありがとうございます」
「いや……規格にあったなら何よりだが……アンタ、相当古い機体の復刻に乗ってるな?」
「……というと?」
「このプロペラ、木材だ。しかも今はこの木材は使用されてない。傷やらなんやらからして当時のものかと思ったが、それにしては新しい。こりゃあ行方不明になった本人がタイムトリップしてきたか?」
ははは、と笑った苗字さんのお父さんに、苗字さんとウーデットくんが無邪気に、すごい!お父さん、なんでわかったの!というものだから彼は苗字さんを二度見する。
「いや、ナマエ、これは物の例えというか冗談で……まぁいいや面倒くさい、お前は今日からギンヌメールな。今声あげたやつはウーデット。じゃあついでに右からマノック、リヒトホーフェン兄弟、ナンジェッセでいいか」
「詳しいんですか?」
「まぁ、機体を真似して作ったり整備するぐらいにはな」
「ナマエの父君もパイロットだったんですか?」
「ああ?まぁなぁ、そっち方面からは引退したけどな。機体の損傷箇所の部品はできてるぞ、格納庫まで取りに来たらいい。ナマエ、案内してやってくれ」
「はーい、サリー試走していい?」
「かまわん」
その言葉に彼女は僕たちを置いて駆け出した。案内ではない、

==

並んでいる飛行機に僕らが驚きを隠せないでいると苗字さんが口を開いた。
「さーりーー!」
そうかけた苗字さんは本当に真っ白な飛行機に抱きついた。スポンサー名に某夢の国の名前が入っているのは気のせいだろうか。パイロット達がワラワラと集まってきて、「彼女がサリー?」やらなんやらと話す声が聞こえる。
「本当に真っ白だね。色入れないの?」
「好きな色を入れると色んな国から色んなことを言われるので。あと、敵意がないことを示してるといいますか」

==ぼつ!


==

魘され始めたマノックさんに、気のせいだよ、といってみる。私の言葉に、きの、せい?とかえした彼に聞こえてるらしいと笑った。
「そう、気のせい。燃えるような真っ赤な夕日が見えるだけでしょ、みえます?」
「ゆう、ひ、」
「きれいですね、渡り鳥が海を渡ってるのが見える」
穏やかになった呼吸に、



 Comment(0)
雑多 

次の日 top 前の日