2019/01/10

↓続き

世界は一つであり、光は目に見えないキングダムハーツの恩恵である。しかしながら、あの戦争で世界は散り散りになり、キングダムハーツは姿を隠してしまったのだ。
「その散り散りになった世界のうちのいくつかが、この世界でお伽話と呼ばれるものに変わり、本に記されているのだと思います」
真面目モードでそう告げる。他の世界の宗教みたいなものか、と言われたが、宗教があまりピンとこないため首をかしげる。昔からそうやって言い聞かせられているため、人々が漠然とそうであると思っている状況。それが私達の世界だ。それを聞いていた森先生が口を開く。
「しかし、何故そんな世界で戦争が起こった?国同士の争いじゃなさそうだが」
「わからない。気づいた時には引き返せなかった。ナマエは知っているか?」
「詳しくはわからない。マスターは何かを探してたけれど、その件に私を近づかせることはなかったから。恐らく、彼らの中でなにかが起きたことは確かなんだと思う。多分、戦争に参加した経緯も違う」
「だろうな。俺はあの戦争でマスターにただ勝てとしか言われていない。ナマエは?」
「私は勝者を出してはいけないと」
「う、わ、」
そう声をあげたのは誰だろうか。顔が真っ青になった彼らに、首をかしげる。ディックが顔をしかめて口を開く。
「お前、それ、遠回しに死ねって言われてるんじゃないか」
「まぁね。事実、彼もそうだって認めてた。俺はお前を利用してるんだって怒りながら言われた」
「……」
「でも、別によかった。最後までマスターの役に立てるなら。それにマスターがはじめて私に願った。最後の一瞬までそばにいてくれって」
その顔がとても悲しそうだったから。とても辛そうだったから。私がそばにいることで、彼を少しでも救えるなら、私はそれでよかった。
「まぁ、でも、結果論にはなるけど、私は生きてるから」
はっはっは、と笑う。笑い事じゃない、と怒られてしまったけれど。
「まるで盲信だね」
「そうかもしれません。でも、あの人がはじめてでした。この髪の色をみて、目の色をみて、気味が悪いと言わずに雪原のように綺麗だと言ってくれたのも。暖かいパンとスープをくれたのも。傷を手当てしてくれたのも。彼に会わなければ私はもっと早くに死んでた」
「……お前、どんな場所にいたんだ」
「さぁ?劣悪な環境だったことは確かだよ。ディックはお金持ちのお坊っちゃんだったって風の噂で聞いた」
「そこまでだろ」
やれやれと彼は腰に手を当てる。その実彼は貴族の次男坊か何かだったとは思うけれど。彼が性格や見た目に反して作法が綺麗なのはだからだ。
近づいてきた気配にそちらを見る。ディックも同じくそちらをみた。足音と一緒に騒ぎが大きくなるのが聞こえる。誰かが錯乱するような声も聞こえた。嫌な感覚がする。扉が開き、司書さんが誰かを引きずってきた。
「司書と、太宰?」
「どうしたんだい?司書さん」
「あぁ、よかった、二人ともいた!太宰君達が潜書したんだけど、耗弱状態になっちゃって」
「処置は?」
「医務室にいつも通り入れたんですけど、元に戻らなくって、二人なら何かわかるかと」
そういった司書さんにすっとオサムをみる。何かを纏った彼からは嫌な感覚がする。とりあえず彼に近く。ぶつぶつと呟いている彼の目はどこか虚ろだ。
「傷も治らない?」
「そうなんだよ。少し奥まったところに行かせた俺も悪いんだけど」
彼の目線に合わせて屈み、オサム?と呼びかけても意識はこちらに向かない。チラリと鞄から顔を覗かせているチリシィを見下ろす。
「チリシィ、どうおもう?」
「もう、せっかくキミのためにぬいぐるみのふりをしてたのにぃ」
そう言って鞄から飛び出したチリシィはクルリと周りを見渡し、オサムを覗き込む。
「なんだこれ、新種の生き物か?」
「チリシィはチリシィでナマエのお友達だよぉ」
「使い魔のようなものだ」
さらりとディックがそう告げた為、司書さんが「使い魔!」と声をあげた。
「ううん、ナイトメアに襲われたんじゃないかなぁ」
「ナイトメア?前に言ってた?」
「うん、多分この人は悪夢に落とされちゃったのかも。このままじゃあ、大変、どんどん深い眠りに落ちて、目覚められなくなっちゃう」
「どうすればいい?」
「彼の夢の中に入るのが一番だけど、予知書を修復してくれようとしていたんでしょ?なら、予知書にハートレスみたいなものがいるのかも」
「原因を叩かないと繰り返し、というわけか」
とりあえず彼の手を取り、癒しを、と小さく呟いて魔法を使えば彼の傷は癒えた。もう一度眠りをと言えば彼はゆっくりと目を伏せた。
「え、え、何したの、今!」
「あー、と、とりあえず司書さんも文豪さん達もステイ」
そう言ってチリシィを抱き上げて立ち上がる。
「片方が夢の世界に行って片方が予知書をどうにかする?」
「どうにかってどうするんだ?」
「彼らが怪我して帰ってくるってことは、彼らは予知書の中に入って修復してるんじゃないかっていうのが推測なんだけど」
「本の中に?」
「あ、すごい、あたり。俺や館長は入れないんだけど、先生達は本の中に入れるんだ。で、直接原因を取り除いてる」
「っていうことは、私達も入れるんじゃない?」
そう首を傾げれば、ディックがああそうか、と納得し、周りが首をかしげる。
「ねぇ、二人とも話聞いてた?」
「だが、司書、エドとアルも潜書できたぞ」
「あの二人は本から来たに近いでしょ。第1夢の中に入るだなんてどうやって」
「魔法かな?」
リュウノスケさんが恐らく冗談っぽく言った。
「魔法なんて」
「でも、お伽話には魔法がつきものだろう?さっき太宰くんの傷を治したのも魔法みたいだったし」
ディックがこちらをみる。ヘマしたなお前、みたいな顔で。私は苦笑いする。
「あぁー、錬金術です」
「ほう?傷を治す錬金術か。それは医者としてご教授願いたいところだな」
「ちなみにマジレスすると僕らの世界の錬金術では傷を癒す、他者を眠りに誘うなんてそんなことできないよ。そんなことができたら天と地がひっくり返るし、エドとアルの世界でも禁忌に含まれるんじゃないかな」
「これはバラした方が早いな。魔法だ」
さらりと告げたディックに肩を落とす。そうだけど。注意を促したの私なのにボロを出すのが私って。
「俺たちの世界には魔法がある。だが、外の世界、取り分け魔法が存在しない世界では混乱を生む為、無闇矢鱈に使わないことになっている。だが、魔法についてはまた後でだ。先にコイツと予知書をどうにかする」
「ナマエがこの人のところにいった方がいいんじゃないかなぁ」
「だが、ナマエはスピリットを持っていないだろう」
「スピリット?」
「でも、キミの光は眩しすぎてこの人にはあんまりよくないんじゃないかなぁ。それに大丈夫だよ、ナマエは大丈夫」
クルリと回ったチリシィに首をかしげる。眉間にシワを寄せたディックに、大丈夫だよ、と肩を叩いておいた。
「ユクシィちゃんがいたらユクシィちゃんが適任なんだろうけど、ディックは攻撃系だし」
「うるさいぞ、」
「予知書は頼んだ」
真面目な声でそう告げる。目を瞬いた彼は息を吐いた。
「わかった、」
「ということで、彼を悪夢から解放してくるので。今から起こることも魔法です、魔法」
「なんかパワーワードだな、今から起こることは魔法」
「魔法としか言い表せないので」
そう言って手に力を込める。シャン、という音、光の螺旋とともに現れたキーブレードを彼に向けた。彼の前に浮かんだ鍵穴に、おやすみなさい、とぼやいてから眠りの空間に入る。まぁ、周りが一瞬光って正しくは落下してたんだけどな。私の鞄を掴んでいるチリシィを抱き込む。
「初ダイブおめでとぉ、ナマエ」
「ここが眠りの世界?」
「正しくは彼の夢の中だよぉ」
「スピリットって何」
「僕みたいなもの、なんだけど、夢の中でしか会えないんだぁ。でも、大丈夫、ナマエを助けてくれるから」
その声とともに、何かがこちらに飛び上がってきた。私を無理やり背中に乗せたそれはそのまま綺麗に屋根の上に着地する。真っ白な胴体に青い鬣。赤い瞳。白く美しい角。それが何か理解した瞬間に慌てて彼から降りる。一角獣だ。色がマスターと同じ。「マスター?」と尋ねれば彼は何も返さないまま私の頬に顔を擦り寄りった。
「もー、そんなはずないでしょ、ナマエ。ナマエのスピリットだよぉ。名前をつけてあげて」
「名前を?」
「まさかイラ様と同じ名前をつけようとなんて不届きなこと思ってないよねぇ?」
「ぐ」
先に釘を刺されて何も言えなくなる。そういえば、図書館でユニコーンモチーフのキャラクターを見た気がする。とりあえず感じた気配にそちらを見れば太宰さんが何かに追われている。
「いこう、チリシィ、ユニコ」
そう告げれば、ユニコは私をまな背中に乗っけると駆け出した。

追われていた彼を守るために前に出てキーブレードで切りつける。消えてしまったそれに、振り返ってオサムを見た。
「オサム、大丈夫?」
「っ、ナマエ、?」
うん、と頷いてしゃがみこんだ彼に手を伸ばす。目に迷いがあるのはキーブレードをもっついるから、だろうか。キーブレードを消して、彼の目線にあわせてかがむ。ゆっくりと彼の手をとって癒しを、と呟けば彼の傷は治った。
「う、え、治った!?」
「これで傷は平気かな。大丈夫?」
「大丈夫なわけあるか!気づいたら俺だけしかいないし!わけわからないのが襲ってくるし!春夫先生と芥川先生追いかけても体が変に鈍くなるし!」
「……リュウノスケさんもハルオさんも、外にいるよ?」
「は?でも、確かに」
「それ、付いて行かなくてよかったやつかも。夢から覚めなくなっちゃう感じの」
「……夢?」
「そ、ここは夢。君の目を覚まそうと思って」
ね、とユニコに言えば彼は喉を鳴らした。オサムはパチパチと目を瞬いてユニコを見た。
「馬、に、ツノ?ってことは、ユニコーン !?」
「そこは、ほら、夢だから。オサムの傷が治ったのも夢だから」
そこで彼は頬をつねる。ホントだ、痛くない、とはオサム談である。
「さ、さっさと目を覚まそう。みんな心配してる」
「……俺なんか心配する奴いないだろ、どうせ俺なんて」
そう塞ぎこむようなセリフを言った彼に何かが纏う。いけない、と彼の肩に手を置けば、彼はこちらを見上げた。
「ハルオ達も本当に心配してる。なによりも、私は心配だよ」
「出会ってまだ2週間だろ」
「でも、友達でしょ?」
真っ直ぐに言えば、彼は目をパチリと瞬いた。俺とナマエが?と首を傾げた彼に、うん、と頷いた。
「私はオサムと友達だから、目を覚まして欲しいし、オサムのお勧めの本をまだまだ教えて欲しいよ。だから、帰ろう?」
そう促せば彼は見るからに明るくなって、あぁ、そうだな!と笑った。
「でもどうやったら眼が覚めるんだよ」
「悪夢の原因を叩くしかないかなぁ」
「悪夢の原因?」
「とりあえず、オサムが最初にいた場所まで戻ろう?」
「え、ヤダよ、あんな化け物がいる場所」
「大丈夫だよ、私がいるから」
「でも、」
尻仕込みした彼の手を繋けば彼はカチリと固まった。これで大丈夫、と言ってユニコを見る。
「ユニコ、方向わかる?」
静かにこちらを見ていたユニコがコクリと頷いた。

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オサムが目を覚ましたという場所に行けば、上から巨大なハートレスのようなものが降ってきた。とりあえずオサムをユニコに任せ、キーブレードでいつものように戦う。久々だと時間が取られるな、と顔をしかめたところでオサムが「おい!化け物!」と声をあげた。
「おまえ、オレの悪夢なんだろ!ナマエだけじゃなくて俺にかかってこい!」
そんな言葉にグルリと顔を回したソレは私に背を向けてオサムの方へ足を向ける。そのすきに光の魔法をキーブレードに纏わせてソレの背中をぶった切った。黒い霞が白に浄化されて消えていく。息を吐いてオサムを見れば彼は疲れたという風に座り込んだ。
「怖かった、」
「ありがと、オサム。おかげで助かった」
そう言えば彼は「別に」と目を泳がせながらつげる。友達だからな!と叫んだ彼はまた淡い霞になって消えた。ソレを見たぬいぐるみのふりをしていたチリシィが、夢から醒めたんだよ、とつげる。曇り空が、青空に変わっていく。
「さぁ、ナマエもここからでなくっちゃ」
「うん、……ユニコは?」
「また会えるよぉ、夢の中でね」
チリシィの言葉にユニコの鬣を撫でる。すり寄ってきたユニコに、またね、と告げてルートを作ってその世界を出た。

パチリと目を覚ました先は図書館の談話室である。近くにいたらしいディック達が何かを話している。伸びをすれば司書さんが気づいたらしく「あ、ナマエが起きた」と告げた為視線がこちらに向いた。オサムがかけてきて、良かった!と私を覗き込む。
「なんかさ、夢が夢じゃないような夢みて、ナマエが目を覚まさないし、気が気じゃなかったんだよ!」
「うん、私は元気だよ、ありがと、オサム」
「当たり前だろ、と、と、」
目を逸らした彼に周りが首をかしげる。ソレをみて私が先につげる。
「友達だもんね」
「そう!」
その発言に周りが目を見合わせたのだけど。

==

ハルオさんが頭を抱えている。イブセさんも苦笑いしている。どうかしたのか、と思ったところで、リュウノスケさんが「本当に太宰くんはナマエにへばりついてるね」とつげた。ディックが「まぁアイツ元からちょっと人誑しなところあるからな」と口を挟む。織田作さんが笑いながら口を開いた。
「ナマエが来て自殺未遂とか失踪とかなくなったのはええんちゃう?」
「げ、」
「え、オサム、そんなことしてたの」
「して……ないとは言えない」
尻すぼみになった声に、ダメだよとは言えないんだよなぁ、と思ったりする。チラリとこちらを伺った彼は子供みたいだ。
「オサム、私が旅を終えたらここに遊びに来るから、それまではいてほしいな」
「……死んじゃダメって言わないんだな」
「私はオサムに死んでほしくない。でも、オサムにとってその一瞬は堪え難いくらい本当にそうなんでしょう?心が命じたことは誰にも止められない。でも、そこで何か思い出す余裕があるなら、思い出して欲しい。私はオサムとこうやって話したり何処かに出かけたりもしたいし、また尋ねた時にオサムがいなかったらとても悲しい。私はオサムに死んでほしくないよ」
真っ直ぐにそう言えば、小さく「頑張る」と言われたので頭をポンポンしておいた。ほらな、タチが悪い、と言ったディックにそちらを見れば周りが頭を抱えていた。
「確かにこれはタチが悪いね。しかも、本心で言ってるときた。そういうことをここにいる文豪全員に言えば、あっという間に彼女は崇拝されそうだね」
「そんな、大袈裟な」
「大袈裟じゃないんだなぁ、それが」
司書さんの言葉に彼を見る。え、まじで。まじで。そんなアイコンタクトだ。
「……それにしてもお前たちはたまに面白いことをいうな。心が命じたことは逆らえない、か」
そう言ったカンさんにディックが「でも事実そうだろう」と返答する。
「大人も子供も大差はない。大人には欲望が現れるが、それは理性で止めることができる。だが、心がこうしたいと本気で思ったこと、願ったことを結局は止めることはできない。それができるかできないかは別としてな」
「やっぱりディックって頭が良いんだね。昔はただただ喧嘩っ早いイメージしかなかったけど」
「それはお前が……」
「私が?」
「……あぁ、もういい、そうだな、俺はお前を見かけるたびに喧嘩をふっかけてた」
「まぁ、私がマスターマスター言いながら馬車馬の如く働いてたら基本関わろうとしたらそうなるよね。ユクシィちゃん以外そうだし」
ケラケラと笑いながらそう言って、あの頃は必死だったなぁ、とぼやく。でも、必死になったからこそマスターに認められ、一緒にいることを許されたのだろう。あとは、私が最初の方に彼のユニオンに加わったことも理由に含まれる。みんな元気にしてるかな、と、小さくぼやけば、ディックは目を伏せた。
「アイツらはお前のいう通りあの場から消えた。元気にしてるだろう」

==

「黒い服の男?」
「あぁ、フードを被った男なんだが……有碍書あたりに現れるようでな」
館長はそう言った予知書を私に渡す。恐らくはそれが狙いだろう、と告げた彼に本を見る。
「ページの修復は終わった」
「!本当ですか!」
「あぁ、ただ、確認ができないんだ。まぁ、正しくは君たちの扱う言葉がこちらのどの世界のものとも違うから、読めない、が正しいんだが」
そう言った彼は、最終確認を頼む、と笑う。
「すいません、ただでさえ他の本の侵食で忙しいでしょうに」
私の言葉に彼は「いいんだ、いいんだ」と緩やかに笑って手を振った。
「君たちと関わったことで一部の文豪の心境に変化があった。前を向いた、ともいうのかな。それはいいことだし、なにより異世界の本を見せてもらったし、こちらの世界にはない技術も見せてもらった。それだけで随分と違う」
「館長はできた人だなぁ」
溢れた言葉に彼はそんなことはないさ、と苦笑いした。


図書館の椅子に座って予知書をめくる。ぺらぺらと読み込んでいくが、今のところ不備はない。それにしても、マスターオブマスターはどうやってこの本を作り上げたのだろうか。マスター達の記述がないか探すけれど、それに似た記述はない。代わりに五つの動物の子という記述が現れた。これって、と思い読み込もうとするば、不意に影が落ちる。ディックかオサムだと思って見上げれば黒コートの男だ。館長の言った通り、フードを被った。予知書を閉じて抱える。
「ーー驚いた」
その声は男性だ。聞いたことがない。でも彼は私を知っているように口を開く。
「貴女は変わらないままの姿だ。時が止まったかのような。あなたも消えたと思っていたが」
パサリと彼がフードをとる。何処かで見たことがあるのは確かだ。でも、これくらいの歳の男性に知り合いはいない。ピンク色の髪。花の匂い。そう言えば、度々出会う少し年下の存在がいたことを思い出す。
「……ラーリアム?」
そう告げた私に彼は首を振って、文字を宙に浮かべる。
「マー……ルーシャ?」
「そう、私はマールーシャ。貴女の知るラーリアムであって、ラーリアムではない。存在しないものだ」
「存在しない?貴方はここにいるのに?」
そう首をかしげる。彼は「何も知らないのか、」と小さくぼやいて私を見下ろす。彼の髪を触る。たしかに触れるのだから、彼はここにいる。存在する。
「貴方は存在してる。存在しないなんて何かの間違いだ」
「……そうだな、だが、欠けているものがある」
「欠けているもの?」
彼はするりと私の手を取ると、心臓あたりに手を置いた。
「心だ」
そう告げた彼の目をみて、ゾクリとする。何だろうか、この嫌な感覚は。身を引こうとしても、手をガッチリと掴んだ彼は離そうとしない。
彼の背後に闇が現れた。それをみて、逃げるように身を引く。彼は私の様子をみて薄ら笑みを浮かべたままだ。
「おい!ナマエを離せ!ナマエが嫌がってるだろう!」
聞こえたオサムの声に、彼はそちらを見る。その隙に割り込んできたディックに彼は離れた。
「大丈夫か?」
「うん、助かった、ありがとう」
「何処かで見たことがあるような野郎だが、どこで見たのか」
「ラーリアムっていう名前に聞き覚えは?」
「特にない。いや、聞いたことはあるかもしれないが覚えてない」
ディックはそう言って彼を見た。彼は眉間にシワを寄せる。
「可笑しいな、お前は消えたはずだ」
「あぁ、その言葉に理解した。コイツ、どっかのユニオンにいたやつか。残念ながら俺はこの通り健在だ」
キーブレード を構えたディックに彼は眉間にシワを寄せる。
「予知書と彼女を連れて行けばと思ったが、2対1は立場が悪い。だが、このまま引くのも面白くない」
彼はそう言って宙に手を伸ばす。本が宙を渦巻いていく。そのどれもが赤い有碍書だ。文豪達がなんだこれ!と叫ぶのが聞こえる。
ーーその本の塊は文字を纏って大きな蜘蛛の姿へ変わる。糸を周りに吐き散らしたその蜘蛛は、こちらを見下ろした。
「せいぜい楽しめばいい」
彼はそう言って闇の中に消える。鞄の中に予知書をすべりこませ、チリシィに持っておくように告げーーオサムに鞄を投げた。ウワッと叫んだ彼に、持っといて!と告げキーブレード を構える。
「よし、ルクス寄越せ」
「馬車馬スイッチが入ったな」
「あー、暴れたら周りがやばいよね」
そう言いつつ、キーブレードに光を纏わせて宙に投げる。光が降り注いだのを確認して再びキーブレードをキャッチした。
「光よ、防壁を築け!」
その言葉に光は防壁となる。さてさて、ここからだ、と巨大な蜘蛛を見上げた。

==多分気が向いたら続き書くよ



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