2018/01/20

続々・文豪(仮)


あの子は恋人を覚えているようで覚えていないのか。
そう呟いた花賀瀬という名の男――現在司書になった男の方を向く。恋人?と聞き返せば、彼はなにも思っていないのか、あの子には恋人がいてね、と話を始めた。
「あなたみたいな男だった。作家ではなく、音楽家だったが。いや、貴方よりも歪だったような」
そうツラツラと告げる彼は、あぁ、と何か思いついたようにいう。
「常に不安定な貴方のような感じだったかな」


何かを生み出すもの、は、不安定であるとは先生の言葉だ。私も不安定だけど、隠すすべを持っているのさ。そう告げたのはいつだったか。隠れていなさい、と先生に机の下に押し込まれていれば、誰かが来客を連れて来たらしい。
「教授を教え子に譲ったと思えば、こんなところで隠居生活とはな」
そう告げた声は聞き覚えがある。
「君は相変わらず不安定だね、物を生み出す人間は不安定だと言うけれど――君は特に。また締め切り前なのかな?隈がひどい」
「うるさい、人殺し」
ピシャリ、と先生の優しい言葉をはねつけたその人は、言葉を続ける。
「アンタのせいであの子は死んだんだ、アンタがあの子を見つけたせいで、アンタがあの子を目にかけたせいで」
「否定はできないよ」
「かえせ、あの子をかえせ、」
「……死んだ人間は帰ってこないものだよ。それに君にはもう奥さんがいる、違うかな?君がいつまでもあの子の音を作り続けていれば、奥さんが悲しんでしまうと思うが」
クギを刺すような言葉だ。うるさい、と机がゆれ、先生が立ち上がる。掴まれたんだろう。
「私は元より君とあの子を引き離したくて堪らなかった。でないとあの子は死んだからだ。病んだ君に殺されてね」
「アンタが殺した!」
「結果はね。でも、もし、あの子が生き返ったとしても、私が君と引き合わせると思うかい?君は何度あの子を殺しかけた?」
先生の言葉にその人は黙る。くそ、と、ふりほどき、暴れたんだろうか。花瓶が倒れる音がして、先生の裾を握る。
「……出ていきたまえ。私はきみの駄々に付き合うほど、暇ではないのだよ」
その言葉に、彼は悪態をついて部屋を後にしたようだった。先生がため息をつく。
「いつ殺されるか分かったものじゃないね」
そうやれやれと息を吐いた先生は私を見下ろした。
「怖がらせてしまったね」
「いや、大丈夫ですけど、部屋が悲惨」
「司書、ひどい音がしたが大丈夫か?」
「ああ、無事だよ」
部屋に入って来たのはさとはるせんせと芥川さんと菊池さんだ。
「ひどい有様だな」
「あの人、よく結婚できたね」
「……そうだね」
「幼馴染のよしみで付き合ってたけど、そうじゃなかったら付き合ってなかった気がする」
私の言葉に、しん、とする。おや?と首を傾げれば、教授は目を瞬いた。
「覚えていたのかい?」
「死んだ前後は覚えてないけど、それ以外は基本バッチリだから。普段は優しいオニイサンなんだけど、スイッチ入るとああなっちゃうんだなぁ。さとはる先生と太宰さん二、三人を足した感じ」
そううだうだ言いながら、窓を、見た、のが悪かったらしい。ジッと睨んでいたらしい彼と目があった。睨んでいたらしい目は驚きに変わっていく。
「先生、詰みました」
「え?」
「見つかっちゃった」
そう笑ったら、先生が顔を覆った。
「最悪だ」

==

ナマエ!と駆け込んで来たその人は、ぬいぐるみのごとく私を抱きしめた。痛い。とても痛い。骨折れる。
「しーちゃん痛い」
「あぁ、悪い、」
そう慌てて離れた人物は、私を上から下まで見る。ナマエ、なんだな?と首を傾げた。
「触れると言うことは、幻覚の類じゃないのか……?」
「しーちゃん、幻覚見んの?薬中まで落ちぶれた?」
「あぁ、いや、違うんだ、」
そう慌てたように手を隠した相手にため息をつく。
「生き返ったのか?死んだふりをしていたのか?どうして俺に知らせてくれなかった?」
「しーちゃんは忘れたかと」
「忘れるわけがないだろう!あぁ、わかった、この男に脅されたんだな?」
「違う違う。ちょっと色々あって蘇ったけど、人間は蘇っちゃいけないでしょう?」
「どうして?」
「それが理だから。理を覆すには大きな対価が必要になる、それでも普通は覆せないモノ、だよ」
「お前が生き返るなら、俺はなんでも差し出すさ。名誉も金も命も」
「重い、愛が重い。しーちゃん、仕事は?仕事してない人は私嫌いだからね。奥さんほっとく人も嫌いだからね」
「奥さんなんていないぞ?ほら」
「指輪なんて外せるでしょうが。仕事は」
「う、」
「仕事しなさい」
「ナマエが一緒に来るならやる」
「私、図書館から出れないから無理」
「出れない?」
「私、この敷地から出たらまた死んじゃうから」
そう言えばしーちゃんこと詩音さんは目を見開いた。
「それは、いやだ、でも、ナマエがそばにいないのも、嫌、だ。嫌われたくもない」
ボロボロと泣き出した詩音さんにため息をつく。まったくもって、不安定だ。
「詩音、人は生き返れないんだよ。私は貴方の苗字ナマエじゃない」
「いいや、苗字ナマエだ。あの、俺の、幼馴染の」
「違う。私は本に残された私を集めただけの存在だよ。だから、貴方の望む私にはなれないし、貴方の望む私はいない。詩音は大人なんだから、新しい家族もいるんだから、何時迄も私に縋らないで前を向いて」
そう言えば、詩音さんは首を左右に振る。そしてやけに真っ直ぐな目でこちらを見た。
「新しいものなんていらない、お前だけがいればいい」
「ええい、プロポーズせんでいい。わりかし真面目にしてたけど、しーちゃん聞いてくれないなら真面目にしない」
そう大きくため息をつく。先生に目をやれば、先生は深い深いため息をつく。文豪三人修羅場とか話してるんじゃないぞ。
「仕事しないしーちゃんもワガママいうしーちゃんも嫌い。私の好きなしーちゃんはかっこよくオニイサンしてるしーちゃんだから、子供みたいに駄々こねるしーちゃん嫌い。ついでに仕事しないことによってもっともっと嫌いになる」
「……わかった、帰る」
そうため息をついた彼はやっと部屋を後にした。名残惜しげにこちらを見たしーちゃんに手を振っておく。先生が何処から取り出した塩を振った。先生めちゃくちゃ嫌ってるじゃないですか〜、やだ〜。
「本当に太宰くん多めの佐藤くんだね」
「人間失格した佐藤だな」
「俺はあんなのじゃねぇよ」
そう苦々しい顔をしたさとはる先生には悪いが、的を得てると思う。
「いや、初めはほんっとさとはるせんせみたいな人だったんだよ。ご近所さんでね、よく遊んでくれたんだけど、気づいたらああなって……いや、前はもうちょっとマシだった気がする」
「マシだった、マシだった、君を介して知り合った時はただの好青年だったからね。ちょっと依存癖が入るというか」
「なんでああなったのかな〜、もっと、こう、頼れるオニイサンだったのに」
「苗字が死んで酷くなったのか」
「えー」
菊池さんにそう言ってさとはる先生にもたれかかる。
「僕が思うに君のせいもあるんじゃないかな?ね、佐藤くん」
「同意したくないが、同意だな」


さとはる先生にひたすら構ってもらいたかったのに(さとはるせんせが一方てきにもやもやする)、オリキャラがでしゃばったので没



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