2019/01/30
↓
たどり着いた時、まだ現場に遺体が置いたままだったのはやめてほしい。周りはまるで美術品を見るかのようである。実は海外ではその写真もまたコレクターが発生しているのだけど。アキちゃん!?と驚いた顔見知りの刑事さんと記者さんに、こんにちは!と笑う。
「飯塚龍一が娘、飯塚アキ、ただ今到着致しました!」
そう敬礼して見せれば、関係者は目を白黒させた。七海光太郎がDDCの証を見せる。
「あー、こいつ今回の重要参考人なので」
「この手の事件はアキちゃんに任せるに限るからね」
にこやかに笑った記者さんの事件遭遇率の高さである。なのでにこやかに笑ってグッドサインを向ける。
「私より記者さんの方が死神だね!」
「やめて、俺はそんなじゃないよ。写真見るかい?」
「今回は現場がそのままでしょ?別にいいですよ」
七海光太郎の背中を押して事件現場に足を踏み入れる。その実恐らく彼は事件現場のコレクターだと思うのだけれど、今のところ私に害はないから放っている。まごうことなく密室、まごうことなく不可能犯罪にみえるそれ。しかしながら、物が一部倒れてしまっているあたり、失敗である。
まごうことなく失敗作、と呟けば隣にいた七海光太郎と紛れ込んでいる記者さんが口を開く。
「失敗作?」
「またかい?」
「ほら、あそこのもの花瓶だとかペン立てが倒れてるでしょう?」
そう外から部屋の中を指差す。確かに倒れてるな、と頷いた彼らに私はそれを眺めて口を開いた。
「あれ、本来なら倒れない計算なんですよ。部屋の中はそっくりそのまま。そうなったら警察も探偵も取り付く島がかなり狭まるでしょう?」
「と、いうことは、アレはトリックに必要なものだった、というわけか」
ふむ、と考えた記者さんは何度も私の事件に遭遇しているだけあって頭の回転がはやい。
「じゃあどうして倒れた?」
「加害者が勢いよく引っ張りすぎたんじゃない?あの花瓶もペン立ても丸いでしょ?今の弓矢の車輪みたいな役割させてたと思う。3点に力を分散させて、遺体を完璧に宙に浮かせるはずがあの二つが倒れちゃったからこういう変な場所で浮いてるですよ。これじゃあただの糸の切れたマリオネットだ」
「お前の発言はともかく、周りの糸は偽装ってわけだな。弓のような成り立ちってわけなら、引くのか」
「はい」
「なら犯人がいた場所は限られるな。弓の構造を考えると……いいや、弓の構造を無視したからあの二つは倒れたのか」
そう呟いた七海光太郎に拍手を送る。
「じゃあ、サクッと部屋の中に入って死因を調べて仕舞いましょう。ガラスカッターとハサミハサミ」
ケラケラと笑いながらそう告げて刑事さんをみる。顔見知りの彼はため息をつきながらそれらを渡してくれた。
==
サクッと解決!である。七海さんがいたからいつもよりもサクサクと解決した。個人間の感情やら出来事は私に関係がないのでお好きにどうぞという感じである。なのでトリックノートのページを差し出すようににこやかに笑いながら手を差し出す。
「おじさん、トリックノートの切れ端持ってるはずだよね?それ、元はお父さんが書いて盗まれたものなんです。返して」
にこやかにそういえば、彼はチラリと目の奥に違う感情をみせた。あ、こいつはトリックノートに魅入られた人間の類、と思いながら少し距離を取る。そうか、あのトリックは彼の方が、と呟いた彼に、飯塚龍一黒幕説が出るからやめてほしいと思う。
「私はかの作家が好きでね、初めて作品を読んだ時、なんと美しい作品なのだろうかと思ったものだよ。だから、この下衆な、しかしながら外見は美しい女を殺すと決めた時、せめてかの作品にでてくる死体のように美しい作品にしてやろうと思ってね」
カツカツと彼はこちらに歩み寄り私をみる。恐らくは私に認めてほしいのだ。異常さを、というよりはその思想を。あの飯塚龍一にこの美しい作品をみてほしあ。そんな感情が見え隠れしている。しかしながら私は当然首をかしげるわけだ。
「美しい作品?まさか。ものが倒れてしまったのに?貴方はこうして捕まってしまったのに?」
彼は動きを止めてただジッと見つめる。私はまだ口を開く。
「貴方の作り上げたものは名画ではない。数多の殺人現場が数多の絵画だとすれば、よくて秀作じゃないですか?それに、貴方は捕まってしまった。自供も長い、飯塚龍一に心酔しているわりには、彼の思いを無下にしている。あとはやっぱり、作品の解説として美しくない。ただの陳腐な作品だ」
はっきりと言ってしまえば彼は怒りをあらわにした。記者さんがいつものように前に来て、七海さんが犯人を抑えた。
「飯塚龍一の娘だからと調子に……!」
「では、一つ、教えてあげましょう。貴方の作り上げた作品はもはや貴方のものではありません。長いエピローグ、聞いてもいないのに告げた自供。そんなものを言った時点で貴方は芸術犯罪の実行者から推理小説の犯人Aに成り下がったわけだ」
そう淡々と告げる彼は目を見開いて私をみる。カツン、とヒールの音を立てて彼に近づく。
「貴方はもはや、この『物語』の主人公じゃない」
カツン、カツンと音を立てて。
「この事件は、飯塚龍一が作り上げた『飯塚アキ』という少女の物語の一部になる。よかったですね、敬愛する飯塚龍一の作品の登場人物になれて」
ニコリと笑みを浮かべて彼の胸元をつく。そして、ああ違うのだ、と、ごまかすように笑いながらノートの切れ端を取り上げた。
「なんちゃって!ノートの切れ端は返していただきます!」
ケラケラと笑いながら彼らから離れる。じゃあ、刑事さん、七海光太郎、あとはよろしく!と言いながら私は近くのベンチに座りカバンの中から朝ごはん用ーーといってももうお昼だけれどーーにかったドーナッツを取り出す。ああまた君は汚い手で!と言った記者さんはおしぼりを取り出す。前から思っていたが、この人は中々面倒見がいい。
==
トリックノートを覗き込んだ記者さんにダメですよ、と指で鼻ツンしておく。彼は残念そうにしたが、彼も彼で異常である気がするのであまり見せたくないのが本音である。
「アキちゃんって、偶にあの台詞言うけどさ」
「あの台詞?」
「君が飯塚龍一の作品って話」
「あぁ、うん。たとえ話ね」
「その実本心だろう?」
そうこちらを見下ろした記者さんに、なんのことですか?と首を傾げておく。
「君は紛れもなく飯塚龍一の最高傑作だろう。世界的ミステリ作家の愛娘。父親がかいたトリックノートは盗まれて芸術的な世界中で不可能犯罪を起こしている。それを止めているのが君。並べてみれば君は物語の主人公だ」
そう笑った記者さんは、だから君は『飯塚アキ』になった、と告げた。
「記者さん、」
「なんだい?」
「飯塚アキのお父さんは飯塚龍一で、父の盗まれたトリックノートを回収しているんです。それ以下でも以上でもありません。あと、詮索する人はきらいです」
「……わかった、詮索はなしにする」
やれやれと息を吐いた彼は騒動を見つめる。口に笑みを描いた彼は呟くように口を開いた。
「なんやかんや俺自身もこのおままごとが気に入っているからね」
その言葉は聞かないふり、である。
==???
そろそろ飯塚龍一を出さないといけない、と編集さんが編集部の偉い人物に言われた。編集さんは君だと公表するべきだ、とは言われたけれど、それはしたくない。あんな作品を子供が書いたと言ってみれば、周りの反応など分かりきっているのである。ため息をついて、どうしたものかと手を見る。たまに電話なら私が声を変えてるけれど。七海光太郎に化けてもらうか、それとも私が化けるか。DDSに行けば何かあるだろうか、と私はDDSにむかった。
外れに外れたなぁ、と思う。少年が少女に、少女が少年にはなれど、少女が成人男性になるのは難しいし、七海光太郎も任務に向かったらしい。ケンさんやマスターもできそうだからと思ってお店に向かえば休み(元より不定期に開いてる店である)だし、偶然会った記者さんは次の授賞式はお父さんでるの?とわかってるくせに言うのだ。がっくしと肩を落としながら家に帰れば誰かが私の家に来ていたらしい。成人男性の靴である。おや?と首を傾げながら鼻歌が聞こえてくる書斎に向かえば、小説を読んでいる人物がいた。私に気づいた彼は、よ、と抱えていたぬいぐるみの手を挙げた。
「まーた不法侵入ですか」
「相変わらずこの家のセキュリティが弱い」
そう釘を刺した彼に、ムッとする。
「そりゃあ貴方にとってはそうでしょうね」
「ちゃんと連絡いれたよ、俺は」
そうポケットのスマホを指差した彼にスマホを見る。書斎にいます、と確かに連絡が入っていた。
「侵入したあとじゃないですか」
「いいじゃん、部屋はたんまりあるんだし、一部屋くらい」
ミステリー小説にまた目を通した彼に、ため息をつく。そして、ピコン!と閃いた。この人物は記者さん同様、重傷のところを助けた人物であり、七海光太郎と同じく変装に長けている。その為、私の記憶にある怪盗からとって1412(通称イチヨンさんとかジュウニさん)とか呼んでいる人だ。
「ジュウニさん、こんなことわざ知ってます?」
「なに」
「働かざるもの食うべからず住むべからず!」
そう彼を指差す。指を丁寧にどけた彼は、何急に、と私をみた。
「貴方は今日から飯塚龍一です。私と一緒に授賞式に出るのです。飯塚龍一の設定は今書き上げます。それを叩き込んでください」
「なんで俺が」
その文句を無視して、昔書いた飯塚龍一の紙を引っ張り出して加筆する。
「編集部のお偉いさんが飯塚龍一を求めています。私だと名乗れば色々と厄介ですので」
はい!と彼に渡せば彼は渋々受け取った。
「授賞式はいつ」
「明日です。どうせ貴方のことだから、ここにいる間に全部読んでるでしょ?著作。あと、トリックノートのことも知ってるし」
ため息をついた彼に編集部の方に連絡いれてきます!と笑う。彼はやるって言ってないんだけどなぁ、とため息をもう一度ついた。
==
記憶の中の飯塚龍一、ではなく、ジュウニさんの中の飯塚龍一像であるがそれもそれで面白いのでニコニコとしてしまう。キチンとしたパーティーであるがために、可愛らしいドレスのようなものをきて、可愛らしいヒールを履いた。はい、私をよく知らない普通の人が想像する飯塚アキちゃんの出来上がりである。会場になるホテルの中を飯塚龍一と歩いていく。ちなみに担当さんには飯塚龍一(の偽物)が来るとは報告済みである。華やかな席にいる作家は私と知り合いである。飯塚龍一をみて、これはこれはと集る人を隣でニコニコと見つめた。記者もそのうち集まってくるだろうが、授賞式が始まることがアナウンスされた為周りは下がる。息を吐いたジュウニさんに、私はお父さんと来れて嬉しい!と言うようにニコニコしておく。
さて、当然のように授与された賞に当然のようにあるスピーチ、そして質疑応答である。どうして今まで娘さんを?娘が好奇心旺盛なもので。付け加えるなら、俺はあまりこう言う場を好まない。予定していた台詞を述べた彼に、次々とフラッシュが焚かれた。続いて不意に挙げられた手に、司会の人がその人をさす。記者さんである。おもしろそうに口元に笑みを浮かべた彼は、フリーランスの記者であることを告げた。
「いつも貴方の作品を拝読しております」
「……ありがとう」
「さて、早速ですがーーお前は誰だ?」
そうニッコリと笑いながらはっきり言った彼に頭を抱える。ザワザワと周りが騒ぐ。うわぁ、と思っていれば飯塚龍一が口角を上げた。
「俺は飯塚龍一、そこにいる娘の父親でかり、ただの推理小説家だよ。それではお気に召さないかな?」
「いいえ、ならは別の質問を。貴方の作り出したとされるトリックノートにより殺人事件が国内外で起こっています」
ザワザワと余計に騒がしくなったまわり、司会者が止めようとしたがそれよりはやく飯塚龍一が口を開く。
「あぁそうだな、随分と昔に盗まれたものだ。今でも多額で取引されていると聞いたことがある。そして、全て娘が解決しているとも」
「娘さんは貴方の最高傑作だとお聞きしましたが、それに対してコメントを」
「あぁ、そうだな……娘個人の情報に関わるのでね、是非ともオフレコにしてほしいのだが。その台詞を聞いたということは、少なからずとも君は娘と関わりがあるらしい。では、わかるだろう。まるでこの世界が娘の為に用意されたように錯覚することはないか。娘が探偵物語の主人公のように感じることはないか。まるでこの世が演劇のように。娘がいうことを信じるのならば、その全ての裏に俺がいる?まさか『飯塚龍一(オレ)』にはそんなことはできない」
肩をすくめて彼は頬杖をつく。5点減点。飯塚龍一はそんなことはしまい。これではただのジュウニさんである。
「でも、楽しいだろう?その物語の登場人物に甘んじるぐらいには」
「お父さん、変に難しい話をしないでキチンと質疑応答する!」
そうムッとしながら言えば飯塚龍一は、おっと、と肩を竦めた。
「これ以上変なことを言うと娘の機嫌が悪くなるから次で質疑応答は終わりにしよう」
「じゃあ最後にツーショットを撮りたいので並んでもらえますか?」
その言葉に司会者さんが手招いた為にそちらにむかう。チラリと見えた光に足を止める。そちらをじっと見つめだ。あれがああなって、これがこうなって、と頭で計算する。そして導き出した結論に、なるほど、と笑みを浮かべた。
Comment(0)
次の日 top 前の日