2019/02/14

大神妹と劇団没

「文化祭で演劇をすることになって」
そう目をキラキラと輝かせた咲也くんの手には台本である。本当に演劇が好きなんだなぁと思いながらどんな話?と聞けば王道の話である。ただ、脚本が多少当て書きのようになっているようで咲也くんっぽさが滲み出ている話なのだけど。しかしながら、相手役はお嬢様というか、そういう感じの役柄である。
「当たり前だけど、相手役は女の子なんだよね?」
「はい!大神さんって言ってとても歌が上手い女の子なんですよ!」
ニコニコと笑いながら告げた咲也くんに恐らく他意はない。咲也くんは演劇も上手いから勉強することばっかりです!と告げた。

人だかりができている。ストリートアクトかな?と思っていれば聞こえてきたのは歌声、そして歓声である。近くにいる人がビラを配っているのを見ると恐らくミュージカルの宣伝だろうか。一枚もらってみると合同公演と謳い文句が書かれていた。どうやらGOD座とどこかの劇団が合同公演するらしい。
「帝国歌劇団……?」
帝国歌劇団といえば超一流の歌劇団である。西の宝塚、東の帝国と言われるような劇団だ。そんな劇団が……というよりは、そんな劇団だからこそGOD座と合同公演ができるんだろう。ひと段落ついたのか人の波が引いていく。その中に佇む娘役の服を着た女の子が誰かと言い争ってーーパシン、という乾いた音がした。演劇の続きかと思えば誰かは降板だな、と告げて去っていくのをみて、これは演劇ではないと理解する。慌てて彼女に駆け寄る。大丈夫?と彼女に告げれば、頬に紅葉跡をつけた彼女は困ったように笑った。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「跡がついちゃう、冷やさないと。ここからだと寮が近いかな」
そう彼女の手を引く。ああまたやってしまったと思うのは寮に連れてきた彼女が困ったような表情を浮かべていたからだ。……彼女からすれば私は不審者な気がする。
「と、とりあえず、ひやそう!」
誤魔化すように彼女を談話室に連れていく。そこにちらほらいた団員が女の子を連れてきたことに驚いていたけれど、臣くんが頬に浮かんだ手形を見て氷を持ってきてくれた。
「あの、ありがとうございます」
「ううん、いいの。それにしてもどうしたの?」
「私がちょっと、ヘマをしてしまってオーナーの機嫌を損ねてしまっただけです」
「それは、打っていい理由にはならないよ」
そう言えば彼女はまた困ったように笑った。訳ありかな?と尋ねた東さんに、頷いておく。ただいま、という声が聞こえてそちらを見れば、丞さんと紬さんが帰ってきたらしい。彼らは「お客さん?」と女の子を見て首を傾げたものの、丞さんが「大神?」と尋ねたことで事態が変わる。
「丞、知り合い?」
「知り合いと言えば知り合いだが……どうしたんだ、その跡」
「やっぱり高遠さん?劇団を移られたんですね。通りでお見かけしないと」
「あぁまぁ、いろいろあってな。今の期間、合同公演前だろう?抜けて大丈夫なのか?」
「降板させられたので大丈夫だと思います」
苦笑いしてそう告げた彼女に、丞さんが眉間にシワを寄せた。
「またか」
「また、といえばいいのか……まぁ、オーナーは他の人の機嫌も取らなくてはいけないでしょうし、仕方ありません」
「丞の知り合い?」
「あぁ、コイツは帝国歌劇団の娘役の大神ナマエだ」
そう告げた彼に、ああやっぱり、と思う。
「帝国歌劇団といえば、全員女の子の劇団だね」
「あぁ、その中でも実力のトップに躍り出ているのが大神だ」
そんなに凄い人だとは思わなかった、というか、そんな人物を降板だなんて大丈夫何だろうか。しかしながら、またか、と言われているあたり良くあるんだろう。
「そんな大層なものじゃないんですけどね」
「ただの町娘役なのに主役より目立つ」
「え?そうなの?てっきり主役か何かと思った」
「いえ、私は役名もつかないような役ですよ」
そう首を左右に振った彼女はまた困ったように笑った。
「まぁ、今回はそれに加えてGOD座との合同公演なのでみんな張り切ってるので……私は文化祭に集中できますし、いいことです」
丞さんにそう言い訳をする彼女に、彼女はまだ学生なのかと理解する。ただいま!と帰ってきた咲也くんによりまた話は一変するのだけれど。
「あれ?大神さんだ!どうしたの?」
「あれ、咲也くんも知り合い?」
「はい!クラスメイトです!」
あの台本の相手役のこです!とにこやかに笑った咲也くんに彼女は何かを納得した。
「なるほど、咲也くんの所属する劇団の方だったんですね。ご迷惑を……」
静々と頭を下げた彼女に、私は慌てて首を左右に振った。

==没!



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雑多 

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