2019/03/05
↓続き?
そういえば、この前、面白いお手紙をいただきました。可愛らしい文字からして、恐らくは若い方からのお手紙でしょうか。先生の恋のお話をお聞きしたい、恋と愛の違いを知りたいというお手紙です。素敵な恋をされているようなので、私の話なんぞ陳腐なものになりそうなのですが。
私は恋というと、太陽のようだった人を思い出します。さんさんと輝く太陽のように明るい彼に、どれほど助けられたことか。恐らく太陽に照らされなければ、私は今ここにはいないでしょう。それほどまで、その人は私を照らしてくれたのです。その時に感じた感情は、その時はわかりませんでした。その人を目に写すだけで心臓が激しく鼓動をうって、上手く喋れなくなる。しかし、今ならばある程度わかります。恐らくそれが恋だったのでしょう。
では、愛とは何か。それもまた、私はよくわかりません。ただ、これが愛なのだと腑に落ちたことはあります。目に宿った、あまりにも優しい感情をみて。
そんなコラムを書いて、恥ずかしすぎるから没にしようと思っていたのにも関わらず担当さんがこれでいきましょう!とぶんどっていった。恥ずかしすぎる。先生も恋だのするんですね!といった彼に、女子高生の齢なのに恋だの愛だの語らせていいのかと聞けば、先生は紀貫之の生まれ変わりだからいいんですよ!と言われたのだけど。さて、そのコラム欄が掲載されてどうなるかというと、まず万斉さんが少し不機嫌になる。もはや自分の家だというように私の家に半ば住んでいる彼は、朝刊に書かれたそれを読んで学校に行くのは辞めだなどと言い出した。出席日数やらは大丈夫なのだろうか。
「出席日数は大丈夫なの?」
「ちゃんと計算しているし、拙者は働いているが故にある程度は免除される」
目に移された感情は見たことがある。あの船で見えた感情に近い。嫉妬、だろうか。しかしながら、不安もあるのだろうか。
「ナマエは、坂本辰馬に会いたいだろうが、拙者は主を会わせたくない。あわせてしまえば最後、蛍の光は水面に映らぬ故」
彼は目を伏せる。なに、ただの嫉妬でござるよ、と告げた彼は三味線を弾いた。
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これは怒られるな、と思うのだ。忙しい担当が原稿を取りにこれない為、原稿を提出した帰りの私に飲み会の帰りなのか途中なのかわからない教員。その中の銀色が私を見つけてしまえば近くにいた彼は私に気づくわけで。持っていた瓶を落とした彼は、目を見開いたようである。ナマエ?、と呼ばれた声に心臓が跳ねる。恐る恐ると伸ばされた手に開き直って、銀時くんと辰馬くん、他の人も久しぶりといえば彼は動きを止めて目をこすった。
「銀時ぃ、ワシは相当酔っとるようじゃ。ナマエの幻覚ば、見える」
そう言った彼に銀時くんが、幻覚じゃねぇよ、と面倒臭そうに頭をかいた。
「モノホンだ、モノホン。ナマエ、こんな時間に歩いてるとは感心しねぇな。社会人とはいえまだ未成年だろ」
「あぁ、原稿を提出した後なんだよ」
「おくってやるから酒に付き合えや。この前の例題の礼もかねてな」
そう言った銀時くんは私の手をつかむと未だに微動だにしない辰馬くんの首根っこもつかむ。周りの教員が深いため息をついたけどいいのだろうか。
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こちらをずっと凝視する辰馬くんに、心臓はうるさい。私の手で遊ぶ彼に、顔が赤くなるのがわかる。周りの教員の視線もあってモジモジしてしまうのは仕方ないと思うのだ。
「あの、辰馬くん、恥ずかしい……」
ようやく絞り出した声に、辰馬くんは離さない。
「……手、ペンだこぐらいじゃな」
そう告げて私の手から手を離した彼はまた私をペタペタとさわる。
「変な傷跡もない、表情もコロコロ変わる」
「……」
「探しても何処にもおらんかったき、もしやまた変な場所に身を置いてるかと思ったんじゃけんど」
その安堵したような緩やかな笑みに私はなんとも言えない顔をする。あぁ、彼は私がそこにいないことに心配していたらしい。
「おんしが、普通に生活しとる。人も、感情も殺さず、生きとる。それが今ちゃあんと確認できたき、ワシはまっこと安心したぜよ」
ヘニャリと笑った彼はあっはっはっ、と誤魔化すように笑って手を叩き酒を要求する。すかさず他の教員が私のものをノンアルコールにすり替えてたけど。運ばれてきたそれを飲んだ辰馬くんは、こちらをまた見た。
「ナマエはこんまいのぅ。未成年ちゅうことは、学生か?」
「今年で18歳です。二足の草鞋が大変だったので、学校は辞めちゃいました」
「おぉ、一時期もの凄いスパンで本が出とったのはそれでか」
「読んでくれてるの?」
「おう、デビュー作からコラムまで読んどるぜよ」
ケラケラと笑った彼はこちらを見下ろす。
「河上万斉とは会えたんじゃな」
「……最近、やっと」
ソフトドリンクのグラスを傾ける。というか、それを理解するということは。また顔が茹で上がるように赤くなるのがわかる。
「この前のコラム欄読んで」
「おん、さぁで、太陽とやらは誰のことじゃろなぁ」
あはははは、と特徴的な声で笑う辰馬くんに顔を覆う。おいおい、辰馬、と、他の先生達と騒いでいた銀時くんが声をかけた。
「虐めてやんなよ、大人げねぇな。まぁ、あんな表情されたら虐めたくなるのもわかるけどよ」
「あはははは、つい、」
キャパシティオーバーである。悪いのうだなんて私の頭を撫でた彼に視線を下に向ける。
「ナマエ、ワシは、ナマエに色々知って欲しかったんぜよ。おんしは昔から、色々抜け落ちとった。いや、それは今でもかもしれんけんど」
そう彼は私に視線を合わせて告げた。
「親から子に、家族の間に向く愛もあれば、友人間にも愛はある。昔、おんしがワシに抱いたのは、恐らく恋愛感情やない。恐らく家族にむける愛とか憧れが入り混じったそれぜよ。もし、あれを、恋というなら、おんしはワシについてきとう」
「あれは、私が、汚かったからで」
「ワシは何回も言った。おんしは汚くない。ついてきて欲しい。でも、おんしはワシを選ばんかった。アイツが居なくなっても、な」
辰馬くんが髪を触る。そして自嘲気味に笑った。
「ワシは最後まで河上万斉に勝てんかったわけじゃ。ま、兄みたいなもんとしては、喜ばしいことぜよ!」
ケラケラと笑いながら彼は手を叩く。周りが目を見合わせた中、店員が誰かを連れてきて、銀時くんを踏みつけて私と辰馬くんの間に本を振り落とした。本と机の角に挟まれた手に辰馬くんは悶絶し、銀時くんは痛いと喚く。それをした人物は涼しい顔でこちらを見た。
「ナマエ、帰りが遅くなるなら連絡をするべきでござる」
「いでででで、河上テメェこのやろう、どきやがれ」
「いくら待っていても帰ってこない故、心配したでござろう」
「てめぇ、無視か!」
起き上がった銀時くんに万斉さんは器用にバランスをとって後ろに下がる。
「ナマエは俺たちが送ってくから河上は帰れ。オメェも働いてるとはいえ、まだガキだ。しっしっ」
「あぁ、拙者の心配は無用。ナマエと帰る場所は同じ故」
「まーた帰らないのか。帰んないとご両親寂しがるよ」
「ナマエが本家に戻れば帰る」
そう言いつつ銀時くんの隣に座った万斉さんにため息をつく。辰馬くんが目を瞬いてこちらを見た。相変わらず隣だから距離が近い。私と万斉さんを交互に指差した辰馬くんに首をかしげる。他の教員の一人こと、服部全蔵が日本酒を煽りながら口を開いた。
「なんだ、同棲してんのか」
「同棲というか、万斉さんが転がり込んできたというか」
「まるで押しかけ女房じゃな」
「同棲には変わりないだろ。いやぁ、最近の若いのは進んでるねぇ」
その言葉にそうなのだろうか、と考える。昔からちらほらあったことだから、私としては気に留めてもいなかったが。
「というか、万斉くんなんでここがわかったの」
「スマートフォンでサクッと」
それはなんというか、犯罪に近しい気もするけれど。
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