2019/03/15

兼任司書とさらっと陸奥守の修行



「あれ、苗字さん、今日は何時もの刀じゃないんだね」
荷風先生が苗字さんを見てそう告げる。たしかに、彼女の服から覗く刀はいつもより長く、白い。彼女はそれを聞いて困ったように笑った。
「えぇ、何時もの刀……陸奥守は修行に出てしまって今はいないんです」
これは鶴丸国永と言います。
彼女はそう言ってちらりと刀を見せた。真っ白な鞘を持つ刀である。近くにいた碧梧桐先生や虚子先生達といった、最近きた人達は首を傾げた。そうか、彼らはまだ見ていないのだ。苗字さんの家だとか刀の彼らを。
「修行に?」
「はい、元の主に会いにいく人もいれば、他の場所に行く人もいます。様々ですね。みんな昔と対面してくるみたいです」
「では、陸奥守くんは」
「恐らくは土佐か京、だとは思うのですが。帰ってくるまで日替わり立候補制で他の刀が来ると思います。出来るだけ先生達の邪魔をする刀は連れてこないようにはするんですけど……」
彼女はちらりと刀を見下ろす。もしかして、問題児。後ろで聞いていた立川さんもそう思ったんだろう。
「その刀はどんな人なの?」
「乱歩先生みたいな……ジャンケンで勝ったみたいで……」
そっと視線を逸らしながら告げた苗字さんに、僕らは目を瞬く。
「すぐ落とし穴掘ろうとするし……すぐ驚かせてくるし……悪戯好きだし……」
それを聞いて僕らはどういう人物なのだろうかと考える。まぁ、彼女は彼女の会派によばれていったが。それからしばらくして彼女は鶴丸国永さんを連れて来てーー立川さんが外見詐欺!と叫んだのはすぐあとだ。彼は乱歩先生と会わせてはいけなかったのだ。

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次の日、苗字さんは一人の青年を連れて来た。青い髪をした優しげな青年である。うっ、キラキラしてる、とは立川さんの言葉である。
「あれ、一期さんも初めてでしたっけ」
「はい、ちゃんと佐藤殿達以外の方と向かうのは初めてかと」
そう頷いた彼に、この人はちゃんとしてそうだ、と息を吐く。
「昨日あれから大丈夫だったの、ナマエちゃん」
「鶴丸さんは、ご飯青くしようとして厨当番に締められてました」
ははは、と乾いた笑みを浮かべた彼女に、ああアレはこちらの入れ知恵でしたか、と彼は呟く。
「私は一期一振と申します。弟達が何時もお世話に」
「弟?」
「ほら、菜乃花と遊んでる」
「えーと、あきちゃん達?」
「そう」
「驚いた、刀にも兄弟があるんだね」
芥川先生がそう告げる。
「同じ刀匠から生まれたり、まぁ、兄弟の形は色々ですからね」
「ふむ、そうですな。私の場合は粟田口派唯一の太刀だからかもしれません。虎徹に至っては長曽祢殿が一番の兄ですからな」
「かといって三条派は他人ですし、長船派は親子っぽいですよね」
「では燭台切殿は主の祖父と」
「この前冗談でおじいちゃんって呼んだら全力でしょげたからもう言わない」
首を左右に振った苗字さんと一期さんは兄弟みたいである。堀先生が遠慮がちに手を挙げた。
「疑問なんですが、一番年上の刀は誰なんですか?」
「小烏丸殿、でしょうなぁ」
「次いで、平安刀ですかね」
「……っていうことは、その小烏丸さん、は、平安より前の刀ってことか」
「西暦700年あたりですね、確か。他は西暦1000年は超えてますから。一期さんは1200年代ですもんね」
「ええ、そうですな」
のほほんとしている二人に、スケールが違いすぎるなぁ、と思ってしまうのは仕方ない。のほほんする話題ではない。
「途方も無い時間ですね……」
「途方も無い時間がたったからこそ、我々に意思が宿ったんですよ」

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「あーるじ!」
談笑中である。そんな中、よく知った声が聞こえて苗字さんは振り返った。むっちゃん!!と喜びを露わにして抱きつきに行った苗字さんに僕らは目を瞬く。くるくると回された彼女は地面に降ろされる。陸奥守くん、だろうか。
「本丸にいっても、主ばおらんかったき、こっちにきてもうた!」
「うん、うん、おかえりなさい、むっちゃん、よかった、」
「なーに、わしもおんしの本気に応えようとしたまでじゃ。一緒に世界、掴むぜよ!」
そうわしゃわしゃと苗字さんの頭を撫でた陸奥守くん、は、僕たちをみる。
「騒がしてすまんのー!ちっくと主と離れちょったき、もう心配で心配で……きてもうたしだいじゃ」
「お前、俺がいるから安心って言ってなかったか?」
「おん、そう思ってたんじゃけんど、佐藤は佐藤やき、ワシの代わりには慣れんと思ったき」
「ははぁ、君は陸奥守くん、なんだな?」
そう言って館長が彼をみる。
「おん、ちっくと龍馬に会ってきたんじゃ」
「え、それって、」
「かまんかまん、歴史を変えるわけやない。向こうはワシをただの流浪人やとおもっちょる。刀の時代はあの時に終わった、銃の時代もじきに終わるじゃろ。そうして、おんしらの時代に行き着くんじゃ。銃は剣より強し……ペンは銃より強し、かもしれんのう。でも、まぁ、」
陸奥守くんはそう言って苗字さんを見下ろした。
「ワシは主の刀でいたいき、側におること許しとうせ。ほんで、色んな新しい世界を見るぜよ」
その言葉に立川さんが口を覆った。佐藤さんは固まった。僕らは顔を見合わせる。苗字さんは、うん!と元気よく頷く。
「ま、佐藤、これからもよろしく頼むぜよ」
「……はぁ、わかったよ、よろしくな」
そんな様子に按司くんが「月9ドラマかよ」と小さく突っ込んだ。それから陸奥守くんがよく図書館の手伝いをしてくれるようになるのはすぐのことである。

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閉館時間以降に図書館にいる利用客は基本、苗字さんのところの刀達である。偶に苗字さんが連れてくる。なんでも、本を買うよりも借りる方が安くつくからだとか言っていた。ちなみに彼らの図書カードは苗字さんの司書室に並べられており、陸奥守くんや苗字さん、佐藤先生達が貸し出し業務をしてくれてるらしい。まぁ、最近来た先生達は関係者だとはわかっていてもよく首を傾げているけれど。
「あ、太宰先生、これ」
そう言って苗字さんは太宰先生にいくつかの手紙を渡す。なんだろうか、と思っていれば、中島先生や乱歩先生にも手紙を彼女は渡した。
「手紙?苗字さんとこからなんて珍しいなぁ」
「でも、見たことない字だな」
按司くんが一枚とってそう告げる。
「最近刀も増えて、非番の日が増えたので短刀にむけて手習いみたいな日を作ったんです。まぁ、偶に菜乃花達と学校ごっこみたいな感じなんですけど。それで各々好きな本を持ってきて読書をしたんですが、その感想です。太宰先生の走れメロスが人気だったので」

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