2019/03/17

思いつき陰陽師@2時間チャレンジ

梅雨が長引く中である。その音はこの屋敷には似合わない音であった。子供が駆ける音である。なんだなんだと源博雅はそちらをみて声をあげた。庭を駆けてきたのは確かに子供である、が、顔が狐であったからだ。小さな狐はマジマジとこちらをみて口を開く。
「わぁ、わぁ、みて、みて、あにうえさま、どちらがかのゆうめいなおんみょうじさまなのでしょうか」
「んなもん、狐に似てるほうだろ」
小さな狐の問いかけに大きな狐がそう答える。小さな狐はこてん、と首を傾げた。
「なれば、あにうえさまがおんみょうじさま?」
「なんでそうなる」
「だって、あにうえさま、いまのおかおはきつねさん」
小さな狐は大きな狐を指差してそう告げた。確かにその言葉は正しい。
「お前の顔も狐だぞ」
「あれま、でも、わたしはおんみょうじさまではありませんよぅ」
「それなら俺も、そうだろう?」
「うん」
「よろしい」
大きな狐はそう頷いて、そこにいる二人を見た。
「もし、こちらにはかの有名な陰陽師さまがいらっしゃるとお聞きした、どちらがかの有名な陰陽師さまか」
「……さて、どちらか」
今まで黙っていた晴明がようやくそこで口を開いた。しかし、返答ではない。おい、晴明、と博雅が声をかけようとすれば、それは晴明に制された。大きな狐は晴明の言葉に考えこむ。小さな狐は縁をよじ登っていた。
「ううむ、わからん……」
「あらま、あにさま、こちらのかたはおんみょうじさまではございませぬ」
そう告げたのは博雅の近くにきていた小さな狐だ。博雅はそこでようやく小さな狐が面を被った幼子だと気づいた。大きな狐は問いかける。
「どうしてそうおもう?」
「あにさま、このかたは刀をおもちですし、はふたつもおもちです」
「あぁ、朱雀門にいるやつの」
そんな会話に、博雅は背筋がひやりとした。もしやこの子らは人ではないのではないかと思ったのだ。確かに、葉双は朱雀門にいる鬼から手に入れたものである。
「では、そちらが陰陽師さまか」
「ええ、いかにも」
晴明がやっとのことでそう答えれば大きな狐は安心したように息を吐いた。
「陰陽師さま、頼みを聞いてくれないか」
「……頼みとは?」
「花が咲かぬのです」
おかしな頼みである。源博雅はそう目を瞬いた。近くにいた小さな狐は口を開いた。
「きれいなはながさかぬのです。わたしたちはこまります」
「貴方達もそのうち困る」
「何故綺麗な花が咲かぬとそうなるんだ?」
「そうなるからこまります。おじさまのやまいもふかくなるばかりで」
話が滅裂だ。博雅はそう思って晴明をみた。晴明は酒に口をつける。
「わたしのことはどなたに?」
「蝉丸殿に」
「蝉丸殿?」
「なるほど、蝉丸殿の紹介となれば仕方あるまい」
「きていただけるのですか!」
「ええ」
「では蝉丸殿のところで落ち合いましょう」
大きな狐はそう言って小さな狐の手を引いた。では、と頭を下げた子らはまた茂みの中に足を踏み出し茂みの奥に消える。
「晴明、あの子らは」
「人ではない、が、悪いものでもあるまい」
「綺麗な花が咲かぬと言っていたが、そんなことをお前がどうにかできるのか」
「逆に私にどうにかできるからきたのだろう」
晴明はそう言って杯をおく。そうして博雅をみた。
「いくか、博雅」
「だが」
「綺麗な花が観れるかもしれぬぞ」
「ううむ……」
「行かぬのか?」
「行く」
「では行こう」
「行こう」
そういう事になった。

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蝉丸のところへつくと、あの狐の面を被った子供は確かにいた。大きな狐は二人を見て、遅い、と文句をいい、奥に足を進める。が、何かを見つけたらしく、荒々しい足音を立てて奥に消えた。おってみろ、小さな狐が蝉丸の隣にいる。それが気にくないらしい。
「あにさま、らんぼうはおやめください。あぁ、もう、せっかくせみまるさまのうたがよごれてしまったではありませんか」
「蝉丸!妹を誑かすな!」
「誑かしておりませぬよ」
「蝉丸殿!」
博雅の声に蝉丸と小さな狐がそちらを見た。これはこれはと笑った蝉丸に博雅は安堵する。無事そうだ。小さな狐と大きな狐は戯れ合うように庭を転げ回っている。
「申し訳ございません、巻き込んでしまい」
「いいや、」
「この稚児らは山からたまにここに遊びにくるのです」
「山?山間に人が住む場所があるのですか?」
博雅の問いに蝉丸は首を振った。
「いいえ。気づいたらいるのですが、悪さをしないので普段は好きにさせているのです。いつもなら男が迎えにくるのですが、寝込んでいるようで迎えに来ぬのです」
「寝込む?」
「ええ、稚児らは綺麗な花が咲かぬからというのですが、私にはわからずで。ただ、確かに、今年は紫陽花が綺麗に咲かぬのです」
そうして晴明の話になったらしい。転げ回っていた稚児がそばにやってくる。
「こっちだこっち、みてくれ」
そう大きな狐が晴明の着物をひく。小さな狐も博雅の足を押した。
「せみまるさまは、こちらにいてください」

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綺麗に咲かないと言われた紫陽花をみて、博雅は首を傾げた。綺麗に咲いているからである。ただ、色が真っ赤であるが。
「綺麗に咲いているではないか」
「何処がだ」
「これなんか、赤くてーー」
「いけません、けがれてしまいます」
小さな狐がそう言って袖を引いた。はて、穢れるとはどういうことか。それを博雅が問おうとした時、晴明が紫陽花の根元を覗いた。
「なるほど」
「晴明?」
「博雅、見てみろ」
そう言った晴明に博雅はそれを覗く。見えたのは白い何かだ。
「なんだ?」
「人間の死骸だ」
「えっ?」
「それも良い死に方をしたものではないのだろう。その穢れがこの花に溜まったのだ」
晴明が懐から紙をとりだし、何かを呟く。すると、紫陽花の側から無数の手が現れた。そのどれもが稚児の手である。そして、声も聞こえ始めた。
「いたいよぅ、おっかぁ」
「おっとぉ、おいていかないで」
「おっかぁ、おっとぉ」
さんざめいたような泣き声が聞こえる。ずるずると姿を現したそれは半分腐った稚児である。そして、あの二人はこのこらを助けたかったのかと博雅は二人をみた。しかし、大きな狐は怒ったように声を出した。
「てめぇらか!綺麗な水を濁したのは!綺麗な花を濁したのは!」
「……この稚児らを助けたいわけじゃないのか?」
「そうだな」
晴明はそう言ってまた何か術を使ったのだろう。今にも殴りそうな大きな狐だったが、その稚児らが消えたので目を瞬いた。
「博雅、掘るぞ」
「掘る?」
「死体をあつめ、蝉丸殿に供養してもらうが一番だろう。ここはそのあと祓えば綺麗な花が咲くようになる」
「ほんとうですか!」
「ええ、すぐにとはいきませぬが、3日もすれば元に戻るでしょう」
小さな狐が話を聞いて嬉しそうにわらった。

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「あの二人は結局なんだったのだ」
博雅は雨が降る庭を眺めてそう告げた。晴明の屋敷である。あの後、骨を掘り起こし、蝉丸のところで供養してもらい、晴明がそこを清めた。ーーのだが、二人はずっと怒っていたのが博雅には印象的であった。
「さぁな、人間ではあるまいよ」
鬼の子か?狐の子か?そう博雅が問いかけようとした時である。またその子らが現れたのは。きゃあきゃあと戯れるようにやってくる二人の手には紫陽花と扇のようなものが握られている。しかし、前と違うのはその奥に狩衣姿の男がいたことだ。瓢箪と何かを持った男は子らを追いかけるようにやってくる。
「こぉら、お前らはズケズケと人の屋敷に!」
そう二人を掴んだ男はようやく博雅の視線に気づいたのか顔を上げた。なるほど、整った顔である。整った顔、ではあるのだが、頬に切り傷の跡がある男だ。
「二人の親か?」
「まぁ、そんなもんだ。悪かったな、お貴族さんよ、巻き込んじまって」
バツが悪そうに男は頬をかいた。詫びの品だ、と差し出されたのは瓢箪である。なんだ、と思っていれば、男は酒だと告げて断りもなく縁に座った。
「蝉丸から話は聞いた。アンタらが紫陽花を清めてくれたらしいじゃねぇか。助かったよ、普段ならアレくらいはどうってことないんだがねぇ」
「どういうことだ?」
「わからんならいいさ、ただ、彼処が汚れてると俺は体調が悪くなるし、これからが大変になる」
男の言葉に博雅は首をかしげる。小さな狐が男の膝の上に乗ると博雅と晴明に紫陽花を押し付けた。
「みて、みて、きれいなはながさきました!なつのそらのいろです!」
その言葉に博雅は渡された紫陽花をみる。確かに、夏の空を思わせる色である。大きな狐がやってきて、面をはじめてあげた。
ーー目が青い。
そしてそれは小さな狐の方も同じだった。
「おじさん、さっさとしちゃってください」
「びゅうと!ひといきに!」
「しかたないねぇ」
男はそういうと小さな狐を端に避け、大きな団扇を手に持った。そしてそれを大きく振りかぶると、ひときわ強い風が吹く。おかしなことに、それで雨が止んだ。男がもう一度仰げば雲が逃げるようにさっていく。のぞいたのは紫陽花と同じ青色だ。子供はきゃっきゃっと喜んで男にだきつきにいった。
「さて、ありがとよ、貴族さんも陰陽師さんも。人間も捨てたもんじゃないねぇ」
男はそう言って何処からともなく面を取り出した。鼻が高い男の面である。
「お前達は鬼か?」
「おいおい、あいつらと同じにしないでくれよ。こいつらはまぁ俺も預かりモンだからよくしらねぇが、少なくとも俺もこいつらも鬼ではねぇよ」
男は面をかぶると、小脇に子供を抱えた。
「まぁ、俺は鞍馬やら烏やらと呼ばれてるが、好きに呼べ。礼はおいたぞ、じゃあな」
そう言って男は大きく飛び跳ねた。気がつけば門の上である。ひらりと手を振って消えた男に博雅は目を瞬いた。
「鬼じゃないのか」
「いや、あれは山の神だな」
「は?」
「かの有名な鞍馬の天狗だろう。おおかた、あの場が穢れて参っていたのだろうな。だから、梅雨が長引いたのかもしれぬ」
晴明は紫陽花を眺めて酒を仰ぐ。そうして、博雅をみた。
「明日からは暑くなるぞ、博雅」



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雑多 

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