2019/03/18
春、紅に染まりて 一
・審神者学校に何故かいるナマエ(神様のお手つきとよく言われる)と同部屋になった異端児
この学校には四人の成績優秀者がいた。一人目は、十六夜と呼ばれる京の都からきた青年。二人目は、暁と呼ばれる日光の方からきた青年。三人目は白昼と呼ばれる伊勢からきた女性。四人目は斜陽と呼ばれる出雲からきた女性。
長らくこの四人だけが別格とされていたが、最近もう一人増えた。審神者を育てるという名目のもと存在している全寮制の学校。閉鎖的な空間に政府に連れてこられた人物、そして、誰しもが顔を薄い布で隠す中で、俺と同じく顔をさらけ出している人物。それが「神さまのお手つき」と呼ばれる同室の少女・碧の方こと苗字ナマエである。
ーーまぁ、『神さまのお手つき』は、俺の『異端児』と同じく蔑みなのだけども。
神さまのお手つき。神さまに手を出された存在。だから異常に霊力が高く、人ならざる力を持つとされる。たしかに苗字は容姿が人形みたいに整っている。「碧の方」の碧は、彼女の目の色から来ているのだろう。なんの神様に手を出されたのかは不明だが、妬みや蔑みが入った推測ではそこまでいい神様ではないだろうとのことだ。まぁ、本人は神様のお手つき?なにそれ美味しいの?と惚けていたが。
今も勉強で苦しむ俺の視界の端で涼しい顔をしながら陸奥守吉行を帯刀し、本をめくっている。
「なぁ、苗字、ヒント」
「自力でときなさい」
「俺野生児だからわからねぇ」
そう筆を投げ出して寝転がる。側にあった長曽祢虎徹を腹の上においた。苗字はため息をついて本を閉じる。
「もうちょっと頑張ったら手合わせするから」
「マジで!?頑張る!でもわかんねぇ!」
俺は異端児で野生児である。記憶はない。気づいたら森の中にいて、その日暮らししていたら政府に保護されてここに来た。風の噂曰く、妖と人間の間の子、らしい。だから、俺が与えられたのは近藤勇が持っていた贋作である長曽祢虎徹である。まぁ、俺とあいまってかセットで蔑んで見下す奴が多いこと。まぁ、基本実技でフルボッコにするのだが。そんなこんな、特殊同士の方が教員も見張りやすい為俺たちは男女だというのに同室なのである。ちなみに四天王は同性別同士同じ部屋である。なんだこのセット感。だが生憎俺は実技以外が最低の成績なのだ。俺が四天王に並ぶことはあるまい。
チラリと教科書をめくる。やっぱり意味がわからなくて痺れをきらせば、苗字がため息をついてやってきた。
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「面倒くさい」
苗字が珍しくそう告げた。周りが布で顔を隠す中、相変わらず俺とコイツは顔を晒し出している。ヒソヒソと聞こえるのは蔑み妬みエクセトラである。体育祭的な実技祭である。俺は強い奴と戦えるのかとワクワクしているが、苗字はそうではないらしい。不意に声が止まり、人の「群れ」が道を開くように割れる。現れたのは四天王である。
「素顔を晒してるってことはー、どっちかが噂のお手つきちゃんでどっちかが野生児くん?」
こくんと可愛らしく首を傾げたのは斜陽さんだろうか。隣にいる白昼さん、は、目が青い方がお手つきでしょ、と告げた。
「それは蔑称だぞ、斜陽殿、白昼殿」
「えっ、そうなの?」
「駄目よ、暁、この子自覚ないから」
「えー!ひっどーい!」
「まぁまぁ……」
そうぽんぽんと交わされる会話に、俺は頭の後ろに手をまわす。まぁ、すぐに苗字に辞めなさいと言われたけど。
「けどよ、苗字、暇。会話向こうだけで成立してるし。俺さっさと実技したい。そうだ!俺と苗字で手合わせ始めればいいんじゃないか!」
「閃いた!みたいな顔ですけど、閃いてないですからね。辞めなさい。先生に怒られるのは貴方です」
「でもよぉー」
その瞬間、感じたゾクリとした感覚に大きく飛びのく。それ、を向けたのは十六夜だろうか。
「ほう、野生児はやはり野生児か」
「……申し訳ございませんが、先輩。こういう事はあまり好きではありません。たしかに、眞白は貴方方に失礼なことをしました。それはこちらに非があります。申し訳ございません」
苗字はそう言って、頭を下げた。しかしながら恐らく、内心は怒っているように思える。周りにいた生徒が口を開く。
「さすがお手つき、そういう対応はうまいもんだよな、」
「野生児はマジで野生児だし」
起こった笑いに、俺は眉間にシワをよせる。どこが面白いんだ、コイツら。
「……顔を上げろ」
「ありがとうございます。いくつか、進言してもよろしいでしょうか」
苗字の言葉に笑いが止まる。十六夜とかいう人物が構わないと告げる。
「はっきり言って、私も眞白も蔑称で呼ばれるのは好きではありません。蔑称で呼ばれるのが好きな方なんて、ほんの一握りでしょう」
はっきりとそう述べた苗字に、暁サンが頷いた。
「それはそうだ、申し訳ない。ええと、」
「苗字ナマエと申します。碧と呼んでいただいても結構です。彼は眞白」
「苗字と眞白だな。俺は暁。こっちが十六夜。あちらの髪が短い方が斜陽殿、長い方が白昼殿だ」
「暁様、十六夜様、斜陽様、白昼様ですね。……眞白、おいで」
「俺は犬かよ」
そう言って近づく。でも十六夜、テメェだけは許さねぇ。苗字の肩越しに睨めば肩をすくめられたが。
「警戒されたな」
「そりゃあお前が殺気を向けるからだろう」
「普通は他みたいに反応しまい。反応したコイツらは他よりも戦の感覚に優れてる。眞白は想像通りだったが……ふむ」
何か納得した十六夜に、斜陽サンと白昼サンが首をかしげる。
「しかし、貴方がたの様な方々がどうしてこちらに」
「聞いてないの?」
「何を」
「聞いていないな、この反応」
「あぁ、手合わせは俺たちとするという話だ」
「手合わせ!よし!十六夜ぶっ潰す」
「敬称をつけろ、駄犬が」
「だけ……?」
なんだそれ?と首をかしげれば、いつものように苗字が口を開く。
「駄目な犬と書いて駄犬ですね」
「はぁぁ!?俺犬じゃねぇし!どっちかってーと、熊とかゴリラがいい!強そう!」
「ゴリラは結構穏やかですよ」
「じゃあ熊!あーなんか熊肉食べたくなってきた。なぁ、苗字、この後、狩りに行っていい?」
その提案は苗字によって却下されたけど。
「馬鹿な子だ」
「まごう事なく馬鹿な子だ」
斜陽サンと白昼サンの言葉にムッとする。苗字が言い返すだろ、と思っていれば苗字は頷いた。
「それは否定できません」
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苗字の剣術は綺麗である。それに比べて俺は我流で力任せである。なにも、審神者になった俺たちが戦うわけではないし、正しくは俺たちが持っている刀が人の姿になって戦うのだ。俺たちが扱うのは何かあった時の抵抗手段、もしくはお遊びに似たそれなのだ。
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「これは!断じて浮気では!」
そう慌てて飛び起きた苗字に、斜陽サンが「なになに、碧ちゃんどんな夢みてたの?」と意地悪そうに笑った。苗字は小さくデジャヴ、と呟くと周りをみる。
「これ、は、?」
「気にするな、お前は敵の術にダイレクトにあてられただけだ」
十六夜はそう言って息を吐いた。俺たちは結構ボロボロである。始まりは、そう、苗字がふらりと倒れたと思った瞬間である。轟音と共に化け物が現れたのだ。教師は数人を除いて逃げた。その一人は俺たちと一緒に籠城中である。避難中、教師の言葉に俺たちは付喪神を降ろしたがほとんどがひどい傷を負った。俺や十六夜なんかは近くにあった刀片手に振るってたが俺は長曽祢に十六夜は三日月とかいう男に先生が張った結界の中に引っ張りこまれたわけだ。苗字は周りを見て何か察したのだろう。
「先生、援軍は?」
「全く連絡が取れないんだ」
顔面蒼白になる唯一の動ける教師は震える声で告げる。
「無事なのは君の刀しかいない。比較的無事なのは短刀だけど、」
苗字は周りを見渡す。
「薬研藤四郎はいますか?」
その言葉に男子生徒は隠すように動く。
「薬研は怪我してるんだ!」
「主、これくらいは軽傷だ。俺っちはここだ」
「薬研、貴方には医学の心得が多少ありますね」
断定である。
「審神者候補生の手当てを。短刀達や動ける審神者候補生は彼に習い手当てをしてください。石切丸、太郎太刀、次朗太刀、小狐丸、鳴狐。貴方達は先生の結界の強化に力を貸してください。これならもうしばらくは持ちますか、先生?」
「う、うん、恐らく練度は低くても霊力が高いからしばらく大丈夫だと思う」
「具体的な時間は?」
「2時間、くらい」
未だ震える声で告げた先生に周りの生徒がまた震えた。
「なぁ、苗字、俺外に出て蹴散らしてこようか?」
「駄目です」
「なんで!」
「貴方も十六夜様も頭に血がまわると引き際が見えなくなります。それは命を落とすことに等しい」
苗字の言葉に眉間にしわを寄せる。
「でも、ここでじっとしておくより!」
「頭を冷やしなさい、眞白。敵がどうしてここをこのタイミングで襲うかわかりますか」
「わかんねぇ!!知りたくもねぇ!!」
「恐らく、未来にとってこの時間軸のこの学校は大きな転換期もしくは未来の有力者が揃っていると仮定できます。即ち、貴方がた誰か一人が死ぬことにより未来が大きく変わる可能性がある」
「でもよ!このまま黙ってじっとしてんのはしょうにあわねぇ!」
「性に合わなくて結構。でも、じっとしてなさい」
苗字はそう言って外を見た。結構腹立つなこいつ。ムッとしていれば、暁サンが口を開く。
「苗字、なにを考えてる?」
「特には。どうすればいいか、なんて理解していますから。ーー陸奥守吉行」
苗字が名を紡いだだけで現れた男は、主、覚悟は出来ちゅうよ、と真っ直ぐに告げる。
「そんな覚悟はいらない」
「けんど、この状況、どう打開するやが!?」
「なんとかするしかないなとは思うけど、練度が低い貴方を単騎出陣させて折れました、戦線崩壊しました、じゃ、話にならない」
苗字はそう言って外を見た。なんだよ、じゃあどうすんだ、と飄々としている苗字をみる。
「なぁ、お前、神さまのお手つきなんだろ?なんとかならないのかよ!お前に手を出した神さま呼ぶとか!」
そう叫んだ生徒に苗字は眉間にシワを寄せた。
「生憎、私は神さまに手を出された覚えはありません。が、その案は乗ります。私はどうあがいても異質であり貴方達とは違いましょう。陸奥守、貴方はこれからは陸奥と呼びます。ややこしいですが納得してください」
「なんじゃあ、急に」
「今から起こることで理解できるでしょう」
苗字はそう言って宙に手を伸ばす。手元に現れたのは刀である。しかし、男が帯刀しているものと同じである。
「陸奥守吉行・極、おりましませ」
その言葉に刀が桜の花びらに変わり、人が現れる。陸奥守であることは間違いなさそうだ。ただ、服が違う。軍服のようなそれを羽織った彼は苗字を見下ろした。
「主、さっきは呼べんといっちょったけんど……」
「わし、かえ?」
その声に彼は初めて周りを見渡した。そして、理解したらしい。眉間にしわを寄せた彼は口を開く。
「なるほど、これは呼ぶはずじゃ。状況は」
「わかりません。私も貴方達に会った後目を覚ましたらこうでした。恐らくこの学校を包んでいた結界が外れたため、遡行軍が侵入したんでしょう。おかげで、貴方達に会えたんでしょうが」
「で、主はダイレクト瘴気に当てられてバタンキュー、じゃな。学校の広さは」
「池田屋より広いのは確か。ほとんど室内」
「時間関係なく打刀以下じゃな。それに合わせて桜隊……桜隊長篠作戦からの御用改め短刀奇襲……じゃけんど、この感覚……主、もつか?」
「もたせる」
「無理しいなや」
「うん」
スッと苗字が息を吸う。そうして両手を叩いた。
「ありはや、あそばぬともうさず、あさくらに、」
また桜が舞う。
「人が作りし武具よ」
苗字がそう告げた瞬間、桜の花びらが部屋中に湧き上がるようにあらわれる。そして現れたのは刀剣と銃だ。
「人を護りし武具の御神よ、おりましませ!」
その言葉にそれらは全て人のかたちになる。その多くはそこにいる刀剣男士だ。でも、服装が違う。先生が「これが」と小さく告げた。
「これより各隊長を任命する。桜銃撃隊隊長、疎明」
「ワシが隊長ということは、アレじゃな。任された」
「短刀隊隊長、厚藤四郎」
「よっしゃ、任せな!大将」
「短刀・脇差混合隊隊長、にっかり青江」
「経験豊富なところ、見せてあげよう」
「打刀隊隊長、長曽祢虎徹」
「主の命、お受け仕る」
「同じく打刀隊隊長、陸奥守吉行」
「ま、当たり前じゃな」
「隊員の任命は各隊長にまかせます。しかしながら各隊長は今から言うことを頭に叩き込んでください。今から赴く先は良くも悪くも室内戦です。明るさは不明。また、安全地帯は結界が張られているこの場所以外は少ないと思われます。もし人がいれば連れ帰ること。ただし、それが審神者側であるとは限りません。注意してください。また、桜隊はできるだけ銃撃でこちらに向かってくる敵は減らしてください。短刀・脇差混合部隊は戦闘より索敵及び事態の解明を優先してください。短刀部隊は奇襲及び敵の錯乱しつつ札を貼り屋内と野外を隔てるようにしてください。打刀部隊は敵の殲滅をおねがいします。野外に敵を発見した場合は追い討ちせずに引き返してください。野外は太刀以上の部隊を編成します」
「残った奴らは?」
「待機を。中傷撤退を約束してください」
「主、ここは審神者の養成校という推測であってるかな?」
「はい、長義さん」
「……ここが審神者の養成校ならば、手入れ場と何処かしらに通信できる場所があるはずだ」
銀色の髪をした男の言葉に苗字は先生をみる。ぽかん、としていた先生は気を取り直したように頷いた。
「あぁ、確かにある。手入れ場は北棟、通信機は中央棟の職員室にある」
「ちなみにここは?」
「学生寮に近い西棟だ。苗字さん、携帯端末を持っているかな?」
そう尋ねた先生に苗字は携帯端末を取り出す。あれ、でも苗字、端末苦手じゃなかったっけ。自分の端末より俺の端末見てるし。
「何人か、刀剣達にも端末を貸してやれ。情報を共有しよう」
「あー、これ、……あー、そういう、」
苗字はそう言って頭を抱えた。白昼サンが口を開く。
「苗字ちゃん、まだ端末苦手なの?」
「……はい」
「おい、初耳だぞ」
「十六夜くんに教えたら悠々と教えに行きそうだからね、黙ってたんだぁ」
斜陽サンの言葉に十六夜が黙った。それを他所に刀剣が苗字をみる。苗字は、だってこんちゃんのかわりがこれなんですもん!とよくわからない発言をした。
「主さんで使えないなら、僕らは絶対壊しますね」
ならば俺の出番ではないか、と手をあげる。まぁ、すぐに苗字に却下と言われたけど。
「なんで!俺が付いて行ったらはやいじゃん!」
「眞白くん、それはいけないよ。審神者が死ねば刀剣達はまた刀に戻ってしまうし、苗字さんも推測を立てていただろう。あぁ、でも、そうか、苗字さん、ここにいる刀剣を部隊に組み込むことはできないかい?いや、組み込めなくても付いて行かせるだけでもいい。ここにいる刀剣は端末を扱える」
「……隊長各位、できそう?」
「おん、そうじゃなぁ、下手に扱って壊すよりもええじゃろ。厚、大丈夫かえ?」
「おう!最悪担ぐ!」
「勇ましい答えだな。刀装を積めばなんとかなるだろう」
「そうだね、ひどい怪我になる前に連れ戻すようにしよう。でも付いてこようとする物好きはいるかな?」
そう言ったニッカリ青江?に俺は手をあげる。
「おやおや、君は元気がいいね。でも君は駄目」
「くっそー!じゃあ長曽祢!」
「眞白の長曽祢さんは眞白のストッパーだから駄目」
「あぁ、そうだな。俺は主の側から離れない方がいいだろう」
なんだよ、それ!と言ってみるがため息をつかれて終わった。
「あー、もう面倒クセェな。大丈夫だ、お前らの刀剣は俺たちが守るし、お前らの主はここにいる俺たちの仲間が守る。だから付いてきたい奴は付いてくればいいんだよ。なぁ、そこの国広?」
「うん、そうですね!僕行きます!」
「堀川くん!?」
「主さん、すぐ戻りますから!」
「はい、主、俺たちはーー曽祢さんの隊は揃ったぞ」
「お前な……」
「僕も行きます!主さま、お土産話、期待しといてくださいね!」
「お!秋田!頑張ろうぜ!主、俺たちも揃った!」
「じゃあ、俺も行きます!」
「鯰尾、」
「大丈夫ですって、見るからに強そうだし」
「じゃあ、陸奥守、鯰尾はこちらにもらうよ」
「おん、その方がええじゃろ。あとはー」
「加州くん、苗字ちゃん手伝ってあげて?」
「……わかった、主に頼まれたんじゃ断れないしね」
「これで揃うたな、主、準備は完了ぜよ」
そう頷いた陸奥守に、苗字は先生を見た。
「先生、入口側だけ結界をはずことは?」
「可能だよ」
「桜隊、準備は?」
「できとるぞ」
西洋服を着た奴らが銃を構える。先生により外された結界、それに気づいた化け物がこちらを向いた。雄叫びのようなものをあげながらやってきたそれが、ある均一の線に並んだ時、その鈍いような鋭い銃声は聞こえた。倒れた化け物を踏み越えてこようとした化け物に、苗字が口を開く。
「二段目、構え」
入れ替わるようにして西洋服を着た男が銃を構える。そしてまた、均一に並んだ瞬間銃弾が放たれる。そして、それと同時に刀たちが駆けだした。まだ意識がありそうな化け物にはとどめを刺して。苗字はそれを見て先生に声をかける。また結界が張られたらしい。
「撃った感触はどう?」
「残党と変わらないワ、主」
「後は陸奥守たちの報告を待とうか。主、警戒はこちらでしておくから少し休むといい」
その言葉に苗字は頷いてしゃがみこんだ。陸奥が心配そうに駆け寄る。
「主、どうしたやが?」
「ちょっと、疲れただけ」
「君にはやっぱり外の世界は毒なのかい?」
先生の問いに苗字が首を左右にふった。
「いえ、外の世界ではなく、瘴気が原因かと思うのですが」
苗字はそう言って手をグーパーとする。その際、ヒラリと花びらが落ちたのは気のせいだろうか。
「苗字、は、人じゃないのか?先生」
「暁、あんな真似できるの、人なわけないでしょう?神さまのお手つき、で今まで納得してたけど、」
「神さまのお手つき?大将、まぁた、難儀な勘違いをされたもんだな」
苗字のところの薬研が苗字をみる。違うって否定したもん、と言った苗字にむつがひたすらオロオロしている。先生は口を開く。
「……苗字さんは旧世代の審神者だ。政府が連れてきた」
その言葉に周りがピシッと固まる。俺は考える。旧世代の審神者、とは、たしか数百年前おきた似たような戦いに参加してたやつのはずだ。
「は?なに、苗字、婆さんなのか?しわくちゃの」
「失礼な、姿は自前です」
「その姿が自前というわけは、苗字は過去から来たのか?」
「いいえ、そういうわけではありません。わたしはこれ以上年を重ねることがありません。少しなら年を重ねることはできますが、年老いることはありません」
苗字はそう言って床に座った。陸奥がそれに合わせて屈む。
「主?どうしたやが?」
「瘴気が強すぎて気持ち悪い」
「苗字?」
そう言って俺も屈む。顔色が真っ青である。その時だ通信機がなるのは。背中をさすっていた陸奥がそれを起動させる。
『主、聞こえゆうが!?!?落ちちゃいけん!』
「おちてない、」
『……あと五分でケリつけちゃる、耐えとうせ。大丈夫やき、主は強い子じゃ』
「うん、」
『主、こちらは中央棟制圧完了だ。今のところ、北棟に敵はいなさそうだ』
『主、僕は無事だよ!とりあえず後で兼さんの話聞いて!すっごいから!後、今から情報部屋の端末を先生の端末を共有しますね!』
「ありがとう、堀川くん。助かるよ」
『主、こっちは北棟だけど、無事に奪還、というところかな。何人か無事な人もいたから今から連れて帰還するよ』
『主、俺も帰りますー!』
『主、本陣は外みたいだ。とりあえず変な奴もいたことだし、一回戻る。……秋田、これでいいのか?』
『バッチリです!主様、今から帰ります!』
そんな方向が聞こえた後である。何処かの石切丸が口を開いた。
「……おかしいな、それだけ敵が倒されてるのに瘴気が消えない」
「そうですね、おかしい」
端末になにかを打ち込んでいた先生は周りを見渡す。しかし、感じた嫌な気配に俺や十六夜がそこにあった刀を抜くのと、刀剣達が刀を抜くのは同時だった。ゆらり、と立ち上がったのは、重傷で動けそうもなかった先生の一人だ。
「そうか、もう少しだけ、様子見と行きたかったのだけれど」
「鞍戯先生?」
先生がそう呼ぶ。苗字が目を開いてもう一人の先生を見た。
「貴方は人じゃありませんね、人間の死体に何かが入ってる」
「えっ?」
「全員伏せろ!」
そんな声が聞こえて銃声が響く。頭に貫通したらしい銃弾に悲鳴が上がった。しかし鮮血は飛び散らず、ただこぷりと半ば固まった血の塊のようなものが流れ出す。
「酷いじゃないか、私はただ、君たちを勧誘しに来ただけなのにィ」
ぐるり、と、壊れた人形のようにソレは動く。
「先生ト呼ばれるモノ、に、化けたノハ正解だった、ノニナァ。こうなってしまうなんて」
徐々に人の皮が剥がれていく。その中からあの化け物が現れる。
「しっぱい、シッパイ、でも、ヤリナオセばいっか」
黒い塊が大太刀に変わる。あ、これ、先生の近くにいる奴らがやばいな、と理解した瞬間だ。ソレが抜刀するのは。まぁ、俺が何かする前に、服が違う短刀脇差ーー多分苗字がよんだ刀がソレの首を刎ね、刀を差していたのだけど。ごとり、と落ちた首、少し遅れて、ばたん、と倒れた体。それに安堵した瞬間である。パリン、とガラスの割れた良いな音がしたのは。
「やばい!」
入り口側を見ればまたやってきている化け物に刀達が刀を構えた瞬間、化け物が倒れたのだけど。どうやら苗字の刀が帰ってきたらしい。まぁ、全力ダッシュして近づいてきたけど。
「主、大丈夫かえ!?」
もう一人の陸奥守が駆け寄ったその瞬間、苗字が倒れた。そして、その瞬間、苗字が呼んだ刀のほとんどが消える。
「あちゃあ、やっぱり外は持たんかったか……」
「え、ええ、!?」
「主は神界暮らしが長かったからね、瘴気は毒なんだよ。しばらくしたら起きるんじゃないかな。まぁ、完全な主、じゃなくて不安定な形で呼ばれてるみたいだからーー」
苗字の青江が消える。それを見たもう一人の陸奥守が頭を抱えた。
「……主が気ぃ失っちゃら、ワシらも消えゆうわけじゃ。まぁ、あとは野外。太刀、大太刀、槍が有利ぜよ。単騎出陣はしちゃあいかん。六人ぐらいで刀装つければええ。情報はあの端末じゃ……陸奥、主を頼んだぜよ」
「おん、まかしぃ!」
その声を聞いてもう一人の陸奥守が消える。
「……俺たちでどうにかするしかないようだな」
「とりあえず校内の結界の復旧と強化はできた。話をしつつ、刀を手入れしよう。そうすれば先生の刀も一緒に戦える」
みんなもう少しだけ頑張って。
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手入れ部屋で手入れしたら刀が治った。そうしたら、長曽祢さんの傷も癒えた。なんだこれ、どうなってんだ。ちなみに苗字は陸奥におんぶされてぐっすり寝ている。相変わらず寝ている姿は人形みたいである。
「ぼーんー?」
「ヒィ、カナタさんごめんなさいって!振り回して!顕現させる前に重傷にして!でもカナタさん降ろすと上司がうるさいんです!ごめんなさい!」
聞こえなれない声がしたと思えば知らない奴に先生が頭を下げていた。
「はーっ、たく、もうちっと頭使えよなぁ……って、おもろい奴いるな」
パチリとあった目になんだ?と首を傾げていれば、そいつはこちらに来る。またもや人形みたいな顔した奴である。俺を上から下まで見たそいつは、ふむ、と小さく呟いた。
「なるほど、なるほど、お前、半分人間じゃねぇな」
「はぁ?」
「いや、お前、人間じゃねぇから顔晒してんだろうけど、ふーむ、鞍馬の爺さんが言ってたのはそういうことね」
「ま、がんばれや」
そう肩を叩いたそいつに怪訝な顔すれば笑われたが。周りを見渡したそいつは苗字を見て固まった。
「って、は?ナマエじゃねぇか、何やってんだ」
「え、苗字さんってカナタさんの知り合いですか?」
「いや、知り合いっつーか、って、は?坊まで知ってるってことは何、アイツここで生徒してんのか?」
「え?あ、はい、彼女、政府に連れてこられて……」
「あー、だから……なるほどなァ、歯向かっても抑え込めるとおもわれてんのかネェ。まぁいいか、さて、さっさと作戦立てんぞ。おら、坊、生徒あつめて来い」
そいつはそう言って先生の肩を叩いた。先生が集合をかければ、まばらにいた生徒と刀剣が集まってくる。先生はそのまま端末を使って、地図を表示させた。
「どうやら、苗字さんの刀達の話を聞くに本陣は野外のようです。しかし、侵入者でも人の皮をかぶれる者がいました。どうあがいても正面突破しかありません。また、他にちらほら敵もいます」
「野外か。太刀大太刀槍薙刀優先、と行きたいとこ、なんだが練度が低い槍の攻撃は入りにくいからなァ。でもまぁ経験させるのも手だな。入れるか」
「それ、苗字も言ってましたが、何かあるんですか?」
十六夜の問いに先生の代わりにそいつは「おーいいとこ気づいた」と口を開く。
「単純な話をすると、大太刀にしろ薙刀にしろ太刀にしろ槍にしろ、狭い場所じゃ振り回し辛いだろ。その点、打刀や短刀、脇差は小回りがきくから、同じ強さの場合、室内では短刀達の方が強かったりする。ま、逆に広い屋外なら太刀達の方が強い。細かく言うと刀自体の用途が違うからだろうが、まぁそこはいいか」
「六人組をつくろう。大太刀や槍、薙刀はできるだけわかれて、太刀を主力に、人数が少なかったら打刀を」
「先生ー、俺も出たいー!」
「……いいぞ」
「は、カナタさん!?」
「俺に勝てればな。どうだ?やるか?」
そう嗤ったそいつに「やる!」と頷く。そいつは何処か木刀を取り出すと俺に投げた。
「時間もないしな、ハンデだ。お前が目を瞑った俺に一太刀浴びせれたら出してやる。お前が背中をつけば出さない」
「そんなのナシで大丈夫だって!」
「さぁ、どこからでもどうぞー!」
そいつの発言にイラっとする。目を伏せて手を組んでいるそいつに気配を出来るだけ消す。そのまま背後に回って突いたが、それはひらりとかわされた。むかつく。そのまま多段攻撃をするが、どれも当たらない。はらがたつ。思いっきり飛び上がって木刀を振り落とそうとした瞬間、そいつの手が頭を掴みーーそのまま地面に投げ飛ばされた。床に背中を打ち付けた痛さがハンパない。
「っ〜!いって〜!!」
「はい、お前の負け」
そう言った男は俺の頭から手を離す。
「お前は弱い。弱い奴が戦場に出ても足を引っ張るだけだ。刀剣達の場合、傷ついても手当することである程度すぐに治るが、お前は刀剣みたいに怪我がすぐ治るわけでもない」
「でもッ!」
「まぁ、まずテメェは無茶無謀と勇猛果敢を履き違えねぇこったな。今回は諦めろ」
デコピンをした男に俺はあまりの痛さに悶絶するしかない。痛い痛いと嘆いていれば、苦笑いした暁サンに起こされたけどな。
そして、その事件は男と先生、刀達によってあっけなく締めくくられたのである。
==
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