2019/03/25
春、紅にそまりて 四
・きっちり設定練ってるわけではないので矛盾するかも
ーー審神者とは、刀の付喪神・刀剣男士を率いて歴史を変えんとする歴史修正主義者率いる時代遡行軍を討伐するものである。
それが、昔の意味だとして。今の意味は少し違う、とは苗字やカナタがいうことだ。どこが、どう違うか、といえば俺からすれば些細で、しかしながら二人にとっては大きな違いらしい。
ーー「今の」審神者とは、未来からくる歴史修正主義者率いる時代遡行軍を刀剣男士と討伐するものである。
そう、「今」の刀剣達は今から「五年前」より過去に赴くことはできない。それは、遡行軍も同じだった。
昔。あまりに長く続きすぎる遡行軍との戦いに神々や刀剣達が終止符を打つことにした。それはいかにも簡単な話である。ある時点よりも過去へ遡れないように結界に似たものをはるのだ。それは誰にも告げられず、文書に詳しく残ることもなく唐突にその結界は築かれたのである。そうするとどうなるか。未来からの攻撃は徐々に減り始めーーそして、長い年月をかけたその戦いは終止符が打たれたのだ。
その結界が過去の人物、過去の神々とその時の神々の力が相まって作られたのが「五年前」である。そう、だから、遡行軍は五年前より前は変えることができない。数十年前に行われた戦争も変えることができない。その結果、未来からくる遡行軍は俺たちの生きる今を荒らすのである。苗字が呟いた慈悲も感情あるの検非違使の意味はわからないが、俺たちは俺たちの時代を守るために刀剣達と戦うのだ。俺たちの通う学校はそういう化け物退治も兼ねているのである。まぁ、基本的に戦うのは教師なのだが。
「いよっしゃー!一番乗り!」
そう辿りついたそこで言ってみる。まぁ、逃げてる人は俺を二度見したけどな。
「いくぞ、長曽祢!」
ーーあと、もう一つ、決定的な違いをあげるとするなら。俺たちは場合によって刀剣を降ろしはする。前のように緊急事態なんかは特にそうだろう。いや、人によるかもしれないが。しかし、基本的に俺たちは刀剣達の力をかりて戦う。刀剣達の、力を纏って。
「長曽祢虎徹、抜刀!」
そう告げて、長曽祢の力を借りる、はず、が、となりに現れた長曽祢と目があって二人で目を瞬く。
「あれ?」
「何しょげてるんですか?」
眠たそうに目をこすった苗字はそう言って俺を見下ろした。十六夜が俺をちらりと見て口を開く。
「憑依ができなかった。あれだけ本番に強いと言いながら」
「そりゃあ、練習でできなかったことを本番でそうやすやすと……できるわけが……ないで、すよ」
「ありゃりゃ、苗字ちゃんまだ半分おねむだな?」
斜陽サンが苗字の頬をムニムニと触る。
「うるせぇ、昨日あのあと目を覚まさなくて出陣できなかった苗字に言われたくはねぇよ」
「昨日……出陣……」
「十六夜がお前抱えて帰ったんだからな」
「これはこれは十六夜さま、ありがとうございます?」
頭を下げたと同時にまた寝たらしい苗字はこの際無視だ。というか、苗字も憑依ができないのである。人の事言えねぇ。そう思っていたら、十六夜がお前と苗字を同列に上げるなよと釘をさす。
「神が神を憑依させるなんて出来るわけないだろ。苗字は今は神格を落としているから人間に近いのであって、人間じゃないんだ」
「じゃあなんで俺はできねぇのさぁ」
白昼サンがピッと俺に箸を向けた。
「眞白は大方長曽祢に合わせる気がないから。長曽祢が合わそうとしても、アンタが受け入れない限り無理でしょ。旧来の審神者のように長曽祢に戦ってもらった方がいいんでない?」
「俺も戦いたい〜!十六夜だって、あの時の先生みたろ?めっちゃくちゃかっこよかっただろ?」
「あぁ、流石は先生を名乗るだけあるなと」
「それは見てみたかったなぁ」
暁さんがそう言って先生を見る。まぁ、他の教員に何か平謝りしているが。その姿からは昨日の姿は想像できない。微妙なバランスを保っていた苗字が椅子から落ちそうになったことで、意識が覚醒したらしい。体を跳ねあげた苗字は周りを見渡した。
「っは、あれ、朝!?あれ?!寮!?」
「よぅ、苗字、今ごろ覚醒かよ」
そう言って苗字を見る。苗字はこちらをみて目を瞬く。
「何しょげてるんですか……あれ、デジャヴだな」
「お前がさっき寝ぼけながら俺に質問しただろ」
「あぁ、あれ、夢じゃなかったんですね」
そんな会話をすれば斜陽さんか爆笑した。
「苗字ちゃんの寝起き、面白い!」
「いつもこんなんだぞ」
「毎日こんなわけじゃないですよ」
苗字の言葉にいや最近結構な頻度でこうな気がすると苗字をみる。何ですかその目は、と、ジト目で見られたけど。そんな会話をしていれば、先生が旧四天王を呼んだため四人は席を外す。多分任務か何かにつくんだろうか、と思いつつそれを見送った。
「苗字は今日なにすんの?」
「もう一度学校の方へ向かいますよ」
「俺も行く」
「憑依の練習はいいんですか?」
「練習してもできねぇもんはできねぇ」
そうムッとすれば、苗字にフグみたいですね、と頬を突かれる。腹が立ったので苗字の髪をぐしゃぐしゃにしといてやった。
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たどり着いた学園はやっぱり広い。同じく休みなのか人がまばらにしかいないのだ。これはチャンスと二人で乗り込めば、運動場に生徒と子規がいたので俺は手を振りながら子規に向かう。しーきー!と呼べば、子規はこちらを見た。
「眞白?今日は月曜日だぞ?お前らの学校はいいのか?」
「え?月曜日って学校やすみだろ?」
「しまった、私たちの学校が特殊なんでした」
そう呟いた苗字に、子規や生徒は苗字を見る。少し猫を被ったように「お爺さまに会いに来たんですけど……」と言った苗字に、子規は合点がいったらしい。
「授業終わったら案内してやるから、ちょっと待ってろ」
「子規、何やってんの!野球?」
「何って、ハードルだよ。眞白もやるか?」
「何かわかんねぇけどやる!苗字は?」
「私はご遠慮いたします。座ってますね」
ちょん、と近くの階段に腰かけた苗字に、俺は子規と授業に加わる。とりあえず柵を飛び越えればいいらしいので、楽しく跳ねた。なんだこれ楽しい。あと子規の生徒はいい奴らばっかである。男子も女子も嫌味ったらしい奴はいないし見下す奴もいない。
「苗字ー、やらねぇのー?」
そう尋ねれば苗字は首を左右に振った。隣に来たムシャが「眞白くんの知り合い?」と聞いたので頷く。
「俺の寮の同室!」
「へぇ、お前らの学校、寮制なのか」
「おう!」
そんな会話をしていればチャイムが鳴る。チャイムはどこも共通らしい。挨拶をして、片付けをして、苗字と合流した。
「楽しかったですか」
「楽しかった!」
「それは良かったです」
そう立ち上がった苗字に子規が苗字を見下ろした。
「そうしてると、人間なんだよなぁ」
「まぁ、そういうふりをしてますし」
苗字はそう言ってため息をつく。通りがかった生徒が苗字をみてきゃあきゃあと声をあげた。帽子を目深に被ると、子規に隠れるように下がったが。
「子規先生、お爺さまのところに」
「ああ、わかった。こっちだ」
「正岡先生、そっちの子は誰ー?」
「誰って理事長のお孫さんだよ」
少しの沈黙。子規はその間に俺たちを連れて校舎に入った。
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校舎に入ると思ったよりも人がいたことがわかる。転校生?などという会話を聞きながら歩いていれば、見つけたじっちゃんの姿に子規が理事長ー!と声をかけた。振り返ったじっちゃんは俺たちを見て目を瞬く。苗字がぱたぱたと歩み寄ったので俺も子規さんもそれに続いた。
「おじいさま、申し訳ありません……うちの学校が休みだったので、てっきりこちらも休みだと」
帽子を目深にさらに被った苗字に、じっちゃんは「ああ、そういう学校もあるのか、」と呟く。じっちゃんが俺たちを手招くので耳を寄せる。じっちゃんが小さな声をだした。
「さて、君達が用があるだろう部屋、なんだが、一応扉に鍵をかけていてね」
「あー……あー……そうですよね、昨日は私も舞い上がってしまって忘れていましたが、物理的におかしいですもんね。人避けもかけてませんし……」
「あぁ、それは十六夜くんがかけてくれたよ。お陰で生徒はそこは普通の壁だと思っている。放課後なら人も減るだろう」
「ならば何処かで暇を潰していても?」
「あぁ、構わないよ。お昼は食堂に来るといい。ご馳走しよう」
「やった!」
「眞白は体育にくるか?」
「いいのか!?子規!」
「おー、いいぞ!えーと、貴女、は、どうする?」
「私はいいです……そういえば名乗っていませんでしたね。私は苗字ナマエと申します。お好きなようにお呼びください、呼び捨てでも構いません。眞白をよろしくお願いします、正岡先生。眞白、先生に迷惑をかけすぎないように」
そう釘を刺した苗字に、はーい!と返事をしておく。苗字はじっちゃんと一緒に廊下の角に消えた。
「なーんかアイツ、どっかであった気がするんだよなぁ」
子規はそう言って苗字が消えた先を見つめる。俺は首をかしげるだけだが。
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誰もいないだろう授業中の図書室に、その生徒はただ一人なにかを読んでいるのが見えたのである。見たことがない制服だった。学ランということは、この学校のものではない。開いた窓から入る風が、その人物の髪を少し揺らしーーそして、いたずらに帽子を掠め取ったのである。そのまま空を転げる落ちるように近くに落ちた帽子を拾えば、その人物がこちらを見下ろした。感じたのは既視感である。青い目に黒い髪。これで動いていなければ人形のようだとも感じたかもしれない。パチパチと目を瞬いたその人物に、ああいけない見惚れるとはこのことかと苦笑いした。
「持って行ってやるから、そこで待ってろ」
そう言ってみれば、その人物は「ありがとうございます」と告げた。
美術の時間である。何を描いても何を作ってもいいと告げた教師にならば風景でも描くかと校内を歩いていたのだ。まぁ、校舎内を歩いていても、特に何も言われないだろう。図書室と書かれたそこをあければ、猫の形をしたロボット司書は見当たらない。とりあえず先程の席に向かえば、そこにその人物はいた。こちらを見た「彼女」に、時間が止まったような感覚に陥る。自分はたしかに彼女をしっているように感じたのだ。しかし、彼女の名前を紡ごうとも名前が浮かばない。変な感覚である。ようやく出たのは、「これ、」という言葉だった。
「落としただろう?」
そういえば彼女は振り返って、ありがとうございます、とまた微笑んだ。
「どこかであったこと、あるか?」
「……さぁて、どうでしょうか」
「アンタみたいな奴、一度見たら忘れなさそうな気がするんだがなぁ」
彼女はその言葉に困ったように笑った。彼女の膝の上にいる猫の形をしたロボットの司書は、眠りなど必要はないのにもかかわらずくうくうと寝息を立てていた。外からは体育の授業を受ける生徒の騒ぎが聞こえる。あまりにも穏やかなその感覚。心地のよい眠りにつくような感覚。それに対し、彼女を見てみれば、何かが締め付けられるような感覚がするのである。
「どうしたんですか?」
そう尋ねた彼女に、せめて彼女の名でも尋ねようかと言葉を紡ぎかけたとき、である。カチリ、と音がした。それは旧式であるアナログ時計が針を進める音に近い。周りの音が不自然にやむ。
「なんだ?」
窓の外を見れば、おかしい。宙に浮いたまま着地することのない木の葉、宙で止まる鳥、足を踏み出したままの生徒。彼女に目を移す。彼女は怪訝そうな顔をして、膝の上の猫を抱え上げた。置物のようにピクリともささない猫を机の上におくと、俺を見上げる。
「貴方は動けるんですか?」
そう尋ねた彼女に、ああ、と頷く。
「……周りの時間が止まってるみたいだ。これは夢か?」
「白昼夢かもしれませんね」
彼女はそう言って立ち上がる。その瞬間、彼女のポケットからけたたましい音が鳴る。
『時代干渉を感知、直ちに討伐せよ。また、不明確な存在も感知、調査せよ』
そんな文言が繰り返される。どういう意味か慌てたように彼女はそれを取り出すと、慣れない手つきで音を止めた。彼女は「とりあえず」と両手を叩く。
「貴方は安全な場所へ」
「安全な場所?」
「今から七不思議が起こりますから」
彼女の言葉に俺はただただ目を瞬いたのだが。
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なんかわかんねぇけど、周りの生徒が一切に動きを止めた。そういう遊びなのかと俺も慌てて動きを止めてみたが、どうあがいても空中で止まれない。どうやってんだ?と首を傾げれば、端末が音を立てた。とりあえず黙らせて動いている子規や志賀、この前の一部による。
「大丈夫かお前ら」
「眞白、どうなってるかわかるか?」
そう尋ねた子規にうーんと頭を悩ませる。
「俺馬鹿だからなぁ。とりあえず化け物出てくるかもしれねぇし、さっさと子規達は安全な場所にいた方がいいと思う」
「苗字はわかるのか?」
「わかるんだろうけど、あいつ端末の使い方疎いからなぁ」
そう思っていれば苗字の端末からメッセージがきた。とりあえず動ける生徒を図書館に連れてこいとのことである。
「お、珍しく苗字からだ。子規さん、とりあえず図書館にいれば安全っぽいし、図書館行こうぜ」
「この前のあそこか?」
「あ、あと、七不思議が起きるかもしれないから回避しろって書いてある。七不思議って、なん」
だ、と尋ねる前に、ダン!という大きな声がして地面が揺れる。そちらを見れば、化け物がこちらをみた。
「うわぁ、なんだあれ、」
大きな刀を取り出したソイツに、あ、なるほどコレはこの前の学校と同じパターンと察する。確か、アイツは室内なら入ってこれないはずである。俺は一番ドジそうなムシャと嬉々とかめらをとりだした藤村を抱える。
「とりあえず、アレは俺一人じゃ無理だし、室内逃げようぜ」
そう言って駆け出せばそれはその大きな刀を振りかざして動いている俺たちを追いかけてくるのだからたまったものではない。とりあえず室内にムシャと藤村を投げ込み(痛っという声はこの際無視だ)、ほかも室内に引っ張り込む。化け物が入ってこようとした瞬間、バタンと独りでに扉がしまった。その瞬間、ピンポンパンポン、と音がした。
「動ける教員・生徒は至急、中央棟一階森側の中央廊下に集合してください」
聞こえてきたのは男の声である。繰り返されたそれに、その声がコレでいいのか?と告げたことにより、だれかーー恐らく苗字が指示したんだろうというのがわかる。
「はい、とりあえずは。まぁ、来てくれるかは微妙なところですが……あ……個人的な連絡になりますが眞白は変に応戦せずに来てください。十六夜様たちに連絡をして作戦を考えましょう」
「おー!」
「放送に返事しても聞こえねぇぞ」
志賀のツッコミに、扉がドン!と音をした。そちらを見れば化け物が扉を破ろうとしている。なんだあれ怖い。
「あと、今は外からの侵入は防ぎますが時間の問題です。つけくわえるのであれば、室内にも変なものがいます。出来るだけ逃げてきてください。命を大事に。以上」
そこでぷつんと放送が途切れる。なんだそのゲームのコマンドみたいな言葉は。子規が頭をかいて告げる。
「とりあえず図書館いくか」
「図書館?図書室ではなく、ですか?」
「あー、まぁ、その話は後で、だな」
「そうそう、なんかきたし、逃げるぞ」
そう言って廊下の先をみる。そこにいた何かはぐるりとこちらを向いた。
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見えたその人におーいと声をかける。振り向いた苗字はこちらを見て目を瞬きーー慌てたようにこちらにやってきた。
「逃げてこいとは言いましたが、引っ付けすぎです!」
「仕方ねぇだろ!追ってきたり転けたり色々したんだから!」
そう言ってムシャと藤村を抱えながら苗字の横、空いている扉に飛び込む。志賀、国木田と続き、子規が中に入ったのを見て苗字は扉をしめた。周りを見れば、また違う部屋である。アンティーク調のソファや椅子、テーブルなんかが並んでいて真っ青な顔をした生徒が座っていた。
「とおしましませ、どうそのかみよ、子らのもとへとつなぎませ。あやかしまわるこのみちを、おびえてそとにでられぬこ。かごをあたえんもうごけぬならおなじ。とおしましませ、どうそのかみよ、おびえ隠れる子らを導きたまへ」
苗字がそう言って扉を開ける、と、その先は真っ白である、が、引っ張られるように数人の生徒と教員が入ってきた。苗字はそれを見て扉をもう一度閉める。あたりを見渡してこんなものかと息を吐いた。
「……少し状況を整理したいのですが、学生の保護、落ち着かせる方が先ですかね。今ふくざ……おじいさまといは……おじさまがココアを入れてくださっていますから、それをお召し上がりください。眞白はこちらに」
そう言った苗字に近寄る。
「眞白、簡潔にいうと外にいるものも遡行軍ですが、内側にいるものも遡行軍と怪書の類です。人の形を取ることができないものがこの学園の七不思議を利用しているのでしょう。また、この学園の敷地が隔離された可能性はあります」
「かく、り?」
「あー、学園の外に出ることも中に入ることもできないってことです。扉をつなげようにもあの学校にある特殊な結界のために繋げられません」
「外にいる固まってる奴らは大丈夫なのか?」
「はい。彼らはただ時間が止まっているだけだと。恐らく向こうは亡くす対象を絞りたかったんでしょうね」
「どうしたらいいんだ?」
「七不思議を解決すれば、結びつきが弱くなり外との通信が可能になると思います」
そう言って苗字は扉を見る。現れたのはじっちゃんと井原とかいうやつである。
「おや、また増えたな……」
「申し訳ありません、おじいさま……おじさま」
そう言った苗字に二人が顔を見合わせた。苗字は知らないふりをして、そのまま口を開く。
「おじいさま達はこちらで生徒といてください。私と眞白は外に出て通信できるように試みます」
苗字の言葉に生徒の一部が苗字を見た。
「おいおい、それを死亡フラグって言うんだぜ?あんな化け物、どうやって対処するつもりだよ」
「そもそもなんなんだよ、アレ!」
「あなた達の学校で想像されている七不思議でしょう」
「七不思議?」
「……どうも、私も眞白も七不思議や不思議なものを引き寄せてしまう体質のようでして。普段は先生やとある神社のご子息さまがついてくださっているのですが、まさか離れている間にこうなるなんて」
「なんだそ、」
れ、と言いかけた言葉は苗字によって抑えられる。最近起こってなかったので安心してたのですが、なんて惚けてみせた苗字に何言ってんだコイツと見上げておいた。生徒の一人が面白そうに苗字をみる。
「なら、君のせいでこうなったわけだ」
「おい、龍、そんな言い方」
「いいえ、いいのです、菊池さん。芥川さんは正しいことをおっしゃっていますから」
「ーーまで、なんで俺達の名前を知ってる?」
そう告げた生徒に苗字は、秘密、とだけ告げた。俺は首をかしげる。
「とりあえず、危険を晒したくないのでここにいてください」
「ねぇ、おにいさん、ここはどこなの?」
子どもが苗字にそう告げる。苗字が返す前に、じっちゃんが口を開いた。
「ここは八番目の不思議だよ」
「八番目の不思議?」
「あぁ、昔この子が見つけてしまってね、私と甥達とこの子だけが知っていた秘密の場所なんだ。まさか避難に使えるとは思っていなかったけど」
そう言ったじっちゃんに子どもは納得したようだった。まぁ、いくらか歳を重ねた人は信じていないが。
「ねぇ、それ、ついて行っちゃダメかな?」
藤村の言葉に苗字は「そうくると思いました」と告げた。
「結論からいうとダメです」
「どうして?僕たちは七不思議に詳しいよ。新聞部だからね」
「危険がつきまといます。貴方達はタダの学生です」
「それをいうなら眞白も、だよな?」
国木田の言葉に苗字は首を左右にふった。
「眞白は真剣の扱いにたけますが、貴方達はそうじゃない。まぁ確かに向こう見ずで突っかかることがありますが、自分に対する危機察知能力は高いので」
「なんだよその評価〜!」
「無某に突っ込むのをやめてくれればいいんですけどね」
「何か扱えればいいの?なら、僕たちは弓道部と兼部してるし弓矢なら扱えるよ」
そう言った藤村に、苗字は淡々とダメです、と告げてじっちゃんに近づいた。俺は藤村達に近づき口を開く。
「苗字、基本的にダメダメ星人だかんな、ああなったらテコでもうごかねぇよ」
「ねぇ、眞白が僕らを連れて行くことはできないの?」
「一人くらいなら担いでいける」
俺の言葉に三人は目を見合わせた。苗字がこちらをみる。
「眞白」
バレてやんの、と腰に手を当てた。
「なんでダメなんだよ、地の利しってる誰か連れてった方がいいだろ?」
「いけません」
「なんで?」
「貴方は彼らに何かがあった時ーー怪我をした時、錯乱状態に陥った時、責任が取れるのですか。彼らはこの国の定義上、まだ子どもです。大人に加護されるべき存在です。大人であれば、怪我をしても錯乱状態になっても自己責任として片付けられます」
「子どもでもそうだろ?」
「本人にとってはそうでも、周りは違う。加護すべき大人、あるいは施設、組織に矛先が向けられます。この場合、この学校、教員、もしくは私達の学校に矛先は向かうでしょう」
「あぁいやだ、じゃあダメダメ言うのは、保身かよ」
そう言えば苗字はそれだけじゃないと告げた。
「この七不思議がどの時間の七不思議の再現なのかがわからない。彼らを連れて行っても、役に立たない可能性がある」
「どういうことだ?」
「七不思議はある程度時間が経てば変わっていきます。恐らく、おじいちゃんが学校を立ち上げた当初の話と今では変わっているはずです。噂話の怪談は引き継がれる限り改変、付け足し、削除が繰り返されます。また、それらは引き継がれる年によってかわるでしょう。この学校は初等部から高等部まであるようですから」
「げ、最低21はあんな奴らがおるってこと?」
「そうなります」
「じゃあ、余計に二人じゃきつくないか?」
志賀の言葉に苗字が首を左右に振った。
「ある程度人数は補強できますから」
「それって長曽祢おろすってことか?俺が扱う武器無くなるんだけど!」
俺の抗議に苗字は首を左右に振った。
「貴方の武器はきちんと私が用意します」
「ううむ、ナマエ、教員や生徒を連れて行ってはくれないだろうか」
様子を見ていたじっちゃんが不意にそう口を開いた。
「年長者として生徒の好奇心を止めたくはないんだ」
「しかし、」
「責任は私が取ろう」
「……」
「貴女は何を恐れているのですか」
そう苗字の視線を合わせて尋ねたじっちゃんに、苗字はただ眉間にシワを寄せた。
「……いいえ、恐れてなど」
「貴女らしくない。好奇心は育むものだと言ったのは貴女ではありませんか。生徒は大丈夫です。ここにはそういう生徒しかいませんよ。貴女の心配には及びません」
じっちゃんはそう言ってジッと苗字をみた。数秒して苗字は息を吐く。わかりました、と小さく告げた苗字は「貴方がそこまでいうならば仕方ありません」と言う。
「お、じゃあ、連れて行ってくれるんだな!じゃあ、弓をーー」
「弓ならば私がお渡しいたしましょう。貴方方にはまだお渡ししたくなかったのですが」
苗字はそう言って帽子を外して近くにいた子どもに被せた。苗字が宙に手を伸ばす。その瞬間、苗字の手のひらから桜の花びらが溢れるように散って苗字の服装が変わる。感覚からして神格をあげたらしい。誰かがなんだあれ!と叫ぶのが聞こえる。
「島崎藤村、国木田独歩、田山花袋」
そう言えば三人の目の前に3冊の本が現れる。藤村が取ろうとしたその手を苗字はとめて口を開いた。
「こころもあらぬ秋鳥の、声にもれくる一ふしを、知るや君」
その言葉に藤村の目の前にあった本が弓へとかわる。
「されどたれありて、この梅をここにまきし少女のこの世にありしや否やを知らず」
次は国木田の前の本が弓にかわる。ワクワクしたような田山に苗字がため息をついた。
「なんだよ!いいだろ、ワクワクしても!ゲームの主人公みたいなんだから!」
「仕方ありません。ゲームの主人公みたいにしてあげましょう」
苗字はそういって彼をまっすぐにみた。
「絶望と悲哀と寂寞とに堪え得るる勇者たれ。運命に従う者を勇者という」
その言葉に最後の本が弓にかわる。
「行きたくば手を取りなさい。ただし、後戻りはできかねます。やめるならいまです」
「行くっきゃねぇだろ!」
そう言って弓を取った田山に、国木田は「ま、そういうこと」と言って同じく弓をとる。藤村はすでに取っていた。
「ねぇ、聞いてもいいかな。もしかして、」
「あなたの問いに答えるならば恐らくイエスでしょう。しかしそれは不用意な質問です。嫌な人だっていますから」
苗字はそれだけ言えば、子どもが苗字に飛びついた。
「ねぇ、いまのどうやったの!?」
「まほうつかいなの!?」
「いえ、そんなことは……」
「宮沢クン、南吉クン、理事長のお孫サンはあの錬金術師デース!」
眼帯をつけた教師の言葉に、子どもが目をキラキラさせた。
「じゃあじゃあ、いまのって錬金術なの!?」
「まぁ、はい、」
「錬金術師サーン、私もぜひぜひ行きたいデス!七不思議マスターこと小泉八雲におまかせあれ!」
「ほら、マスターいるなら新聞部いらないんじゃないですかね」
苗字がそう言って新聞部をみた。イヤイヤと首を左右に振る二人であるが、藤村は弓を引いている。
「わ、急に矢が現れた。どうなってるんだろう」
「……まぁいいです。田山さんについて行ってもらいましょう。小泉先生、本はお持ちですか」
「はい、アレから愛読書デス!」
「ならば、わたしがああしなくてもそろそろ扱えるとおもうのですが」
「ふむ」
そう行った八雲が本を眺める。目を伏せて本をひらいた瞬間にそれは形を変えーー鞭に変わった。
「不思議ですネ、手に馴染みマス」
「……夏目先生、貴女はこういうことはお嫌いでしょうから本だけを貸してください」
「おや、見透かされていましたか。はい、構いません。元は貴女のものですし」
本を取り出した夏目センセ、に苗字はその本を開く。我輩は猫である、と告げた瞬間剣に似た刃を作り上げた。
「眞白は長曽祢さんを降ろしてコレを使いなさい」
「よっしゃ!武器があるならやる!長曽祢虎徹!」
そう呼びかければ姿を現した長曽祢に苗字は頭を下げた。
「貴方にはかなり負担がかかるとは思いますが」
「いや、頭をあげてくれ……主はもう慣れた。怪綺を切ればいいんだな?」
「貴方が切りかかっても倒せなければ眞白達に任せてください。逆に、眞白達の攻撃が入らなければ貴方の分野です」
「わかった」
「六人編成はこの狭い空間では無理です。4人編成になります。三組作りたいところ、ですが、」
「なら俺と諭吉のじいさんいれて適当に教員補充したらいいだろ?」
「そうだなぁ、井原のガキんちょ。ナマエが残ったほうがいいだろう」
「……無理はしないように」
そう釘を刺した苗字は、陸奥、と陸奥を呼ぶ。現れた陸奥は「わしが主の代わりにいけばいいんじゃな」と告げた。
「あと1人……やまくにさん」
そう誰かを読んだ苗字に1人人が現れる。
「主の命となれば、なんだって退治してやるが……人を率いればいいのか、難しいな」
「苗字、誰こいつ」
「俺は山姥切国広だ」
「やまんばぎりー!?あのナヨナヨしてるやつ!?」
「……主、誰かは別の俺を持つのか。しかも昔の」
「ええまぁ、はい。とりあえず、子規先生、逍遥先生、露伴先生か紅葉先生、おてつだいいただけますか?森先生は何かあったときに手当てをしていただきたいので残って頂きたいのですが」
「ああ、わかった、そういうことなら仕方ない」
「紅葉はのこれ。俺が行く」
「む、露伴、私では務まらないと言いたいのか?」
「独り身の俺とは違いお前には色々あるだろう」
「何事も経験、か。本を開けばいいのかな?」
「お、みてみろよ夏目!銃になったぞ!」
そんな騒ぎをみて苗字はもう一度手を伸ばす。紫色の宝石みたいなものと紙が現れる。
「お守りがわりです。身を守ってくれるでしょう」
手を取ったのをみて、苗字は頭を下げた。
「あなた方を危険に晒してしまい、申し訳ございません。皆様のご無事をお祈りいたします。長曽祢さんは眞白、国木田さん、子規先生を連れて初等部の方へ」
「初等部?」
「東館のことだよ。ま、案内は任せてくれ。階段もな」
「陸奥はおじいさまと逍遥先生、田山先生と八雲先生をつれて中等部を」
「おん、まかしときぃ」
「では私たちは西館ですね」
「やまくにさんは島崎さん、露伴先生、おじさまをつれて高等部を」
「わかった。まかせてくれ」
「恐らく、一番タチが悪いのが高等部でしょうから気をつけて」
そう言った苗字は札を三振に渡した。その瞬間、目の前が光る。なんだ、と思って周りを見渡せば、そこは教室である。小さな机に周りを見渡した子規が、初等部か、と告げた。
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「錬金術師とは面妖だね。まるで人じゃないようだ」
そう告げたのは三年の北原先輩だろう。しかし、その言葉は的を射ている。彼女のする事なす事すべてがまるで魔法のようだった。ここだってそうだ。8番目の怪談と理事長は告げたが、こんな部屋が実はどこかにあったとは聞いたことがない。そもそも、消えた教師達を見るにここが学校内であるか否かも怪しい。彼女はひょうひょうと、そうですね、とだけ告げて近くの椅子に腰かけた。初等部の生徒がねぇねぇ今のはどうやったの?と彼女を見上げる。
「なんなん?錬金術って廃れた学問やろ?ほぼ魔法やんか、あんなん!」
「錬金術ってことは、金も作れんのか?」
質問ぜめである。彼女はそれに少し違う表情を滲ませる。不意に、声が聞こえる。なぁ、神様なんだろ。しかし、それはだれが発した言葉でもない。彼女の表情には見るからに恐怖がさした。
「おいおい、啄木、織田作、あんまり詰め寄ってやんなよ、怖がってるだろ」
今まで話を眺めていた若山がそう告げる。だってよぉ、と言葉を紡いだ石川に、初等部の生徒が首をかしげる。
「どうしたの?」
「なんでもありませんよ。怖くはないですか」
「うん!」
「……そう」
彼女はそう言ってゆっくりと息を吐いた。
「私もわがままは言ってられませんね」と困ったように笑った彼女に、菊池が口を開いた。
「そういえばお前、どこの学校に行ってるんだ?」
「清庭学園です。ああ、申し遅れました。苗字ナマエと申します」
「清庭学園!?超金持ちが集まる学校じゃねぇか!」
石川の言葉に彼女ーー苗字ナマエというらしいーー苗字は石川を呆れたような目で見る。なんだよその目は!と告げた石川に、高村が「まったく君は」と小さく呟いた。
「この前の事件は大丈夫だったのかい?」
「事件?」
「……知らないのか?強盗が入って多数の死者や怪我人が出て、1人が意識不明の重体って報道されていたけれど」
「あー……あー、その意識不明の重体は私ですかね」
その発言に周りはエッと苗字をみた。
「おい……おい、それ、出歩いて大丈夫なのか」
「ええまぁ元気ですので」
なんとも締まりのない発言である。江戸川が少し考えて、「もしかして、あの事件もこのような事件だったのでは?」と彼女をみた。彼女はノーコメントで、と告げたがそれは答えみたいなものだろう。まぁ嬉々と聞こうとした江戸川に「あんまり首を突っ込むとロクでもないことになりますよ」と告げたが。太宰がサッと顔を青くして苗字をみる。
「まさか、疫病神?」
「違います」
「あれ、待てよ、じゃあお前といれば早死にできる?」
また変な方向に意識を持って行ってやがる。ため息をついて、釘をさすかと思っていれば苗字が太宰をみた。
「太宰さん」
「な、なんだよ?」
「太宰さんにはたった今天寿を全うする呪いをかけたので、早死にできません。残念でしたー」
そうおちゃらけてみせた彼女に、彼女の近くにいた子ども2人がが同じように残念でしたーとケラケラわらった。嫌がらせか、とじゃれ付くように彼女に向かった太宰の首根っこを掴む。
「な、春夫先輩!?」
「太宰、女子生徒相手にじゃれ付くんじゃない」
「え?女子生徒?」
「どうみたって女子生徒だろ」
「いや、佐藤。顔だけ見たら女よりだが中性的だぞ」
「学ラン着てたし男子生徒じゃないかな?」
芥川の言葉に、それもそうだ、と思う。しかし、女子生徒である。森先生が「手の骨格が女子だから女子生徒だろう」と医学的な見解を出した。
「は?じゃあなんで学ラン着てたんだよ!」
「周り曰く厄除けです」
「あぁそうか、すまない。男子といったほうがよかったか」
「構いません。特にどちらでも不便はないので」
彼女はそういって苦笑いをする。そわそわと落ち着かない彼女に体が勝手に動く。ぼん、と彼女の頭に手を乗せれば彼女はこちらを見上げた。
「大丈夫だ、心配しなくても」
つい口を突いたその言葉に、彼女はハイ、と笑ったのだけども。
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ケラケラと笑いながら帰る。いやぁ、楽しかった。模型は動くし、遡行軍くるし、作曲家の誰かが説教してくるし反論したらピアノなるし、遡行軍がくるし、階段の段数違うし、遡行軍くるし、まぁ、いろいろと面白すぎた。俺たちの様子を見て周りはほっと息を吐いたのだろう。
「言いたいことはまぁ色々ありますが、まぁ初等部ですし、そんなところでしょうね。怪我は?」
「誰一人ないぞ」
「眞白と長曽祢さんは待機しておいてください。子規先生と国木田さんはお疲れ様でした」
苗字がそういって指を鳴らせば、国木田の弓は本に変わり苗字の手元に戻る。子規の銃も元に戻る。
「なんだ、くれるわけじゃないのか」
「あたりまえです。成人してから来てください」
そんな会話の後にひとりでに扉が閉まり、次になだれ込むようにはいってきたのは田山達である。
「つーかーれーたー!なんだよ、最後のあいつ!しつこい!」
「理事長と逍遥クンの最後の一撃がなければ危険でしタ!」
「いやぁ、無事でよかったよ」
「そうですね」
どうやら中等部も無事だったらしい。何がどう違うのだろうか、と首を傾げれば、国木田が田山をみた。
「お前のとこは最後なんだったんだ?」
「燃える男だよ!ほら、中等部でよく目撃談あっただろ」
その言葉に、苗字は動きを止める。そして小さく呟いた。
「そうか、ここはーー」
苗字はそう言って扉を閉める。そしてまた開いた瞬間、そこは燃え盛っていた。苗字は前にいた人を全員引っ張り込むと無理やり扉を閉める。露伴達に怪我はないが、井原サンはひどく取り乱しているように見える。
「ああ、なんていうことだ、なんていうことなんだ、あれがひとがやることか、あのひとをさがさなければ、たすけなければ、あのひとを、あのひとを」
「おじさま」
「彼女がなにをしたっていうんだ、われわれが何をしたっていうのか、どこだ、どこに、あつい、」
「井原くん」
「なぜだ、どうして、なんで」
「少しお眠りなさい。貴女には不必要なことです」
苗字はそういえば井原サンはカクンと意識を無くしたようだった。近くにいた山姥切が井原サンを近くのソファに寝かせる。
「悪い、主。独りでに突っ走られてしまった」
「いいえ、貴女のせいでは。ここはそうでした、ならそういう怪談話ができるのも仕方ありません」
そう告げた苗字は緩やかに息を吐いた。
「そんなに違うの?」
「まぁ、ほとんどの場合、高等部になるにつれしっかりとした描写がつくんですよね。そして、色んなことが理解できるから、その理解に基づいた怪談が作られます。初等部がよくある怪談話でしょう?」
「独りでに動く模型、勝手になるピアノ、段数が違う怪談に、睨んでくる肖像画、トイレに住む幽霊、体育館のバスケットボール、職員室の影……確かにありきたりだよなぁ」
「懐かしいね、たしかに初等部の話はそんなのだった」
「中等部も似たようなものだな、ただ、時間が細かくなったし、最後のが何かを探す燃える男になった」
「高等部は?」
「そんな可愛らしいものじゃなかったな。たちが悪かった」
露伴の言葉に首をかしげる。
「此処は火事でなくなった建物だと聞いたことがある。それが関係してるのか」
「あぁ多喜二、それは中等部のころ僕も聞いたことがあるよ。死人がでたって。あぁ、なるほど、中等部の燃える男はそこから生まれた怪談というわけだね」
「高等部の怪談に炎にまつわるもの、といえば」
「火事場で泣く女の子だね」
そう言った生徒に俺は苗字をみる。苗字が頭を抱えた。子どもが首をかしげる。
「火事場で泣く女の子?」
「ああ、誰かの黒焦げの死体を抱きしめて泣いてるんだよ。声をかけた瞬間、周りが炎に包まれて、殺されるって話だ。火事で死んだ女の子が、火をつけた相手をつれていきたいらしい」
俺は苗字を凝視する。苗字はため息をつく。じっちゃんが「それはそれは怪談話とは面白いものだね」と笑った。
「ここがなにだったか、より、どうして無くなったか、の方が残ってしまったんですね」
「当時の子供としてはそっちの方が思い入れが深かったんでしょう」
「理事長先生はここがなにだったか知ってるの?」
「ああ、しっているとも。私が幼いころ、ここは神社でね」
「これは興味深いことが聞けた。何の神社だったんですか?」
「文芸の神さまだよ。学問の神さまとはまた少し違う神さまでね、我々文学を嗜む人はみなその神社を訪れたものさ。まぁ、私や幼馴染たちにとっては遊び場だったんだがね」
「その神社が火事になっちゃったの?」
「私が戦争から帰ってきた時にはそこは焼けていたからよくわからないんだ」
「ふぅん、戦争で焼けたのか……女の子はそこに逃げた子かな?」
「んー、じっちゃん、戦争で焼けたんじゃないって俺聞いたぞ」
頭をかきながらそう告げる。周りがこちらを見た。苗字はなんとも言えない顔だ。
「なんか暴動がなんたらってきいた」
「暴動?」
「いえ、ある意味戦争で焼けた、も正しいです。戦争中、反戦を唱える言葉ーー文芸よりも勝利に直結する武力ーー武芸が好まれました。その結果、武力を好む方々により言葉を紡ぐ人への弾圧が酷くなり、最後は」
「彼らの依代だった神社が暴動により燃やされた、というわけか」
「燃える男の正体は当時の作家ということか」
その言葉にじっちゃんが動きを止める。苗字が、そうでしょうね、と小さく肯定した。
「でも、なら、その少女は巻き込まれたってことですか?」
ムシャが首をかしげる。
「……ここには、1人の少女がたまに姿を現したと聞いています。普段は人に姿をあらわすことはありませんが、見える人には見えたのだと」
「神さまか何かだったってことかな?」
「燃える男はその少女を探していたんでしょうか」
夏目、せんせがそう告げる。苗字はただ目を伏せる。
「少女が抱えていたのは誰だったんでしょうね。暗い話はここまでにしましょう。少女をどかさないと」
苗字がそう言えば、誰かがあ、と小さく声を上げた。そちらを見れば、ドアが燃えていた。しかし、煙の類の匂いはしない。
「下がって」
そう苗字と山姥切が前に立つのと、扉が燃えて無くなるのは同時だった。むせ返るような熱を感じる。その先には確かに少女がいる。真っ黒になった誰かを抱えた。
「……主、あれは」
「怪談に何かが入り込んだもの、なんでしょうね」
少女が足を進めてやってくる。火の粉が舞うが燃え広がることはない。ヒタリヒタリと足音を鳴らした女の子は口を開いた。
「みんなもえてしまえばいいのです」
その声は当たり前だが、苗字の声である。周りがギョッとしたように苗字をみた。
「人間なんて、燃えて仕舞えばいい。多数でしか動けない愚か者めが」
炎の勢いがます。顔を上げた先にあった顔は苗字にそっくりな顔をしていた。
「よ、苗字じゃん!」
そう声をかければ苗字に頭を叩かれた。痛い。苗字に似た何かは黒こげの誰かをはなし、目を見開いて苗字を見つめる。そうして思いっきり手を振り上げた。ガン!という音がして拳は宙でとまる。
「憎い憎い憎い、お前が憎い!これはお前を探しにきたのだ!お前は見捨てた、幾人がお前を守るために息絶えたと思うのだ!それが偽物だとしらず!あぁ滑稽だ、滑稽である!この男はお前を探して死んだのだ!」
「黙りなさい」
苗字はそう言ってよく似た人物を見下ろした。山姥切が眉間にしわを寄せた。
「あまり人の姿をしないでいただきたいですね、何も知らないのは貴方ですし、滑稽なのも貴方です。未来の推測だけで動かないでいただきたい。ここに、この人達に目をつけたのには花丸をあげましょう。確かにここにいる人物は将来有望だ。しかし、それを排除しようとしている貴方は燃やした彼らと同じなんですよ」
「まずい」
「どうしたんだ、山姥切」
「主がキレた」
「苗字がキレたらどうなるんだ?刀剣オンパレード?」
「それで済めばいいんだがな。主はーー」
山姥切が何か言いかけた瞬間、苗字によく似た人物の首が刎ねられる。その先にいたのはカナタである。苗字によく似た人物はドサリと倒れるとドロドロに溶けて鉄の塊に変わった。それと同時に炎は収まる。扉の先はただの廊下にかわっていた。
「大丈夫か?妹」
「……自分の首が刎ねられる瞬間を見てしまったことに驚きが隠せません」
「ああ、悪い、コイツが利用した媒体が写しとしてたやつだからお前そっくりになったんだろ。とりあえず反動が来るから気をつけろ」
そう言ったカナタに俺は周りを見る。カチリと音がなったと思えば周りにいたはずの生徒教員が消えた。恐らく止まっていた時間が動いた為、元いた場所に戻ったんだろう。
「いやぁ、遡行軍がこの学校に来るって聞いてたんだけどなまさか時間をとめてくるとは。お陰で十六夜達は最初動けなかった」
「最初?」
「お前らが校内をある程度清掃したろ?だから動けるようになったんだよ。ま、誰かさんの結界のせいで中に入れねぇわ、でも俺が持ってたはずのお前の写しの感覚するわで仕方ねぇから逆を利用してこっちにきたんだよ」
カナタの言葉に山姥切がアンタも物をなくすのか、と呟いた。苗字がカナタを殴る。カナタは避けたが。
「貴方のせいで私が七不思議入りですよ!何年前に無くしたんです!」
「三年前!」
「利用されてるじゃあないですか!」
ちなみに苗字に似た人物の七不思議が囁かれ始めたのも三年前からだとしるのはまだだいぶ先のことである。
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