2019/04/06

↓改変 その者、霞となりて

・主人公(鷹司ナマエ/苗字ナマエ)
鷹司分家出身。本家の養子取り合戦のため祖父母両親が男として育てたスーパー転生トリッパー。海軍学校を次席(首席は大河)で卒業し、少尉として任に就いていたが上司に性別がバレたことから芋づる式に性別がばれて除隊/勘当された。その後、霊力の高さを買われて米田さんに花組を勧められたが月組に落ち着く。ワーカーホリック気味。男装の麗人。たらし。休みの日は図書館で本をよんでいる。
・大河
桜5の主人公にして大神さんの甥。飛び級して主人公と同じ学年になった。気にかけてくれていた主人公やなんやかんや気にかけてくれていた花嵐とは仲がいい。主人公の性別は風呂をのぞいて知ったが、理由をしって何も言えなくなった。紐育にだいたいいる。
・花嵐
海軍学校の三席。卒業後は提督をしている。横浜出身。女が苦手で近づくだけでサブイボが出るのに主人公は平気。それ故に主人公が女だと気づいていない。今の職場に大変頭を抱えている。大河はなんやかんや構う。
・宇野田
帝国図書館特務司書。たまに来る文豪じゃないイケメンと知り合ったら仲良くなって今に至る。転生トリッパー。主人公に関しては劇場関係者だとは思っている。悪友的なポジション。なお主人公は男だと思っている。図書館の面子も男だと思っている。
・神無木
審神者。神社の奥に刀剣たちと住んでいる。宇野田と同じところ同じ原因できた転生トリッパーで、宇野田を介して主人公とは知り合った。主人公の性別はどちらでも良いと思っている節があるが、女だとはわかっている。なお刀剣に主人公の性別を教えていない。

==

窓際の君、とは職員がソイツにつけたあだ名である。たまに現れる彼はいつも決まって穏やかな日が差す窓際にあるソファにかける。一部女性職員により俺や職員だけでなく見た目がよろしい文豪がそこに座ろうとすればどこからなやってきて席を開けるように促すのだ。今日もやってきたソイツは、先生たちの本を二、三冊手にとっていつもの席に向かって止まった。なんだ、と見ていれば隣で業務を手伝ってくれていた井伏先生がどうしたんだ?と首をかしげる。
「窓際の奴さんがいつもの席をみて止まってる」
「止まって?あぁ、本当だな。猫でも寝てるんじゃないか」
「いや、誰もいなかった。席替えか?」
そう言っていれば、丁度通りかかった菊池先生が奴さんに声をかけた。何か会話をしているようである。笑いながら背中を叩いた菊池先生は椅子から何かを取り除くと奴さんは席に座った。もう2、3こと喋ったあと菊池先生はこちらの視線に気づいたらしい。何かを話して菊池先生はこちらにきた。奴さんは本をめくり始める。しばらくはテコを入れても動かないだろう。
「菊池先生、窓際の君と何話してたんです?」
「あぁ、昨日、文豪の一部と女性職員による喧嘩が起きてな。だから、ほら」
そう菊池先生が見せたのは紙だ。窓際の君専用と書かれた文字は新美先生の文字だろう。
「あぁ、こちらは彼をそう呼んだが彼は誰かがわからないからか」
井伏先生が納得したようにそう告げる。なるほど、どうやらいつもの席にそんな張り紙があるものだから困っていたらしい。
「しっかし、声まで麗しいときた。こりゃあ天は二物を与えずっていうが、神さまは与えすぎじゃないか」
「いや、菊池先生、性格がものすごい悪いかもしれないじゃないですか」
そう言った俺は女性職員にそんなことがないと言われて掃除を押し付けられる羽目になるのだが。

==

窓際の君をどう見てるかは結構人それぞれであるが、話を聞いた俺の古い知り合いの一人がなんてBLゲー?と尋ねてきたのでそういうようだ。窓際の君と菊池先生と話すようになり文豪達のハードルが下がったらしい。まず最初に噛み付く勢いだった太宰先生が丸め込まれたのが発端には間違いない。
「なんで天は二物を与えない筈なのに、お前はいくつももらってんだ!」
インタビューをしながら嘆いた田山先生に窓際の君は首を傾げた。
「田山さんはもらっている側では」
「誰から見てもお前はもらいすぎなんだよなぁ」
俺がそうぼやけば、奴さんは首をかしげる。このイケメンは自覚がないのか。そう思っていれば、夏目さんが「自覚がないのですか?」と尋ねた。
「いえ、私はそうであれと言われてみにつけたものなので。決定的な欠点を隠していますし、見せかけだけですよ」
「やっぱり性格悪いのか」
「少なくとも聖人君子ではないですね」
そう言いつつ紅茶を飲んだ奴さんに、よくいうぜと思う。太宰先生なんて聖人君子だと芥川先生とは違う方向で今にも崇めそうな勢い。
「欠点ぐらい教えろよなー」
「それはちょっと」
嫌がったということは、相当嫌らしい。しばらく俺たちによる粗探しが始まったが、誰も見つけられないまま奴さんの仕事が忙しくなった。

==

お前を殺して俺も死ぬと言わんばかりの太宰先生(耗弱状態)が奴さんーー苗字にナイフを突き立てて突進したが、こちらが止める前に、真剣白刃どり、ではないが指で挟んで止めた。そのあと丁寧に武装解除した奴さんは、太宰先生を綺麗に転がした。ぽかん、とした俺たちに対して奴さんは「あ、しまった、」とこえをだした。
「太宰くん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない」
その言葉に苗字は困ったような顔をする。ああ、これは太宰先生の死にたいコールが始まるぞ、と思っていれば、案の定始まったそれに苗字はさらに困った顔をした。
「太宰さん、死ぬのも構いませんが、お茶にしませんか。今、期間限定でイタリアのチョコレート屋が出てるんですよ。なんと世界一に輝いたショコラティエによるチョコレート屋なんです。それを食べないで死ぬなんて勿体無いことをしないで。ああでもひどい傷ですし、先に医務室に行きましょう」
そう言ってポカンとしている太宰先生を姫抱きにした苗字に森先生が駆け寄る。まぁそのあと太宰さんは爆睡し、苗字はまた黙々と本当にを読むのだけど。

==

次の日、太宰先生が見当たらないと思えば苗字が連れて戻ってきたのは夕方ごろである。しょこらぁとしぇいくと書かれた飲み物を持って上機嫌な太宰先生だ。朝は苗字に嫌われたらどうしようなどと言っていたが、すっかり元気になったらしい。織田先生が隣に並んで太宰先生に声をかけた。
「なんや太宰くんご機嫌やな」
「みてくれよ、オダサク!これすっげーうまい!苗字にすっげえいいとこ色々つれてってもらった!」
「はいはい、よかったなぁ」
そんな会話をよそに苗字が俺をみた。
「あ、宇野田さん、これよろしければ皆さんでどうぞ」
「しょこ……ら……」
「チョコレートです。人数がわからなかったので足りるかわかりませんが……足りなければ、秘密、ということでおねがいします」
そう言った彼にオダサクが箱を開けた。宝石のように散りばめられたチョコレートにうまそうと呟いてしまったのは仕方ないと思う。

それからというもの、たまたま苗字が来た時に太宰先生が不安定に陥っていれば苗字がなんやかんやと連れ出すことが増えた。あと、珍しい舶来品のお菓子を買ってくるため一部文豪には人気である。あと、さん付けがくすぐったいので呼び捨てでいいといえば呼び捨てになったし、館長と苗字も知り合ったみたいである。
「館長、いくつか頼みがあるのですが」
そう苗字が現れたのはお昼過ぎのことである。いつもよりかっちりとした服を着ているのを見るとおそらくは仕事中なのだろう。アポの電話もきちんと入ったらしい。怪しい宗教の勧誘かと睨んでみる。ちなみに談話室である。
「君がものを頼むなんて珍しいな。どうしたんだ?」
「それが……私の仕事を先にお伝えします。私は楽団と劇団、劇場のスケジュール調整を主にしているんです」
「そんな仕事だったのか。てっきり俳優か何かかと」
「あはは、ありがとうございます。で、頼みというのがそれに関わることなんです」
そう啖呵を切った苗字に館長が目を瞬く。
「楽団の定期発表会があるのですが、抑えていた会場が落雷によって火事になりまして。もしよろしければでいいのですが、エントランスまた一室をお借りさせていただいてもよろしいでしょうか」
その言葉に俺や文豪、館長が動きを止める。
「楽団の演奏をここでするということか?」
「はい、そうです」
「楽団ってアマチュアかい?」
「いえ、プロです。しかし、指揮者は見習いなので大目に見ていただければ」
「楽団の名前は?」
ググってやろうとそう尋ねれば、苗字は「あまり馴染みがないかもしれません」と一拍おいた。
「奏組という帝国歌劇団お抱えの楽団なんですが」
その言葉に館長がポカンとした。俺も同じくポカンとする。
「それは、逆にうちでいいのか?本格的な楽団だろう?」
「ここ近辺のホールは学会などで埋まってしまっていて。それに、帝国歌劇団となれば集客が大変なことになるんですが、オーケストラとなると集客が落ちるんです。あくまで皆さん歌劇となると演技を見たり歌を聴きにきますが、オーケストラはあまり関心が向かないんですよ」
「確かに、帝国歌劇団の話はよく聞くが、オーケストラはきいたことがないな……」
「でしょう?ホールは敷居高いですがここなら人も集まりやすいですし、敷居も低くなるでしょう?曲も穏やかな曲を中心として予定されてますから。きちんと場所代はお支払い致します」
館長が猫をちらりとみた。猫が頷いたのを見て、館長が笑う。
「わかった、承諾しよう。何か準備することがあれば手伝うよ」
「ありがとうございます。何かあればお願いするかもしれません。また詳しいことは総楽団長秘書及び指揮者と共に説明に参ります」
「あぁ、わかった」
「で、もう一つの方なんですが」
そう苦笑いした苗字に、ああそういえば二つあるときいたな、と思う。
「太宰くんに、作家さんが多いと聴きまして、戯曲を一本書いていただきたいのですが」
その言葉に今度こそ俺と館長が固まり、話を聞いていた先生達により話が纏められていた。

==

苗字がすっげえいかつい外国人連れてきた。館長にお礼を言いにきたと言っていたので楽団長だろうか。それについてきていた少年は秘書らしい。まぁ、話がまとまったのか1時間後ぐらいには苗字と一緒に帰っていったが。後で館長に聞けばやはり楽団長だったそうだ。

苗字が準備のために図書館に来ることが増えた……のだが、コイツ大丈夫だろうか?と思ったりもする。何故なら四六時中働いているからだ。飯食いながら書類に目を通したりは勿論せわしなく働いている。当初はカッコいいしか言わなかった女子職員もこれはいけないと思ったのか積極的に休むよう告げるがーー苗字が見事に断っていた。それが何日か続きーー二人の男がやってきた。俺や文豪、職員の話を聞くなり苗字を座らせてこんこんと説教するのをみる。苗字の言い訳をばっさりと切った彼らに苗字がしょんぼりと肩を落とした。
「ナマエ、明日は仕事休め。いいな。上司命令だ」
「……はい……」
「ナマエ〜、そんな顔をしないでくれ―、俺も宍戸もお前がいつ倒れるかとヒヤヒヤしてるんだ」
そう犬を撫でるように苗字を撫でた男に苗字は嫌がるそぶりもなく「これくらいは別に……」と告げる。もう一人の男が苗字を見下ろした。
「ナマエ、とりあえず奏組は俺が話をするから。休むんだ」
「何回も言ってるが、俺たちにはナマエが必要だから、倒れられたら困るんだ。必要ないからじゃない。大丈夫だ」
その言葉に何かが引っかかる。苗字は素直に頷いたのを見て、男はいい子だ、と言ってわしゃわしゃと頭を撫でた。

==

「自分で言うのも何なのですが」
酒で少し頬を赤らめた苗字はそう言ってグラスを見つめる。その仕草でさえも艶やかな男なのだから、これだからイケメンは、と思ったりしないでもない。
「私、不安定で結構面倒くさい人間なんですよ」
苦笑い気味でそう告げた苗字に、近くで同じく飲んでいた井伏先生は「意外だなぁ」と呟いた。
「仕事をしていないと不安で不安で仕方がないんです。本に没頭するのだってへんなことを考えなくても良いことですし」
「そういう理由だったのか?」
「最初はね。上司が勧めてくれたんですよ」
そこで、一昨日の男の言葉を思い出す。
「誰かに必要とされたい?」
その言葉に彼は少し目を見開きーー自嘲するように目を伏せた。
「ええ、とても」
その姿は誰が見ても不安定である。太宰先生とは違う脆さというか。そのまま消え去ってしまいそうな。あぁ儚いとはこういうことか、と納得したところで太宰先生が苗字に抱きつきに行ったのだけど。

==

その人の第1印象は、綺麗で豊富な霊力の持ち主である。これを感じた時、隣にいた加州くんは慌てたし、私はこれは加州くんが視える人だな、と思った。次に抱いたのは宇野田に聞いていたよりも綺麗な人だということだ。図書館で行われるコンサートにせっかくだからきてはどうかといわれて出向いた先である。宇野田の紹介により知り合ったが、イケメンだった。恐らく前なら2.5次元にいそうと思うくらいには。さぞかしオモテになるのだろう。もしかしたら遊び人かもしれない。なんかいい匂いしたし。しかし、その印象はまた覆ることになる。彼と握手した時に抱いた違和感に、彼が手袋を外した時の手を見て思った。宇野田達が聖人君子もしくはそれに準ずる人間だと思っている彼は、見るからに女性職員に思われている彼は、女性であると。

==

無事に奏組の演奏会は終わった。利用者または聴きにきた人には大変好評であり、また開催したいという話が苗字を通して館長に届いた。館長や文豪も勿論乗り気である。
「苗字、指揮者があんな可愛い少女だったって聞いてない!」
そう抗議した田山先生に、苗字は平然と「そこを強調して変な虫がついても困るので」と告げた。固まった田山先生に島崎先生が首を傾げる。
「でも、女の子なら歌劇団にいそうだけど」
「彼女は楽団長が直々にスカウトした方です。まぁ、上京してまだ日が浅いので困っていれば助けてあげてください。またここで公演するかもしれませんし、あの子よく迷子になりますし」
苦笑いして告げた苗字に、田山先生の表情がコロッと変わる。そして、こちらを見た。
「というか、司書!カンナギちゃんがあんな子だって聞いてないぞ!」
「幼馴染だよ、あとアイツ中身残念だからマジやめとけ」
割と素でそういったのだが、女の子と文通してあわよくば出かけてるなんて!と田山先生が嘆いた。いや、文字見ておっさんだと決めつけたのは先生達である。面倒くさいな、と思っていれば苗字が談話室の扉の方を見た。ノック音、森先生の失礼する、という声が聞こえた。森先生の後ろにいたのは体格の良い男である。服を見るに、恐らくは軍事関係者だろうか。彼は射抜くような目で周りを見た。誰だアイツ、とこちらがひやりとする中、苗字があっけらかんと「花嵐じゃないか」と声をかけたことで彼は苗字をにらんだ。彼は足音をたててやってくると、俺たちの机を叩く。
「ナマエ!聞いていないぞ!説明をしろ!」
「説明しようにも、君に連絡を取る手段がなかったんだよ」
「手紙があるだろう!大河には手紙が来たと聞いたぞ!」
「あれ、大河と会ったのかい?」
「亜米利加でな!」
「とりあえず、花嵐、私を心配して一目散に来てくれたことは嬉しい。が、図書館だし、君の体格その服で怒鳴ると周りが怯えたり警戒するからやめなさい」
その言葉に彼は目を瞬いて周りを見た。そして、申し訳ない、とすぐに頭を下げる。あれ、こいついいやつかな?よく見ると年も近そうである。
「えーと、花嵐、凄く簡単にまとめると今の上司が大河の知り合いでそっちから話が飛んだだけであって、私は大河に連絡していないさ」
「む」
「あと付け加えて、君が怒っている理由だけども、ごくごく簡単に言うと勘当された」
「なに?あの家がお前を手放したとでもいうのか?こちらの噂ではお前が失踪し、お前の本家は探していると聞いたが」
「それは聞かなかったことにしよう」
苗字はそう言ってチョコレートを食べる。もう一つを彼の口に入れると、森先生をみた。
「ありがとうございます、森先生。彼は私の友人でして」
「その服は海軍士官か?」
「はい、自分は海軍准尉、花嵐光司と申します。ナマエが世話になっているようで」
そう頭を下げた花嵐にいやいやと首を左右にふる。苗字が珍しくツイっと眉間にシワをよせる。
「それいつも思うんだけど、私が君たちの世話をしていただろう?」
「そんなことなどない。俺がお前の世話をしていた。大河は知らん」
「苗字の知り合いが准尉ってことは、苗字も海軍出身か?」
「えぇ、まぁ、問題を起こしたので除隊されましたが」
苗字の言葉に俺たちが首を傾げる。苗字が問題を起こすようには見えないが。島崎先生がメモを持って詳しく聞こうとしたが、花嵐が先に口を開いた。
「お前の問題なわけがあるか。大方、そういう趣味の上官がお前に詰め寄ったか、できない上司や同僚がお前を嵌めたかのどちらかだ。だから俺と同じ部隊にこいと……」
そうモニョモニョと告げた彼に苗字は笑いながら尋ねた。
「本音は?」
「……まさか女が多い部隊に配属されようとは思わなかった」
その言葉に苗字は「見事に嫌がらせだね」とまたチョコレートを口に含む。田山先生が嫌がらせか!?と反応した。
「あぁ、花嵐は女性が生理的に嫌いでね」
「おい」
「かといって恋愛対象は女の子のあたり大変なんですよ」
「おい、余計なことを言うな」
「なんでそうなったんだ?」
「興味を持つな」
「昔女の人に襲われたらしいです。近寄るだけで吐き気、触るとじんましんがでる」
「だから、話すな!」
そう苗字を小突いた花嵐に、森先生が首を傾げた。何かあるのかと見れば、首を左右に振られたけども。
「いや……しかし、そうなれば困ったものだな。君ぐらいの歳の軍人となれば、婚約の話も出てくるだろう?」
「いや、俺としては全く困りません。弟がいるので後継そいつでありますし。俺は苗字の世話をするので精一杯で」
「なんだそれ」
「お前も女を作る気はないんだろう?」
「あぁ、ない、が、なんで花嵐に世話されるんだ」
「お前はどうせ一人で生きていけないだろうからだ」
「失礼な。お前の言い訳に俺を使うなよ。掃除洗濯炊事全部完璧だぞ。というか、お前が一人で生きていけないだろ」
「くそう、それでいけると思ったんだがな」
なるほど、仲がいいらしい。じゃれつくような二人に、太宰先生がギリギリしているのが見えた。
「そういえば、そちらは」
花嵐がこちらを見る。それに俺達がなのり、なんやかんや仲良くなるのだがまぁそれは別の話である。

==

「苗字って偶になんもないところ見てるけど、何見てんの」
不意に思った疑問である。それを聞いた花嵐(どうやら休みらしい)が眉間にシワを寄せて告げた。
「宇野田、怖い話はいけるタチか」
「え、まじで、そんな話なのか」
「だいたいはな。アイツには俺には見えない何かが見えているし聞こえいるんだと俺は思う。首席も同じく見えていたがそれよりはっきりしているんだろう」
そう言ってタバコを蒸した花嵐はそういうものを信じていないかと思っていたが、違うらしい。
「演習で酷い戦地だった場所にいったことがある。そこはいわゆる心霊地でな。兵士の幽霊が出るやらなんやらと有名だったんだ。まぁ、実際にひどい場所でな、人がいないのに足音はもちろん、銃声や大砲の音までする」
「でも教官がいるんだろ?」
「教官は俺達を置いてくんだよ。サバイバル演習だってね。まぁ何隻か脱出用の船があって、三日もすればほとんど逃げたよ。中には精神が異常をきたす奴もいたな」
「花嵐は大丈夫やったん?」
「いや、俺もまいりかけたが、同じ隊にナマエが飄々としてたからな。不思議とアイツが鼻歌を歌ってるとそう言うものが止むんだ。聞けば魔除けらしくて全員何かあると歌ってた」
何かを思い出すようだった。
「五日目になると、アイツは幽霊の名前を呼ぶようになった。何かあればそいつらを呼んで止めたし、俺達が何かしそうになると俺達を止めた。幽霊と一緒に飯も食ったさ。継いだ飯が気付けば冷蔵庫に入れたように冷たくなって、味噌汁の味は無くなっていたし水を入れて置いておけばそれはいつの間にか無くなった。そこから怖くなくなったな。見えないだけで、そこに確かに誰かはいるとわかったから」
「しかし、よく苗字サンは無事でしたね。日本には連れて行くと言う話があるデショウ?」
端の方で聞いていたらしい八雲先生が首をかしげる。
「あぁ、幽霊にそれを告げた日にアイツが崖から落ちかけた。俺と首席、残った奴が引き上げたからなんとかなったが、そこで事態は一変した。だれでもない声が聞こえた。アイツを寄越せ、置いてけ、ってな。引き上げようとするんだが、アイツが段々重くなって行くんだよ。首席が悲鳴をあげてたから俺は見えなくてよかったと思った」
「よく無事だったな」
「首席が叫んだ。貴方達が一緒に本国に帰ればいいでしょう!って。笑える話だが、アイツがそれもそうだと頷いて、そこから一部の幽霊と一緒に船旅だ。あれは忘れん」
「一部ということはまだそこにいるのか?」
「いいや、結局、政府が動いて遺留品やらを全部引き取ったんだよ。その翌年からそういうことは無くなった」
「成仏したのか?」
「それはしらん。ただ、俺の実家の方だった奴をアイツに言われて連れ帰ったが、夢枕に立たれて礼を言われたから一部には踏ん切りがついたのかもな。まぁ、アイツは結構不思議な奴だぞ。変なエピソードが山ほどある」
そう笑った花嵐は、ふと真面目な顔をした。
「だから、偶に心配になる。アイツはいつかそのままその人間じゃないなにかに連れて行かれるんじゃないかと」
「あぁ、それはなんか納得してまうわ。あの子、知らんうちにおらんくなってしまいそうやもんな」
だから最初、花嵐はあんなに怒ってたのかと納得する。確かに図書館でもフラッと現れて、フラッと帰るイメージがある。しかしながらそれはワーカーホリックだからだろうけど。坂口先生がからかうように告げる。
「花嵐は苗字が女だったら惚れてるクチだな」
「さぁな。だが、人間に惚れるのは女も男もないだろう」
その時はさらりと返された言葉に太宰先生が大きく頷いて俺も納得した、の、だが。今思うとはぐらかされた気がしないでもない。いや、でもコイツ異性愛者だって苗字が言ってたし、と幼馴染のカンナギの前でぼやけば、なにそれ美味しい匂いがする、と返されたし、その場にいた文豪の一部がその後書き上げたのもそういう話だったとだけ告げておこう。

ーー青年はそれを恋だとは、思つていなかつたのであります。いえ、理解はしていたでしょう。しかし、蓋をした。なぜならそれは気づいてはいけないことであるからでした。

==

あぁ、この人は理解しているんだな、と思う時がある。例えば、宇野田の友人であるカンナギさんだ。彼女は握手をした時に気づき、私が手を見せた時に確信した。それは、この人も同じだった。医師だからだろうか。意図も簡単に見抜いてみせた図書館の医務室の主人は偶にこうして私に不便がないかと尋ねることがあったのだ。上司と言うよりは不安定な私の主治医に近く、そして主治医と言うよりは一般的にいう父親の像に近い。それはきちんとした父親を持たない私にとっては意図も簡単に縋る対象になったのだ。
「先生、困ったものです」
そう告げて医務室な猫のぬいぐるみを抱える。どうした?と尋ねたら彼に、頬杖をついた。
「この前、お仕事をしている時に家のものが来て私に戻るように告げました」
「別に跡取りができたんじゃなかったのか」
「どうやら弟は体が弱かったようでして。このままではいけないと思ったんでしょう。それに合わせて海軍にも復帰を。除隊ではなく、予備役としておいていた、が言い訳です」
そう言って苦笑いを浮かべる。彼はなにも言わない。ただ、少し眉間にしわを寄せて、少し怪訝そうに、私をみた。
「困ったものです。そうであれば、軟禁するなり座敷牢に入れるなり外に出さなければよかったのに」
「戻りたくなければ、戻らなければいい……と、言いたいところだが、恐らくお前がいた場所はそんな甘いことが通じる世界ではないんだろうな」
そう言って遠慮がちに伸ばされたのは優しい手だ。なによりも。慈しむような優しい手だった。あの太宰くんならなんというだろうか。逃げようと手を引くのだろうか。しかし、この人は私が決して逃げられないことを理解している。そして逃げないこともまた、理解している。その雁字搦めのーー呪いのような立場から。そして、この優しい手から。
「いつ戻るんだ」
「一ヶ月先には。いえ、なにも、変わらないんです。中途半端だった私が男に戻るだけですよ」
そう、たったそれだけだ。でも、こんな自由を知ってしまえば、当たり前が変わってしまえば、全てが変わってしまうのだ。恐らくはこうして、ここに来ることさえもかなわなくなるのだ。
「本当に、困ったなぁ」
その手にすがるように目を伏せる。ぽろりとながれた涙は気にしないことにして。

==

苗字の音信がパタリと止んだ。二週間に一度は来ていたのに、今は全く持ってこないし、手紙を書こうともその手紙を届ける術はない。神さまに連れていかれちゃったのかな、とは宮沢先生の言葉だ。花嵐の言葉はどうやら的を得ていたらしい。おかげで太宰先生がウジウジウジウジしている。キノコが生えそうなくらい。あと、花嵐もしばらく海外に行くから忙しくなるからなかなかいけないという手紙がきた。どうやら花嵐曰く、苗字もかなり忙しい部署に異動したらしい。

ーーそんなこんなで早いもので一年と半月が経った。図書館にも随分文豪が増え、苗字を知らない人物もちらほらと出ている。一応できた繋がりはそのままで先生たちが歌劇団の戯曲を書いたり、奏組が公演をすることもある。そんなこんな過ごしていたある日、花嵐がやってきた。最初は服装からか一部には驚かれ、警戒されたが俺たちと親しいと知るところっと警戒は溶けたらしい。久しぶりに話しに花を咲かせていると、苗字の話になった。苗字を知る誰もが苗字の安否をきづかっていたのだ。しかし、その瞬間、花嵐がなんとも言えない顔をした。
「俺も会ってない。手紙も一年前から通じない」
「え、」
「アイツの安否はわからない」
太宰先生だけでなく苗字をしる文豪からスッと喜びに満ちていた表情が消える。花嵐は言葉を続けた。
「最後に会った時、本家に戻るといっていたが、そこからわからない」
「花嵐が?辞令はでていないのか?」
森先生が眉間にしわを寄せて尋ねる。森先生は何か知っていたらしい。そういえば、二人は仲が良かった。師弟のようなーー親子のような、そんな関係だ。
「森さん、何かしってたのか」
「……俺が最後に会った時に、本家に戻らなければいけないと言っていた。その時に、本家に戻ると必然的に海軍にも戻ることになると。恐らく、戻るのならそれなりの役職だろう」
そうはっきりと言い切った森先生に、花嵐は「なにも聞いていません」と首を左右にふった。
「本家に戻る、か。そういえばあの坊は、勘当されていたのだったな。話を聞く限り、それなりの家系か」
「今だから言うが、アイツの家系はそれなりなんてものじゃない。あいつの本当の氏は鷹司だ」
花嵐の言葉に俺は首を傾げたが、文豪の多くは理解したらしい。吉川先生が俺を見て口を開く。
「鷹司といえば、五摂家。平安から続く天皇陛下に関わる家だな」
「今も皇族の世話係はそこらが固めてるから実質公家だろう。時代が時代なら皇子様と似たようなモンだ」
「え、ちょっとまって、苗字の兄さん、そんな身分の人やったん!?」
「あぁ、だが、分家に当たるらしい。しかし、当主に息子がいないから分家から養子をとることになる、その争いの真っ只中にいる、と海軍学校時代が時代に聞いた」
「でも勘当されたんだろ?」
「あぁ、弟ができたし上官と揉めて家の体裁が悪くなったからと聞いた」
「またその渦中にもどったのか」
苦々しく告げた多喜二先生に花嵐は「さあな」と花嵐はタバコに火をつける。その煙を見つめて口を開いた。
「変な話だと思わないか。弟が生まれたくらいで長男が家督を継ぐことがなくなるなんて」
「上官と揉めたからじゃないのか?」
「いや、揉めたくらいならなんともならないだろう」
「勿体ぶるなよ、花嵐」
そう太宰先生が怒ったように告げる。花嵐が口を開く。
「アイツが除隊になったとき、流行った噂がある」
「噂?」
「鷹司ナマエは女だった、という噂だ。同期の誰もが嘘だと思った。同じ学校にいて、数年同じ場所で暮らした。そんなことがあるわけないと。だが、腑に落ちたところもあった」
「……たしかに、そうであれば納得できますね」
江戸川先生が少し考えながら告げる。
「彼が彼女であることを隠して入隊したのであれば除隊されるのも当然でしょう。その上、男が生まれないから男として育てられたのならば、男である弟が産まれてしまえば用済みになりますね」
「なるほど、そのパターンならこうだ。その弟が使い物にならないからその人は本家に戻された」
夢野先生が淡々と告げる。森先生が頭を抱える。そして小さく止めるべきだったか、と呟いた。
「鴎外は苗字の性別を知るのか」
「ああ、苗字の手を見てわかった。男と女では手の骨格が違う。苗字の手は女の手だった。だが、たまにいるだろう?心身の性別が異なる者が」
露伴先生の問いかけに、草臥れたような森先生が口を開く。その様子は潜書で傷ついた時の様子に似ている。花嵐はタバコを灰皿に押し付けて森先生をみる。
「先生も俺も一緒らしいな。酷く、俺たちは臆病者だ、」
「なにを」
そう言い返そうとした荷風先生に、森先生が首を左右にふった。
「あの一瞬で手を引いてやれば、アイツはここにいた。一緒に逃げてやっても、もうすこしはアイツはここにいただろう。行っただろう?アイツは、すぐに、いなくなるんだって」
無理矢理笑ったような顔だった。その顔に理解する。彼は恐らく、あの子をーー。



 Comment(0)
混合系 

次の日 top 前の日