2019/04/07
↓ 続き
目の前にいる人物は、恐らく叔父に似たこの人物と私にしか見えていないのだろう。私の視線が何もない空間にあるのを見て、他の候補者は気味が悪いと言葉をぼやいた。その先にいるその人は驚いたようにこちらをみる。見えているのか?と尋ねた彼に答えるように小さく微笑んでおく。叔父に似た人はぐるりと周りを見渡して、次々とそこにいた彼らは席を外すように告げる。勝ち誇った笑みを浮かべた彼らは次々と指定された場所に足を運び、最後に残った一人に関しては絶望したように席を立つ。そうして、私とその人、見えない人物となった。
「ナマエ、お前に鷹司を任せたく思う」
「悪名付きの私にですか」
そう自嘲する。この一族に戻ってどれほどの時間が経っただろう。男であれ、と、様々なことをうけた。女だと誰かが告げた。地位が欲しいゆえに弟を手にかけた、と誰かが。誰かが、私を女狐と。そうしてついた悪名はいくつあるだろうか。
「お前は酷くできた人間だ。悪役をえんじろと言えば、悪役だって演じる。まぁ、似合うか似合わないかは別としてだが。二条の隠居さまに聞いたぞ、弟を家のものに手をかけられる前に審神者側に置いたそうじゃないか」
「それが良い判断なのかわかりかねます。弟は右も左もわからない。そんな中で、私は彼をあちら側においたんです。恐らく弟は私を恨むでしょう」
彼が私を殺すのだろうか。最近どうも眠りが浅い。思考が鈍い。
「お前は俺を恨むか。女の道を奪ったのは俺だ」
「いいえ、恨みません。恨むのなら、一度勘当した親を恨みます」
「何故?」
「自由さえ知らなければ、そこにあったはずの何かさえ知らなければ、こんな惨めな気持ちにはならなかったと思うからです」
そう告げて頭を下げる。土下座に似たそれだ。
「鷹司を継ぐそのお話、ご辞退したく」
「……言うと思ったが、俺も引けん」
「何故」
「他の家も陛下もお前をご指名だ」
その言葉にああやはり逃げ場などないのだと。自分の運命からは逃げられないのだと思う。どうあがいても。逃げ場など用意されていないのだ。ただまっすぐな道にそれる道などなく。
「お前が家督を継ぐと次は一族の不届きものがお前を狙うだろう。いや、一族だけじゃなく、家を一緒にしようと企む者がお前に子を身篭らせようとするかもしれん。お前は太刀打ちできようが、流石に色々と不便だろう」
その言葉に畳の目を見つめながら尋ねる。
「去勢ですか」
「そんな馬鹿げたことをするか。なに、お前に護衛をつけてやろうと思ってな」
彼はそう言ってため息をついた。顔を上げろ、と告げた彼に顔を上げる。他の人には見えないそれが首を傾げた。
「俺はどうだ?」
「お前は、護衛に向かん。普通は触れんだろう。審神者はお前に似たものを下ろすがお前が降りたらややこしいと聞いた」
その言葉に彼はつまらなさそうにする。
「海軍から人を呼ぶつもりだ。お前にも繋がりがあったからな。もう数人目星はつけている」
そう立ち上がった彼は私の頭を撫でる。
「お前は誰かに頼ることを覚えろ。俺もしばらくはお前と業務をするだろうしな。あと、休みは自由にすればいい」
お前を心配する手紙が届いている。
苦笑いにも似た笑みを浮かべて彼はあるいていく。それを見送って、目の前にいる人ではない人を見た。
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最近、審神者界にアイドル的な女の子が来た。私の上司である五摂家・二条のご隠居様が連れてきたその子は可愛らしく誰もがご隠居様の後を継ぐのだと思っている。女の子の可愛らしい服を着た彼女と握手した時、理解してしまいご隠居様をガン見してしまったのは仕方がない。いやいやいや、厄除けで女の子の服を着るというし、と思っていればご隠居様はカラカラと笑った。
「あぁ、やはり神無木にはわかるか!さすが手ふぇちだな!」
「あの、二条様、私の性的嗜好をばらさないでくれますか。こんな稚児の前で。……厄除けですか」
「いいや?この稚児はややこしくてな。二条の子じゃない」
「はぁ、?」
そう気抜けた返事をする。ご隠居様はまじめくさった顔をした。ご隠居が背中を押すと稚児は今剣とかけていく。
「鷹司の分家の長男よ」
「え?ここにいていいんですか?長男なら家督争いに投じられるでしょう?」
「いや、鷹司の家の家督は決まった。この子の姉だ」
「姉?女性ですか!」
「もとより男として育てられていたらしい。いやぁ、ワシは知らなんだ。てっきり線の細い男だと……まぁ、有能な奴よ」
「その人が家督を継ぎたいがためにこちらに?」
「それの親が娘をまた名乗り上げさせる為に、これを殺そうとした。その前に娘が気づき、神隠しにあったと見せかけて俺の元に連れてきた。他の者が出来るだけ気づかれないように女の格好をさせておる」
「そういう理由かぁ……でも似合っちゃってるなぁ」
そうカラコロと笑いながら短刀と遊ぶその子を見つめる。
「まぁ妙齢になれば、取り替えればよろしい。とりかえばやのようにな」
「そんなうまくいくかなぁ」
そう言ってご隠居をみる。彼は愉快犯である。二条の鶴丸国永とは彼のことだ。恐らくはそうはなるまい。ちなみに数年後、彼は立派な「オトコの娘」になるのだがその時点ではまだ知らない話だ。
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「花嵐?」
そう声をかけてきた存在は如何にも泣きそうだった。その様子に、ああ、いけないと思う。何年蓋をしてきたと思う。何年気づかないふりをしてきたと思う。
女は嫌いだ。生理的に。近寄れば吐き気がするし、触れればじんましんがでる。そうなったのは確かに女に襲われたからだ。ただ、あまりに俺がそういう風な反応をするから、両親が迷惑なことに百度参りをした。恐らく、そうならない女が自分の運命の女だと神主は俺を見てつげた。
とても酷い話だ。その相手の家が雲の上の存在であるのに、その相手が男であることを強いられているのに、俺はそんな感情を抱くのである。そっと手を伸ばして、触れてしまったことに後悔する。だから、その後悔を怒りに変えて怒鳴る。
「この大馬鹿野郎、俺に相談もしないで決めるからこうなる」
「あぁ、そうだな」
その弱々しい声に心が揺さぶられる。抱き寄せてしまったことにまたやってしまったと思った。
「みんな心配している。お前が隠されたのかと」
「あぁ、そうだな。花嵐には迷惑をかける」
「あぁ、全くだ。ようやく慣れたと思えば、部署移動だ」
そう言ってやれば余計に傷ついた顔をするのは目に見えていた。だから、少し距離を話して笑うのだ。
「だが、お前のそばにいるのは悪くない。ほらな、結局は俺が世話を焼くことになるんだ」
俺の言葉にソイツは、ただ、目を伏せた。ああ、そうだな、と。その頬に流れた水滴は美しかったのだ。
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昼間である食堂のテレビがニュースを写している。本日は年に一度ある五摂家と陛下の一般参賀があった、ということを告げるニュースである。しかし、その中に見知った姿を見つけて太宰がガタリと席を立った。
「苗字!?」
そうテレビに張り付いた太宰に周りはなんだとテレビをみる。そして、画面に映ったその姿にこちらを向いた。
「これ苗字だよな!」
「わ、ほんとだ、苗字のお兄さんだ!」
その言葉に周りは騒然とする。
「ちょっと待て。鷹司の当主って言わなかったか」
「護衛とかでなく!?」
「え、窓際の君って、え!?」
ざわざわと広がるざわめき。俺も持っていた箸を落としていたことに気づく。こりゃあ、図書館に来れない筈である。
「鷹司の家を勘当されて苗字ナマエと名乗っていたのか」
「えらい大層な人友達にしたなぁ、太宰くん!」
そんな騒ぎが一瞬で静まった。テレビから聞こえてきた声は彼女の声だ。鷹司を継ぐことになった、自分にはいくつか噂はあるがそれを覆せるようにしていきたい。立派な演説を聞いていれば、彼女は困ったように笑みを浮かべた。最後の、ありがとう、という言葉は誰への言葉だったのか。彼女は一通り喋ると別人のように他の人に並んだ。
ーー恐らくは、彼女がもうここにくることはないのだろう。
ただの、それはただの俺の直感である。テレビに移された彼女が目を伏せる。その瞬間切り替わったニュースに少しの熱は続いたが、すぐに俺たちは日常に戻ったのだ。
=思ったよりオリキャラがでしゃばったのでおしまい
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