2019/04/10

人魚の娘は攻略お断り 1

・攻略対象になりたくないデス!
・文アルまぜまぜなので文豪が文アル基準
・初期花組からいる主は転生者

「この時期に加山さんが見えたってことはアニメルートかぁ。よし、免れた」
「あれ、ナマエくんなにやってるんだい?」
「ひぎゃあ!」

ってな感じの話

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おいおいおい、冗談はやめてほしい。ただでさえ花組に配属された時もそう思ったし、舞台に出た時もそう思った。しかしながら、主人公が現れて私の前に現れた時、これほどないほどまでに思った。というか、意図的にモブAぐらいの立ち位置でいようと思ってたのに、無理だった。サクラさんというヒロインの中ヒロインが主人公を連れてきてしまったからだ。
「ナマエちゃん、どうして大神さんから逃げるの」
「いや、私は道端にいるアリンコですし……少尉殿が気にかけるような存在では……脇役Aですし……」
「それはナマエが脇役がいいっていったからでしょー」
アイリスの言葉に両手で顔を覆う。だれか助けて。そうオロオロしていれば、見かねたマリアさんが助けてくれた。
「隊長、その子はナマエ。鷹司ナマエです。花組の一員よ」
「何故それをバラすんですか、マリアさん、私は雑務の人とか脇役の人っていう認識で」
「いやいや、大事な仲間だからそんな認識はしないよ。ナマエくんだね。俺は大神一郎。よろしくね」
「あ、はい、よろしくお願いします」
こうなりゃ諦めて普通の対応だ。苦笑いしながら握手をする。あら、お得意の逃げるのは諦めたのかしら?と聞いたスミレさんに、遠い目をするしかない。
「少尉、熱血漢っぽいし、逃げても追いかけてきそうだから……」
願わくば、私ルートに入らないことを願いたい。いや、本当に。大神さんカッコいいけどさ。加山さん派だし。うん。

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って、思ってたんだけどなぁ?
そう深いため息をつく。嫌だって、次々と信頼を寄せる(恐らくは個別エピソードが繰り広げられたのだが、基本私はモブをある意味してた)仲間をみて、あ、これはやばいとは思ったのだ。私の個別エピソードに突入してしまう、と。いやホント最近なんでこんなにイベント目白押しなのかとは思ってた。脇役が良かったのに米田支配人により主役級の男役に抜擢されるし……加山さんと仲良くなるし……いや、加山さんと仲良くなったのは良い……稽古行き詰まるし……戦闘で文句言われるし……もう今日は休んでやる、と息づいて私が休みに入り浸る図書館に来たわけであるが、そもそもその行為がもうギャルゲー特有の行動である気がする。これは詰んだ。本棚に萩原先生のようにズルズル持たれていれば佐藤先生が顔を出した。
「ん?苗字じゃないか。今日は仕事休みなのか?」
「佐藤先生、いや、サボり、ではないんですけど」
「歯切れが悪いな。前に言ってた話はかけたか?」
「あともう少しで書けるんですが、ちょっと最近忙しくて」
そう苦笑いしていれば疲れてるみたいだな、と言って手招かれる。談話室に行けばお菓子をくれた。この人ほんと懐深くて好きだ。
「いや、もう、なんていうか、キャパシティオーバーしそうで」
出されたお茶を飲みながらそう告げてみる。近くにいる先生も優しい。というか、ここにいる先生は大体優しいから好きである。あと彼らの話はとても面白いし、書き上げられた話も詩も歌も好きだ。
「大きな事に抜擢された、それはすごい光栄なことです。でも、そっちに集中すると他のことでヘマをするし、波風立てないようにしたくてもヘマをするし」
悶々としながらそう言う。それで悪い方悪い方に空回りするし、と言ったところで頭を撫でられた。う、佐藤先生優しい。眺めていた太宰先生がジュースを飲みながら口を開く。
「そういや、鷹司ってどこ出身なんだ?」
「一応京都です……」
「上京してきたんかぁ。あれ?鷹司ちゃん、幾つやっけ?」
「16歳です」
その言葉に周りの先生が私をみた。
「あれ、お前、何歳で上京してんだ」
「14歳……」
「おい待てこの図書館に来出した時も」
「14歳……」
そう年齢をアピールすれば、ませた子供ですねぇ、と谷崎先生に言われた。うるさいやい。中身何歳だと思ってるんだ。正岡先生が短冊から目を離してこちらをみる。
「もうちょっと遊んでもいいんじゃないか?文学に傾倒するのもいいが、鷹司くらいの歳なら遊ぶのも大事だぞ」
「……先生、その前に友達がいません」
両手で顔を覆う。いやだって、交友関係めちゃくちゃせまいんだもの。先生たちがため息ついてわちゃわちゃと私の頭を撫でた。う、う、ここの人たち優しい。

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とりあえず気力は戻ったので練習する。戦闘はまぁ頑張るしかないのである。とりあえず夜中に一人で立ち回りを練習していれば視線を感じたので周りを見渡す。夜、ではあるが、見回りの時間ではないはずだ。隊長はみんなと談笑しているのが見えたので違う人だろう。上にいるかもしれないと二階席の方を見れば、加山さんがいた。やっぱりか。加山さん、と声をかければシンプルな服装をした加山さんが頬杖をついた。
「鷹司さん、あまり無理はだめですよ」
「これくらいは大丈夫ですよ。せめて、足を引っ張らないようにしないと」
苦笑いしてそう告げる。いや、多分、このせめてが決壊した時がヤバいと思うが、いまは大丈夫だ。彼は少し眉間に皺を寄せる。
「怪我、治ってないでしょう」
「まぁそれはそれ、これはこれといいますか」
最近苦笑いしかしてないな、と思う。加山さんは何か声をかけようでしたけれど人が来た事によって姿を消してしまった。入ってきたのは大神さんである。
「あぁ、ナマエくん、ここにいたのか。姿を見ないからみんなで探してたんだよ」
「今日は少し気晴らしに出かけていました……見回りですか?ご苦労様です。部屋に戻りますね」
そう畳み掛けるように言って外に出る。変わった子と言った彼に、変わった子で結構、と息を吐いた。


プツン、と切れたというか。いつもなら聞き流せる嫌味も周りの喧騒も限界にきたというか。何やってるんだろう、とおもってしまったというか。へらへら笑えなくなったというか。いや、プツンじゃなく、ポキリかもしれない。よくわからないうちに流れた涙に、私のことで言い合いになったスミレさんとカンナさんの喧嘩が止まる。というか、花組全員が動きを止めた。あまりにも子供じみた言葉が浮かんで、それを必死に食い止める。個人エピソードなんぞ、なんであるのか、という文句も食い止めた。
「あの、ごめんなさい、とりあえず休憩してもいいですか」
その言葉に反対する人なんかいない。とりあえず泣き止むために舞台袖に向かいーーそのまま逃げるように足は帝劇を飛び出した。まぁ、その途中にぶつかった男性が森先生達でポロポロ泣いている私をみて図書館に連れていかれたけど。

そして、涙腺は本格的に決壊した。甘えられる人というのはとても厄介だった。
「もうやだぁ」
図書館に入った瞬間である。そう言ってうずくまる。涙が止まらない、以前に、言葉が止まらない。
「期待しないでよ、無理だよ、いつもニコニコしてるなんて無理だ、なんで振り回されないといけないの、わがままはどっちなんだ、怖いよ、なんで、どうして、もうやだぁ、」
ゆっくりとさすられる背中に森先生が何か気づいたようだった。
「鷹司、怪我をしているのか」
その言葉に頷く。その結果、森先生に抱えられて移動することになるのだが。

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そもそも、私は本来いない人間なのだから私がいなくても彼らは上手くことを進めるのだ。そう思ってしまったのがいけなかったのかもしれない。私が死んだって彼らは。そう思ってしまったのもいけなかったのかもしれない。何もかも笑ってごまかしていたのもきっと悪かったのだ。ぼんやりと夢見心地である。さされていた体温計が抜かれると、熱があるな、と森先生は告げた。寝台に寝かされて、傷もあるから休めと言われる。一人になるのが堪らなく怖くてその裾を握れば彼はこちらを向いた。
「鷹司?」
子供みたいだった。ひどく。ひとりにしないで、と願った私にその人は目を瞬くと近くの椅子に座る。
「腹部の打撲だが、骨折にはなっていない。時期に治るだろう。熱は恐らく無理が祟ったものだな」
「先生、私は役立たずだ」
「そんなことはない」
「ううん。足を引っ張るしかない役立たずなんだ。いなくてもいい、役立たずなんだ」
そう言って笑う。弱者には泣く権利など与えられないのである。笑うしかないのだ。そのうちがどうであれ、笑うしかないのである。
「鷹司、無理に笑うな」
そう言った彼は眉間に深い皺を寄せた。
「今はまず寝なさい。しっかり寝れていないんだろう」
そう言って彼は近くの椅子に座る。ここにいるから寝なさいと言った彼に父親の面影をみた。

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目を覚ましたら森先生はおらず、白衣だけがかかっていた。寝たらちょっと落ち着いたらしい。とりあえずマントを抱えて立ち上がる。外から感じたそれに、しまった、と思う。とりあえず談話室にいた森先生にマントを押し付けて、周りの制止を無視して外に飛び出そうとすれば建物が揺れる。それにあたりを見渡していれば、また揺れて悲鳴が上がった。森先生は私を子供を抱きかばうように近く。大丈夫だ、と言い聞かせた彼に、起こった安心感に、どうすればいいかわからなかった。この人を、この人達を押し返してまで外にかけて仲間に向かえばいいのか。(ここの人達よりも何も理解していない彼らの元に駆けつけて何になる?)それともこのまま彼に庇われているか。(彼の元にいれば、少なくとも安心なのである)
しかし、それはナマエちゃん!という綾女さんの声によって止まった。
「何しているの!」
そう怒鳴った彼女に、私は何も言い返せない。何をしているか自分でもわからなかった。行かなければいけないのは理解している。でも、体が言うことを聞かなかった。彼女は怒っている。真っ当な理由だ。ハイヒールを鳴らしてやってきた彼女に森先生が私に知り合いかと尋ね、私は頷いた。彼女は眉尻をあげてもう一度こえをかける。
「自分が何しているか、わかってるの?」
「あの人たちは、」
そう口をせついて出た言葉に、彼女は続きを待ってくれる。
「あの人たちは、私がいない方が、上手くやれるんでしょう?」
「そんなこと、」
「聞こえてないと思いましたか?いつも、冗談だと受け流せると思いましたか?いつも、私が笑っているからダメージも何もないと思いましたか?」
そう彼女に問いかける。彼女は動きを止めて、私を見下ろした。その様子に、冗談です、と笑う。上手く笑えているのかわからなかった。
「すいません、少し眠っていたようで、警報に気づかなかったんです。いきましょう、綾女さん」
そう森先生を押し返して告げる。彼女は何も言わない。私は立ち上がってそのまま彼女を追い抜かした。

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遅い、と文句を言われた。それもそうだ。でも、何もかもが面倒で、まわりが喧嘩をし始めても仲裁に入ることなくただ淡々と敵を倒す。これ多分勝利のポーズも無表情だわ、と思いつつもこちらに向かっての通信にはいつも通りにする。さっさと倒されたらいいのに倒れない敵、これは向こうが撤収するパターンかな、と思っていれば敵がまさかのアイリスに行ったので自動的に庇うが発動してしまった私である。これはやばいわぁと客観的に思う。貫通した槍は私の脇腹を掠った。擦り傷だ、しかしながら、結構重症な擦り傷である。実に腹がたったのでもっていた刀で脇侍を突き刺した爆発したそれに敵は高笑いしながら消えた。
「ナマエ、」
「大丈夫、大丈夫、掠っただけだから、大丈夫」
そう笑いながら告げれば、アイリスは安堵したらしい。とりあえず帰りましょう、というマリアさんの言葉に、そうですね、と返した。サクラさんの少し怒ったようなどこに行ってたのには、知人にあって、と返し、どうして遅かったのか、という問いには寝てたと素直に答える。やはり、怒られたけど。そうこうしているうちに、徐々に視界が狭まっているのがわかった。徐々に体が動かなくなるのもわかった。大神隊長が、ナマエくん?とこちらを問いかける声も聞こえる。なんですか、と尋ねたけれど、それは思ったよりか細い声になった。紅蘭が霊力が跳ね上がっているとかなんとかいう。もう一度、大神隊長が私の名を呼ぶ。しかし、私の意識はプツンと途切れたのである。

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目が覚めた。みんなに怒られた。休暇を言い渡された。図書館に行った。みんなに怒られた。居場所がなくなった気がした。ふらふらと図書館を抜け出して、そのまま何も考えず汽車にのる。特にどこに行くかも考えていなかった。ずっと汽車に揺られていれば、終点に着いたらしい。お客さん、終点だよ、といわれて立ち上がる。漣の音が聞こえたのでそちらに向かう。砂浜に座って、ただただ海を見た。むかし、一度だけ。まだ私に優しかった両親とこうして海を眺めたことがあった。その両親は海へと消えてしまったけれど。もしかして、その両親に会えるのではないかと足を踏み出す。波が足に当たる。両親の声が聞こえた気がして、さらに足を進める。そうして進んでいれば、誰かが私を引き寄せた。そこにいたのは大神さんである。彼は私を抱えて浜辺に戻ると、眉間に皺を寄せて死ぬ気かい、と静かな声で怒った。
「家族の、声が、聞こえた気がして」
「家族の?」
「おいで、って、呼ばれた気がして」
「ご両親はこんなところにいないだろう?」
「ううん、二人とも海にいるよ」
「海に……?」
「父親は愛人と、母親は一人で、海に入ったっきり戻ってこなかったよ」
そう言ってただ海を見つめる。大神隊長は目をただただ見開いた。風が吹く。風の音の合間に、声が聞こえる。
「ほら、また呼んでる」
「いいや、呼んでなんかないさ」
「いかなきゃ」
「いっちゃダメだ、ナマエくん」
「でも、隊長、お父様とお母様は私が必要だって言ってるよ」
ひたり、と足音が聞こえたので隊長から海の方をみる。そこにいた存在に、お父様、お母様、と呼んで笑えば隊長の手が緩んだ。それを見て二人に向かう。しかし、誰かが私を抱き寄せてそれらを叩っ斬った。ぴしゃり、と水が落ちる。叩っ斬ったその人は私を見た。
「ナマエ、探したぞ」
「森先生」
「あの怪我でまさかんンなところまで来ているとは思わなかったが……青年、引き止めてくれたことを、感謝する」
森先生は隊長にそう言ってから私をみた。
「ナマエ、安心しなさい。さっきのはお前のご両親じゃない。混乱からの幻視だろう。一番怖かったのはお前だというのに、怒鳴ってしまって悪かった」
その言葉に、すとん、と腑に落ちた。何かを考えまいとしていた思考が急に動き出す。あぁ、そうだ、こわかった、こわかったのである。死ぬのが、居場所がないことが怖かったのである。震えだした体に、涙がポロポロと流れる。誰かに、助けて欲しかったのだ。ずっと。
「先生、助けて、怖い、怖いよ」
「もう大丈夫だ」
そう言って彼は私を宥める。そこでまたプツンと意識が途切れた。

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次に目を覚ましたら、汽車の中だった。窓から月が覗いているのをみると、夜らしい。宮沢先生の物語の一節が頭に浮かぶ。しかし、それは起きたのかい?という隊長の声で口に出る前に消えた。声が聞こえた方をみれば、頬が少し腫れている大神さんがいた。何があったのだろうか、と思っているが、手のサイズからして森先生のサイズである。
「ごめん、気づいてあげれなくて」
そう頭を下げた彼に、なにを、と告げる。
「君は俺たちより年下なんだ。なのに、振り回してばっかりで。そうだよ、ナマエくんだってワガママを言ってもいいはずなんだ」
そう言った彼は私の両手を握った。しばらくの間、そして彼は口を開く。
「俺は、頼りないかい?」
「そんなことは」
「なら、頼ってくれ。俺は君より年上なんだ。甘えてくれてもいいんだよ」
「大神さん、」
「おっと、大神、ナマエを誑かすな」
ちょっとジンときていたら隣にいた森先生が釘を刺した。森先生は起きていたらしい。肩を跳ねさた大神さんに、森先生が口を開く。
「ナマエは寝なさい。熱があるんだから」

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「あぶねぇ、大神さんに攻略されるところだった」
そうぼやいて起き上がる。いやなにマイナスになってんの。それだけストレスが溜まってたのだろうか。冷や汗出てきた。そう思いながら隣を見る。見るからに低血圧そうな(恐らく寝巻きの)森先生にひぇっと少し叫んだのは仕方がない。
「いや、もう、本当に迷惑をおかけしました」
図書館の食堂である。そう頭を下げれば森先生は手を振った。どうやら私はあの後ねこけ、起きても傷からの高熱によりぐずったらしい。何歳児かな?
「いやホント昨日の記憶がほとんど無くって」
「海に浸かりかけたのも?」
「え」
「……大神が来たことは覚えているんだな?」
「ぼんやりと」
そう答えておけば、周りは夢遊病って怖いねという話になった。いや、実は微妙に記憶があるが、それは言わない方がいいだろうか。そこにいた全員にあんまり無理はするな、と、特に佐藤先生に怒られてしまった。

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とりあえずいつも通り帝劇に戻ればめちゃくちゃ安心された上に、めちゃくちゃ怒られたり泣かれたりした。いや、これは申し訳ない。もう回復したので頑張ります、といえば大神さんに逆にめちゃくちゃ心配されたが、まぁ、うん。米田支配人に「吹っ切ったようでなによりだ」と頭を撫でられる。
「吹っ切ったのか諦めたのか……まぁ、間に誰かは入らないとですし。大神少尉をそこにおくと、大神少尉が疲れそうですし」
そう言葉を並べれば米田支配人と綾女さんには笑われたが、スミレさんたちには「どういうことですの!」と怒られた。どういうことってそういうことである。
「後、舞台に関しては、得意不得意はどうすることもできないので得意な面で補えたらって」
「そうね、ナマエは恥ずかしがり屋を直せば素晴らしい役者になると思うわ」
「ナマエ、慣れやで、慣れ!」
紅蘭さんに背中を叩かれる。いや、慣れてたらこうはならないんだよなぁ、と思う。
「というかそもそも、私なんかを主演にして観客つくんですか」
私の発言に周りは目を瞬いた。客が来なければどちらかといえば子供むきであるし、賢治先生たちを誘うとしよう。なに役って?シンドバッド役である。どっちかというとアラジンのジーニーというかランプの精役をしたかった。

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人間諦めた方が強いな、と思う。舞台の下で演奏しているのは奏組だろう。彼らの主人公はまだいないが。
「キーって下げちゃダメですか。高い音って、どうも難しくって」
そう下に声をかければ、指揮者さんがこちらを向いた。森先生に似た眉間のシワをお持ちで。サクラさんが、ちょっと、ナマエちゃん、と止めたが結構死活問題なのだ。女役のキー辛いです。
「具体的には」
「マイナス3くらい?」
「貴方の音域はもう少し出ると思ったが」
「いつもは歌に集中すればなんとなるんですけど、そっちに意識を回すと演技が疎かになるんですよ。ワガママで申し訳ないです」
「いや、構わない。音楽のことはこちらに任せてもらおう」
そう言って指示を出し始めた彼に、申し訳ないなぁ、と思う。そのあと試しに演奏されたそれは歌いやすかったので、言ってみるものだと思いました。とりあえず舞台は動き回ることを目標に頑張ろうと思いました。

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緊張するからどれくらい集客があったか教えてくれなかったが、幕が開いた瞬間みるよりはマシだと思う。ストップした思考に、マリアさんがシンドバッド!と声をかけてくれる。
「またお前はぼうっとして」
「申し訳ございません、王様。この広い海の向こうになにがあるかと思いふけっていました」
アドリブにとりあえずアドリブで返せばマリアさんもまたそれを重ねて正しい流れに持っていく。あとはシンドバッドの冒険活劇である。人魚にあったりとか、盗賊にあったりとか。せっかくなので出発のシーンで観客側を見て口を開いてみる。
「やぁ、みんな!一緒に航海ができて嬉しいよ!これから人生で最高の冒険が始まる!そうだろう?」
そう投げかけて、綱を引っ張り大道具の帆を張り舵についた。まぁ、結果、それが成功だったというか。観客が結構ノリがいいというか。危ないシンドバッド!やら言われるので緊張が解けた。そのままなんとか演じきった。幕が閉じるその瞬間に、観客に向かって言葉をなげかける。
「これからみんなの新しい冒険が始まる。だけどいいかい?心のコンパスを信じて進むんだ」
まぁ、これが誰かの救いになればこれ幸いである。起こった拍手に息を吐く。うええ、まだ初日である。あと何回こなさないといけないのか。しゃがみ込めばマリアさんに背中を軽く叩かれた。
「ナマエ、ほら、カーテンコールいくわよ」
「はーい」
そう言って彼女らの隣に立ち、上がった幕に頭を下げる。まぁ声援は応援ととっておこう。ちなみになぜか戦闘力が上がった。なんだ。ストーリークリアの特典だろうか。首を傾げていれば綾女さんに霊力上がったのね、と言われたけどもよくわからない。とりあえず、敵に関しては運命は自分で決める的なことを言って倒しておきました。キャラクターっぽかったらいいんだよ!

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「うぐぐぐ、休暇がない」
主演をしたからか顔バレした。ファンがつくのはいいが、休みの日くらい追いかけまわさないで欲しい。やめて。とりあえず伊達眼鏡に帽子というルックスで図書館に逃げる。それでも今のって、と言われるけど。とりあえず私は書いた話を佐藤先生のもとに持って行きたいのだ。と思ったら、当たり前だが職員にも帝劇のファンという人はいるわけで。一人が気づいて叫んで仕舞えば、寄ってくるわけで。
「あの、ですね、今日はおやすみ、なので、そっとしていただけると、嬉しいかなって」
ジリジリと逃げながらそう告げる。そんなワガママが通るだろうか、と思いながらチラリと見ればみんなキョトンとしていた。そんな時に森先生が私を見つけて声をかけたので先生と言ってかけよる。とりあえず先生の影に入って手を触り、そのまま談話室方向に向かう。あとで沸き起こった悲鳴はなんだ。とりあえず談話室に入って息を吐く。森先生の白衣から手を離して頭を下げた。
「助かりました、ありがとうございます」
「いや、あれはいったい……」
「ああああ、森先生、森先生、いけません!不意打ちはいけません!」
「ひえっ」
側から聞こえてきた声に肩を跳ねあげる。そちらにいたのはたまに見かける職員である。
「その絵面はどう見ても将校と少年の禁断のロマンスです」
「司書、妄想癖はいいが、ナマエが怯えるだろう」
「嫌だって無理です、推しが目の前にいる。あ、シンドバッドスッゲー面白かったです。サインください」
差し出されたのはブロマイドである。それにもう一度方を跳ねあげた。
「ひぇっ」
「え、なんで怯えられてんの俺」
「私のブロマイド買う奴なんていないだろって高くくってたのに買う人がいた……」
「え、推しが思ったよりマイナス思考だった。ファンで奪いあいですよ。鷹司さん、今までブロマイドもなにもない脇役Aとかじゃないですか。主演にしてくれってめっちゃ手紙送りましたからね」
まさかの理由がわかった。脇役Aでありたかったのに、と思っていれば周りが食いついた。暴れて阻止しようとすれば森先生に止められた。
「主演?」
「いやぁ、俺も自信なかったんですけどね、何時も遠目で見るだけだし。雰囲気似てるなぁ、としか。でも、今回わかりました。この人、帝国歌劇団の花組さんだ。舞台役者さんですよ。しかも、この前主演してた」
その言葉に視線がむく。大丈夫なのか?とは佐藤先生の言葉だ。大丈夫ではない。
「今日はおやすみなので……仕事の話はちょっと……」
目を泳がせながら告げれば、また頭を撫でられた。私は犬かな?とりあえず書き上げた話を佐藤先生に渡し、皆さんの話を色々と聞く。うん、初めは散々だったが、いい休暇である。

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なんやかんやと奏組と仲良くなった。というか、向こうもこちらも敬意を込めてる中というか、なんやかんや練習に付き合ってもらったりもする。そろそろ主人わが来るだろうか、とも思ったがアレは2以降の話である。だがしかしこれ微妙に話ずれてるんだよなぁと思ったりはしなくない。まぁ、とりあえず黒之巣会は崩壊しました。まぁ今日ちょっとテンションが高いのは、先日書いた佐藤先生に話を褒められたからです。もうちょっとこうした方がいいとは言われたが大筋はオッケーである。いや、別に作家目指してるわけじゃないけども。あと、大神さんがサクラさんルートに入ったからです。さすが名前が組み込まれた公式ヒロイン。私は多分好感度が滅多に上がらなかっただろうとおもう。まぁ、なんだ、親戚のお兄さん的なノリである。鼻歌まじりに掃除していたら、ご機嫌ですね、と言う声がかかった。窓にいたのは加山さんである。
「そうですね。加山さんもまた海軍に?」
「そうですね。戻らないと怪しまれるので」
「寂しくなりますね」
「それ、大神にいってあげた方がいいですよ」
「隊長はほらみんなに言われてますから。それに私は加山さんの方が話してる気がするので」
そう言いつつ、箒をおく。彼はまぁ目をそらしたけども。少しからかってやろうか、と頬杖をついて口を開く。
「大神隊長より加山さんの方がタイプなんですよね」
「おいおい、お嬢さん、年上をからかっちゃいけないぜ。大神より俺の方がとっつきやすいってだけだろう?」
それはあるかもしれないなぁと思いながら、彼に口を開く。
「加山さんも素敵な人だと思うんですけどね」
「例えば何処が」
「気づいたらいるところとか」
「そこかぁ」
「三枚目なフリして、実は鋭いところとか。周りを見てるところとか」
そう割と答えれば彼は目を瞬いてーーノックの音が聞こえたのでそちらに意識を向ければ、もういなくなってたけども。ナマエくん?と呼んだ声は隊長である。はい、と答えて扉を開ければ隊長が困ったような顔をした。
「ごめんね、誰かと話していたかい?」
「いえ、特には。どうされましたか?」
「ナマエくんに挨拶できてなかったからね」
「そんな今生の別れじゃあるまいし、大袈裟な」
そう苦笑いすれば、相変わらずだなぁ、と言われる。
「今生の別れかもしれないじゃないか」
「だって、隊長、帰ってくるでしょ?」
当たり前のように聞いたな、と思う。隊長は目を瞬いて、少し嬉しそうに「あぁ、そうだな、帰ってくるよ」と私の頭を撫でた。子供扱いというか、犬扱いというか。そのままそっと肩に置かれた手に隊長はまっすぐにこちらを見る。
「帰ってくるから、ナマエくんは待っててくれるかい?」
これは、雰囲気に流されてはいけない。リスペクト加山さんである。
「わかりませんよ、もう役者やめてるかも」
「えぇ、困るよ」
「冗談ですよ、冗談。待ってますよ、隊長の帰りぐらいは」
ケラケラと笑って、大神さんをみる。
「いってらっしゃい、大神さん。お気をつけていってらっしゃい」
その言葉に彼は少し動きを止めた。

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「わからぬ」
そう図書館の談話室で呟く。積み上げられた本が恋愛小説ばかりである。いや、正統派王子様ならわかるんだよなぁ、ハッピーエンドだし。いや、そこにも葛藤的なものがあるかもしれないけども。とりあえず側から見れば異常かもしれない。近寄らないのをみると。賢治先生がぴょこぴょこと、ナマエさんどうしたの?とやってきた。
「次の役がですね、正統派王子様に敗れる青年みたいな感じの話なんですけど、どうすればいいかわからなくて」
「あぁ、だから恋愛小説を読みふけってたのか」
「経験ないからそういうのを本で補うしかないんですよ」
「というかどんな話なんだ?」
困るパターンである。いや、サクッというとオペラ座の怪人の簡素パターンというか。カンナさんじゃないの!?って言ったらカンナさんは騎士役である。辛い。
「さっくり言うとお姫様を取り扱って二人の貴公子が争うんだけど、一見有利だと思った方じゃなくて正統派王子様がお姫様とくっついく話です」
「本当にざっくりだね。で、鷹司さんの役が恋に破れるのか」
「そうです」
ここで先生達の失恋話くださいとか言ったらみんなのメンタル削るんだろうなぁと。みんなサッと目を逸らしたし。
「先生達のおすすめの本を教えてください。これは読んで理解するしかない」
「あれ、鷹司は初恋はまだなのか?」
「まだですよ。でも、したくないなぁ。初恋って実らないんでしょう?」
「それがまた乙なもんなんだよな、当時は分からなかったけどな」
志賀先生の言葉にそんなもんか、と思う。いやでもこれ大神さんルートはへし折りたいぞ。
「恋かぁ、想像もつかないなぁ」
「まさか十代の娘がそんなことを言うとはなぁ」
佐藤先生の苦笑いには苦笑いで返しておいた。事実である。

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とりあえず、「彼」は「彼女」に盲目なわけだから、時間の多くを彼女を見つめていればいいのでは。というか、マリアさんの逆をいけばいいのであるが、難しい。盲信的というか、盲目的というか、一歩間違えれば気持ちが悪くなるので、間違えないようにしないといけないというか。
「いや、前にやった人との振り幅広すぎません?シンドバッドの好青年感どこいった?」
そうマリアさんに頭を押しつけながらいってみる。
「あら、いろんな役柄をするのはいいことよ」
「おめぇ、悪役してみたいっていってたじゃねぇか」
「いや、言いましたけど、まさか恋愛話の悪役になって、スミレさん取り合うとは思ってなかったですよ」
「そうかいそうかい、まぁ、いろんな役をやってみるんだな」
ケラケラと笑った支配人は絶対に酔ってると思う。マリアさんと並んだ時の私の少年感よ、と思ったが、よくよく考えればレニが入れば少年役は彼女行きである。
「それにしても、ナマエ、身長がまた伸びたのね」
「未だに伸びるなんて私は男かな?」
「アタイもナマエくらいの頃はまだ伸びてたぞ」
「え、じゃあ、カンナさんぐらいになる?」
それはそれで嬉しいけども。スミレさんがヒクリと口角を引きつらせた。
「それって嬉しいことなの?」
「だって、身長伸びたら男役の時の相手との身長差とか、スミレさん達と並んだときのサイズ感とか、動作をむりくり大きくして大きさをごまかす必要がないじゃないですか」
「……まぁ、貴女がそこまで舞台を考えてるとは思いませんでしたわ」
スミレさんの言葉にアイリスがこそっと「アレ、スミレの褒め言葉だよ」と教えてくれたので「知ってる」と返しておいた。
「ナマエは定期的に身長測定して光武を調整しなあかんなぁ」
「横に伸びないようにだけ気をつけます」
そういえばサクラさん達に首を傾げられた。紅蘭さんには通じたのか、横に伸びなたら強制ダイエットやな、と言われたけども。

==

とりあえず公演終わらせて図書館に行けば、前と同じ展開ーーというより前よりもひどい展開になって、森先生に助けられた。森先生にひしっと抱きついて警戒しておく。また悲鳴あげられたけど。
「ナマエ、そんな頃合いの娘が男に抱きつくんじゃない」
「えー」
「えーじゃない。ほら、行くぞ」
そう手招いた彼にひらりと周りに手を振っておく。きゃあきゃあいう様は可愛らしいかもしれない。

「あああ、十六夜の君ぃぃ」
「司書、落ち着け」
「いやもう、なんていうかぁ、シンドバッドの後のモブにまた戻ってしまったとおもったあとの、役の振り幅ぁ」
この人はだいたいこうなんだろうか。そう思いながら彼をみる。佐藤先生がさらりと「司書、ひかれるぞ」と告げて彼はシャンとした。
「あと仕事をしろ。お前が書類を片付けないと俺たちにも迷惑はかかるんだぞ」
「う」
ぴしりと、固まった彼に、菊池先生が口を開く。
「全公演行くんだ!っていって業務を止めたからな」
「え?全公演来たんですか」
「推しのすがたを、見たかったんですぅ、あんな悲恋とはきいてないですぅ。なんで暁の君とくっついたんですかぁ」
ズビズビと鼻水を垂らした彼に、なんでと言われたってもなぁと思う。
「あれ、面白いんですけど、妻帯者の人であったり奥さんだったりする人はマリアさん側でよかったっていうんですよね、不思議」
「まぁ、そりゃあなぁ。あの男は一か八か過ぎる」
「あの女性に酷く盲目的でしたからね。それ故に彼の中の落差が激しいのでしょうが」
それを理解してくれて嬉しいので、顔を明るくさせてしまったのは仕方がない。
「表現できてました!?」
「あぁ、息を呑むほどに」
「やったね!苦労したんですよ……って、え、皆さん見に来てたんですか」
「司書の付き添いで」
「おわぁ」
カチリと固まって森先生のところに隠れる。何してくれてるんだ、司書さんは。そうジト目で見ていれば、森先生も観に行っていたよと言われて固まった。まじかよ。森先生を見ればちょっと申し訳なさそうな顔されたし。司書さんがニヤニヤしながら口を開く。
「やっぱりギャップが凄まじい。だがそこがいい」
「舞台は大丈夫なのかとヒヤヒヤしていたが、安心した」
「舞台は開き直るしかないから開きなおってるというか、自分でもあるけど他人というか……だから、休みの日は素というか……」
モニョモニョと目をそらしながらいう。いや、素は暗いんだよ。
「そもそもなんで舞台女優になったんだ?」
「京都のお爺ちゃんの家にいたら劇場のお姉さんにスカウトされました」
いやこれ多分、京都のお爺ちゃんの家で付喪神見えるぜ!ひゃっはー!してたら多分誰かにチクられたんだと思うんですよ。京都のお爺ちゃんは何も言わなかったし。
「お爺ちゃんの家?」
「お爺ちゃんと住んでたので」
「あれご両親は?」
「両親は人魚だったみたいで」
そう返せば一同には?みたいな顔をされた。森先生はピタリと動きを止めたけども。最近よく両親は問題にあたるとこれを言ってる。
「え?は?なに、え?人魚?」
「はい、両親は人魚なので海に帰りました」
さらりとそういえば近くにいた新美先生が尋ねてくる。
「じゃあ、鷹司さんも海に帰っちゃうの?」
「私は海に帰る予定はないですね。海の中より外が好きです」
「鷹司さんは、寂しくないの?」
「うーん、特には。海に帰る前の方が寂しかったので。ま、今は仲良く泳いでるんじゃないですか」
「海に行けば鷹司さんの両親にあえる?」
「この前会いましたよ」
ケラケラと笑いながら言う。海においでと誘われましたが、止められました。そう答えれば二人はキラキラとした目でこちらを見た。海に行く計画を立てなきゃ!と言いながら部屋を出た二人を見送る。海と言えば隊長元気かな。
「……そういうキャラ付けってことか?」
こてん、と首を傾げた田山先生(ようやくまともに喋ってくれるようになった)に我ながらいいかわし方なんだよなぁと思う。芥川先生と一緒にいた吉川先生がこちらをみる。
「八尾比丘尼伝説とかけてあるとかだろうか」
「でも京都なんだよね?」
「八尾比丘尼なら北陸の方だな」
「わぁ、面白い考察されてる。放っておこう」
そう言いつつ近くのソファに腰掛けた。私の家にそういう伝説が、とかいう話になっていく様は面白い。流石は小説家だ。夢のある華やかな会話になる。まぁ、答えはそんな華やかなものではないのだけれど。最初にああ言ったのは確かに自分である。嘆き悲しむ母親にそう告げたのだ。しかし、それは失敗だったんだろうか。母親は笑いながら、お母さんも人魚だからお父さんのいる海にいくね、と笑ったのだ。それはそれは美しい笑みで。
「その実どうなんだ?」
そうこちらに向いた視線に、苦笑いして言葉を紡ぐ。
「父親は愛人と、母親は一人で海に入ったっきり戻ってきませんでした」
ーーだから、きっと、両親は陸に上がった人魚だったんだと思うんです。
目を伏せてそう告げる。静まったまわりに、苦笑いをした。
「悪いな、そんなこととは思わず」
「いえ、別に。起こってしまったことはかえれませんし、特に私自身不自由もなかったので。逆に祖父の家にいたから今こうしてますし」
「変な話をするけれど、君は連れて行かれなかったんだね」
「龍」
「その理由今もわからないんですよね。私物心つくかつかないかぐらいですよ。普通は連れて行くのがオーソドックスだと思うんですよね。結論からいうとあんまり覚えてないです」
そのあとの祖父の家に感動したこととか、周りの方が騒ぎになっていたことくらいしかおぼえていないのだ。
そんなこんな昔を思い出しかけていればノック音がする。はい、と返事をした司書さんに扉があいた。
「失礼します……こちらに鷹司ナマエは……」
「あれ、どうしました?マリアさん」
そこにいたのはマリアさんである。
「やっぱり忘れてる。今日の夕飯、みんなで食べる約束してたでしょう?」
「え……あ……あ゛!!今何時!?」
「まだ大丈夫よ、忘れてるだろうと思って迎えに来ただけだから」
「危なかった……ありがとうございます」
そう言って鞄の中に色々と突っ込む。ナマエ、転けるわよ、と言ったマリアさんにそんなバカなと思ったらマジでこけかけた。近くにいた先生に止められたけど。
「先生、また来ます、さようなら」
そうひらひらと手を振れば振り返してくれる彼らは優しい。司書さん固まってたけど。



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