2019/04/19

イントゥザベストエンド 2


本国は晴天である。私達が普段いる場所は極東支部の中の一つではあるが、本陸ではなく鹿児島のあたりにある場所を拠点にしている。種子島ーーそう、かつては宇宙センターがあった場所であり、世界帝に放置された場所でもある。それを少しばかり整えて、行く数人かが働く極東支部の拠点の一つになったのだ。ひょこりと顔をのぞかせたレジスタンスが、そこに乗っている面々を見て警戒して少し動きを止めたが、更田さんがほかの支部の仲間だと告げたため何もなく終えた。
「わぁ、なんか、最先端って感じがする」
そう周りを見渡したのはサチの服を着たあの子である。あの子ーーメアリーというらしいーーはだいぶ落ち着いたらしかった。まぁ、そばに彼女の仲間がいるから余計かもしれないが。ちなみに、あの人ーー達、は、更田さんが連れて行き、ヘイティは寝てくると私の上着を奪っていったのでサチと私、メアリーとその仲間の青年と男性ーーベスとタバティ、あと一人ドライゼさんがいるが彼は若い男性に付き添ったため、五人のみである。
「場所によって違うものだな。俺たちの支部はもっとボロボロなのに。外も随分落ち着いてる」
「日本も本陸の首都の方はひどいけどね。ここが離れてるから無事なだけ」
「まぁ、ヨーロッパや北米に比べるとマシだろうが」
そう言ってタバコに火をつける。
「メアリー達はヨーロッパ支部だっけ?」
「東欧支部だよ。あの演説してた人が西欧支部の人じゃないかな」
「東欧と西欧で分かれてるのか」
「元は一緒だったらしいんだけど、向こうが一方的にこっちを見下してる感じかなぁ。向こうの人がこっちに送られてくるとき、絶対死ぬって思われてるみたいだし」
「あとはこっちにはほぼ民兵しかいないな。あちらにはちらほら元は軍人だった人間がいるようだが。キョウドーはよくやってくれてる」
「あの若い男性か」
「あぁ、あいつが東欧支部のリーダーだ」
そんな会話をしていれば、メアリーが動きを止めた。何だろうか、と思えば、アレが海?と聞いたので本物の海を初めて見たんだろう。そういう人間は大陸側になると今のご時世なら結構いそうだ。サチが「近くに行ってみる?」と機転をきかせ、彼女が頷いたので向かうことにしたらしい。
「ナマエちゃんはどうする?」
「他の所に顔を出す」
「わかった、何かあったら呼んでね」
そう言った彼女にひらりと手を振った。

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タバコの煙がただただ空に登るのをぼんやりとみる。青い空には雲一つない。カタン、と、近くの梯子を登る音がしてそちらを見れば、自らをジャックだと言ったあの人が悪戯っ子のような笑みを浮かべて、頬杖をついてこちらを見ていた。外見の容姿に似合わず、何とまぁ子供っぽいのか。そういうところは変わらない、と思ってしまった頭に少し怪訝な顔をする。そんなに怒らなくてもいいだろう、と、楽々と登りきった彼は隣に並んだ。
「人の喫煙を怒っていた癖に、今は吸うのか」
息を吐くように吐かれた『昔(あるいは夢)』の話に、ため息をつく。なので、私もまた『夢(あるいは昔)』に倣って返す。
「君の持論は葉巻は肺癌にはならないだったが、喉頭癌になるぞ」
「知ってる」
「声が出せなくなる」
「その前に誰かが殺すさ。だが、ナマエは無しだ」
そうタバコを奪おうとした彼をかわす。
「私もその前に誰かが殺すさ」
グサリ、と、その言葉は彼に刺さったようだった。彼は眉間にシワをよせる。
「ーー俺はもうそんな失態はしない」
「失態、か。君の任務は私を殺すこと、私の任務は君に殺されること。お互いの利害の一致の上の結末だ」
「俺たちの利害?アメリカとソ連の利害の一致、いや、アメリカという国とCIAの利害の一致だろう」
「あぁ、そうだな。だけれど、ジャック。私達は何処かの国に所属している軍人が、その何処かの国の命令に背けるわけがない。第一、アレが一番君にとっていい終わり方だったと思うが」
「いい終わり方だって!?」
「あぁ」
私の返答に彼は私の首元を掴む。怒っている。とても。それもそうだろう。
「君をこの手で殺したことが!?それがどうしていい終わり方になるんだ!」
「あぁ。じゃないと君はボスを殺していた」
彼が動きを止める。目を見開いて、ただ、こちらをみる。
「あのとき、CIAが打診したのは私かボスかだ。どちらかが君の補佐につき、またどちらかが君と敵対することになっていた。彼女の消失は国にとっても、君にとっても大きい」
そう告げて彼の腕を外す。
「君に殺されて夢から覚めた時、酷いことをしたと思った。君に呪いをかけてしまったと思った」
「……」
「笑ってしまうな、貴方には長い年月が流れたというのに、貴女はまだ誰かにその呪いに解かれたわけじゃない。もういいんだ、ジャック。私なんかとの思い出なんて捨ててしまえ。君は自由であっていい」
そう言って笑う。彼は目を伏せて、首を左右に振った。
「ーー知っている。君かボスかだったということも、君が志願したことも、知っている」
動きを止めるのは私の番だった。
「俺はたしかに君を恨んだし憎んだ。君があんな言葉さえ吐かなければ俺は縛られなかった、と。君が嘘を貫き通していれば、俺は君を嫌ったまま生きれたと、何度思ったか。ボスやエヴァに聞いた。君が俺を思って選んだ道だったと。お前を忘れて生きようと何度も思った。でも、できなかった。哀れな男だと思ってくれていい」
「……」
「これを思い出した時、次はああはさせないと誓った。君を見た時は些か驚いたがーーすぐに君だと理解した。出逢った頃と何ら変わらない姿だったからだ」
彼はそう言って笑った。ひどく歳が離れてしまった、と。不意に彼の目に真剣さが帯びた。彼は私の肩を掴むと口を開く。
「だから、今度は生きて欲しい。俺と一緒に」
「ーー断る、といえば」
「ナマエは本当に天邪鬼だな。素直じゃない。俺と一緒に生きろ、ナマエ。もうあんな終わり方は散々だ。それが誰かにとっての『最善の終わり方』だとしてもな」
彼の言葉に、ふっとこみ上げた笑いをこらえる。しかしながら、それは堪えられずに私の肩を揺らした。怪訝そうにこちらを見た彼の肩に額をつける。
「似合わない台詞を言うようになったなぁ」
そう言った瞬間、彼は機嫌を悪くしたらしい。ああでも顔を上げてフォローするわけにもいかないのだ、と落ちていく雫を見ながら思う。決して、それは悲しさからではない。恐らくは嬉しいのだろう。
「そんな気取らなくても、私も相変わらずだというのに」
その言葉に、彼は嬉しそうに私を抱き寄せた。

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「ナマエちゃん、北米支部の偉い人と仲良いね」
私の言葉に彼女は目を瞬いた。あの後彼女と眼帯のあの人ーー限りなくビッグボス似であるーーが二人でよく歩いているのをみると案内でもしていたんだろうか。彼女はあーと、目をそらす。そのさまが珍しくて私が目を瞬く番だった。
「ちょっとした知り合いとでもいうのか……実際に会ったことがあるわけじゃないんだ」
「ネットやメールで知り合った?」
「いいや」
「じゃあ古風に文通とか?」
「それも違うな。頭のおかしい奴だと思うかもしれないが」
彼女は居心地が悪そうにそう告げた。
「私には彼に殺された記憶があるし、彼には私を殺した記憶がある」
「えっ」
「やっぱり今のはナシだ。夢であったことにしてくれ」
それもそれでどうなんだ、と思ったが、そこでようやく私がひどく疑問に思っていたピースがはまった気がした。
「ナマエちゃんって、もしかして、あの世界にいたの?」
「あの世界?」
「メタルギアーー核搭載二足歩行型戦車がある世界」
ナマエちゃんがその言葉に動きを止めた。そこで、ああ違う、と思う。恐らくは彼女と彼の関係から推測をしてーー。
「シャゴホットが、あった世界?」
「どうしてそれを?」
彼女が眉間にシワをよせる。敵対するつもりはない、というか私は敵対できないため両手を挙げた。
「私も手違いでそこに行ったというか……多分期間はナマエちゃんとは被ってないけど」
「どおりで」
彼女はそう言って、近くにあったコーヒーカップを手に取った。
「おかしいと思ったんだ、君と周りは同じ歳であるはずなのに、君だけがあの戦禍でまだ落ち着いていた」
「えぇ、うそ」
「誰があの緊張下で敵のシステムをハッキングできると思う?普通は他と同じように動けない」
「あぁー、最後らへん、スネーク達と結構無茶したしなぁ。肝が据わったかぁ」
私は近くに転がったクッションをだく。
「ーー君の指すスネークは」
「ナマエちゃんとは違う人だと思うよ。ナマエちゃんが指すスネークはビッグボスのことでしょう?多分、私はナマエちゃんがいなくなってから向こうにいたの」
「ーー彼はどう生きた?」
彼女の呟きに、私は彼女を見た。私が知っていたほとんど道筋通りに生きた彼。フォクス、MSF、アウターヘヴン、フォックスハウンド。そうして彼はスネークと私に看取られて死んだ。最後に呟かれたのは、穏やかに呼ばれたのは彼女の名前だったけれど。彼の胸のうちは知らない。
「……わからないや」
「そうか」
「ナマエちゃんは」
「夢を見た。長く眠っている間、長い夢を」
彼女はそう言って目を伏せた。
「私と彼は同じ人に師事していた。でも、任務を下されて別の立場についた。冷戦時にはよくある話で、くだらない映画のような話だとも思う。私は彼に殺されて死んだ、あの花畑で」
ナマエちゃんの言葉に私は察した。彼女は、もしかして。だから、どおりで。彼女はあてがわれた寝台に寝転んだ。
「ーー彼は夢の中を生きている。過去の続きを生きている。そんなもの、夢の話だと切り捨てて仕舞えばいいのに。今までいろんな選択肢があったはずだ。なのに」
彼女はそこで口を閉じた。何を考えているかはわからない。ただ、私はそこでエヴァさんの言葉を思い出す。
ーー彼も昔は『一人の人間(ジョン)』だったの。でも、『一人の人間(ジョン)』である全ては彼女と共に死んだのよ。私は彼女の代わりにはなれなかった、それだけ。
「ひどく嫌になる」
「彼が?」
「いいや。彼が過去の続きを生きていることが、彼が過去の私の行いを許容したことが、となりにたつことを許したことが、ひどく、嬉しいんだ、そんな自分が嫌になる」
「そっか」
私はそう言って、同じく寝台に横になった。
「でも喜んでいいと思うよ。ナマエちゃんは彼に選ばれたんだ」
ビッグボスではない、偽物ではない、ただの人間であるジョンに。

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「誘惑するのはやめろ」
更田さんに告げられた言葉に、まぁ、側から見ればそうなるだろう、と思う。が、彼は私が誘惑なんて手段をすると思っているんだろうか。
「私が?だれを?」
「惚けるな、あの人は北米支部の三本指にはいるんだぞ。元は米軍の高い立場の人間だ」
「私が誘惑なんてまどろっこしいことをするとでも?」
そう尋ねれば、彼はしないだろうな、とキセルに火をともす。この男も愛煙家であるが、タバコより手に入りづらいキセルを好む傾向がある。
「向こうの支部にはそう見える。大方、お前が伝説にじゃれついたからだろうし、ヘイトがお前に懐いているからだろうな」
「形だけの注意、ご苦労様です」
私もタバコを咥えて火をつける。彼は「全くだな」と煙を吐いた。
「彼らを送り届ける目処は立ったんですか?」
「空路で送り届けようにも、向こうに離着陸が可能な空母がない。地上の離着陸に至っても、古いデータを使うしかないが、どこまでが占拠されているかわからん」
そんな話をしていれば、ヘイティが顔を出した。
「なんの話?俺も混ぜてよ」
「送り届ける場所がないという話だ」
「空母もないの?」
「まぁ向こうは元が大国だからな。ほとんどが世界帝に差し出されている。あるのはミズーリぐらいだと聞いたが」
「ミズーリ?懐かしい名前だな。ミズーリがあるってことは、ww2時の空母はないのかい?」
「……聞いてない、が、使い物になるのか?」
「僕が使えるから問題ないよ」
ヘイティにタバコを一本渡し、火をつけてやる。ふぅ、と煙を蒸した彼に更田さんが変な顔をした。まぁ、デジタル的なことが多い今、アナログであるww2時代の艦隊なんぞだれも動かせないだろうからだ。
「極東支部の参謀が集まってるな。ナマエ、タバコをくれないか」
伝説の傭兵がそう言って顔を出した。仕方ないので一本あげる。ヘイティがいい顔をしなかったけども。こうなってしまえば、ジョンも来るだろう、と思っていればやはりきた。
「あぁ、ここにいたのかナマエ」
「ナマエのタバコはあげませんよ。彼女の配給だ」
ヘイティはそう少し怒り気味に告げれる。ジョンは「いや、俺は葉巻派だからな」と首を振って葉巻を咥える。仕方ないので火を貸してやった。ヘイティが二人を眺めて口を開く。
「似てますね、ご兄弟ですか?」
「叔父と甥の関係だ。で、なんの話を?」
「貴方達を送り届ける術の話です。空港は全て世界帝の管理下に?」
「まぁな。軍事基地もだ」
そう肩をすくめたジョンに、私は少し考える。ヘイティが今度は問いかける。
「ww2下の空母もない?」
「操縦指揮ができるやつがいないだろう?」
「俺はできますよ。ただ、整備されていれば、ですが」
「難しい話だな。海路はまだ保証できるが」
ジョンはそう言って煙を蒸した。私は少し考える。あの世界とこの世界の場所はイコールだろう。
「南米、もしくは北極圏は?」
そう提案した瞬間、伝説の視線も向いた。ジョンが「それはアリだな」と頷く。
「北極圏ならディヴィッド、お前が慣れてるだろう。基地があってもお前一人で制圧できる」
「アンタが行けばいいだろう!南米はどうなんだ!」
「南米支部にも知り合いはいるが、北米が嫌いな奴が多いからな。期待しない方がいい。その点、北極圏は誰のものでもない。まぁ、世界帝もわざわざ北極圏になにかを作るなんてことはしまい。あるとすれば米軍が放置した場所だ」
「覚えがあるんです?」
「一つな。シャドーモセス島だ」
ジョンの言葉に彼は大きく肩を落とした。更田さんが「知りませんでしたね」と言いながらキセルを蒸す。
「シャドーモセス島に米軍基地があるなんて」
「正しくは中央情報局寄りの部隊の基地だから公にはされてない」
「北極圏かぁ、迎えがこないと凍死するね」
ヘイティが可笑しそうにそう告げる。それを聞いてジョンが眉間にシワを寄せた。
「そこが問題だな。お前達のように衛星を持つわけじゃない。通信網は世界帝と同じだ。傍聴されたら蜂の巣だろうな」
「そこはサチがなんとかできないか」
そう呟けば、北米の二人が目を瞬き、更田さんが薄ら笑った。
「こちらからの発信をなんとかできたとして、ほかの支部ーーレジスタンス側にアイツと同じことができる奴がいると思うか?」
「ーー……いるぞ」
断定である。
「俺の親友なら恐らくできる。ナオミもいることだしな」
更田さんはその言葉に私をみる。私は彼女の交友関係を知らないので肩をすくめた。
「どうします?」
「……試してみる価値はある」
そうすっと目を細めた彼に、私は釘をさす。
「更田さん、約束は守ってくださいよ」
「あぁ、わかっている。今は非常時だからな」
彼はそう言って、キセルの灰を落とした。
「ナマエ、ユキノは何処にいる?」
「ユキノならメアリー達といると思いますよ」
「東欧支部の若いのには俺から説明しておく。彼らをサチの元に連れて行ってくれ。ヘイティは俺についてこい、向かう空路、飛行機の整備を話し合いたい」
そう言って指示を出した更田さんにヘイティが心配そうにこちらを見た為、大丈夫だ、といっておく。
「サチとの話が終われば手伝いに行くよ」
「でもーー」
「ヘイティ、基地の中なんだ。今生の別れになる確率はかなり低いだろう。はやくしろ」
更田さんが喫煙ルームの外から声をかける。ヘイティはその言葉に、わかったよ、と返事をして私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「またね、マイガール」
「えぇ、また」
ひらりと手を振れば彼はそのまま外に向かう。ジョンがムッとしたようにこちらを見た。
「あの男は」
「私のことを娘だと思っている」
「錯乱してるのか?」
「いいや、そういうことでもないが、彼には私が娘である記憶があるし、私にも彼が父親だった記憶がある」
「ーーということは、ナマエもDDか?」
「DD?」
ディヴィッドの質問に首を傾げた私に対し、ジョンが「あぁ」と肯定した。そして、葉巻を灰皿に押し付けて口を開く。
「俺たちのような人間はアメリカではDissociative Disorders(解離性障害)の一つにされている」
「解離性障害……多重人格のそれか」
「あぁ。理由はわからない。思い出すタイミングも様々。ただ、そういう人間が一定数いるから一応コレに相当するとされているだけだが。だいたいはまとまった世代で産まれてる、が」
ジョンはそう言って私を見下ろした。それに伴い、ディヴィッドも私を見下ろす。
「ナマエと彼だけが外れている」
「知り合いなのか?」
「彼とは俺は面識がないがな。彼は『嫌悪』といえばお前もわかるか」
「……おいまて、ザ・ボスと同世代だっていいたいのか?どう見ても俺と変わらないか下だぞ」
「ナマエは俺と同世代だぞ」
さらりとジョンが告げた言葉にディヴィッドがタバコを落とした。灰皿の上にきちんと落ちたが。ジョンはそれを見て無駄口を叩く気がしたので私が代わりに答えておく。
「ジョンとは同じ人に師事していたからな。前、なら、年も近い」
「どうなってるんだ」
それは私もジョンも知りたいところだろう。



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