2019/05/04

ワールドエンドグッドナイト 2

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「そろそろ私には迎えに行かないといけない人がいる」
 ナマエはそう言って、その白にそまりつつある世界を見つめる。墓地だ。白い花がさく。彼女はそんな中で「もうすぐで迎えに行かないといけないけれど、今は何処にその人がいるのかわからないから、もう少しだけスネークと一緒にいる」と告げた。その意味がわからなくて彼女に問いかける。
「誰を?」
「秘密」
「……そいつを迎えにいってどうするんだ」
 そんな問いに彼女はただ微笑んで、一緒に行くだけだ、と告げた。彼女の裾から花びらがこぼれ落ちる。そのまま彼女が消えてしまう気がして、手を伸ばす。その手から崩れ落ちるように彼女は花びらになって消えた。なすすべなく見つめる。体が揺すられる感覚がする。彼女を探して声を荒げる。いくら彼女の名前を呼んでも彼女は現れない。
 不意に、視界が暗くなり――目を開く。ナマエが少し困惑した顔をして見下ろしていた。恐らく彼女が揺すったんだろう。
「ついたか?」
「いや、もうすぐ……本当に大丈夫なのか?」
「あぁ、心配いらない」
 起き上がる気にもならず、彼女を見上げる。まぁ、彼女の頬を触るまえに手は止められてしまったが。まだ夢見心地、と眉間に皺を寄せた彼女は俺のバンダナ越しにデコピンをする。地味にいたいが、CQCで締められるよりはマシだろう。
 ――あれは夢であって、夢じゃない。彼女は確かに現実世界で自分にああ言った。誰かを迎えに行くのだと。しかし、あの夢とは違いナマエは現にここにいる。でも、彼女はその誰かを迎えに行ったが最後、いなくなってしまうのだろう。俺たちの前から。俺の前から。
 ――オオアマナの亡霊。あの墓場に咲き誇る花の亡霊。彼女がもし、この世に実態を持たないゴーストなら。もし、自分を迎えに来た使いなら。
「――もう少し待ってくれないか」
 まだやることはある。一緒に行くことはまだできない。俺の言葉に彼女は不思議そうな顔で俺を見た。
「何を?」
「いいや、なんでもない」
 そう目を伏せて、首を振る。寝ちゃだめだ、と、彼女に釘を刺されてしまったが。




「参ったな、そうか、貴方は」
 そう言ってナマエはナオミをみた。ナオミが持っているのはナマエが愛用しているサプリだ。それを見て、彼女は何かに気づいたようだった。ナオミはただただ目を見開いて、ナマエを見た。そうして、サニーに卵焼きを焼くように頼む。ナマエはそれに合わせて「半熟めで頼む」と声を上げた。子供に聞かしてはいけない内容の話らしい。僕はパソコンから目を離し、寝転んでいたスネークは起き上がった。
「子供に聞かれちゃまずい話でもあるのか?」
「スネークは知らないの?」
「何をだい?」
 僕らの返答にナオミはナマエを見た。僕らもまたナマエを見る。彼女は僕達をからかうように口を開く。
「女同士の話を聞くのは下世話だぞ」
「ちょっと、茶化してる問題じゃないわ――診察は受けてるの?」
「そんな場合じゃないからな。それに元からわかってたことだから」
「元からわかってたこと?」
 ナオミが眉間に皺をよせてナマエをみる。見えない話にスネークが口を挟む。
「ナオミ、ナマエは何処か悪いのか」
「私は元気だよ、スネーク。君は君の体のことを気にしなさい」
「そう言う問題じゃないんだろう」
 スネークはナマエの言葉をぴしゃりとはねつけた。僕も「そう言う問題じゃないよ」と同意しておく。ナマエはため息を深くついて――僕らを見た。
「私が重病人だって言ったらどうする?」
 それは何時だったか僕らに彼女が問いかけた言葉だ。その当時、スネークの急激な老化の大作に追われていた僕らは「冗談だろう」と笑い、サニーだけが「死んじゃ嫌だ」と泣きわめいていた記憶がある。結局ナマエが「冗談だ、ごめん」とサニーをなだめていたけれど。スネークも思い当たったのか、「まさか」と口を開く。彼女はあのときと同じように笑った。
「――白血病なんだ」
 あのときと同じような笑みだというのに、彼女は全く逆ともとれる台詞を吐いた。今、彼女はなんて言った。ショックを受けて固まる僕らに、彼女は「冗談だよ」と笑う。
「冗談なんだ、気にしないでくれ」
 言い聞かせるような声だった。彼女の声に、スネークが怒りを乗せた声で口を開く。
「冗談じゃ済まされないぞ」
「そうか、そうだな」
「本当はどっちなんだ」
「フルダラビン」
「ふる……?」
「彼女の飲んでいる薬の名前よ」
 ナオミはそう言ってナマエを見た。
「白血病のクスリなの。進行した白血病を抑制する薬よ。といっても今となっては古い薬だけど」
 ナオミがはっきりと告げる。ナマエはただただ困ったような顔をしていた。
「――本来なら貴方は無菌室にいるべきよ。副作用で免疫が抑制される。風邪でも命取りになるわ」
「普通はそうらしいね」
 彼女はそう言って笑った。
「処方をしてくれる闇医者にも毎回言われるよ。君は本来療養するべきだって」
「なら、どうして」
「スネークと一緒だ」
 ナマエはそう言って、目を伏せ――まっすぐな目で僕らを見た。
「私にはやることがある。迎えに行かないと行けない人がいる。言ったでしょう? 何時かこうなることはわかってたんだ」
 僕らはただただ彼女の言葉を受け入れられずに頭の中を反復させる。スネークがただ、唖然とナマエを見ていた。ナオミが怒ったように彼女に言葉を投げかける。
「何時かこうなるとわかってた?」
「仲間が何人もこの病気にかかった。仲が良かった人でかかってないのは私か彼ぐらいか――いや、彼もまた何かに影響があったのかもしれないが」
「何かあったの」
「――演習中に被爆したんだ。随分と昔の死の灰を浴びた」
 ――死の灰。核爆発により、降り注ぐそれ。しかしながら、ここ数年でそんな事件と言えば、チェルノブイリやスリーマイルの事故ぐらいしかない。しかしながら、彼女の言葉にはふさわしくない言葉が含まれている。「演習中に」という言葉だ。現在、核兵器を用いた演習など行われていない。また記憶が混同しているらしい。ナマエは偶に同じ名前を持つ母親の経歴を自分の物だと錯覚している節がある。ナオミがその話に何か言う前に、目玉焼きを持って降りてこようとしているサニーに気づいたらしい。ナマエは「そちらで食べるよ」とそのまま上に上がっていった。
「――ねぇ、今の話」
「彼女、記憶がないんだ。だから、彼女の母親の記憶と偶に混同してしまうみたいで」
「記憶がない?」
「……雪の中で倒れていたのをアラスカの住人が見つけたらしい」
「なるほど、そこで貴方と知り合ったって訳ね」
「――ナオミ、本当なのか」
 スネークがそうナオミに尋ねる。彼女は目を伏せて口を開く。
「残念だけど、病気の話は本当よ。どこまで進行しているかは詳しく検査しないとわからないけど」


**

 ――迎えに来たのね。
 ビッグママは彼女――ナマエを見てそう告げた。ナマエはなんとも言わず、ただ目を伏せる。
「人違いじゃないですか」
「――そう、ね、そうよね、ごめんなさい。彼女はあそこで殺されたんだから」
 聞き覚えのある言葉だった。そう、それは確か、あのビッグシェルの事件でオセロットに彼女が告げていた言葉にも近かった。
「でも、まるであの人の生き写しね。きっと彼が見たら喜ぶわ」
「――貴方は私に怒らない?」
「どうして貴女に怒る必要があるの? 貴女は彼女じゃない。……貴女が彼女だとしても、彼女に謝る必要があるのは私の方よ」
 ビッグママはそう言って目を伏せる。
「私はあの人に彼を負かされたけれど、私には彼の隣は立てなかったし、何もしてあげれなかった。彼が何時も見ていたのはあの人だったもの」
「――そんなことは」
「ふふ、まるであの人と話してるみたい」
 ビッグママはそう言ってナマエの頬を撫でて抱きよせる。ナマエはただ困ったように彼女を見つめるだけだ。
「――迎えに行ってあげて。私はもう大丈夫よ、心配いらないわ、ヘイティ」
「ごめんなさい」
「もう、謝らないで」
「かえられなくて、ごめんなさい、」
 そこではじめて、ナマエがないているのだとわかった。ビッグママは彼女の頭を撫でた。
「――不思議な子」


 メリルが非常に不機嫌だ。それは恐らくナマエがいるからだろうか。友好的に接しようとした彼女に、メリルがちょっとむっとしていたのが先ほどである。(そもそも、ビッグママのもとに尋ねる時からこうなのであるが)
 ビッグママの死、兵器の一方的な無力化。その時に傷を負ったナマエはあまり体調がよろしくなさそうなのも一つの原因だろうし、僕とスネークが気にかけるのも原因の一つだろう。現に、僕らがシャドーもセスに行ったとき彼女の体調は最高潮に悪かったらしく、スネークのサポートが出来なかった。まぁ、結局は彼女が雷電を引き上げたりスネークを解放したりしてもらった。それに、今はマシになったと言って聞かないけれど。全く、誰に似たんだろうか。
「ナマエ、お前は乗り込んでくるな。オタコン達の護衛を頼む」
「却下、人出は多い方がいいだろう。君は自分の心配をしろ。万が一君が無理だったら私が行くよ」
「だが、」
「それに、私たちはパートナーだろう? 今更何を言ってるんだ」
 彼女はケタケタ笑いながらそう告げた。大丈夫さ、といった彼女は言葉を告げる。
「――誰も死なない」
 彼女の言葉に対する反応は二通りだ。驚いた後で安堵したような顔をする人、そして怒る人、そのどちらかだ。
「ちょっと、何を根拠にそんなことを言ってるの!? この状況で!」
「大丈夫、誰も死なない」
 ナマエはメリルの言葉を無視して――というよりは、それを飲み込むように優しい笑みを浮かべて安堵したような顔をした兵士達を見た。
「君たちはやり遂げれる。誰一人、かけることは許されない。ブリーフィングは終わったような物だろうから、銃の確認をしておいてほしい」
 そう促したナマエに兵士が何人もうなずいて部屋からそとにでた。それを見送って彼女はメイリンに声をかける。
「艦長、少しでも生存率を上げたいなら士気をあげることだ。心と体は嫌でも同調する。ナノマシンによる強制的なそれができないなら、声をかけて安心させてあげるしかない。それは上官にしか出来ない」
「一理あるな。だが、メリルの言葉も一理ある」
「意志がある人間は死なない。私が教わったことの一つだ。戦場における最大の武器、それは絶対に生き残るという強い意志だと。ここにいる人の意志は強い。だから、大丈夫だ」
 彼女はまっすぐに告げた。それが強い励ましになったのは、言うまでもないだろうけれど。


**

 ――ごめんなさい。
 彼女の謝罪の意味を僕らは知らない。誰かが命を落とすたびに告げられる言葉だ。そして、倒れているオセロットを見て彼女が告げた言葉でもある。彼女の言うとおり、僕らの中で負傷者は出たが死人は出なかった。それは幸いなことだろう。彼女はスネークを助け起こす。あとは――。




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「ナマエ、どうしてついてくるんだ」
「貴方の向かう先が、私の向かう先だから」
「だれかを迎えに行かなくていいのか」
「迎えにいくよ」
 彼女は相変わらず白い花の花束を持っていた。今から俺が何をしようとしているか、彼女は理解しているはずだ。しかしながら、彼女は俺の隣を何処か夢見心地のように歩いている。その様子は体調が良いように見えた。
「ねぇ、スネーク。私が過去から来たといったらどうする?」
 不意に彼女がそう尋ねた。悪戯をした子供のような表情で。珍しい物を見た、という感情が上回って、俺は何も考えずに答える。
「どうもしない」
 ――どうしたって彼女は彼女である。
「私が死人だって言ったら?」
「よく目立つ幽霊だな。あった奴ら全員に見えてる」
「それはそうだ」
 彼女はケラケラと笑うと、また道を見つめた。そこから何か話すと思えば、特に何かを話すことはない。沈黙、というわけではなかった。彼女が珍しく鼻歌を歌っている。どうやら機嫌がすこぶる良いらしい。一瞬、俺が死ぬからか、と思ったが彼女の今までの言動を考えればそういうことではないのだろう。恐らく、今から会いに行く人に会えるのが嬉しいのだろう。俺が死ぬというのに、なんと薄情なパートナーだろうか。
 墓地までの距離は短いようで長く、また、時間が立つのは遅いようで早い。そんな矛盾の中でたどり着いたその場所――彼女の抱く花が揺れる墓地に、彼女は足を踏み入れた。彼女が迎えに来たという人がいるのだろうか、と見渡すが、そこに人は一人もいない。
「誰もいないな」
「もうすぐくるよ」
 彼女はそう言って、ただまっすぐと何処かをみた。
 彼女に引き金を引いてもらえやしないか、と、俺は銃を握る。
「ナマエ、俺を撃ってくれないか」
「どうして?」
「どうして? わかってるだろう」
「貴方は、連れて行かないよ」
「どういう意味だ?」
「――貴方には生きて欲しいから」
 彼女はそう言って、墓の前に立つ――というよりは、墓の上に腰掛けた。それは手入れも何もされていない墓だ。ナマエ・クラウディア。彼女と同じ名を持つ――彼女の母親の名前。秘密に包まれた存在の名前だ。おい、と注意しようとするが、それより早く彼女が口を開く。
「――彼女の任務は、後にビッグボス と呼ばれる人物に殺されることだった」
「――なんだって?」
「元はお互い違う任務についていたんだ。彼女は多額のお金を奪うために、彼は要人を亡命させるためにそこにいた」
 彼女はそう言ってただボンヤリとお墓をみる。
「けれど、それは歯車がずれてしまったことにより変貌した。彼の任務は彼女を殺すこと。彼女の任務は、彼に殺されること。彼女はたくさん嘘をついた。彼が嫌いだと。嫌われてしまえば、彼が縛られることはない。でも、彼女は最後の最後に、呪いの言葉を吐いてしまった」
「呪いの言葉?」
「彼を愛していると告げてしまった」
 それは考えるだけで恐ろしいことだ。まさしく呪いだろう。しかしながら、美しい呪いのようにも感じた。そうすれば、相手の思い出の中に自分は嫌でも植え付けられるのだから。もし、彼女が引き金を引くなら、俺は。動きを止めた俺に構わず、彼女は言葉を続ける。
「彼女は自分が任務につくことで――それで救われると思っていた。彼は大切な師と、仲間と過ごすんだと。でも、そんなことはなかった。彼は足を踏み外した。あの時、どうすればよかったのか、何度考えてもわからない」
「それは、『彼女』の話か?」
「いいや、私の話でもあるよ」
 彼女はそう告げて、目を伏せた。そして、俺を見る。
「貴方の運命を狂わせた元凶も私ということ」
「――なら、俺を撃ってくれ」
 俺の運命を狂わせた元凶であるなら、元凶が俺を処分するべきだろう。そう願ってみたが、彼女は首を左右に振るだけだった。
「それはできない。貴方には幸せに生きる権利がある」
「そんなものはない。俺はもうすぐ兵器になる」
 彼女はその言葉にも首を左右に振った。
「――ナマエ?」
 不意に聞こえた声に、二人でそちらをみる。そこに佇む男は見たことがあった。右目の眼帯。彼女はそいつをみる。
 風が吹く。花びらが舞う。夢の中の彼女のように。かつてビッグボス と呼ばれた男は、一歩足を踏み出す。何かを戸惑うように。俺は慌てて銃を構えてナマエの前に立った。その瞬間、男は眉間にシワを寄せたが、すぐにそれは消えた。ナマエが俺の隣に立って、俺の銃の上にそっと手を添えて、銃口を下に向けたからだ。
「デイヴィッド、言っただろう?私は人を迎えに行かないといけないって」
 彼女は小さくそう告げる。ビッグボス を迎えに来たと言うんだろうか。復讐が目的なのか。いや、そもそも――どうしてここにビッグボス がいることを知っているのか。そんな問いに答えることもなく、彼女は彼を見た。穏やかに笑って。
「ジャック、迎えに来たよ」
「……ナマエか、随分と遅い迎えだな」
「幸せに生きてると思っていたから」
「幸せに生きている?」
 眉間にシワを寄せたビッグボスに対し、彼女は笑う。ふざけるな、と、小さく呻いたのはビッグボスだ。
「どうして、お前じゃなければいけなかった?」
「私かボスかだった」
 ビッグボス は足早に彼女に近づく。どうしてあの任務に、どうして、どうして、どうして。たくさんの問いを受けても彼女はニコニコと笑っている。そうしてビッグボスが彼女を掴む。ひらりとまた、白い花びらが飛んだ。
「どうして、あんな言葉を吐いた! どうして最後まで嫌ったフリをしてくれなかった! どうしてなんだ! どうして! 俺はお前が憎い! あんな言葉を吐いて死んだお前が! お前さえいなければ! 全ての始まりはお前だ!」
「そうだね。憎んでいいよ、嫌っていいよ」
「あぁ、憎むとも! 嫌うとも! お前さえいなければ、こんな未来になっていなかった」
「うん」
 ビッグボスがただ微笑んで立つ彼女を揺する。花びらがまた散る。
「俺は、お前が、大っ嫌いだ」
「うん、」
「お前さえいなければ」
「うん」
 彼女はゆっくりとビッグボスの手を外すと、一歩下がった。
「デイヴィッドと積もる話もあるでしょう」
「……あぁ」
「私はここにいるから」
 そう言ってナマエは同じ名前が書かれた墓に座って目を伏せた。ビッグボスが、小さく、ナマエ? と呼べば、彼女は目を見開いて笑みを浮かべる。それを見て、今度はビッグボス がこちらを見たのだが。

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 発作が起こったビッグボスを支える。彼女をみれば、彼女は立ち上がってこちらを見ていた。何とか彼女の元にたどり着けば、彼女はまた微笑んだのだけど。彼女にもたれてみせたビッグボス はそっと彼女の顔を撫でる。それはそれは愛おしそうに。
「本当は、」
「うん、」
「本当は、お前と生きたかったんだ。その未来を塗り潰したのは間違いなく俺だ。お前を恨むなんて見当違いだとは、わかっていたんだ」
「見当違いじゃない、憎んで良いよ。全部私のせいだ」
 ――ビッグボスの話。それは一つの任務で、一人の女性を撃ち殺したことから始まったゆがみの話。彼女曰く――彼女の母親であるはずの人物の話。しかし、ビッグボス曰く、彼女自身の話。どちらが正しいのかは俺にはわからない。いや、普通に考えると彼女の母親の話というほうが正しい。しかし、彼女の記憶を混合させたような話し方は?愛国者に関わったオセロットとビッグママが告げた言葉は?彼女の謝罪は? それを全て考えると、ビッグボスの話が正しいと思ってしまう。まるで夢のような話ではあるが。
 ビッグボスは子供が拗ねたような顔で彼女を見る。
「……いままでどこに、いたんだ?」
「――秘密」
「――俺が死んでもいなかったくせに」
「まだ早いと思ったからだ。だから、今、迎えに来た」
 彼女はそう言って、ビッグボスの手を握る。ビッグボスはそれに首を左右に振った。
「ナマエはこなくていい。デイヴィッドを、たのむ」
「――それは嫌がらせかな?」
「あぁ、嫌がらせ、だ。今度は君が呪いにかかる番だ」
 そう言ってビッグボス が穏やかな顔で笑った。
「俺も、きみを、あいして、いるんだ」
 強い風が吹く。あまりの強さに目を瞑る。しばらくすると収まった風は、花びらを巻き上げ――散らしていく。あの夢のような光景の中、彼女は小さく、いいものだな、と呟く声が聞こえた。


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 ――スネークの死を見届けた彼女もまた、僕らに看取られて息を引き取った。
 結局彼女は謎の人物のままで、彼女とスネークがどういう関係であったかはわからない。僕らがつっこめばお互い「パートナー」としか返さなかったからだ。二人がいなくなった後も、サニーに聞かれた僕は何時も「パートナーだよ」と返すことしかできない。
 結局彼女は何者だったのだろうか。彼女の主治医をしていた闇医者――正体はなんてことのない国境なき医師団の一人の男だ――曰く、彼女の体はとても生きていけるような物ではなかったらしい。それが病気の進行による物か否かまでは聞いていないが、彼の言葉が頭についている。「あいつは元から一度死んだような体の機能なんだよな」と。だから、もしかしたら彼女は本当にオオアマナの亡霊だったのかもしれない。
 ――彼女が息を引き取ったのは、オオアマナが咲く8月30日のことだった、



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