2019/05/28

リアがマザーベースにいる

・マザーベースにいるリア

その女性はボスに連れてこられた人物だ。家を追われた子供や大人達を保護し、生活のすべを与える。そしてそれはたしかに行くあてがなくなった人物にとっては神聖なものに見えたんだろう。だから、彼女に保護された人物たちは彼女を聖女と呼び慕った。それが内紛にさらなる油を注ぐことになるとは誰も知らずに。
彼女はボスに連れてこられた人物だ。彼女が保護した連中、反政府勢力、政府。三勢力が奪い合った結果と言っていい。聖女、賢者、魔女、とそれぞれ呼ばれた彼女をその戦場から奪い去ったのが当時反政府勢力に加担していたボスなのである。それはもうとてつもない労力が必要となったのは確かだ。彼女がいたのは森の中にある捨てられた教会でそこにたどり着くのも道が複雑であったからだ。
「奇跡の聖女さま、か」
ボスはそう言って彼女を見た。彼女は肩をすくめた。
「私は聖女じゃない。どちらかというと、政府側の言葉、魔女が正しいだろうに。最初はただ、行く場所がない彼らの居場所を作りたかっただけなんだが……早々に離れるべきだったか」
彼女は憂うように目を伏せた。その様子がどうも外見よりも歳を重ねているように見える。カズさんがコーヒーを差し出しながら彼女をみた。
「名前は?」
「リアだ」
「ファミリーネームは?」
「ステイシー。ただそれは利便の関係で使っているだけの偽名に近い」
「ステイシー……アメリカかイギリス国籍か?」
「生憎国には属してなくてね。世界中旅して回ってる。定住してないんだ」
「今回みたいなことが起こるから、か?」
「まぁね」
彼女はそう言って警戒もなくコーヒーに口づけた。仕草は上品である。
「貴方が連れ出してくれて助かった。私もあそこを離れるつもりだったんだが、みんなが許してくれなくてね」
「好きで篭ってるかと思ったが」
「そんなわけないだろう。泣いて縋り付かれて、最後にはあそこに軟禁だ。目が怖かった。あれは盲信する人間の目だ。私は盲信されるほどのできた人間じゃない」
「戦場では精神が参るやつは多い。アンタはそれに漬け込む形になったんだろう」
そう葉巻に火をつけたボスは、そういえばと彼女をみた。
「アンタ、元医療従事者か?」
「いいや?」
「それにしては手慣れた処置だったが。アンタが処置してくれた場所は治りがいい」
たしかにそうである。彼女が施した処置は適切でありーーなおかつ、確かに治りが早い気がするのだ。彼女はその言葉に首を左右に振ったのだが。
「悪いが医師でも看護師でもないぞ。処置は私を育ててくれた養父に教わったんだ」
「養父は医者か何かか?」
「いや……元は外交官だったらしい」
「外交官?どうりで仕草が上品なお嬢様なわけだ」
カズさんの言葉に彼女はそんなものはあまり関係ないと思うが、と苦笑いをした。あと、お嬢様じゃないぞ、とも。
「外交官……何処の国の?」
「さぁ。知らない。そこまで詳しく聞いてないんだ。いや、正しくは聞くタイミングがなかった」
「どういう意味だ?」
「養父は私が十代の時に死んだから……」
苦笑いとともに告げられた言葉に、悪いことを聞いたな、とカズさんが告げる。彼女は気にしていないよと首を振ったが。
「……悪いがしばらくここで生活してもらうことになるがいいか?」
「おや、追い出されると思ったけども違うのか。君たちからすれば見るからに怪しいだろうに」
彼女の言葉は的を得ている。しかし、そんなものを疑いだしたらきりがないのも確かである。だから逆にだとはボスの言葉だ。
「お前を逃せば、情報を持ち帰らされることになるからな」
「そういう考え方もあるのか……まぁ、じゃあお言葉に甘えて」
彼女はそう笑むと、今度は首をかしげる。
「そういえば、貴方達の名前は?」
その言葉に、俺たちは息を吐いたのだけども。

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「ねぇ、やっぱりリアって魔女なんじゃないかしら。それとも映画から出てきたプリンセスか」
セシールの言葉にボスが眉間にシワをよせる。
「そんなわけないだろう」
「しかしながら興味深い。彼女は確かに生物とコミュニケーションを取るのが上手いように感じる」
「生物とコミュニケーション?」
ドクターストレンジの言葉に俺やボス、カズさんたちも首を傾げた。セシールが頷いて口を開く。
「鳥と話せるのよ、あの子」
「……は?」
そんなもの、どうやって話すというんだ。セシールがどこかうっとりしたように口を開く。
「この前も彼女が魚を食べたいってぼやいたら海鳥が魚を持ってきたし、意思疎通してるみたいだったわ」
「偶々じゃないか?」
「本人もそう言ってたけど、絶対違う。あの子は潜在的な何かがあるのよ」


「ふふ、ふふふ、」
クスクスと笑う彼女は相変わらず品がある。その品の良さからか、遠巻きに眺められることが多い。特にサンデニスタの所属する兵士なんかはそうで、アマンダもあまり関わりがないらしい。良くも悪くも育ちがいいお嬢様に見えるのだろう、とはスネークの考えだった。しかしながら、彼女はか弱いだけでないというのはMSFの一部が知ることだろう。酔った兵士がリアを襲おうとしてその場にあった箒でのされたのはいい思い出であるし、処置に関しても容赦がない時がある。特に、無茶をしてつけた傷に関しては。
ーー確かに彼女は魔女かもしれないと思う時がスネークにはあった。
彼女が手当てすると何故か早く癒える傷。あの場ではああいう反応をしたが、スネークだって彼女が海鳥や魚、生物と意思疎通しているように見えたことがある。何よりも彼女は確かに不思議な力があった。彼女と脱出する際、聖女さまを守れないなら殺すしかないと銃口を向けられたことがある。しかしながら、銃弾は全て自分たちから外れーーまるで跳弾したように、関係のない方向に飛んだからだ。ただ、魔女といっても昔話に出てくるようなおどろおどろしい悪い魔女ではないが。
「笑いごとか」
スネークはそう溜息をついた。一応は医療班にいるためか彼女は包帯なんかを管理しながら笑っている。
「このままいくと火あぶりにされかねないぞ」
「そうだな、例の政府はそれも考えていたらしい」
「言わんこっちゃない」
「まぁ、人と違うのは認めるしかないさ」
彼女はそう言って肩を竦めた。君が人じゃないものが見えるようなものだよ。その言葉にスネークは目を逸らした。確かに人じゃないものを見たことはあった。自分が死にかけたから、かも、しれないが。
「確かにそこには何かいる、確かに意思を伝えることも意思を聞くこともできる、でも見えなければ聞こえなければ全て同じだ」
「……」
「まぁ、あんまり言うと宗教に似た話になってくるから言わないが」
リアはそう言って手を空にかざす。太陽を遮るように。そうして、ひゅい、と口笛を吹けば脚部にいた海鳥が一斉に羽ばたいた。くるりと空で旋回すると海鳥のうちの一羽が彼女の腕に止まる。足の付け根あたりに包帯が巻かれていた。怪我をしていたらしい。その包帯を取った彼女は、もう大丈夫だろう、と鳥に向かっていうとそっと手を挙げた。
「良い旅路を」
その言葉に鳥は羽ばたき、旋回していた海鳥に加わる。そうして鳥たちは遠くに飛び去った。近くの窓が勢いよく開く。顔をのぞかせたのはセシールとパスだ。ほら、やっぱり魔女みたいだわ!と声をあげたセシールに、リアは苦笑いしたのだけど。

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「サンタクロースはいるだろう?」
当たり前であるようにリアは首をかしげる。スネークがサンタクロースを、という話をしていたというのに彼女がそういう言葉を言うものだから会話は止まる。
「リア、それ真面目に言ってるのか?」
「あぁ。私が子供の時は知らなかったが、友人に教えてもらった。会ったこともある」
「待て、会ったことがある!?」
そう食いついたのはスネークだ。彼女はああと頷いて、口を開く。
「プレゼントの包装を手伝った。楽しかった。サンタクロースの住むクリスマス村はいつも雪がいい具合に積もってるんだ」
「ヒューイ!ここに証人がいるぞ!」
「……ははは、面白い冗談だね、リア」
「冗談?私は毎年プレゼントがくるぞ。どうやって届けてるか今でもわからない」
「その年になっても?」
「信じてる人にはくる。君たちは信じてないからこない」
断言したように告げたリアに周りが意外だというようにリアを見た。君ってやっぱり純粋な女の子なんだね、と呟いたヒューイにリアは首を傾げたのだが。まぁ、クリスマスにリアのプレゼントが二つになり、あげた方も貰った方も首をかしげるの後の話なのであるが。

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ーーこれは夢だろう。意識がある夢だ。
そう男は思う。漣の音がする。海の香りはしないが、あたりは砂浜であることは確かだった。自分は砂の上に立っていて彼女は海に足をつけていた。リア、と彼女を呼べば振り向き笑った彼女は現実となんら変わらない。彼女は男の名を紡ぐ。それに答えようとすると、ただ、波が引いてーー大きな波が彼女に襲いかかる。口を開いた化け物のように。
「リア、逃げろ」
そう駆け出しても遅かった。彼女は目の前で波に飲まれーーバシャン、という音と共に消えた。まるでそこには誰もいなかったように。唖然と男は海を見る。漣の音だけが聞こえる。


「これはこれは聖女さま、ご機嫌麗しゅう」
ガスペルの言葉にリアは眉間にシワをよせた。おや、違ったかな、と告げたガスペルにリアは生憎人違いだ、と首を左右に振った。
「そうですか。いやはや、奇跡の力を持つ聖女さまはその様な容姿をお持ちだときいたもので」
「人違いだろう。私はここの衛生兵だ」
もう一度否定した彼女に、ガスペルは気にせず口を開く。
「貴方の噂は聞いた。なんでも奇跡の力ーー不思議な力を持つとか」
「そんなものはない」
「喋れない生物と言葉を交わしーー」
「見間違いだろう」
「貴女が手当てする傷は通常より早く治りーー」
「適切な処置をしたからだ」
「貴女を狙う銃弾はどんなにまっすぐ銃口が向けられていてもそれる」
「気のせいだ。話はそれだけですか」
早急に立ち去るべきだろう、とリアは思う。スネークはその様子をみて、リア、と声を掛けた。彼女は呼ばれているので、とガスペルから離れた。とりあえずスネークは医療班に向かう様に告げると彼女は安心した様に礼を言ってその場を離れた。
「ビッグボス、彼女をどこで?」
「アンタには関係ない場所だ」
「ーー聖女さまを連れ出すのは苦労したでしょう?命を投げ出す彼女を盲信する信者、彼女を賢者だという反政府勢力、そして彼女を魔女という政府。三すくみ状態だったはずだ。KGBも CIAも彼女の存在を知っていたがーー手を出せなかった。それを悠々とーー」
「ガスペル、用件はなんだ」
スネークはそう言ってガスペルの言葉を止める。ガスペルはふむと笑う。いや、だいたいは察することができた。先程の発言をきいて。恐らくはーー。
「KGBは彼女が欲しい」
そう、彼女の身柄の確保である。
「リアはただの民間人だぞ」
「貴方は彼女と過ごしながらそんなことをいうのか」
可笑しそうに笑ったガスペルにスネークは眉間にシワをよせた。
「困ったことに彼女と接触したKGBの工作員は皆彼女に魅入られてね。皆こういう。神に選ばれた人だ、聖母マリアの生まれ変わり、はたまたキリストの使者」
「KGBの工作員の精神が弱いだけだろう」
「いや、上もそうだと思ったのだがーーどうやら報告をきくと違ったらしい。どんなに重傷でも彼女は治す」
「そんな奇跡なんてありえない。お伽話じゃないんだぞ」
「だからこそKGBは彼女を保護したい。真実はどうであれ。CIAに保護されればそれこそどうなるか、元CIAにいた貴方にならわかるだろう?」
はっきりそう告げたガスペルに、スネークはできないと断った。
「どういう形であれ、彼女は俺たちが保護しているんだ」
「……そうですか。貴方の気が変わることを祈ってますよ」
ガスペルはそう告げて踵を返す。スネークはそれの背を見送り息を吐いた。

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「今のは」
そう尋ねたメディックの一人に、リアは振り向いてメディックを見た。そうして眉間にシワを寄せて、見たのか?と尋ねる。それに対するメディックの返答はイエスだった。答えることはなかったが。
まるで魔法の様だった。海鳥が彼女に外敵に襲われた雛を連れてきたのだ。それに彼女が手を当てると、雛はみるみるうちに傷を治していったのである。最初は何が起こっているか理解ができなかった。しかし、それを理解した頃には海鳥は雛を連れて彼女から離れたのだ。奇跡だと思った。まさしく、奇跡の力だと。魔法が存在するのなら、彼女が施したそれはまさに魔法だった。しかしながら、彼女の様子を見るに見られたくなかったのだろう。警戒した様にこちらを見た彼女に、彼は何か言葉を探るが見つかりそうもなかった。
「いいや……海鳥がいつもみたいに君を尋ねてきたのかと見ていただけだ」
見え透いた嘘だった。しかしながら彼女はその返答に安心した様に息を吐いて笑う。
「あぁ、そうだ、雛を見せにきてくれただけなんだ」
「君は鳥が好きなのか?」
「鳥以外も好きだ。草や花や木々もね」
「生き物が好き?」
「そうだな」
彼女はそう笑って近くの壁に寄りかかった。洋上プラントは海の上だけあって日差しがきつい。
「人間は?」
自分でも頓珍漢なことを聞いたと彼は思う。彼女は好きだというんだろう、と、推測も含めて。しかし彼女は言葉をとめーー難しい問いだな、という言葉で返した。
「できるだけ好きでいようとは思っているし、できるだけ手を差し伸べたいとも思っている」
それが答えなのだろう。彼はその返答に目を瞬いた。
「意外だったか?」
「あぁ、君はてっきり人間も好きだと断言すると」
「聖女じゃないからなぁ、どうも皆、私を何処かのプリンセスの様に捉えがちなんだ。私はそんなものではないよ」
そうだろうか。彼女はまさにーー。
「リア」
背後から声が聞こえて男は肩を跳ねあげた。そこにいたのは彼のボスであるスネークだ。
「スネーク、さっきはありがとう。助かった」
「いいや、構わない。だが、あまりガスペルと関わらないほうがいい」
「私もそう思うから関わりたくない」
彼女はそう言って珍しく苦い顔をした。スネークは笑いながら葉巻に火をつける。
「お前がそんな顔をするとは思わなかった」
その言葉にリアと彼は顔を見合わせるのだが。

==

「リアはどうして世界を旅しているの?」
そう尋ねたパスにリアは本を読む手を止めた。そうだなぁ、と口を開く。
「最初は故郷を探していたんだ」
「故郷を?」
「あぁ。でも、今は気の向くままに旅をしてる」
「諦めたの?」
「いいや……一度は帰ったんだ。でも、私の居場所はそこにはなかった、が、正しい」
リアはそう言って本を閉じると鞄の中にしまう。
「私は長い間留守にしてしまっていたからね。私を知っているのは一握りの人物だけだった」
「……悲しくなかったの?」
「少しだけ。でも、それは人のことは言えないのかもしれない。私が誰かと過ごす間に彼らも違う人物と時間を過ごすんだ。そう考えるとお互い様だろう?」
苦笑いをしたリアにパスは握っていたマグカップに口をつける。近くで話を聞いていたセシールが、じゃあ今は目的もなく旅をしてるの?と尋ねた。リアは「いや……」と言葉を濁す。
「そういうことでもない、が、あんまりいうと宗教みたいに思われる……いや、私の育った場所の宗教の話になる」
「宗教?」
「あぁ、そうだと言う教えがいくらかあるが、そのどれも異質だ。それは多分君たちの宗教観と折り合いをつけるのは難しい」
リアはそう言って話題を句切ろうとするが、他が思ったより食いついた。その場にいたカズがさらりと「博愛主義だからてっきりキリスト教かと思ったが」と告げたのだ。
「で、どんな教えだ?」
「この世にあるもの全てには命が宿る、とか、



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雑多 

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