2019/10/07
兼任司書と
苗字さんが見るからに疲れているのをみると、また向こうの忙しい時期とこちらの忙しい時期が被ってしまったらしい。苗字さんの司書室では、陸奥守さんともう二人の青年がいてやれこちらの業務、やれあちらの業務とせわしなくしている、とは佐藤先生の言葉だ。アイツいつか過労死するんじゃねぇの、とは啄木さんの言葉である。僕たちにとっては年に一、二度みる光景であるが、新しく来た人には何が何かわかっていない。ただ忙しい人だという認識だろう。休憩しろと押し切られたからか談話室やってきた彼彼女らは席につくと、息を吐いた。苗字さんなんかはぐたりと机にもたれかかるし、陸奥守くんもまた椅子にだらしなく座っている。他の二人もまた頭を抱えていたり頬杖をついたりと様々だ。
「今回の一番誉隊はもう玉の数が多い所でいいかな」
「それでええじゃろ……」
「……主くん、研修生の資料と引き受けの資料には目を通してくれたかな?」
「通しました……一応……長谷部さん、予算会議は落ち着きそう?」
「なんとか」
不思議な会話である。そのまま仕事の話にまた移りかけた彼らに佐藤先生がため息をついた。立川さんが心配したように口を開く。
「ナマエちゃんのところ落ち着くまで業務貰おうか?」
「大丈夫です、もうあと少しで落ち着きます。ありがとう」
「無理はしないようにね」
そう釘を刺した棋院くんに苗字さんは素直に頷いた。
「それにしても、初めてみる二人だね」
「あれ、長義さんはともかく長谷部さんははじめてでしたっけ」
「えぇ、俺は主の不在を請け負ってますので基本的にこちらに来てませんね。というより、こちらに来ている方が少ないのでは?」
彼の言葉に私達は固まるのだけど。
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大変なことになってしまった、と頭を抱える。いや、刀派ごとというか所属ごとに組ましたわたしであるがまさかこんなことになるとは思わなかった。いや、それだけ彼らは頑張ったのだし、私としても多少無理なお願いを聞く気でもいたのだ。しかしながら、まさか図書館でちょっと働きたいとか、図書館で暮らしてみたい、だとか、近待したい、とかだとは思っていなかったのである。いや、普通ならば受け入れるし前も一度短刀組が似たようなこと(図書館で菜乃花といちあかしパーティー)をしたから別にいいのだが、その面子に問題があった。とてもとても問題があった。私にとっても、周りにとっても。
ーー何故なら長船だからである。
まず予想できるのは蓮子ちゃん含む女性職員がざわつくことであろうし、私も私で父親(の分霊)がそばにいるために集中できないのが見えている。頼みの綱のむっちゃんはといえば、着々と釣りに行く準備を進めているため、しかもニヤニヤしてるため協力をしてくれないだろう。とりあえず会議の時にいえばいいだろうかとこちらもまた落ち着いた図書館で何気ないように発言をすることにする。
「うちから数人図書館で働いてみたいやらなんやらという刀達が来たいそうなんですけど、一週間程連れてきてもいいですか?」
「あぁ、構わないよ」
そう二つ返事をした館長を少し恨めしく思う。資料で顔を隠せば彼彼女らは私をみた。
「え、まさか、問題児でもくんのか?」
「なかなかに問題児ですね、いや、素行は皆さん常識人なのですが」
「ならいいじゃないか」
「一応、今更なんですが、うちの場所から何人かはこちらにきてはいけないと言ってる人がいるんです。皆さん一人のいたずら好きを除き、皆さん常識人なのですが……」
「えっ、なんで?」
「蓮子ちゃん風に言うと」
「私風?」
「顔面がすごくいい」
私の発言に彼彼女らは顔を見合わせた。まぁ、そんな発言も館長の大丈夫だろ、と言う声で何もないように肯定されてしまったが。
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「苗字さんがいう顔がいいってどんなレベルなんやろなぁ」
そう零した織田作さんに、私も意味がわからないよなぁ、と思う。ここに出入りを禁じられるほどの顔の良さとは、と言えば、周りがこちらをみた。牧水先生が佐藤先生に聞く。
「誰かくんのか?」
「あぁ、ナマエのところからな。詳しい話を聞く前に制服を何着か買って落胆して帰った」
「出禁くらってるってことは多分俺たちもあんま会ってない奴らだろ?」
「あぁ、やっぱりナマエちゃんの第1会派でもあんまり会わない人は会わないの?」
「ナマエや陸奥守がうまくそらしているような気はするな」
そこまでくると、逆にきになるよなぁと思ったりもする。それは他の人もそうらしい。志賀先生が尋ねる。
「なんで会わせないんだ?別に顔がいいだけならいいじゃねぇか」
「苗字さんが見てほしくない!とか?」
「いや……あれは会わない方がいいと思いますよ」
佐藤先生がやんわりと拒否する。
「俺も会うまではそう言ってたんですが、確実に耐性がないと魅入られる人が出てくるってナマエに言われましたし、現にカッコいいとか可愛いとか綺麗という表現じゃなくて、美しいという表現が似合うので。ナマエと同じ職につく人間でも魅入って執着してしまったりするようですし」
佐藤先生の言葉に、すごい美形ということか、と納得する。まぁ、ある意味神さまと同義だからそういう奴もいるんだろうな、とは、按司の零した発言だろうが。
「でも多分そいつらじゃない」
「粟田口の一番上の兄ちゃんか?」
「いや、あの反応を見るに違うと思う。一期さんならもっと肯定的だと思うんだが……」
「嫌がっているなら長船じゃないか」
森先生の言葉に、佐藤先生が、あぁ、と納得して、頭を抱えた。
「それが一番ありえますね……」
「え?なんで佐藤くんもうなだれるんだい?というか、苗字さんの森先生以外の第一会派も固まってるじゃないか」
徳田先生の言葉に、森先生がすらりと答えた。
「長船ならナマエの父親が来ることになる」
「えっ」
彼の言葉に一瞬全員黙り込む。そして「えぇっ!?」と叫んだ。
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ナマエちゃんが刀を持って少年と一緒にやってきた。並んだ二人は姉弟に見えるからか周りはざわざわとしながら二人をみる。その度にキュッとナマエちゃんの手を握る少年は可愛らしい。
「謙信大丈夫?」
「こ、これくらいだいじょうぶだ!ナマエのおにいさんなんだからな!」
その発言に私たちはピシリと固まった。ナマエちゃんは慣れてるのか、そっか、と言うとまた進み始める。お兄さんごっこかな?だなんて言う職員に私は苦笑いをした。武者さんが興味津々というようにナマエちゃんに話しかけた。
「苗字さんの兄弟ですか?」
「兄弟というよりは親戚ですかね。謙信といいます」
「謙信くんだね?」
そう告げたムシャさんに、謙信くんは刻々と頷いた。ふうむ、可愛らしい。
「蓮子ちゃん、あんまり凝視してると警戒されるよ」
「えっ」
「ムシャさん、とりあえず、館長の部屋にいつものメンバーを集めるので棋院を呼んできてくれると助かります」
「わかりました!」
ニコニコと笑ったムシャさんはそのままかけていく。危ないなぁと思いながら彼をみていれば案の定転げたけれど。
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私が謙信を連れて入れば、東さんと館長、アカやアオが目を瞬いた。
「わ、苗字さんそっくり」
「よく言われます」
「む!ぼくがナマエににたんじゃないぞ!ナマエがぼくににたんだ!」
そうぽこぽこと私を叩いた謙信に、アカとアオが首を傾げたが東さん達はさっしたらしい。まぁ、その後入ってくるたびに似ている似ていると言われたのだけど。
「でもなんで今回刀の状態なん?」
「いえ……そのまま連れまわすのに気が引けてしまって」
そっと目をそらす。謙信が「でも」と告げた。
「長義はきたことあるってきいたぞ」
「あ……あー、司書室と談話室だけね。とりあえず、館長、何かあれば私に行ってください」
「ああ、わかった」
頷いた館長に机に並べた刀に手を伸ばす。
「ありはや、あそばずともうさぬ、あさくらに、燭台切光忠、小豆長光、大般若長光、小竜景光、山姥切長義、おりましませ」
桜の花びらが吹雪いていつものように、五人が姿をあらわす。それと同時に蓮子ちゃんがひぇっと声を上げて中野先生に隠れた。私は遠い目をしながら口を開く。
「紹介しますね、右から光忠さん、小豆さん、大般若さん、小竜さん、長義さん、謙信です。基本的に私の会派で面倒を見るんですけど、光忠さんと小豆さんは厨関係のところにいるかもしれません。とりあえず、あとは腕章つけときます」
「……あ、あぁ、よろしく頼む」
そう頷いた館長に息を吐く。後はなるようになるだろう。6人を眺めていた按司が口を開く。
「で、どれがお前の父親なんだ?」
その言葉に私は固まるし、光忠さんは頭を抱え、小豆さんが名乗りをあげる前に大般若さんがにこやかに「秘密」と言ったけど。
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「無駄にキラキラした奴らがいると思えば苗字んとこのかよ」
そう言ったのは啄木さんである。おそらく彼は私の第一会派以外で一番本丸に来ている人だろう。収穫期の大事な人員である。とりあえず一通り案内している最中だ。無駄にキラキラしているからか、文豪もあまりよりつかないし。光忠さんが口を開く。
「おや、啄木くんじゃないか。元気そうでよかったよ」
「おぅ、まぁな」
「ちょうどいいや、啄木さん暇でしょ」
「なんで確定事項なんだよ」
「出歩いてる時は暇か借金取りから逃げてる時って蓮子ちゃんと北原先生に聞きました」
「あぁ、君、よくアルバイトに来てくれるなって思ってたんだけど、そういうことだったのかい?」
「まぁ、こちらもひとでがふえるからたすかるよ」
「……何してんだ」
「この部屋の奥、館長曰くもう使われてない飲食スペースだそうなので掃除でもして一週間光忠さんのスペースにしてしまおうかと」
そう言って扉を開ける。電気をつけてみれば、部屋の中が見渡せた。小竜さんが中を覗く。
「ちょっと掃除すれば使えそうだな」
「キッチン設備はどう?」
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