2019/10/17

兼任司書小噺没



「ナマエさんってなんだか戦国時代好きそうだけど、何処の国が好きなんだい?」
「私がどこそこを好きというと、身内がうるさいので特にありません……いえ、いまは煩くないかもしれませんけど、やっぱり贔屓になるので」
「苗字さんの身内って何者なんスか。歴史研究家?」
「……その認識でいいです」
「おい、ナマエ、面倒だからって投げやりに答えるんじゃない」

==だから不思議ちゃん認識される

なんだかナマエちゃんにそっくりな子が偶に遊びに来るのだけれども。多々目撃されるそれに、私達は首を傾げるばかりだ。だれだ、私に子供化の薬を与えた云々言う人は。私はそんなこと最近してないぞ。
「ねぇ、ナマエちゃん、偶に来るナマエちゃんそっくりな子って……」
会議が終わり雑談の時間となったそこで尋ねてみる。彼女はこてんと首を傾げた。
「あぁ、たしかに、最近見るね。苗字さんを小さくしたみたいな男の子」
「……?」
ナマエちゃんはピンときてないらしい。
「ナマエちゃんのとこの子じゃないのか?菜乃花達と遊んでいたりするが」
「いや、多分こちらの子だとは思います。最近は当番の時以外は好きに来れるようにしてるので」
そういいつつ彼女はまた首を傾げる。私に似てるとは……と言った彼女に、佐藤先生が何か思い当たったらしい。
「謙信じゃないか?内面はともかく外見はそっくりだぞ」
「……そんなに似てます?」
「あぁ。というか、最近来るようになって菜乃花と遊んでるのは包丁と毛利、謙信ぐらいだろ」
「そうなんですけど、そんなにですか?」
どうやら彼女にとってあまりピンときていないらしい。佐藤先生はその言葉に「あぁ」と頷いた。
「いや、うーん、うーん……いや、一応親戚には値するんですけど……」
「弟ではないってことか?」
室生先生の問いかけに、ナマエちゃんは「違いますね」と肯定した。しかしながら歩に落ちていないんだろう。そうか、似てるのか……と彼女は頭を悩ませながら退室した。ちなみに最近海図をやたら調べている陸奥さんやたまに医務室にいる薬研くん、私と仲がいい乱ちゃんと加州くんに聞けば「似てない」とのことである。もしかしたら違う人なのかもしれない。

==

「やっぱり姉弟だったのか?」
試しに謙信を連れてきた私であるけれど、文豪にそう言われる。私は謙信を見下ろす。彼は私を見上げる。似てるのか?と思ったけどやっぱり似てない気がする。謙信は首を傾げたけれど。
「違いますよ。親戚ですけど」
「親類だったのか」
「一応は……?」
「あるじ、その、」
「あぁ、ごめんね、謙信、遊びに行っておいで」
そういえば目を輝かせて頷いた彼は可愛いらしい。やっぱり私に似ていない。そう思いながら背中を見送れば、文豪達が口を開く。
「お姉ちゃんでも、姉さんでもなく、主、か」
「本家と分家かな?」
「はぁ、やっぱりお嬢様か女当主か何かなのか」
……すごい思い違いが発生している気がする。まぁ、でも、一年目からいる人と二年目以降の人では私に対する認識はだいぶ違うだろう。大きな事件がなかったわけだし。そういや最近向こうでご飯も何もしていないなぁ、と思い返しながら自分の司書室に向かう。途中で会った牧水さんに挨拶をしつつそう言えば日本号から言付けを預かっていたと思い出した。
「牧水さん、日本号が、いい酒が入ったから近々一杯どうだ?と言ってました」
「おっ、いいねぇ。日本号から誘いがあるってことは、自腹切ったんじゃねぇな」
「日本号の誉が溜まったので、奮発ですよ。私よくわからないんで言われるまま取り寄せたんですけど、十四代に花浴陽とか……結構いいお値段でした」
「誉?」
「こっちでいうMVPです。向こうは人が多いので、基本は一隊換算月まとめで隊にちょっとしたボーナス、半年に一度隊入れ替えにそってその隊に大きなボーナスなんですけど、個人でも個数貯めたら多少の無茶は効くようにしてるんです」
「ふーん、何回MVP取ったんだ?」
「今回で百個目でしたので、ちょっと無茶なお願いも受け入れました。こっちでも取り入れたいですけど、給料が私経由ではないので止めてます。他の司書の会派との折り合いがあるので。でもMVPの数は一応カウントしてますよ」
そういえばキョトンとした顔をされる。なんだ?と首を傾げれば、彼はぐしゃぐしゃと私の頭を撫でたのだけど。なんだ?

==

「うわぁ、七番勝負のこと考えてなかった」
そう呟いてしまった。蓮子ちゃんがもう何月何日か〜だなんていうから余計である。こまった。非常にこまった。有給申請してない上に、七番のうちの一つは練度が低い隊のため、隊長格が不在なのである。そうなるとどうなるか。私が裏七番ではないのに関わらず試合に出るのである。頭を抱えた私に、談話室にいた彼らの視線が向いた。吉川先生ワクワクしないでほしい。
「七番勝負?」
「あぁ、いえ、私事なのでお気にせず」
そういいつつ、佐藤さんに代わりに仕事を遂行してもらって、と思ったが彼も彼で機関紙の締め切りが近いのだ。これは諦めるしかない、し、自分のお願いを聞いてもらえるチャンスでもあるのだ。しかしながら気が重い。
「直前でも有給申請とおるかな……」
「何かあるのかい?」
「あぁいえ……山本先生が気にかけることでは……」
そう断れば、背中に衝撃がきた。視界にお菓子が見えたということは包丁だろうか。
「主、七番勝負頑張ってよね!勝って、伝説のお菓子パーティーするんだ!」
へへんーと笑った彼に私は頭を抱えた。
「包丁くん、七番勝負って?」
「七つの隊の隊長が、半年に一度一番誉隊を目指して戦うんだぞ!一番誉隊になれば、主がお願いごとを叶えてくれるんだ!」
包丁の言葉に、いつのまにかいた毛利くんが口を開く。
「こっちは練度が低いから、隊長が不在。その代わりが主」
「主が勝ち抜けば、お菓子パーティー!」
そう喜ぶ包丁と包丁を見て口元を緩ませる毛利くんに私は現実逃避をする。陸奥が最近海図を見てるのはみんなで船旅とかいうからだろうなぁ。陸奥に勝ちを譲りたいなぁ。山本先生がこちらを心配そうに見る。
「苗字さんが戦うのかい?」
「あ、山本先生大丈夫です、ナマエちゃん貴方達が思ってるより強いので」
「そうですね、我々よりは強いですよ」
蓮子ちゃんの言葉に夏目先生が同意した。やめてくれ。
「苗字さん、いつやるの?」
「……今日です」
「ん?」
「は?」
「へ?」
「今日の夕方です。絶対みんな忘れさせてました、絶対みんなわざと黙ってました」
「……さすがに当日申請は無理だよ、苗字さん」
「ぜひエントランスあたりでやってほしいな」
「いやです。絶対いやです」

==

「んー、今回は主の実力測りもあるからなぁ」
そう言ったのは乱ちゃんである。実力測り?と聞けば乱ちゃんは頷いた。
「主、不安定な時期があるから、それをきちんと成立させるために刀を贈られてるんだけど、その関係でね。でもあんまり気にすることじゃないよ」
「ふぅむ?」
「七番勝負って何すんだ」
「半年に一度俺っちたちは七つの隊に分けられてるんだが、その中でも一番の武勇を競う。まぁ、実力試しって感じだな。勝てばその隊の頼みは主が大体聞いてくれる。昔からある」
薬研くんの言葉に、ほう、と納得する。
「ちなみに通常は七番からの勝ち抜きだ。七番が一番練度が低いからな」
「え、それって七番の人達可愛そうじゃないの?」
「たまに番狂わせが起きるんだよねぇ、それが。それに大体七番には練度が高いのがお目付役についてるし」
「ただ、今回は当たっていた任務が任務だったからその練度が高いのは見事に一〜六に割り振られてんだ。そういう時は特別に主が代わりに出る」
「ちなみに苗字の戦績は?」
そう問いかけた按司に、「ぼちぼちだな」と薬研くんが肩を竦めた。
「でも今回は主ルールがなんでもありの道場剣術ルールだから勝負はわからないよ」
「負けた宣言でだいたいは終わるが主は負けん気が強いからなぁ」
「でも僕もまたお菓子パーティーしたいし、主に勝って欲しいな」
「そうだなぁ、古今東西、お菓子の取り寄せ……」
何それ楽しそうと思っていたらナマエちゃんが頭を抱えていた。他人事だと思って、とぼやいた彼女に私は苦笑いしつつ啄木さんをみる。
「啄木さん入らなくていいの?」
「司書、お前俺に死ねっていってんのか?無理無理、普通は無理だね」
そんなになんだろうか。館長と東さん、残っていた一部職員がひょっこり現れて「まだか?」と告げる。食べ物持ってるのをみると完璧に観戦気分である。ちらほらとナマエちゃんのところの人も増えてきた。やっぱり見たことがない人が多いし、見た目が麗しい。

==

さてはて、ナマエちゃんが袴をきてあらわれて、お正月でお馴染みの石切丸さんとエントランスにおりる。石切丸さんが何かを唱え、玉串をふると、ナマエちゃんが彼に礼をした。そうして彼女は二礼すると、なれたように二拍手する。
「ありはや、あそばぬともうさず、あさくらに。ななつのたいの、いちばんぼし、きめるいくさばいまここに。つどいしたいのほしななつ、ななつはじゅんに、なをあげよ」
その言葉に、フと宙に家紋のようなものが並びそれは刀剣の姿に変わり―ー花弁とともに人の姿になった。
「六番隊長、蜻蛉切。いまここに」
「五番隊長、蛍丸推参ってね」
「四番隊長、源氏が重宝、髭切参る」
「三番隊長、愛染国俊!燃えてきたぜ!」
「二番隊長、長曽祢虎徹、参らせてもらおう」
「一番隊長、陸奥守吉行。今日は手加減なしぜよ、主」
「七番仮初、苗字ナマエ。みんな黙ってお菓子パーティー参加すればいいと思う」
渋々というふうに息を吐いたナマエちゃんに、石切丸さんが笑った。
「七番からの勝ち抜きにて、勝敗を決する。本日主参加のため、裏七番同様に道場ルールとする」
そう言った石切丸さんに、道場ルール、とくり返せば近くに座った乱ちゃんが口を開く。
「なんでもありってこと」
「え、それ大丈夫なの?」
「逆に正当剣術だけなら、主は師匠の陸奥守に勝てないからね」
「そもそも正統派でいくと初戦の蜻蛉ちゃんに勝てるかもわからねぇわなぁ。主ー、気張れよー」
そう声を上げた日本号さんに、短刀がきゃあきゃあと声援をあげる。
「日本号、変わってくれていいんですよ」

==ぼつん



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